ひとりえっちが好きな♀と結婚して子供がいる♀の百合話(仮)

木村 卯月

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終わりのない階段

Self

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 数日後、ヒロミさんは亡くなった。
 斎場で葬儀が行われる知らせが、早速ホテルの従業員に伝えられた。やはりほとんどの人が私と同様に癌で入院していた事を知らなかったので、少々ざわつきが起こった。
 実はヒロミさんが退職した後「警察に捕まった」「借金で夜逃げした」等の根も葉もない悪い噂が一部の心ない者達の間で立っていたのだ。
 ただ、これに関しては普段から気分で女装して出社するような型破りな人だった事が災いしているようにも思える。その上で本当の事を秘密にしたのだ。ある程度はやむを得ないような気がしていた。もっと酷い類になると「性病」だの「院長の愛人になった」だの言っている。そして一言「聞いた話なんだけど」と付け加えて尾鰭おひれも付いてまわる。

 そしてもっと小さい規模で「土屋妃斗美さんがヒロミさんの娘である」という話も漏れ出した。
 もっとも本当に秘密にしていたのかも分からないし、それが妃斗美の耳に入ったとしてどういう気持ちになるのかも想像できない。
 逆に今回の件を全く口にしない上層部を見て、やはり上の人達は知ってて黙っていたんだなと、何となく社会の風潮に対して少し憂いていた。
 後に葬儀の施主が家族ではなくホテルの総支配人である事が分かり、更に悪い噂の火種になった。

 その所為せいなのかは分からないが、妃斗美が葬儀には参列しないと言っていた。
 彼女はまだ若いし、その選択をとるのも分からなくはないが、後々になって「行っておけばよかった」と後ろ髪を引かれる思いをする事になるのではないか。その逆もまたしかりなのだが……
 分かってる。それすらも、私の自己満足に過ぎないのだという事くらい。
 とことん相性が悪いというか、縁がなかったのではないかとさえ思えてしまう。妃斗美とも、ヒロミさんとも。
 だから、今更遠慮して退くような思考もする必要もなかった。どうせ、こんなにこじれてしまった関係は長く続かない。

「妃斗美、私と一緒にヒロミさんの告別式に行こう」
 ロッカー室は私と妃斗美の二人きりだった。私は夕方からの出勤だったが、ランチタイムが終わって退勤する彼女に合わせてそこで待っていた。
「あたしはあの人の我儘わがままに散々付き合わされました。もう十分じゅうぶんじゃないですか」
「それは分かってる。上辺うわべじゃなくて、本当に分かってるよ。経験者だから……やっと解放されたんでしょ?」
 あの背徳的なセックスで私は確かに救われたが、それだって半分は彼女自身が看病疲れから逃げる為の行為だったのだ。当時の私もそうしたかったように……
「私も一緒に行くから」
 単なる噂話も、周りが思っている以上に当事者は胸を痛める。だが彼女はそれに怯えている様子でもなく、ただ意地になっているだけなのではないか。
 派遣会社の上司に聞いて分かったのは、妃斗美の母は未婚のシングルマザーで、ヒロミさん共々結婚していないという事だった。もうそれだけでかなり複雑な状況だ。加えてあの自由奔放な女装体質だ。
 普通だったらここで、それなら仕方ないと言って妥協するだろう。
 だけど私は引き下がらなかった。
「それなら力で無理矢理に連れて行く」
 彼女ではなく、ヒロミさんに対する執着の方が圧倒的に大きかった。だからこんな突飛とっぴした行動を起こしてしまったのだ。
「何言ってるんですか」
 彼女も本気で嫌がっていた。
「先にチャンスをあげるよ。ヒロミさんと同じように私のここを思いっきり殴って、倒せばいい」
 そう言って私は自分の鳩尾みぞおちに親指を向けた。これはもう完全に当て付けだ。
不十分ふじゅうぶんだと思ったら追撃してもいいよ。その代わり、最初の一撃に耐えた時点で私が妃斗美の事を力でせる」
 いまかつてないくらいに興奮してしまい、もう自分でも制御できなかった。
「悪いけどもうこれ以上、妃斗美に振り回されるのには付き合ってられない」
 そんな状態であっても、酷い言い回しをしてしまったという事には気が付いた。そして、これだけ前振りをしたのだ。
 だから、彼女も思わず手が出てしまったのだろう。


「ぐはああああああああッ!!」


 !!!!!!!!!!!!
 いつかと全く同じように、鳩尾に衝撃が走る。私は悶絶してその場に倒れ込んだ。苦しくてまともに呼吸ができない。
 自分から「来い」と言っておきながら、全く受ける準備ができていなかった。
 やはりこの苦しみは一向に治まる気配がなかったのだが、今回はここで折れるわけにはいかなかった。
 涙目になって鳩尾を押さえてうずくまりながら、私は文字通り必死で彼女の足首を掴んだ。
 傍から見たら、ゾンビに襲われているようにでも見えたのではないだろうか。
「……分かりました!一緒に行きますから、離して下さい!」
 彼女は観念したというよりも、どちらかというと呆れてしまったのだろう。
「大丈夫ですか?」
 しゃがみ込んで、狼狽うろたえた表情で私の顔を覗き込む。本当に私は、彼女にとって何処どこまでもダメな相手だ……
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