転生したら魔女狩りの世界だった件。嫌なので全力で抗います〜絶望少女と魔王達〜

なないろすらいむ

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二章 ルーク編

第7話 生命の権能

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 アスタロトの居城を後にしたミツキ達は、ようやく人間界の土を踏んだ。
日はもう沈みかけ森が黒色へと変化していく、風は冷たく、だが戦の魔王との謁見を終えた安堵が胸に広がっていた。

「ふう……緊張したね」
 
ミツキはドレスの裾を直しながら、額の汗を拭った。

ルークも小さく頷く。
 
「アスタロト様がミツキを認めたのは……正直驚いたよ。あの御方は誰彼構わず力を渡すような魔王じゃないからな」

エリシェヴァはそっとミツキを見やり、不安そうに眉を寄せた。
 
「でも、……大丈夫? さっきの“シギル”……何も変わっていないみたいだったけど」

「うん……」
 
ミツキは胸に手を当て、苦笑する。
 
「派手な光とか痛みとか、全然なかった。ただ……少し身体が軽くなった気がするくらい」

ルークは腕を組み、静かに言った。
 
「アスタロト様が無意味なものを渡すはずがない。生命の権能……いずれその真価が分かるだろう」

三人は互いに顔を見合わせ、歩みを進めた。
やがて夜が更け、廃屋に身を寄せた時だった。

――その夢は、再び訪れた。


---

虚空に浮かぶ黒樹の根元で、赤々とした彼岸花が風もなく揺れていた。世界に張り詰めた冷気が走り、ミツキは自分の夢が翁に染め上げられたことを悟った。
その根元に、青年の姿があった。
 
長い黒髪が揺れ、黄金の瞳が冷たくも深い光を宿す。
翁――私をこの世界に転生させた存在だ。

「……アスタロトのシギルを手に入れる事に成功したようだな、ミツキ。」

「やっぱり来たね。もう驚かないけどさ、毎度ちょっと心臓に悪いんだから」
 
ミツキは軽口を叩きながらも、真剣な眼差しを向けた。
翁は口元をわずかに緩め、しかしすぐに厳しい声音に戻した。
 
「うん。でも……正直、何も起きなかったんだ。力が増した感じもしないし……」

翁の黄金の瞳が細められ、静かに告げる。

「それで良い。お前が授かったのは“生命の権能”。
 常に発動し、お前の命を高め、病や毒を拒み、老いや死すら遠ざける力だ。派手な力ではないが──それこそが不死の礎だ。」

ミツキは息を呑み、胸に手を当てる。
 
(……だから何も起きなかったんだ。もう動いてるから……)

翁はさらに続けた。
 
「だが覚えておけ。この権能はお前ひとりに留まらぬ。仲間に分け与えることもできるのだ。……ただし、その時だけは代償を払う。己の精神を削ることになるだろう」

「仲間にも……!」
 
ミツキの瞳が揺れた。エリシェヴァやルークの顔が脳裏に浮かぶ。

翁の声は重く、だがどこか優しさを含んでいた。
 
「使いどころを誤るな、ミツキ。守る者が増えるほど、お前自身を蝕む刃にもなる」

ミツキは拳を握り、俯いた。
 
「……わかった。絶対に無駄にはしない」

翁は静かに頷き、話題を変えるようにその瞳をさらに光らせた。

「次に向かうは──砂漠の都、カルデア・ザフラーン。そこに"業火"の魔王イブリースが潜んでいる」

 ミツキの瞳が揺れる。
カルデア・ザフラーン。サンクタ・エヴァの魔女達が話していた街の名前だ。
 
「分かった。今迄みたいにネファスの魔女を見つけて、そのイブリースって魔王に謁見して──」

「甘い」
 
翁の声が鋭く遮った。

「イブリースは悪意そのものだ。彼奴は理を語らぬ。人を見下し、魂を喰らい、炎に呑ませて悦ぶ存在だ。交渉は通じぬ。対話を試みれば、命を落とすだけだろう」

その言葉に、ミツキは思わず息を呑んだ。
 
「……つまり、戦うしかないってこと?」

翁はゆっくりと頷く。

「そうだ。お前の使命は"イブリースの暴走を止め、シギルを奪うこと”。 だが忘れるな──これまでとは違い、命を賭ける覚悟が要る。戦の準備を怠るな。その"生命の権能"を存分に役立てるといい。」

ミツキは拳を握り、俯いた。
胸の奥に不安と恐怖が渦巻く。けれど同時に、熱く燃えるものがあった。

「……わかった。やってみせるよ」

翁は黄金の瞳を静かに光らせ、言葉を落とす。
 
「その覚悟を忘れるな。……世界の行く末は、お前の手に委ねられている」

 翁の言葉が途切れると同時に、闇の大地が揺らぎ、夢の世界は崩れ去っていった。
 
――
 
ミツキは荒い息を吐きながら目を覚ました。
冷たい夜気が頬を撫でる。焚き火の赤い火がぱちりと弾け、小さな火の粉が舞った。

「……夢、か」

呟きながら手を伸ばすと、乾いた薪の角で指先を掠めた。
 
一瞬、かすかな痛みと赤い筋が走る。

だが――その血は一滴すら零れることなく、瞬きの間に塞がっていた。
まるで最初から傷などなかったかのように。

ミツキは指先をじっと見つめ、小さく息を呑んだ。
 
(……これが、“生命の権能”)

胸の奥で熱いものが広がる。
恐怖もある。けれど、それ以上に――世界の運命を託された責任が。

焚き火の炎が彼女の瞳に揺らめきを映した。

(――必ず勝つ。あの“業火の魔王”に)

夜明け前の闇は、ただ静かに彼女を包み込んでいた。
 
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