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1章 悪役貴族は屈しない
第41話 力には更なる力でねじ伏せる
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――ドッ!!
光の爆発が空気を震わせる。
聖皇国の間者であるクイーンは、手を前にかざしたまま警戒する。
事の発端は、勇者からの要請だった。
どうしても倒さねばならない魔王の手先がいる。手伝ってくれ。
手紙にはそうあった。
元来、クイーンら潜伏組は、その潜伏している国が有事の際にしか動かないよう、教皇に厳命されている。
国の根幹を揺るがすような有事に立ち上がり、混乱に乗じて王の首を跳ねる。
あるいはその混乱をより大きくし、皇国軍が攻め込みやすくする。
そのために、十年以上も前に潜伏し、一切仲間たちとは連絡を取らず、諜報活動も行わず、表向きは市民労働者としてのみ生きてきた。
すべては、国を墜とし教皇様へと献上するために。
(にも拘わらず、あの勇者め……ッ!)
勇者に『魔王の関係がある』と言われれば、動くしかない。
なぜなら勇者による魔王討伐、そしてそのための助力は、聖皇国にとって重要な〝教え〟の一つだからだ。
これを放置しては、宗教としての信頼を失ってしまう。
だから、嫌でも勇者を助けるしかない。
なのに、勇者に殺せと命じられたターゲットにはなかなか接触出来ないまま、ファンケルベルクの使用人を名乗る男と遭遇戦になってしまった。
男――それはまごうことなき悪である。
これまで幾人もの命を奪ってきただろう、血と死の臭いが濃く感じられた。
本来なら、指定のターゲットさえ殺せばそれ以外は無視してもいい。
だがこの男だけは、自らの信仰上の理由により放置出来なかった。
「……ふぅ。さて、仕事に戻るか」
ハイドロ・ブラストを放った後。あの男が動く気配がない。
これで終わりか。案外呆気ないな。
そう思い、戦闘態勢を解除した時だった。
「……おいおい、もしかしてもう終わりなのか?」
「――ッ!」
男が煙の中から現われた。
その服には幾分埃がついているが、それだけ。
流血どころか、擦り傷一つ見当たらなかった。
「そんな、馬鹿な!」
「ンだよ、この程度で驚いて……」
「私の魔法は……確かに直撃したはずだ!」
「あン? あの水のことか? なら確かに当たったぜ。そよ風かと思ったがな」
「……よろしい。ならば本気の魔法を食らわせてやろう。それでも同じ台詞が聞けたら、私の負けでいい」
クイーンは全身から魔力を練り上げ、手のひらに込め、放った。
「メイルシュトローム!」
手のひらから溢れ出した水が、洪水となって男を飲み込んだ。
それは次第に目にもとまらぬ速度で回転を始めた。
これは水属性の中では最上級に位置する魔法だ。
大量の水は極限まで圧縮されており、回転のたびに対象の体を切り刻む。
「ああ、失敬。死んでは言葉が話せないな」
あの上級魔法に人間が飲まれれば、文字通り木っ端微塵。
これで終わりだ。
そう思い、踵を返そうとした時だった。
「おいおい、なンかやったか?」
「――バカなッ!!」
再び聞こえた男の声に、さすがのクイーンも動揺を隠せない。
聖皇国において、魔法使いの最高称号を持っている。
そのクイーンの、最高出力の魔法を受けて息がある者など、魔王しかおるまい。
――そう、思っていた。
だが男は凝りを解すように、首を左右に振りながらこちらに近づいてくる。
「何故私の魔法を受けて、生きていられるんだ!」
「何故って……攻撃魔法を防ぐには、反対属性の魔法をぶつけりゃいい。魔法学の基本のキだろ?」
「そんなことはわかりきっている! 私が聞いているのは、これだけ高出力の魔法を防いだ方法だ! 一体、どのようなからくりだ?」
「からくりって……だから、ただ反対属性をぶつけただけだって言ってンだろが」
「あり得ない!」
たとえば魔力を100込めた魔法を防ぐには、最低でも100の魔力が必要になる。
クイーンの魔力は、国で随一。
その魔力をたっぷり込めた魔法を防御しようと思えば、それこそアドレアで最も強い魔法使いでなければ不可能だ。
「あー……。なンか、面倒くなってきたな。カラスの情報網から逃れ続けた奴らだから、少しは楽しめるかと思ったンだが、ガッカリだ」
「ち、近寄るな!」
「せめてもの餞だ。名乗ってやろう。俺はアドレア王国ファンケルベルク公爵家、家令副長のユルゲン。敵さんには、焦滅の魔法師って呼ばれてる」
「――ッ!?」
聞いたことがある。
その二つの名を持つ者は、単身で軍団に匹敵する魔力を持ち、ひとたび戦場に出ればたった一人で軍団を全滅させるという。
無論、それはあくまで比喩である。
焦滅の魔法師が表に出た戦いは存在しない。
しかし、そうささやかれる程に、彼の対軍能力が高いのだ。
「わ、私の名は――」
「雑魚の名前なんて興味ねぇよ」
パチン。
指を鳴らした次の瞬間。
彼の背後に拳大の炎が出現した。
それも数百……いや、千を越えるほどだ。
一つ一つは小さいが、これがもし戦場でばらまかれれば――噂に違わぬ戦果を上げるに違いない。
「これは火……いや、灼炎魔法!? 馬鹿なッ! 貴様が何故遺失魔法を使える!?」
「さてな。そんじゃ――」
「待ってく――」
「疾く逝け」
絶望を実感する前に、意識が永遠の彼方へと解けて消えたのだった。
光の爆発が空気を震わせる。
聖皇国の間者であるクイーンは、手を前にかざしたまま警戒する。
事の発端は、勇者からの要請だった。
どうしても倒さねばならない魔王の手先がいる。手伝ってくれ。
手紙にはそうあった。
元来、クイーンら潜伏組は、その潜伏している国が有事の際にしか動かないよう、教皇に厳命されている。
国の根幹を揺るがすような有事に立ち上がり、混乱に乗じて王の首を跳ねる。
あるいはその混乱をより大きくし、皇国軍が攻め込みやすくする。
そのために、十年以上も前に潜伏し、一切仲間たちとは連絡を取らず、諜報活動も行わず、表向きは市民労働者としてのみ生きてきた。
すべては、国を墜とし教皇様へと献上するために。
(にも拘わらず、あの勇者め……ッ!)
勇者に『魔王の関係がある』と言われれば、動くしかない。
なぜなら勇者による魔王討伐、そしてそのための助力は、聖皇国にとって重要な〝教え〟の一つだからだ。
これを放置しては、宗教としての信頼を失ってしまう。
だから、嫌でも勇者を助けるしかない。
なのに、勇者に殺せと命じられたターゲットにはなかなか接触出来ないまま、ファンケルベルクの使用人を名乗る男と遭遇戦になってしまった。
男――それはまごうことなき悪である。
これまで幾人もの命を奪ってきただろう、血と死の臭いが濃く感じられた。
本来なら、指定のターゲットさえ殺せばそれ以外は無視してもいい。
だがこの男だけは、自らの信仰上の理由により放置出来なかった。
「……ふぅ。さて、仕事に戻るか」
ハイドロ・ブラストを放った後。あの男が動く気配がない。
これで終わりか。案外呆気ないな。
そう思い、戦闘態勢を解除した時だった。
「……おいおい、もしかしてもう終わりなのか?」
「――ッ!」
男が煙の中から現われた。
その服には幾分埃がついているが、それだけ。
流血どころか、擦り傷一つ見当たらなかった。
「そんな、馬鹿な!」
「ンだよ、この程度で驚いて……」
「私の魔法は……確かに直撃したはずだ!」
「あン? あの水のことか? なら確かに当たったぜ。そよ風かと思ったがな」
「……よろしい。ならば本気の魔法を食らわせてやろう。それでも同じ台詞が聞けたら、私の負けでいい」
クイーンは全身から魔力を練り上げ、手のひらに込め、放った。
「メイルシュトローム!」
手のひらから溢れ出した水が、洪水となって男を飲み込んだ。
それは次第に目にもとまらぬ速度で回転を始めた。
これは水属性の中では最上級に位置する魔法だ。
大量の水は極限まで圧縮されており、回転のたびに対象の体を切り刻む。
「ああ、失敬。死んでは言葉が話せないな」
あの上級魔法に人間が飲まれれば、文字通り木っ端微塵。
これで終わりだ。
そう思い、踵を返そうとした時だった。
「おいおい、なンかやったか?」
「――バカなッ!!」
再び聞こえた男の声に、さすがのクイーンも動揺を隠せない。
聖皇国において、魔法使いの最高称号を持っている。
そのクイーンの、最高出力の魔法を受けて息がある者など、魔王しかおるまい。
――そう、思っていた。
だが男は凝りを解すように、首を左右に振りながらこちらに近づいてくる。
「何故私の魔法を受けて、生きていられるんだ!」
「何故って……攻撃魔法を防ぐには、反対属性の魔法をぶつけりゃいい。魔法学の基本のキだろ?」
「そんなことはわかりきっている! 私が聞いているのは、これだけ高出力の魔法を防いだ方法だ! 一体、どのようなからくりだ?」
「からくりって……だから、ただ反対属性をぶつけただけだって言ってンだろが」
「あり得ない!」
たとえば魔力を100込めた魔法を防ぐには、最低でも100の魔力が必要になる。
クイーンの魔力は、国で随一。
その魔力をたっぷり込めた魔法を防御しようと思えば、それこそアドレアで最も強い魔法使いでなければ不可能だ。
「あー……。なンか、面倒くなってきたな。カラスの情報網から逃れ続けた奴らだから、少しは楽しめるかと思ったンだが、ガッカリだ」
「ち、近寄るな!」
「せめてもの餞だ。名乗ってやろう。俺はアドレア王国ファンケルベルク公爵家、家令副長のユルゲン。敵さんには、焦滅の魔法師って呼ばれてる」
「――ッ!?」
聞いたことがある。
その二つの名を持つ者は、単身で軍団に匹敵する魔力を持ち、ひとたび戦場に出ればたった一人で軍団を全滅させるという。
無論、それはあくまで比喩である。
焦滅の魔法師が表に出た戦いは存在しない。
しかし、そうささやかれる程に、彼の対軍能力が高いのだ。
「わ、私の名は――」
「雑魚の名前なんて興味ねぇよ」
パチン。
指を鳴らした次の瞬間。
彼の背後に拳大の炎が出現した。
それも数百……いや、千を越えるほどだ。
一つ一つは小さいが、これがもし戦場でばらまかれれば――噂に違わぬ戦果を上げるに違いない。
「これは火……いや、灼炎魔法!? 馬鹿なッ! 貴様が何故遺失魔法を使える!?」
「さてな。そんじゃ――」
「待ってく――」
「疾く逝け」
絶望を実感する前に、意識が永遠の彼方へと解けて消えたのだった。
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