夜鴉

都貴

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第一章 夢見の城

調査開始③

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 翌日の昼、朝の巡回任務に当たっていた陽平は浮かない顔で屋上にやってきた。

「どうしたんだよ、陽平」

 光季が尋ねると、もそもそとカレーパンを齧りながら陽平が答える。

「今朝の任務で慧士から聞いたんだけどよ、文也のやつ、どうも眠ったまま起きないらしいんだよな」
「マジか。つーことは、もしかして……」

「ああ、慧士の学校でも伝染夢の話、噂になってるみてーなんだよな。まあ、慧士は聞いたことないっつってたけど、文也は誰かから聞いたみてーだな」

昨日、光季達が事件について報告したあとすぐ、夜鴉の掲示板に伝染夢の話を聞かないように注意が出ていたけれど、すでに遅かったようだ。

「こりゃ本気で早く事件を解決しねーと、マジでヤバいな。白藤は大丈夫なのか?」

「ああ、沙奈は昨日怖くて寝られなかったってさ。夢を見ないには寝ないしかねえよな。でも寝ないで過ごせるのなんて、せいぜい三日ぐらいだ

「そうだよな。白藤も心配だな。ますます早く解決しねーと」

「そうだな。ま、あんま心配ばっかしててもしょうがねぇよな。よし、今日の夕方には幽霊の正体をつきとめて、眠っちまったヤツらを起こしてやっか」

 陽平がいつものように明るく笑った。
陽平が夢に囚われることはなさそうだ。光季自身も少女の霊の夢を見ることはなかった。

やはり、人選は正しかったようだ。



 授業を終えた光季と陽平は基地に直行し、霊体に換装して昨日の面子で噂の洋館へと走って向かった。

霊体の運動能力や耐久力は肉体の約五倍だ。
車を使わずとも、霊体に換装して走って行けば十分もかかずに噂の洋館に着いた。

 晴れた空に灰色の雲が流れ込む。一雨きそうだな。
空を見上げた光季は眉根を寄せた。茜色をかき消すように雲が空を埋め尽くし始めている。

目の前には古い洋館が不気味に聳えている。
白い壁に淡いブルーの屋根、アーチ形の窓にバルコニー、尖頭の上には風見鶏が佇んでいる。

昔は立派だったのだろうが、今では白い漆喰塗の壁は風雨に晒されて鼠色に変色し、屋根には穴が開いて見る影もない。腐食した鉄製の風見鶏が時折、風でギイギイと不快な音を立ててぎこちなく回る。

 辺りが一層暗くなった。日が完全に沈んだからではない。
吹き荒れる風がより多くの雲を運んできたからだ。
気味の悪さに拍車をかける天候だ。おまけに夏なのに寒い。

 ザアザアと降りだした雨に濡れる直前に、光季達は屋敷の中に入った。

中は埃っぽく薄暗かった。生者の気配がしない、静謐に満たされた空間。頬を撫でる空気はひんやりと冷たい。
光季は目を瞠り、耳を澄まして自分たち以外の息吹を探る。

だが何も感じられなかった。他の隊員も何の気配も感じていないようだ。

 問題の二階の奥の部屋の前にやってきた。
飴色の扉を開くと、聞いた通り女子が好きそうな内装が目に入った。

しかし、シャンデリア風の鈴蘭の花を模した天井照明には蜘蛛の巣が掛かり、淡いピンクを基調とした天蓋付のベッドは埃で薄汚れている。

光季は可愛らしさよりも空恐ろしさを覚えた。

「この部屋も、なんの気配も感じないです」

「光季もかい?オレもなんも感じないんだよね。確かに嫌な雰囲気の場所なんだけど、不思議と妖怪とか幽霊の気配はない」

「水瀬君も優も何も感じないみたいだな。俺も同意だ。
敵は夢の中にしか現れないのかもしれないな。
夢に現れる妖怪だとするなら、代表的なのは獏や枕返しというのがいるけど、知られざる妖怪の仕業かもしれない。幽霊の可能性も否めない」

「どのみち、夢でなければ敵の存在を感知できないというなら、夢を見るしかないな。
しかし、俺の部下も一人、眠って起きなくなった。危険が伴う行為だ」

 腕を組んで自分の提案を吟味する響に、光季は猫のように目を細めて笑いかけた。

「おれ、いってきますよ。そんで、妖怪を現実の世界に引き摺り出してきます。ついでに、眠っちゃった瀬名を連れ戻してきます」

「馬鹿を言うな、光季。危険だとさっき言っただろう。安請け合いするんじゃねえ」

「誰かがいかなきゃいけないんでしょ?だったらおれに任せてよ、響さん」
「お前である必要がない。如月でも松風でもいいだろう。俺が眠ってもいい」

「うーん、響さん、虎徹さん、陽平、朝比奈さんあたりは頑張っても、幽霊の夢を見られなさそうな気がします。そうなると優さんかおれが寝るのが妥当でしょ。もしおれが帰れなくなったら、優さんに迎えにきてもらいます」

「ふん、言い出したら聞かねえ頑固者め。わかった、好きにしろ」 

渋々といったふうではあったが、響が首を縦に振った。

「自力で起きれなかったら、ひっぱたいてでもオレが起こしてやるよ、光季。頼んだぜ」
「おまえの馬鹿力で叩かれたら、逆に死ぬっつーの。そんじゃあ、おやすみ」

 陽平と軽口を叩きあうと、心配げな響の視線を感じながら光季はベッドに上がった。

目を閉じると最近の疲れがでたのか、それともなにか不思議な力でも働いているのか、すぐに眠気に襲われた。


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