ひとりえっちが好きな♀と結婚して子供がいる♀の百合話(仮)

木村 卯月

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終わりのない階段

聖母マリアよ、二人を何故別々に?

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 あれは確か、忌々しくて眠れないほどの屈辱だったような気がする……
 突然、妃斗美のお父さんが現れて、それが憧れのヒロミさんで…… 

 たった一週間前の出来事なのに、何かもう昔の思い出みたいな感覚だった。
 それほどまでに、妃斗美とのアブノーマルなセックスは強烈な印象を残した。彼女がここまで考えた上で、あのような行為に及んだとも思えなくもない。

 そして今後の事を、私なりに真面目に考えてみた。
 まずはヒロミさんに会って、妃斗美との関係をきちんと(当たり障りなく)伝えて認めて貰うのが大事ではないかと思う。
 それでも認めて貰えないのなら……力で奪い取る事も辞さない。
 やっぱり心の何処どこかでまだ私は、あの時の事を根に持っているのだろうか。自分でも、少し気が大きくなっているような気がする。
 そうでもなければ、妃斗美を人質にとるような真似まねなんてできる分けがない。
 仕事が終わった後の彼女の身柄を、私は自分の車に乗せて連れ回した。

―――――――――――――――――――――

「ねえ、こんな事したらまたお父さん怒っちゃうよ……」
「それならそれで構わない」
 この日、妃斗美は早番で午後1時には退勤する予定だった。私は早番で、彼女の退勤時間を見計らって車で待ち伏せしていた。これではまるで誘拐だ。
 後で考えると、やはり冷静さに欠けていたのではないかと思う。私はヒロミさんと話をして和解したいのではなく、力でねじ伏せてやりたかったのだと……頭の中で、そんな光景を思い浮かべてばかりいたのだ。
 妃斗美の話によると、彼女の方からヒロミさんに直接連絡をする事はできないそうで、向こうから電話が掛かってくるのを待つしかないそうだ。一体どういう状況なんだか……だがあの異様なまでの執着心を考えれば、そんなに持久戦にはならないだろうと思っていた。そのうち痺れを切らせて、怒り狂って勝手に連絡してくるに決まっている。

 暫くすると、妃斗美の携帯電話が鳴った。相手はヒロミさんだった。見事なまでに、思惑通りだった。
「はい……今、卯月さんと一緒にいるんです……」
「電話、代わろうか?」
 彼女が見るからに委縮していたので、気遣いのつもりで声を掛けた。しかし、思った以上に早く、すんなりと電話が終わったようだ。
「北大宮病院から300メートルくらいのところに人気ひとけの少ない公園があるから、そこに来て欲しいって……あたしは車の中にいてって……」
 私にはその言葉が挑発にしか捉えられず、もうどうにも自分の気持ちを制御できそうになかった。

―――――――――――――――――――――

 公園の横は車を停められる程度の広さの生活道路になっていた。そこに車を停めて、一人で公園の中に入っていく。
 道路側に木が並んでいたので外からでは見えなかったが、奥のベンチに一人腰掛けて待っている人物がいた。
 遠目に見たその人はニット帽を被っていて、部屋着のような格好に上着を羽織っているだけで、まるでそこの病院から抜け出したのではないかと思わせるちだった。
 それが、今のヒロミさんの姿だった。
 ヒロミさんもこちらに気付き、軽く手を振っていた。
「ヒロミさん、もしかして……」
「……さすが、察しがいいね」
 母の時もそうだったが、ほんの一週間程度で、人はここまで痩せこけてしまうものなのか。
 骨格がはっきりとわかるくらいに痩せ細っている。手足はもう今にも折れてしまいそうなほど細くて、目の窪んだ顔で精一杯笑ってくれて……

 この人も、癌に犯されていたのだ。

 今までに触れた断片的な情報が、一斉に押し寄せて、母の思い出とダブる。その量と勢い、そして自分の仕出しでかした事の無礼さに、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
 掛ける言葉を選びあぐねている私を見兼ねたのか、ヒロミさんはニット帽を外した。襟足えりあしが隠れるくらいに髪が伸びていて、風になびいていた。
 そして、ヒロミさんが化粧をしている事に気が付いた。
「相変わらずキレイですね。私よりも女らしいです……」
「気付いてくれた?多分これが最後になるから……」
「娘さんには見せてあげないんですか?」
「いくらキレイだって言われても、所詮しょせんは女装だからね。今更いまさら見せる必要もないんじゃないかなって思って……何となく分かってると思うけど、ちょっと複雑な間柄だから……その辺は、後で会社の人に聞いてみて」
 やっぱりと言うか、会社の人達はヒロミさんの状況をある程度は把握していたようで……社会ってそんなモノなんだろうなと、改めて思った。
「あと、此間こないだはごめん。ちょっと取り乱しちゃって……病気の事も、内緒にしててごめんね。生きてるうちは娘と水入らずで過ごしたいと思って、あの子にも黙ってて貰ってたんだけど……皆に辛い思いさせちゃったね」
「私の方こそ……」
 何を伝えればいいのか分からない気持ちと、こみ上げてきそうな涙をこらえて声が詰まってしまった。
 そんな私を慈しむような目で見て、ヒロミさんはベンチから立って抱きしめてくれた。
「卯月の気持ちもずっと気付いてたよ。私そんなに鈍くないし……」
「えっ!?」
「女装してても男の格好してても変わらないで好きでいてくれる人なんて、そうそういないからね……でも卯月の事は娘というか妹というか、そういうつもりで大事に思ってて……本当の事を言おうかずっと悩んでたんだけど、今日会えたのはそのおぼしだよね。来てくれてありがとう……」
 いつかの様に、気が付いたら流れていた涙が溢れて止まらなかった。
 私もヒロミさんの背中に手を回して、こちらからも抱き寄せた。やはりその体は細くて小さかった。
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