キミを好きな僕と僕を嫌いなキミ

焔 はる

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「・・・平坂さん・・・」

「あぁ、蓮見か。お疲れ。」


ヒールの音がやけに大きく響く。

私はシンクにもたれるように腰を掛けている平坂さんに近づき、


パンッ!

手のひらに人の肌の感触と、弾けるような乾いた音。


「・・・・・・忽那くんに何したんですか?」


右の手のひらがじんわり熱く、ジンジンと痛む。


「って・・・ぇ・・・はぁ・・・いきなりかよ・・・。容赦ねぇなお前・・・はは、大したことはな~んにも。ちょっと、さわっただけだよ。しかもお前、俺が何かしたの前提って・・・ひでぇな。」

「・・・・・・私、彼は私のなので、平坂さんにはあげれませんて言いましたよね、ダメです、って。」


様子のおかしかった忽那くんは、話を聞く間もなく、バッグを引っ掴んで出て行ってしまった。

缶コーヒーの空き缶を捨てに行く前までとも、今まで見て来た忽那くんとも違うただならぬ様子に嫌な予感がして、退社前にいつも彼が空き缶を捨てに行く給湯室に行ってみれば、案の定、諸悪の根源がいらっしゃったわけだ。


「・・・けどさ、別にお前ら付き合ってもいないんだろ?なんの効力もないよね?」

「・・・・・・私は、いくら下事情がユルユルでだらしなくて、ドクズだとしても、仕事上では尊敬していた平坂さんの変貌っぷりに若干の驚きがあるのですが」

「へぇ~結構言うね」

「付き合うとか付き合わないとかじゃなく、彼は、だめです。もう彼、私のなので。」

「どぉしても?」

「どうしても。」

「・・・少しくらいも?」

「少しでも大量でも。ダメなものはダメです。」

「・・・・・・はぁ・・・ケチ・・・・・・」


イラッ・・・


「は・・・睨むなよ。肉体関係がダメなお前はわかんねぇだろうけど、アイツ見てると血が騒ぐっていうか・・・疼くんだよ・・・鳴かせてみたくて・・・」


・・・そんな目で忽那くんを見るな・・・汚らわしい・・・


「さっきも、ちょっとアイツのアレ、撫でてやって、首にキスしてやっただけで・・・」


・・・

・・・・・・

「・・・・・・平坂さん・・・・・・」


忽那くんの言葉が頭に蘇る。



入社当時、私の家に押しかけて来た時・・・・・・

『・・・俺さ、初体験は男と女の先輩カップルに中1の時に奪われたの。それからは男でも女でも相性が良ければ付き合ったし、付き合わなくてもセフレはいた。だから今回浮気されても別に平気だったの。でもこないだ蓮見さんと出会って、初めて女の事可愛いって思った。性欲の対象ってだけじゃなくて』

「・・・あんた、真面目な顔して話してるけど、内容最低だし最悪よ。」

彼の気持ちなんて考えず言い捨てた私に、

『でも、それが俺だから仕方ないよ。最低でも最悪でも、今までの事は変えられないから、蓮見さんが嫌なら許してもらえるまで俺は触らない・・・。だから傍にいさせてほしい。』

そう言って、私が突き付けた約束を守ろうとしてくれた忽那くん。

仙台出張のラブホの夜も、

『・・・初体験がレイプで、そのあと荒んだ俺が言っても説得力ないですけど、蓮見さんがシたくないのも、求めてないのも、嫌なのも知ってます。だから、蓮見さんがこうして俺を拒絶してなくて、触れたい、触れてもいいと思ってくれるだけで、なんかもう・・・無理・・・』

「無理なの?」

『ちが!好きすぎて・・・嬉しくて・・・辛い・・・』


そう言ってたあの子を・・・



「・・・平坂さん・・・天誅って言葉、知ってます?」

「・・・・・・おい、蓮見、それは・・・グーは、ちょっと・・・ッ」

「歯ぁ、食いしばれ、このドクズ鬼畜クサレ下半身ヤローがッ!!」




思い切り殴ったのは私なりの最後の思いやり、平坂さんの胸。

顔面ほど派手な音でもなかったし、血も出ていないし目立たない場所。

でも、顔面だと思って目を瞑った平坂さんにはフェイントだったらしく、ゴスッ!!っという重く鈍い音と、うめき声を上げて平坂さんは崩れ落ちた。



「同性だろうが異性だろうが、同意なき接触、一方的な触れ合いはセクハラ、レイプと同じです。二度目はないこと、しっかり覚えておいてくださいね、平坂さん。」





平手もグーも痛い。




この日私は、初めてひとを叩き、ひとを殴った。


恋人でもない、他人のために。


恋人でもない、大切な人のために。



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