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終.最後の戦い編

第110話(1192年6月) 開戦2年後

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 鎌倉・大倉御所

「京が出雲大社の手に落ちました! 天皇、公卿は比叡山にご避難!」

 伝令が源頼朝と大江広元に報告した。

「想定通りです。問題ございません」

「見捨てるのか?」

「比叡山には西国を追放された神官や僧、2万が立てこもっております。簡単には落ちないでしょう。それに朝廷からもらうものは、もういただきました。後白河法皇もすでに崩御され、助ける価値はありません。そうは思いませんか? 征夷大将軍・源頼朝様」

「フフフ、しかし朝廷を見捨てれば、余に対する御家人の目が変わりはせぬか」

「汚名を被るのは朝敵となった出雲大社です。彼らに朝廷や名門寺院、すべてを破壊させた後、我らが悪を討ち、武士による王朝を建てるのです」

「執権になり非情になったな……、広元は」

――余裕がなくなったともいえるが。

 頼朝は痩せた広元の身体を見て思った。

「しかし、武家王朝といっても勝たねば意味はない。源氏はここ2年負け続けている。昨年は九州を奪われ、今年は四国と京を失った」

「それでも我が君は平静でおられる」

「そちの予想通りだったからだ」

 膨大な火力を有する出雲軍に対し、源氏は決戦を避け、守りながら退いていく作戦を取った。そして戦局は2年前に広元が予言した通りに動いていた。

「旧平家領を失っただけで、関東の源氏は無傷です。出雲は海と火が強く、源氏は陸と馬が強みです。敵をあせらせ、勝てる場所で勝てる戦いをいたします」

「いつまで余は我慢すればいい」

「もう我慢なさる必要はございません。奥州探題と鉱山奉行をここへ」

 将軍の間に絲原鉄心と韓侂冑かんたくちゅうが入ってきた。二人はそろって金銀装飾を身にまとい、双子のようだった。
 頼朝に鉄心が頭を下げる。

「奥州より、火縄銃と1万丁を献上に参った」

 頼朝が満足げにうなずいた。韓侂冑のほうを見る。

「火薬のほうはどうか?」

「奥州の黄金を使い、金国からの買い付けに成功しました。同盟の話も進んでおります」

 出雲・平国同盟に対抗し、広元は鎌倉・金国同盟を模索していた。

「金国はそちの祖国の宿敵。交渉するのはつらかろう」

「いいえ、我が祖国、南宋はすでに滅びました。平国より金国のほうがまだ親しみがございます」

 広元が前に出る。

「我が君、これで出雲の有利は消えました。全軍をお集めください。私が指揮を採ります」

「よかろう。決戦だな。戦場はどこになるか?」

「美濃国の入り口、関ケ原です」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 京御所・朝議の間

 7万の兵で上洛した出雲大社は、激戦もなくあっさりと京を手中にする。
 貴一が朝廷に入ったときには、すでに天皇や公卿は逃げ出した後だった。

「また、広元にスカされたよ。京までも未練なく放棄するとは思わなかった。義仲、すぐに軍議を開こう。みんなを集めて!」

 鴨長明、弁慶、木曽義仲に加え、復帰した熊若も朝廷の間に集まった。
 車座に座ると、貴一が地図を広げて言う。

「これまではじっくり攻めていたが戦い方を変える。速戦即決でいく。すぐに近江国へ進軍する準備を整えろ」

 弁慶が手を挙げる。

「戦が始まってからもう2年になる。休ませながら進軍しないと、兵の体力が持たぬ。ましてや我らの軍は歩兵が主体なのだぞ」

 奥州が源氏の手に渡ってから、馬の輸入が止まり、騎馬隊が増強できないままでいた。

「進軍が遅れれば、また広元に砦を作られる。熊若、あいつの狙いがわかるか?」

「縦深陣地を作り、損害を極力出さずに時間稼ぐことです」

「そうだ。俺は縦深陣地のゴールが京だと思っていた。だけど、広元は京すら簡単に捨てた。あいつは鎌倉まで縦深陣地を敷く覚悟をしている。今の進軍速度だと少なくとも鎌倉まで後2年はかかる。そして鎌倉は天険に守られている」

 後2年と聞いて、みなからため息が漏れる。同じような砦攻めが延々と続き、単調な作業の繰り返しになっていた。

「わしが砦の守将を挑発してみよう。坂東兵なら飛び出してくるはず。いや、無理か……」

 義仲が珍しく自重した。

 九州での戦では、挑発に乗る武将もいて、効果があった。
 ただ、大江広元が軍令違反を理由に源範頼の首を斬ってからは、「命令を守らなければ御所の義弟さえ、処断される」と、御家人たちが震え上がり、挑発にまったく乗らなくなった。2年に渡る敗戦の屈辱にも彼らは絶えていた。

 鴨長明が貴一を落ち着かせるように言う。

「ならば戦を一時止めれば良いのです。我らの内政は鎌倉より上。時間がたてばこちらのほうが国力は増します」

「鉄心が奥州で火縄銃を作っている。1日遅れれば、その分、鎌倉が強くなる!」

――俺が生きている間に、平等な国造りを実現するためには、そんな余裕は無いんだよ!

 転生してからの貴一は自分のやれることをできればいいとずっと思っていた。しかし、チュンチュンの一件以来、貴一は自分でも気づかぬうちに、寿命を意識しはじめていた。
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