徒然なる恋の話

焔 はる

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七夜【大切なもの、守りたいもの】

7-24

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「あのー、すいません」

私に声を掛けてきたのは若い女性。

「これ、渡してほしいと頼まれたんです。」

女性が差し出したのは、1通の白い封筒。

「じゃあ、渡したので、私はこれで。」

それだけ告げると、女性は人混みに消えて行った。

・・・なんだったんだろう・・・

知り合いでもなければ、見たこともない人だった。

「・・・!」

封筒の裏を見て、言葉を失った。

・・・くろ、き・・・


「しぃなちゃーん・・・ひさしぶり。プレゼントだよ。めちゃくちゃ探しちゃった・・・」


ドンッと、身体に当たる衝撃。


背後から身体を抱かれ、サッと血の気が引く。

濃いムスクの香り、耳元で響く声に、恐怖が蘇り、呼吸をすることも忘れ、瞬きはどうするものだったか、完全に思考が停止した。


「ほら、見てよ、開けてあげよっか?ほらほら、よく撮れてるでしょ~。これなんて、今朝だよ?これ、今の彼氏?・・・ん~、なんか見たことあんだよな~。あ、社長なんだって?金持ち捕まえたわけだ?やるねぇ・・・。でもさぁ・・・お前、俺のだから・・・。」


・・・桜太のこと、やっぱり知ってるんだ・・・


私の手から抜き取った封筒を開け、自分で取り出したのは数枚の写真。

それを私の顔の高さで1枚ずつ入れ替え、どんな写真か私に確認をさせながら、黒木は喋り続けた。


何回も入れ替えて見せられる写真は、今日桜太に送って貰った時に車の中で抱き合ってキスをしている写真、桜太のマンションから出る2人並んだ写真、私1人で近所のコンビニにいる写真、電車で出勤途中の写真、会社に入って行く写真、部屋にいるのを、外から撮った写真・・・。

そして、仕事中の桜太の写真。

桜太1人の写真だけではなく、先日顔を合わせた3人が写っている写真もある。


「若いのに社長なんてすごいよなぁ、金もあるんだろうし、女なんてお前じゃなくてもいいんじゃねぇの?1人くらいいなくなったところで・・・なぁ?それに、教えただろ?俺が望んだら、お前はどうするのが正しいのか・・・忘れてねぇよな?戻ってこい、椎娜・・・」


背後からお腹に手を回されて顎を掴まれ、金属のブレスレットがジャラッと重い音を立てた。


恐怖と吐き気が込み上げる。


言葉で縛られたように動けなくて、通り過ぎる人たちは見て見ぬふりで、関わりたくないのかもしれないし、もしかしたら、カップルがふざけ合っているように見えてるのかもしれないし、私は身体が固まったまま、足を動かす事ができなかった。

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