夜鴉

都貴

文字の大きさ
45 / 70
第五章 音無の村

正体①

しおりを挟む
 里花子と同じ高校のジャージを着た少女の、無残な姿がそこにあった。
 おそらく亜美だろう。
 彼女は腹を裂かれ、体中の肉を食まれた状態で地べたに横たわっていた。

 余程の恐怖と痛みを味わったのだろう。
 まだ無傷の顔は凄絶な表情だ。
 血塗れの臓器が月明かりでテラテラと生々しく光る。暫く肉を食べたくなくなるような光景だ。

 光季は吐き気を堪えて、生々しく飛び出した腸を食んでいる不届き者に目を向けた。

 ゆっくりと振り返ったその顔を見て、自分たちの直感は間違っていなかったと知った。

 赤みがかった縮れ毛、赤く染まった白衣。
 犯人はやはり白山だった。

 仏のような顔はどこへいってしまったのか、口の周りを真っ赤に濡らし、獰猛な顔をしている
 。黒かった瞳は金色に輝き、じろりと光季と陽平を見た。
 口には凶悪な牙が覗き、額には短くて太い角が生えている。

「見られてしまったな」

 糸目を見開いて悪辣に笑う白山に脱帽した。とんだ演技派の鬼もいたものだ。

「おまえがツアー客を攫ったんだな、白山。どうせ、仲間がいるんだろ?亜美ちゃんが消えた時、おまえは舞ちゃんといたもんな」

「さて、どうかな。しかし御苦労だな、夜鴉よ。山奥の隣村にまでわざわざ出張とは。ここは我のよい狩り場だったというのに。
 霊道を創り出せる我とて、穏健派の奴らの目があるからそう容易くはこちらに来られないんだ。邪魔をしてくれるな」

 地の底から響くような低く恐ろしい声。ビリビリと空気が震えるのがわかる。

 肌を刺す妖気。白山が強いことが戦わずともわかった。
 それでも光季は物怖じすることなく、余裕の笑みを浮かべたまま対峙する。

「この村の失踪事件の主犯はおまえだろ。何者だ?」

「人間なんぞに名乗る名はない、といいたいところだが、冥土の土産に我が名を授けよう。我は温羅うら。高貴なこの名を覚えて死ぬがいい」

 白山の姿が完全に鬼に変化した。赤銅色の肌、さっきよりも二回以上大きな筋骨隆々の体はいかにも屈強そうだ。

 破れた白衣の代わりに、温羅は裾がボロボロの黒い着物を片肌脱ぎで纏っていた。
 手には二メートル程ある金砕棒を携えている。

「こりゃぜったいに甲種だな」

 光季はスラックスのポケットから取り出した異空間装置を発動する。
 半径三キロ圏内がスキャンされ、妖怪と霊力がある人間が創られた空間に送られる。

 一見すれば普段と変わらないけど、いくら壊してもいい世界。
 ここなら思う存分戦える。
 光季は唇を舐めた。

「やる気満々といったところだな。我を前にして怖じ気つかぬとは、馬鹿か兵か。どちらにせよ、やることは一つだな」

 温羅が金砕棒を悠々と振り回しながら光季と陽平に襲いかかる。

 まともに受け太刀すればこちらの武器が粉砕されると判断し、陽平は攻撃を避けた。
 光季もひらりと木に飛び上がって攻撃を躱す。
 温羅の動きはそれほど機敏ではない。

 光季は温羅の後ろ側に回って、木の上から光弾を飛ばす。

「小癪な。やれ、阿曽あそ

 さっきまでなんの気配もなかった背後に俄かに殺気を感じた。
 光季は慌てて木から飛びおりる。

 だが遅かった。背中に鋭い痛みが走って血が散る。

「光季っ!」
「いつのまに後ろをとったんだよ?くそ、やられた」

 陽平の隣に立つと、光季は空を見上げた。
 さっきまで自分が立っていた木に、両肩を肌蹴た黒地に薄紅色の牡丹柄の着物姿の色香漂う女が立っている。
 角は生えていないが、爪が異常に長く鋭い。
 アシンメトリーな裾が夜風に靡いていた。

「いきなり現れたぜ、あの女」

「ああ。あの阿曽って女が二人目の犯人だろうな。姿を消す能力を持っているのかもしれないから気をつけろよ、陽平」
「おう。オレは温羅、オマエは女を担当な」
「一人で勝てんのか? けっこう強そうだぜ」
「とりあえずやってみるわ。一対一で勝ちてえけど、危なそうだったら臨機応変に援護してくれよな」

 強敵を前に愉しそうな笑みを浮かべ、陽平が温羅に飛びかかっていった。

 戦闘狂め。ピンチを愉しんでいる陽平に呆れつつも、自身も心のどこかで高揚していた。

 おれも大概バカだな。
 光季は苦笑を浮かべる。

 光季は光弾を放った。
 その瞬間、阿曽の姿が景色に溶けて消える。
 目標を失った光弾が、阿曽がさっきまでいた木を破壊する。

 やはり阿曽には透過能力があるようだ。
 しかも、姿を消すだけではなく、体温や気配すらも完全に断つことができるようだ。

「けっこう厄介な能力だな。やってくれるじゃねーか」

 俄然やる気がでてきた。必ず阿曽を捕えてやる。
 光季は唇の端を吊り上げると、自らの周囲に数百発の光弾を浮かばせた。

 当然だが、敵は集中して霊力を振り絞るのを待っていてくれない。
 戦闘中は一瞬で霊力を放出する必要があり、瞬間的に出力できる霊力の最大値は上限があるので、弾数を増やしたぶん威力は下がる。

 しかし、霊力が豊富な光季ならば霊力を数百の弾丸をわけたとしても、ノーガードで触れればそれなりのダメージを与えるだけの威力を保てる。

 見たところ阿曽は接近戦を得意としているようだ。
 弾幕を張っておけば容易く近付かれることはないだろう。
 光季は陽平の周りにも散弾を飛ばした。

「くっ。やるのね、坊や」

 姿を現した阿曽は、手の平から小さな鬼火を出して光弾にぶつけた。

 どうやら妖力を使って攻撃する時は透明になれないようだ。
 光弾を飛ばしておけば、阿曽は迂闊にこちらに近付けないというわけだ。

 もし仮に、接近戦をやめて鬼火で攻撃してきたら彼女の姿が見えるようになるので、それはそれで好都合だ。

 再び姿を消した阿曽を牽制する為に複雑な軌道の光弾を飛ばした。
 同時に陽平の援護も行う。

 阿曽は何とかなりそうだが、温羅の方はそう簡単には倒せそうにない。

 光季の援護を受けていながら、陽平は温羅相手に苦戦を強いられていた。
 決して陽平が実力不足というわけではない。
 単に温羅が強敵なのだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...