アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第一章

暗雲から目を背け

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 その翌日。

「アレクに試験を行ったそうだが、結果はどうだ」

「高度な教育を受けたのは明らかです。学問だけならば、高級次官にもなれるかもしれません。雑用係に使うにはもったいないですね」

「それほどか」

 隊長室を訪れたロナルドの報告に、マーリナスは思わず書類にサインする手を止めて顔を上げた。

 アレクが王族に準じる身分かもしれないという、ロナルドの懸念を裏付けるものは現時点ではなにもない。

 たんなる深読みという可能性が残されている以上、不確かな情報を口にするようなことはしてはならないのだ。それは判断を鈍らせる要因になり得るのだから。

 だから余計なことはいわず、ありのままを報告する。

 あたまの片隅に残る暗雲とした懸念を振りはらいロナルドは口を開いた。

「あれほどの教育はなかなか受けられるものではありません。ですがそのおかげで、さらに彼の出自を絞りこむことができそうです」

「それほど高貴な家柄ならば、もっとおおごとになっていてもよさそうなものだが」

「警備隊が入手できる情報は微々たるものですから。仮に他国の貴族だとしたら、さらに情報は入手困難です。他国の貴族事情など、王族貴族にしか手に入らないでしょう」

「それもそうだな。苦労をかけるが、それでもなんとか情報を集めてくれ」

「お任せください。他国に侵入してでも手に入れてみせますよ」

 いたずらっぽく笑うロナルドに、マーリナスは苦笑する。

「無理はしてくれるなよ」

 その後ロナルドはアレクに備品関係の計算や、下から上がってくる苦情報告をまとめる仕事をあてがうことにした。

 アレクの能力ならば書類業務はすべて任せられそうだが、彼が部外者であるため伏せておくべき情報もある。

 苦情報告は主に給料が少ないだの休みが欲しいだの昇格させろといった内容ばかりなので、アレクが見ても問題ないだろう。

 内容は似たりよったりなのに出す人間が違うものだから、まとめるのは骨が折れるし苦情報告業務はみなやりたがらない。

 そんな末席の業務をアレクに任せるのは、適材適所を掲げて仕事をするロナルドとしては歯がゆいものがあるが仕方がない。

 だがアレクは嫌な顔ひとつせず、むしろ嬉しそうに微笑んで仕事を受けてくれた。

 その笑顔といったら歴代の美女にも劣らない美しいもので、ロナルドは毎度アレクが女だったらと思わずにいられない。

 同居なんてしてしまったら、それこそ道を踏み外してしまうだろうという、誰の得にもならない確信さえあった。

「この魔道具、本当に効果あるんだろうね……」

 テーブルで持ち寄られた書類に真剣な顔で目をとおすアレクの傍らで、襟元から魔道具を引っ張りだしてそんなことをつぶやいたロナルドを、アレクは小首をかしげて見上げる。

「どうかしたんですか?」

 美しい輝きを放つ紫の瞳に薔薇のつぼみのごとき赤い唇。神々しささえ感じるプラチナブロンド。どこをとっても完璧な美貌が上目遣いでロナルドを見あげている。

「きみのような美少年は初めて見るよ。うっかり心を奪われてしまいそうだと思ってね」

 冗談とも本気ともとれる言葉で、ロナルドは笑ってそう答えた。

「あ……ありがとう……ございます」

 だけどそれに対するアレクの反応は頬をほんのりと赤らめてうつむくという、いじらしいもので、その表情にロナルドは笑顔を張りつけながらも内心で悶絶するのだった。
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