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悪役領主はひれ伏さない
第58話 聖女の郷里
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「これは、国取りでしょうねぇ」
「――ンだとッ!?」
「まさか、〝もう〟ですか!?」
突飛もない言葉に、さすがのユルゲンも腰を浮かした。
いつかは、きっと領土拡大されるだろうとは思っていた。だが今はまだ時期尚早だと感じる。
「なんで今なンだよ?」
「我々がファンケルベルクという国を立ち上げたことが、ようやく近隣国家に、細々とではありますが伝わったようでしてねぇ」
「なるほど。まさか、すぐには攻めて来るまいと油断しているタイミングで、攻勢をかけるということですか」
「おそらくはぁ」
「しかし、それはさすがに無謀では?」
国家と対峙するには、いささか戦力が不足しすぎている。
せめて、直属の使用人《せんとういん》が千名を超えなければ、良い戦いすら出来ずに潰されるだろう。
現在、某所にて直属の兵隊を育成している途中だが、まだまだ実戦に投入出来るレベルではない。
開戦の火蓋を切るには、あまりに時期尚早だ。
「その無謀な状況を覆す〝なにか〟を、エルヴィン様はお持ちなのですよ。わたしがまだ掴みきれていない、情報をねぇ」
「なるほどな。だからって、前々から話をしてくれてりゃなあ。こっちだって体制を整えられたンだが……」
「それが出来ないほど、急激に状況が変化したのかもしれません」
「えぇ。方針を説明する代わりにエルヴィン様はわたしたちにもしっかり伝わるよう、アイテムを下賜されました」
カラスが一旦、テーブルの上のアイテムに目を落とした。
ナイフ、杖、そして魔道具。
「ユルゲン、わたしたちの元に武器が届けられる意味をお教え頂けますか?」
「そりゃ抗争開始の合図って昔から相場が決まって、――ッ!?」
そこまで口にして、ユルゲンはやっと気がついた。
なるほど、この武器と魔道具は、エルヴィンなりの戦争開始の符丁だったのだ!
「今回下賜されたアイテムは、我々へのお土産では断じてありません。であればどんな意味があるか?」
「――宣戦布告」
「その通りです」
裏の世界には、清く正しい戦などない。
あるのは抗争開始の合図のみ。
抗争を始める場合は、相手に武器を届ける。
〝これでテメェの命《たま》取ってやるよ〟
それを合図に、敵対する相手との抗争が始まる。
今回ユルゲンらに渡された武器には、『戦争を始めるぞ』というエルヴィンからの命令が隠されていたのだ!
「油断も隙も、ありませんね」
「ああ。怖ぇ御方だぜ……」
「わたしも、いきなり国取りを始めるとは思ってもみませんでした。しかし、これはエルヴィン様からの試練に他なりません。我々が〝抗争〟ではなく、〝戦争〟で使い物になるかどうか、試されているのでしょう」
ぶるり。ユルゲンの体が僅かに震えた。
これは怯えではない。
歓喜だ。
「ここンとこ、間引く魔物の数も減って退屈してたとこだ。国の1つや2つ、肩慣らしに墜としてやるよ」
「ファンケルベルク使用人が全力を持って、エルヴィン様から与えられた極秘任務を完遂いたしましょう」
――すべてはエルヴィン様のために。
一同、胸に手を当てて僅かに視線を交わし、国を墜とすために全力で行動を開始した。
まさか、エルヴィンがそんなことを露ほども考えていなかったとは、想像もしないままに……。
○
「っくしょん!! っくしょん!!」
「ちょっと、大丈夫? 風邪ひいてないでしょうね?」
「あ、ああ。たぶん大丈夫だ。誰か俺の噂でもしてるんだろ」
ユルゲンとかハンナとかカラスとかな。
俺が急にいなくなって慌ててそうだが、今回ばかりは許してほしい。
さて。
幸いトモエからは逃げ切ることが出来たが、依然として追いつかれる可能性は残っている。
早いところイングラムに着きたいが、まだかなり距離があるな。
ひとまずは、アドレア・イングラム街道を目指す。
街道に出たら東へ一直線で……何日くらいかかるんだ?
こればっかりは、ゲームの知識は当てにならん。
ゲームじゃかなりの長距離移動でも、ものの数分で目的地に到着するからな。
設定上、昼夜の切り替わりはあるが、さすがにイングラムまで何度夜を迎えたかなんて覚えちゃいない。
森も開けて、そろそろ街道にぶつかるかという時だった。
前方に、ちょっとした集落を発見した。
「あら。こんなところに村なんてあったかしら?」
「……いや、なかったはずだな」
プロデニじゃあ、こんな場所に村などない。
だが目の前には間違いなく、村がある。
建物は非常に少なく、遊牧民のものに近いテントが並んでいる。
一見すると難民キャンプに見えないこともない。
だが、周りに柵が張り巡らされている。
キャンプなら、すぐに移動するから柵なんて作らない。
ということはやはり、村で間違いなさそうだ。
「わりと新しい村のようだな」
「そうね。建物とか柵が新しめだし、まだ建設途中のものもあるみたい」
「百人くらいはいるな」
「村の規模としてはそこそこね」
「そうなのか?」
「地方には、二十人程度の農村も結構あるわよ? 広い畑の中にぽつぽつ家が建っていて、でもみんなバラバラじゃなくて、村の中央にある鐘楼の鐘の音を合図にして、目を覚ましたり、一斉に働いたりするの」
「そ、そうか」
それ聖女《おまえ》の出生地じゃん!
うっかり『見たことある』って言いそうになって慌てたわ。
辺り一面黄金の麦穂がなびいていて、所々に農家の家が建っている。
家は藁葺きの三角屋根で、壁は赤いレンガ造りだ。
あれ、かなり綺麗な風景なんだよな。
きっと生で見たら感動するんだろうな。
「いつか行ってみたいな」
「――ンだとッ!?」
「まさか、〝もう〟ですか!?」
突飛もない言葉に、さすがのユルゲンも腰を浮かした。
いつかは、きっと領土拡大されるだろうとは思っていた。だが今はまだ時期尚早だと感じる。
「なんで今なンだよ?」
「我々がファンケルベルクという国を立ち上げたことが、ようやく近隣国家に、細々とではありますが伝わったようでしてねぇ」
「なるほど。まさか、すぐには攻めて来るまいと油断しているタイミングで、攻勢をかけるということですか」
「おそらくはぁ」
「しかし、それはさすがに無謀では?」
国家と対峙するには、いささか戦力が不足しすぎている。
せめて、直属の使用人《せんとういん》が千名を超えなければ、良い戦いすら出来ずに潰されるだろう。
現在、某所にて直属の兵隊を育成している途中だが、まだまだ実戦に投入出来るレベルではない。
開戦の火蓋を切るには、あまりに時期尚早だ。
「その無謀な状況を覆す〝なにか〟を、エルヴィン様はお持ちなのですよ。わたしがまだ掴みきれていない、情報をねぇ」
「なるほどな。だからって、前々から話をしてくれてりゃなあ。こっちだって体制を整えられたンだが……」
「それが出来ないほど、急激に状況が変化したのかもしれません」
「えぇ。方針を説明する代わりにエルヴィン様はわたしたちにもしっかり伝わるよう、アイテムを下賜されました」
カラスが一旦、テーブルの上のアイテムに目を落とした。
ナイフ、杖、そして魔道具。
「ユルゲン、わたしたちの元に武器が届けられる意味をお教え頂けますか?」
「そりゃ抗争開始の合図って昔から相場が決まって、――ッ!?」
そこまで口にして、ユルゲンはやっと気がついた。
なるほど、この武器と魔道具は、エルヴィンなりの戦争開始の符丁だったのだ!
「今回下賜されたアイテムは、我々へのお土産では断じてありません。であればどんな意味があるか?」
「――宣戦布告」
「その通りです」
裏の世界には、清く正しい戦などない。
あるのは抗争開始の合図のみ。
抗争を始める場合は、相手に武器を届ける。
〝これでテメェの命《たま》取ってやるよ〟
それを合図に、敵対する相手との抗争が始まる。
今回ユルゲンらに渡された武器には、『戦争を始めるぞ』というエルヴィンからの命令が隠されていたのだ!
「油断も隙も、ありませんね」
「ああ。怖ぇ御方だぜ……」
「わたしも、いきなり国取りを始めるとは思ってもみませんでした。しかし、これはエルヴィン様からの試練に他なりません。我々が〝抗争〟ではなく、〝戦争〟で使い物になるかどうか、試されているのでしょう」
ぶるり。ユルゲンの体が僅かに震えた。
これは怯えではない。
歓喜だ。
「ここンとこ、間引く魔物の数も減って退屈してたとこだ。国の1つや2つ、肩慣らしに墜としてやるよ」
「ファンケルベルク使用人が全力を持って、エルヴィン様から与えられた極秘任務を完遂いたしましょう」
――すべてはエルヴィン様のために。
一同、胸に手を当てて僅かに視線を交わし、国を墜とすために全力で行動を開始した。
まさか、エルヴィンがそんなことを露ほども考えていなかったとは、想像もしないままに……。
○
「っくしょん!! っくしょん!!」
「ちょっと、大丈夫? 風邪ひいてないでしょうね?」
「あ、ああ。たぶん大丈夫だ。誰か俺の噂でもしてるんだろ」
ユルゲンとかハンナとかカラスとかな。
俺が急にいなくなって慌ててそうだが、今回ばかりは許してほしい。
さて。
幸いトモエからは逃げ切ることが出来たが、依然として追いつかれる可能性は残っている。
早いところイングラムに着きたいが、まだかなり距離があるな。
ひとまずは、アドレア・イングラム街道を目指す。
街道に出たら東へ一直線で……何日くらいかかるんだ?
こればっかりは、ゲームの知識は当てにならん。
ゲームじゃかなりの長距離移動でも、ものの数分で目的地に到着するからな。
設定上、昼夜の切り替わりはあるが、さすがにイングラムまで何度夜を迎えたかなんて覚えちゃいない。
森も開けて、そろそろ街道にぶつかるかという時だった。
前方に、ちょっとした集落を発見した。
「あら。こんなところに村なんてあったかしら?」
「……いや、なかったはずだな」
プロデニじゃあ、こんな場所に村などない。
だが目の前には間違いなく、村がある。
建物は非常に少なく、遊牧民のものに近いテントが並んでいる。
一見すると難民キャンプに見えないこともない。
だが、周りに柵が張り巡らされている。
キャンプなら、すぐに移動するから柵なんて作らない。
ということはやはり、村で間違いなさそうだ。
「わりと新しい村のようだな」
「そうね。建物とか柵が新しめだし、まだ建設途中のものもあるみたい」
「百人くらいはいるな」
「村の規模としてはそこそこね」
「そうなのか?」
「地方には、二十人程度の農村も結構あるわよ? 広い畑の中にぽつぽつ家が建っていて、でもみんなバラバラじゃなくて、村の中央にある鐘楼の鐘の音を合図にして、目を覚ましたり、一斉に働いたりするの」
「そ、そうか」
それ聖女《おまえ》の出生地じゃん!
うっかり『見たことある』って言いそうになって慌てたわ。
辺り一面黄金の麦穂がなびいていて、所々に農家の家が建っている。
家は藁葺きの三角屋根で、壁は赤いレンガ造りだ。
あれ、かなり綺麗な風景なんだよな。
きっと生で見たら感動するんだろうな。
「いつか行ってみたいな」
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