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Episode4
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その夜は昼も夜も歩きすぎて体は疲れていたのだけど、目は冴えてしまってなかなか眠りにつくことができなかった。
翌日の昼間は教えた場所にいったかしら、いまはあの辺にいるのかしらと、ずっとあなたのことばかり考えて。
心は浮き足だっていたのだけれど、早めの夕食を取った後に時間を指定しなかったことに気がついて青ざめたわ。わたしったら本当に抜けているわよね。
夜って何時? 何度自分に問いかけても答えなんて出るわけもなくて。
昨日会ったときは零時過ぎの深夜だったけど、いまは二十時。あんまり早く行ってもいないわよね。そう思ったけれど万が一にも待たせることになったら申し訳ない。そう思って出かけることにしたの。
ぼうっと海を眺めているのは飽きないから待つことになっても平気だと思っていたけれど、信じられないことにあなたはもう橋の上にいた。
「やっと来た!」
そういって笑ったわよね。昨日と違って、まだ夜が始まったばかりの大橋には行き交うひとの数もそれなりに見受けられた。
すぐにわたしを見つけて手を振ってくれたあなたに驚いて、心臓が止まるかと思ったわ。
「時間聞くの忘れたから、ずっと待ってたよ」
すぐに謝ったけど、あなたはまったく気にしてない素振りで受け止めてくれた。昨日より長く、昨日よりほんの少し並ぶ距離を縮めて。
わたしたちは二日目の夜を一緒に過ごしたわね。夢のように楽しい時間だったわ。あなたもそう思ってくれたかしら。最後のお別れも、学校の友達にするような軽い挨拶で終わってしまって。
見送りなんて行けなかったけれど、いまでもこの浜辺から海を眺めるとあの日の記憶がわたしの中に流れてくるの。
嫌いだった大型連休が好きになったのはあなたのおかげよ。
この時期になるとわたしは毎年あの橋を渡る。
今日もまた橋を渡ったわ。もう何度目になるのかしら。
でこぼこの階段は相変わらずだけど、コツをつかんだのでもうスムーズに下りれるのよ。
夜の朱い大橋。いまにも雨が降りそうな、どんよりとした雲に覆われた海はいつもより暗くて気持ちが重くなってしまう。だけどこの橋を戻るときはね。必ず心が晴れるの。だってね。
顔を前に向けて、わたしは足を止めた。
桟橋に寄りかかって海を眺める影をみつけて。タイミングよく島のライトアップが灯されて、影を照らし出した。
こちらを振り返った彼が笑顔を向ける。
ほら、あの頃と全然変わっていないんだから。
「やっと会えた」
わたしだと気づいてくれた。嬉しくて目尻が熱くなる。
「時間……決めてなかったものね」
彼が笑う。わたしも笑った。いまなら前よりもっと、近い場所で肩を並べられるかもしれない。
今日はずっと秘密にしていた、この小島の浜辺に連れて行ってあげましょう。
翌日の昼間は教えた場所にいったかしら、いまはあの辺にいるのかしらと、ずっとあなたのことばかり考えて。
心は浮き足だっていたのだけれど、早めの夕食を取った後に時間を指定しなかったことに気がついて青ざめたわ。わたしったら本当に抜けているわよね。
夜って何時? 何度自分に問いかけても答えなんて出るわけもなくて。
昨日会ったときは零時過ぎの深夜だったけど、いまは二十時。あんまり早く行ってもいないわよね。そう思ったけれど万が一にも待たせることになったら申し訳ない。そう思って出かけることにしたの。
ぼうっと海を眺めているのは飽きないから待つことになっても平気だと思っていたけれど、信じられないことにあなたはもう橋の上にいた。
「やっと来た!」
そういって笑ったわよね。昨日と違って、まだ夜が始まったばかりの大橋には行き交うひとの数もそれなりに見受けられた。
すぐにわたしを見つけて手を振ってくれたあなたに驚いて、心臓が止まるかと思ったわ。
「時間聞くの忘れたから、ずっと待ってたよ」
すぐに謝ったけど、あなたはまったく気にしてない素振りで受け止めてくれた。昨日より長く、昨日よりほんの少し並ぶ距離を縮めて。
わたしたちは二日目の夜を一緒に過ごしたわね。夢のように楽しい時間だったわ。あなたもそう思ってくれたかしら。最後のお別れも、学校の友達にするような軽い挨拶で終わってしまって。
見送りなんて行けなかったけれど、いまでもこの浜辺から海を眺めるとあの日の記憶がわたしの中に流れてくるの。
嫌いだった大型連休が好きになったのはあなたのおかげよ。
この時期になるとわたしは毎年あの橋を渡る。
今日もまた橋を渡ったわ。もう何度目になるのかしら。
でこぼこの階段は相変わらずだけど、コツをつかんだのでもうスムーズに下りれるのよ。
夜の朱い大橋。いまにも雨が降りそうな、どんよりとした雲に覆われた海はいつもより暗くて気持ちが重くなってしまう。だけどこの橋を戻るときはね。必ず心が晴れるの。だってね。
顔を前に向けて、わたしは足を止めた。
桟橋に寄りかかって海を眺める影をみつけて。タイミングよく島のライトアップが灯されて、影を照らし出した。
こちらを振り返った彼が笑顔を向ける。
ほら、あの頃と全然変わっていないんだから。
「やっと会えた」
わたしだと気づいてくれた。嬉しくて目尻が熱くなる。
「時間……決めてなかったものね」
彼が笑う。わたしも笑った。いまなら前よりもっと、近い場所で肩を並べられるかもしれない。
今日はずっと秘密にしていた、この小島の浜辺に連れて行ってあげましょう。
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翠古羊様
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