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終わりのない階段
終わりのない階段♪(最終話)
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先述の通り、妃斗美とは既に恋人としての交際を絶った。
そして、詳しい経緯はまだ分からないが、このタイミングで坂本さんが料飲課の社員になった。
別に、今更坂本さんともう一度お付き合いしようと考えているわけでもないのだが……
まあ、時間さえあればセックスをしていたような肉体関係が、一緒に食事をしたり買い物(主に坂本家の食材)をしたりというプラトニックな?関係になっただけだ。それでも、精神的な繋がりや安心感は以前よりずっと深くなっていると思う。
そんな坂本さんが社員になった事で、彼女の心機や生活のリズムに変化が訪れた。つまり、私がプライベートで人と会う機会が全くなくなってしまったのだ。
もっと率直に言うと、毎日がヒマなのだ。相変わらずオ〇ニーは好きだが、当然そんな事で生活が充実するわけでもなく……考え事をする時間も、否応なしに与えられる。
結果、私はこれまでの数奇で貴重で莫迦な経験を題材にて小説を書きはじめる事にした。
出来はともかくとして、作品をつくる事は想像以上に楽しかった。あまりにノッてしまうと手が止まらずに、睡眠時間さえ削ってしまう事も多々あった。
そういえば、同じ頃に妃斗美が私の通っている空手道場に入門してきた。これもどういう経緯でなのかは分からなかったが、やはり一人の時間を持て余していたのではないかと思う。
そしてそんな微笑ましく平穏な日常は、そう長く続かなかった。
その日、私は久し振りに結婚の披露宴のサービスにヘルプで入っており、しかも新郎新婦の卓を担当するという重要な役を担っていた。
といっても基本的にはテーブルと厨房を往来するだけなのだが……その裏方での出来事だった。
厨房で料理を渡されて振り返ると、視界が突然ぐるぐると回りはじめた。本当に、何の前触れもなく勝手にスイッチが入ったように回転性のめまいが私を襲ったのだ。
私は平衡感覚を失い、手に持った料理を落としてその場に膝から崩れ落ちた。一応気を遣ってはいたのだが、派手に皿の割れる音が響き渡り、周囲がざわめきついた。
症状についても実際は自分の身に何が起きているのか全く見当もつかず、それでも必死で立ち上がって仕事に戻ろうとする。多分それがいけなかったのか、徐々に吐き気を催して、終いには厨房のゴミ箱に顔を突っ込んで嘔吐してしまった。
料飲課の課長が早急に代役に入り、幸い持っていた皿の数が少なかったので料理の予備も直ぐに用意された。
当の本人はというと、既に救急車が呼び出されており、裏口から担架で運ばれていた。
病院へ向かう途中で症状を聞かれた後「ご家族の方に連絡を」と言われて連絡先を聞かれたが、百五十キロ離れた日立にいる叔母しか該当者がおらず「命に別状がない限りは連絡しないで下さい」と返した。
しかし、雰囲気的には完全に予断を許さない状況であった。
倒れてから病院に着いて脳の検査を受けている間、ずっと横になって安静にしているのだが、症状が治まる気配が一向にない。一方で、別の人格のように孤立した冷静な志向が浮かび上がり、私は唐突に母の事とヒロミさんの事を思い出した。それはつまり、死が頭を過ったという事でもあった。
―――――――――――――――――――――
目が覚めた時、私は病院のベッドの上で仰向けになっていた。真っ白い天井に、周囲を囲う簡素なカーテン。やはりテレビや映画のワンシーンのようで、何処となく非現実的な感じがしていた。
程なくしてカーテンの外から声がして、病院の先生が入ってきた。
「木村さん、具合はどうですか」
「……さっきよりは大分いいですけど、まだ少しふらふらしてる様な感じがします」
寝起きの私は自分で体の調子を確認しながら喋っていた。言葉の通り、先程の激しいめまいからは解放されたのだが、まだ少し余韻というか違和感が残っていた。
「検査の結果、脳に異常はありませんでした。恐らく、過労が原因なのではないかと考えられます」
「そうなんですか……」
ほっとしたのも勿論あるが「何だそれは」と呆れてしまったというのが本心であり、そしてそれには心当たりもあった。
ここのところ、寝るのも忘れてずっとパソコンを弄っていたからだ。
(後に同じ症状の断続と耳の閉塞感から聴力の低下が発覚して、メニエール病と診断される)
「良くなったらご帰宅しても大丈夫ですが、それまでは寝ていても大丈夫ですよ」
そう言って先生はその場から立ち去った。
カーテンの隙間から見えた病室には誰もいない。そこは病室ではなく診察室であった。そして日曜日であった事を思い出す。
暫くすると、今度はカーテン越しにあるもう一台のベッドの方から声がした。
先程の先生が他の患者に話し掛けており、相手は起きていて意識もあるようなのだが返事をしていなかった。そして先生はそれを伝える為にわかりやすくはっきりした口調で言った。
「○○さんのご病気は、脳梗塞です」
横で聞き耳を立てていた私は、その顔も知らない他人に同情してしまい、仄かな胸の痛みを覚えた。
「今日から入院になります。後でご家族の方も来られますので……」
もうこれ以上そんな話は聞きたくないと思っていても、それを塞ぐ事も立ち去る事もできない。私はもう一度眠りに就こうと目を瞑りながら心の中で、何度も(すいません)(代わってあげる事ができなくてすいません)と謝り続けていた。
―――――――――――――――――――――
「卯月さん、調子はどうですか?」
カーテンの外から三度声がして、はっとして目を覚ました。私はまた眠っていたのだ。
その声は、料飲課の課長だった。カーテンを潜って私の顔を見ると、容態の事を聞いてきた。それは問題なかったのだが、私は披露宴のその後の事が気になってしまい……やれやれという感じで、無事に終わった事を教えてくれた。
「大事に至らなくて良かったですね」
当然私を労っての発言なのだが、その言葉が胸に刺さった。隣にいた患者は、既に病室に移動していた(と思う)
少し話をした後、急いで復職せようとせずに確り療養する事を念押しして、課長は帰った。
不謹慎な事を言う。
私は生きながらえるよりも、苦しくはあったが慌しいあの発症中の雰囲気の中で、呆気なく死んでいた方が良かったのではないかと思っていた。
そんな事を考えながら、病院のベッドの上で母とヒロミさんの事を思い出している。
私は一生独身でいるだろうから、死ぬ間際にも誰かに看取られる事はないだろう。そういうつもりで生きてきたのだが、実際に死が頭を過った時、やはり愛する人には傍らにいてほしいと願ってしまった。
死の孤独なんて、本当に死ぬと分かってからでもないと実感する事はできないと思う。
そして私は、坂本さんの事を考えていた。
彼女の事を愛してはいけないという事なんて、もう自分でも呆れるくらい考えて分かっている筈だ。
彼女の好きなところを挙げろと言われても、容姿以外は全く思い浮かばない。逆に彼女の欠点を挙げろと言われれば、際限なくいくつでも挙げる事ができるだろう。
私の前では平気でおならをするし、態々トイレで出した物を見せにくるような人だ……私はそれを思い出して、思わず一人で笑ってしまった。
人に借りた物を自分の物だと思って、いつまでも返さない……でもまあ、彼女は大体喜んでくれるし、今更返されるのも何か寂しい気もする。喜んでいる時の坂本さんはとても愛らしく、嬉しさのあまりにお礼のキスをしてくれる事だってある。実は彼女が物を返さないのは、ずっと一緒にいるから、離れる事なんて考えてないからだという事も分かっている。
私は、彼女の欠点が好きで好きで堪らないのだ。そしてまた、情熱的にキスしてほしいし私もキスしたい。そして、彼女とずっと一緒にいたい。
―――――――――――――――――――――
「木村さん、大丈夫ですか?」
カーテンの外で声がした。これでもう四度目なのだが、それは私が一番聞きたかった人の声だった。周囲が一気に晴れ渡り、心が弾んで体が浮き上がるような錯覚さえ感じた。
私は起き上がって、ベッドから降りて自らの手でカーテンを開けた。もう待ってなんかいられなかったのだ。
「思ったよりも元気そうで安心しました」
この時私は、感情を隠して格好を付ける事を忘れていた。坂本さんの顔を見て、一体どんな表情をしていたのだろう。
顔を合わせた途端、それまでの燃えるような熱情が、一気に陽だまりのような包み込む暖かさに変わった。感激を通り越して、何の心配も不安もいらないという、抱き締められているような安心感に満たされていた。
「おなかすいた……」
安堵しきった私はお昼を何も食べておらず空腹な事に気付いてしまった。
「帰っても大丈夫なんですか?」
「うん、体調が良くなったら帰っていいって」
「それなら、何か食べに行きましょうか」
そうは言ったが、私はまだベッドの上で安座していて病院を出る準備をしていなかった。坂本さんと二人でいると、どんなところにいても我が家のような安心感があり……
そこにもう一人。
「卯月さん、具合はどうですか?」
ちっちゃくてキレイな十八歳、土屋妃斗美さんが見舞いに訪れた。今でも同じ職場で働いているのでまあ、何等おかしな事ではないのだが……
「あら坂本さん」
「あらこんなところで土屋さんと会うなんて」
手を取り合ってきゃっきゃしていたが、坂本さんの方は少々わざとらしい口調だったような気がした。
そういえば、坂本さんと土屋さんも同じレストランで働く事になったので、既に面識はある筈だ。そして、どれくらいお互いの事を知っているのだろう……今後の展開を含め、あまり考えたくはなかった。
「それじゃあ卯月さん、ご飯を食べに行きましょうか」
明らかに土屋さんを牽制する意図で、坂本さんがそう言った。えっ、何この雰囲気……
「そうだね、流石におなかがすいてきた……」
私も取り敢えず何とかこの場を切り抜けようとしたが、腹部に手を当てるのはやりすぎだったと思う。
「え、私も一緒に行きます!」
土屋さんが屈託のない笑顔で手を挙げた。彼女はまだ来たばかりだし、この流れで置いていく事もできず……
私は荷物を纏め、受付に一言添えて病院を後にした。
―――――――――――――――――――――
これでこのお話は終わりです。尻すぼみな終わり方で申し訳ありません。最後は土屋さんを出さずに終了させようかと思いましたが、まだ私の人生、この先の事が何も分かっていない以上は彼女との関係も何等かの形で続いていくものだと考えました。勿論、坂本さんとの将来もどうなるのか全く見当も付きません。何かネタになるような事があれば、続きを書く事があるかもしれません。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
著:木村卯月
作品名『それでも人生は続く』
fin.
そして、詳しい経緯はまだ分からないが、このタイミングで坂本さんが料飲課の社員になった。
別に、今更坂本さんともう一度お付き合いしようと考えているわけでもないのだが……
まあ、時間さえあればセックスをしていたような肉体関係が、一緒に食事をしたり買い物(主に坂本家の食材)をしたりというプラトニックな?関係になっただけだ。それでも、精神的な繋がりや安心感は以前よりずっと深くなっていると思う。
そんな坂本さんが社員になった事で、彼女の心機や生活のリズムに変化が訪れた。つまり、私がプライベートで人と会う機会が全くなくなってしまったのだ。
もっと率直に言うと、毎日がヒマなのだ。相変わらずオ〇ニーは好きだが、当然そんな事で生活が充実するわけでもなく……考え事をする時間も、否応なしに与えられる。
結果、私はこれまでの数奇で貴重で莫迦な経験を題材にて小説を書きはじめる事にした。
出来はともかくとして、作品をつくる事は想像以上に楽しかった。あまりにノッてしまうと手が止まらずに、睡眠時間さえ削ってしまう事も多々あった。
そういえば、同じ頃に妃斗美が私の通っている空手道場に入門してきた。これもどういう経緯でなのかは分からなかったが、やはり一人の時間を持て余していたのではないかと思う。
そしてそんな微笑ましく平穏な日常は、そう長く続かなかった。
その日、私は久し振りに結婚の披露宴のサービスにヘルプで入っており、しかも新郎新婦の卓を担当するという重要な役を担っていた。
といっても基本的にはテーブルと厨房を往来するだけなのだが……その裏方での出来事だった。
厨房で料理を渡されて振り返ると、視界が突然ぐるぐると回りはじめた。本当に、何の前触れもなく勝手にスイッチが入ったように回転性のめまいが私を襲ったのだ。
私は平衡感覚を失い、手に持った料理を落としてその場に膝から崩れ落ちた。一応気を遣ってはいたのだが、派手に皿の割れる音が響き渡り、周囲がざわめきついた。
症状についても実際は自分の身に何が起きているのか全く見当もつかず、それでも必死で立ち上がって仕事に戻ろうとする。多分それがいけなかったのか、徐々に吐き気を催して、終いには厨房のゴミ箱に顔を突っ込んで嘔吐してしまった。
料飲課の課長が早急に代役に入り、幸い持っていた皿の数が少なかったので料理の予備も直ぐに用意された。
当の本人はというと、既に救急車が呼び出されており、裏口から担架で運ばれていた。
病院へ向かう途中で症状を聞かれた後「ご家族の方に連絡を」と言われて連絡先を聞かれたが、百五十キロ離れた日立にいる叔母しか該当者がおらず「命に別状がない限りは連絡しないで下さい」と返した。
しかし、雰囲気的には完全に予断を許さない状況であった。
倒れてから病院に着いて脳の検査を受けている間、ずっと横になって安静にしているのだが、症状が治まる気配が一向にない。一方で、別の人格のように孤立した冷静な志向が浮かび上がり、私は唐突に母の事とヒロミさんの事を思い出した。それはつまり、死が頭を過ったという事でもあった。
―――――――――――――――――――――
目が覚めた時、私は病院のベッドの上で仰向けになっていた。真っ白い天井に、周囲を囲う簡素なカーテン。やはりテレビや映画のワンシーンのようで、何処となく非現実的な感じがしていた。
程なくしてカーテンの外から声がして、病院の先生が入ってきた。
「木村さん、具合はどうですか」
「……さっきよりは大分いいですけど、まだ少しふらふらしてる様な感じがします」
寝起きの私は自分で体の調子を確認しながら喋っていた。言葉の通り、先程の激しいめまいからは解放されたのだが、まだ少し余韻というか違和感が残っていた。
「検査の結果、脳に異常はありませんでした。恐らく、過労が原因なのではないかと考えられます」
「そうなんですか……」
ほっとしたのも勿論あるが「何だそれは」と呆れてしまったというのが本心であり、そしてそれには心当たりもあった。
ここのところ、寝るのも忘れてずっとパソコンを弄っていたからだ。
(後に同じ症状の断続と耳の閉塞感から聴力の低下が発覚して、メニエール病と診断される)
「良くなったらご帰宅しても大丈夫ですが、それまでは寝ていても大丈夫ですよ」
そう言って先生はその場から立ち去った。
カーテンの隙間から見えた病室には誰もいない。そこは病室ではなく診察室であった。そして日曜日であった事を思い出す。
暫くすると、今度はカーテン越しにあるもう一台のベッドの方から声がした。
先程の先生が他の患者に話し掛けており、相手は起きていて意識もあるようなのだが返事をしていなかった。そして先生はそれを伝える為にわかりやすくはっきりした口調で言った。
「○○さんのご病気は、脳梗塞です」
横で聞き耳を立てていた私は、その顔も知らない他人に同情してしまい、仄かな胸の痛みを覚えた。
「今日から入院になります。後でご家族の方も来られますので……」
もうこれ以上そんな話は聞きたくないと思っていても、それを塞ぐ事も立ち去る事もできない。私はもう一度眠りに就こうと目を瞑りながら心の中で、何度も(すいません)(代わってあげる事ができなくてすいません)と謝り続けていた。
―――――――――――――――――――――
「卯月さん、調子はどうですか?」
カーテンの外から三度声がして、はっとして目を覚ました。私はまた眠っていたのだ。
その声は、料飲課の課長だった。カーテンを潜って私の顔を見ると、容態の事を聞いてきた。それは問題なかったのだが、私は披露宴のその後の事が気になってしまい……やれやれという感じで、無事に終わった事を教えてくれた。
「大事に至らなくて良かったですね」
当然私を労っての発言なのだが、その言葉が胸に刺さった。隣にいた患者は、既に病室に移動していた(と思う)
少し話をした後、急いで復職せようとせずに確り療養する事を念押しして、課長は帰った。
不謹慎な事を言う。
私は生きながらえるよりも、苦しくはあったが慌しいあの発症中の雰囲気の中で、呆気なく死んでいた方が良かったのではないかと思っていた。
そんな事を考えながら、病院のベッドの上で母とヒロミさんの事を思い出している。
私は一生独身でいるだろうから、死ぬ間際にも誰かに看取られる事はないだろう。そういうつもりで生きてきたのだが、実際に死が頭を過った時、やはり愛する人には傍らにいてほしいと願ってしまった。
死の孤独なんて、本当に死ぬと分かってからでもないと実感する事はできないと思う。
そして私は、坂本さんの事を考えていた。
彼女の事を愛してはいけないという事なんて、もう自分でも呆れるくらい考えて分かっている筈だ。
彼女の好きなところを挙げろと言われても、容姿以外は全く思い浮かばない。逆に彼女の欠点を挙げろと言われれば、際限なくいくつでも挙げる事ができるだろう。
私の前では平気でおならをするし、態々トイレで出した物を見せにくるような人だ……私はそれを思い出して、思わず一人で笑ってしまった。
人に借りた物を自分の物だと思って、いつまでも返さない……でもまあ、彼女は大体喜んでくれるし、今更返されるのも何か寂しい気もする。喜んでいる時の坂本さんはとても愛らしく、嬉しさのあまりにお礼のキスをしてくれる事だってある。実は彼女が物を返さないのは、ずっと一緒にいるから、離れる事なんて考えてないからだという事も分かっている。
私は、彼女の欠点が好きで好きで堪らないのだ。そしてまた、情熱的にキスしてほしいし私もキスしたい。そして、彼女とずっと一緒にいたい。
―――――――――――――――――――――
「木村さん、大丈夫ですか?」
カーテンの外で声がした。これでもう四度目なのだが、それは私が一番聞きたかった人の声だった。周囲が一気に晴れ渡り、心が弾んで体が浮き上がるような錯覚さえ感じた。
私は起き上がって、ベッドから降りて自らの手でカーテンを開けた。もう待ってなんかいられなかったのだ。
「思ったよりも元気そうで安心しました」
この時私は、感情を隠して格好を付ける事を忘れていた。坂本さんの顔を見て、一体どんな表情をしていたのだろう。
顔を合わせた途端、それまでの燃えるような熱情が、一気に陽だまりのような包み込む暖かさに変わった。感激を通り越して、何の心配も不安もいらないという、抱き締められているような安心感に満たされていた。
「おなかすいた……」
安堵しきった私はお昼を何も食べておらず空腹な事に気付いてしまった。
「帰っても大丈夫なんですか?」
「うん、体調が良くなったら帰っていいって」
「それなら、何か食べに行きましょうか」
そうは言ったが、私はまだベッドの上で安座していて病院を出る準備をしていなかった。坂本さんと二人でいると、どんなところにいても我が家のような安心感があり……
そこにもう一人。
「卯月さん、具合はどうですか?」
ちっちゃくてキレイな十八歳、土屋妃斗美さんが見舞いに訪れた。今でも同じ職場で働いているのでまあ、何等おかしな事ではないのだが……
「あら坂本さん」
「あらこんなところで土屋さんと会うなんて」
手を取り合ってきゃっきゃしていたが、坂本さんの方は少々わざとらしい口調だったような気がした。
そういえば、坂本さんと土屋さんも同じレストランで働く事になったので、既に面識はある筈だ。そして、どれくらいお互いの事を知っているのだろう……今後の展開を含め、あまり考えたくはなかった。
「それじゃあ卯月さん、ご飯を食べに行きましょうか」
明らかに土屋さんを牽制する意図で、坂本さんがそう言った。えっ、何この雰囲気……
「そうだね、流石におなかがすいてきた……」
私も取り敢えず何とかこの場を切り抜けようとしたが、腹部に手を当てるのはやりすぎだったと思う。
「え、私も一緒に行きます!」
土屋さんが屈託のない笑顔で手を挙げた。彼女はまだ来たばかりだし、この流れで置いていく事もできず……
私は荷物を纏め、受付に一言添えて病院を後にした。
―――――――――――――――――――――
これでこのお話は終わりです。尻すぼみな終わり方で申し訳ありません。最後は土屋さんを出さずに終了させようかと思いましたが、まだ私の人生、この先の事が何も分かっていない以上は彼女との関係も何等かの形で続いていくものだと考えました。勿論、坂本さんとの将来もどうなるのか全く見当も付きません。何かネタになるような事があれば、続きを書く事があるかもしれません。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
著:木村卯月
作品名『それでも人生は続く』
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川端康成先生の雪国を意識してみたのですが・・・冒涜でしょうかTT
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