夜鴉

都貴

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第五章 音無の村

消失③

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 骨が見つかったのは施設から少し離れた場所にある枯れた井戸の中だった。
 要と一緒に行動していた沙奈が見つけたらしい。

 理科室にあるような人体の形の骨が地面に並べられていた。
 骨を拾い上げたのは要だ。

 今にも動き出しそうな生々しい骨を、光季は少し離れた場所から観察した。
 空いた大きな二つの空洞には怨念が篭っていて、こちらを恨みがましく見ている気がしておっかない。

 虎徹がしゃがんで骨の一つを拾い上げ、優に突き付けた。

「おい松風。オマエはこの骨、誰のだと思う?」
「うーん。まだ新しそうだし、オレはツアー客のだと思うよ。妖怪の仕業決定かな」

「俺も同意だな。骨には牙が触れた痕がある。
 獣系の妖怪なら骨ごと喰う奴や粗雑な食い方の奴が多いから、骨なんぞ残ってないか、あるいはもっと悲惨な遺骨が見つかっていただろうな。
 だが、朝比奈が拾った骨は大体だが綺麗に人の形で残っている。
 グルメな妖怪の仕業だな。高位の鬼の可能性が高いと思うぜ」

「そうだね。井戸の周りには真新しい血痕が残っていた。ツアー客を攫って人目の付かないここで食べて、捨てたのかもね。犯人は人間に化けてこの村に巣食ってる鬼かも」

「今までに集めた情報を纏めて、本部に送ろう。
 本部のデータベースで調べれば、どの妖怪の仕業か特定できるかもしれない。
 あと、ツアーは中止するべきかもしれないな。
 俺が本田さんにツアー中止をかけあってみよう。優たちはこの辺りを調べて待っていてくれ」

 要が慧士と沙奈を連れて保養所の本田の所へ向かった。

 暫くして戻ってきた要は、少し呆れた顔でツアーを続行する意向だと告げた。
 妖怪騒ぎを広めて村を混乱に陥れたくないのと、客が中止を望んでいないとの理由だった。

 ツアー続行なら、客を守りながら事件を調べる必要がある。
 客なんて知るかと言い張る虎徹の尻を武志がひっぱたいて、客から目を離さないよう調査にあたった。

 基本的に客は本田が立てたプラン通りに動いているとはいえ、北村のように勝手に抜けだす者がいたり、トイレなどに立つ者がいたりで、監視の目から一人も漏らさずに仕事をするのはなかなか至難だ。
 夕食の時間になる頃には、光季はクタクタになっていた。

 夜鴉達は客と離れた席で夕食を摂った。

 テーブルに並べられたのはイタリアンフレンチのプチコースだ。
 光季はテーブルに置かれたおしながきを珍しそうに眺める。

 ヴィシソワーズから始まり、前菜三種の盛り合わせ、山菜のペペロンチーノ、ローストポークのハニーマスタードソース、デザートのショートケーキとなかなか豪華なメニューだ。

 光季にとっては人生初のコース料理だ。
 仕事を忘れて食事を楽しむことにした。

 光季は運ばれてきたスープを口に含んだ。
 ジャガイモと生クリームが濃厚で美味しい。

「オレたちは白山が犯人だと睨んでいたんだけど、白山を見張っている間に亜美ちゃんは消えた。うーん、混迷してるよなぁ。要、なんか有力な情報ない?」

 優に尋ねられ、要がスープをすくう手を止めて顔を上げた。

「村を調査したが特に収穫はなかった。すまない」

「この保養所では、一人ずついなくなっている。一斉に何人も消えた前回の二件とは別件ということはないのか?」

「それは多分ないと思うよ、武志さん。もしかすると、犯人は二人かもね」

 仕事の話をしながら食事している優達をよそに、虎徹は興味なさげに黙々と食事をしていた。
 戦うこと以外に興味を示さない彼らしい態度だ。

 陽平も失踪事件に余り興味がないらしく、適当に頷いているだけだ。
 光季も特に意見がなかったので黙っていた。

 デザートのイチゴショートが運ばれてきた。お洒落な正方形のショートケーキだ。

 好物の苺に光季は目を輝かせる。
 まっさきに飾りの大きい真っ赤な苺を口に入れる。
 自分の苺を先に食べてしまうと、隣に座っていた陽平の苺にフォークを刺す。

「もらうぜ」

 陽平の返事を聞かずに、光季は苺を口に入れた。陽平が苦笑を浮かべる。

「イチゴ好きだよな、オマエ。女子かよ」
「好きな食べもんで男女差別すんな。別に何が好きでもいいだろ」

 飾りの苺を食べてしまうと、ケーキを口に運んだ。
 ふわりとした生クリームの甘さと甘酸っぱい苺とのバランスが絶妙で、スポンジはしっとりとして絶品だ。

 美味しいデザートを口にして気が緩んだのか、積極的に仕事の話をしていた優達もいつの間にかリラックスした様子で雑談をしていた。

「呑気に飯食って、いい御身分だよな。また犠牲者をだしたくせに」

 食事を終えて席を立った北村が、わざわざ夜鴉のテーブルに近付いてきて吐き捨てた。

 武志と慧士と沙奈は申し訳なさげに眉根を寄せたが、あとの隊員はけろっとした顔で食後のコーヒーや紅茶を啜っていた。

 光季は正義感の強そうな要が平然としていることを少し意外に思った。
 さすが曲者な優の親友だけあって、要もなかなかの食わせ者のようだ。

 おれたちは万能な正義の味方じゃないから、みんなを救えるわけじゃない。
 できることは妖怪を駆除して、被害を減らすことだけだ。

 命懸けで戦ったことのない奴にとやかく言われたくない。
 妖怪の被害を受けて人生の歯車が狂ってしまったことは同情するが、被害者という立場に甘えて、自分の将来すら不安定な北村に批判される筋合いはない。

 光季は自分の仕事ぶりに疑いをもっていないが、そうではない隊員もいる。

 こういう時、責任感が強くて優しい人間は辛いよな。落ち込んだ顔になってしまった三人の隊員に、光季は憐れみの篭った眼差しを向けた。


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