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第五章 音無の村
正体①
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里花子と同じ高校のジャージを着た少女の、無残な姿がそこにあった。
おそらく亜美だろう。
彼女は腹を裂かれ、体中の肉を食まれた状態で地べたに横たわっていた。
余程の恐怖と痛みを味わったのだろう。
まだ無傷の顔は凄絶な表情だ。
血塗れの臓器が月明かりでテラテラと生々しく光る。暫く肉を食べたくなくなるような光景だ。
光季は吐き気を堪えて、生々しく飛び出した腸を食んでいる不届き者に目を向けた。
ゆっくりと振り返ったその顔を見て、自分たちの直感は間違っていなかったと知った。
赤みがかった縮れ毛、赤く染まった白衣。
犯人はやはり白山だった。
仏のような顔はどこへいってしまったのか、口の周りを真っ赤に濡らし、獰猛な顔をしている
。黒かった瞳は金色に輝き、じろりと光季と陽平を見た。
口には凶悪な牙が覗き、額には短くて太い角が生えている。
「見られてしまったな」
糸目を見開いて悪辣に笑う白山に脱帽した。とんだ演技派の鬼もいたものだ。
「おまえがツアー客を攫ったんだな、白山。どうせ、仲間がいるんだろ?亜美ちゃんが消えた時、おまえは舞ちゃんといたもんな」
「さて、どうかな。しかし御苦労だな、夜鴉よ。山奥の隣村にまでわざわざ出張とは。ここは我のよい狩り場だったというのに。
霊道を創り出せる我とて、穏健派の奴らの目があるからそう容易くはこちらに来られないんだ。邪魔をしてくれるな」
地の底から響くような低く恐ろしい声。ビリビリと空気が震えるのがわかる。
肌を刺す妖気。白山が強いことが戦わずともわかった。
それでも光季は物怖じすることなく、余裕の笑みを浮かべたまま対峙する。
「この村の失踪事件の主犯はおまえだろ。何者だ?」
「人間なんぞに名乗る名はない、といいたいところだが、冥土の土産に我が名を授けよう。我は温羅。高貴なこの名を覚えて死ぬがいい」
白山の姿が完全に鬼に変化した。赤銅色の肌、さっきよりも二回以上大きな筋骨隆々の体はいかにも屈強そうだ。
破れた白衣の代わりに、温羅は裾がボロボロの黒い着物を片肌脱ぎで纏っていた。
手には二メートル程ある金砕棒を携えている。
「こりゃぜったいに甲種だな」
光季はスラックスのポケットから取り出した異空間装置を発動する。
半径三キロ圏内がスキャンされ、妖怪と霊力がある人間が創られた空間に送られる。
一見すれば普段と変わらないけど、いくら壊してもいい世界。
ここなら思う存分戦える。
光季は唇を舐めた。
「やる気満々といったところだな。我を前にして怖じ気つかぬとは、馬鹿か兵か。どちらにせよ、やることは一つだな」
温羅が金砕棒を悠々と振り回しながら光季と陽平に襲いかかる。
まともに受け太刀すればこちらの武器が粉砕されると判断し、陽平は攻撃を避けた。
光季もひらりと木に飛び上がって攻撃を躱す。
温羅の動きはそれほど機敏ではない。
光季は温羅の後ろ側に回って、木の上から光弾を飛ばす。
「小癪な。やれ、阿曽」
さっきまでなんの気配もなかった背後に俄かに殺気を感じた。
光季は慌てて木から飛びおりる。
だが遅かった。背中に鋭い痛みが走って血が散る。
「光季っ!」
「いつのまに後ろをとったんだよ?くそ、やられた」
陽平の隣に立つと、光季は空を見上げた。
さっきまで自分が立っていた木に、両肩を肌蹴た黒地に薄紅色の牡丹柄の着物姿の色香漂う女が立っている。
角は生えていないが、爪が異常に長く鋭い。
アシンメトリーな裾が夜風に靡いていた。
「いきなり現れたぜ、あの女」
「ああ。あの阿曽って女が二人目の犯人だろうな。姿を消す能力を持っているのかもしれないから気をつけろよ、陽平」
「おう。オレは温羅、オマエは女を担当な」
「一人で勝てんのか? けっこう強そうだぜ」
「とりあえずやってみるわ。一対一で勝ちてえけど、危なそうだったら臨機応変に援護してくれよな」
強敵を前に愉しそうな笑みを浮かべ、陽平が温羅に飛びかかっていった。
戦闘狂め。ピンチを愉しんでいる陽平に呆れつつも、自身も心のどこかで高揚していた。
おれも大概バカだな。
光季は苦笑を浮かべる。
光季は光弾を放った。
その瞬間、阿曽の姿が景色に溶けて消える。
目標を失った光弾が、阿曽がさっきまでいた木を破壊する。
やはり阿曽には透過能力があるようだ。
しかも、姿を消すだけではなく、体温や気配すらも完全に断つことができるようだ。
「けっこう厄介な能力だな。やってくれるじゃねーか」
俄然やる気がでてきた。必ず阿曽を捕えてやる。
光季は唇の端を吊り上げると、自らの周囲に数百発の光弾を浮かばせた。
当然だが、敵は集中して霊力を振り絞るのを待っていてくれない。
戦闘中は一瞬で霊力を放出する必要があり、瞬間的に出力できる霊力の最大値は上限があるので、弾数を増やしたぶん威力は下がる。
しかし、霊力が豊富な光季ならば霊力を数百の弾丸をわけたとしても、ノーガードで触れればそれなりのダメージを与えるだけの威力を保てる。
見たところ阿曽は接近戦を得意としているようだ。
弾幕を張っておけば容易く近付かれることはないだろう。
光季は陽平の周りにも散弾を飛ばした。
「くっ。やるのね、坊や」
姿を現した阿曽は、手の平から小さな鬼火を出して光弾にぶつけた。
どうやら妖力を使って攻撃する時は透明になれないようだ。
光弾を飛ばしておけば、阿曽は迂闊にこちらに近付けないというわけだ。
もし仮に、接近戦をやめて鬼火で攻撃してきたら彼女の姿が見えるようになるので、それはそれで好都合だ。
再び姿を消した阿曽を牽制する為に複雑な軌道の光弾を飛ばした。
同時に陽平の援護も行う。
阿曽は何とかなりそうだが、温羅の方はそう簡単には倒せそうにない。
光季の援護を受けていながら、陽平は温羅相手に苦戦を強いられていた。
決して陽平が実力不足というわけではない。
単に温羅が強敵なのだ。
おそらく亜美だろう。
彼女は腹を裂かれ、体中の肉を食まれた状態で地べたに横たわっていた。
余程の恐怖と痛みを味わったのだろう。
まだ無傷の顔は凄絶な表情だ。
血塗れの臓器が月明かりでテラテラと生々しく光る。暫く肉を食べたくなくなるような光景だ。
光季は吐き気を堪えて、生々しく飛び出した腸を食んでいる不届き者に目を向けた。
ゆっくりと振り返ったその顔を見て、自分たちの直感は間違っていなかったと知った。
赤みがかった縮れ毛、赤く染まった白衣。
犯人はやはり白山だった。
仏のような顔はどこへいってしまったのか、口の周りを真っ赤に濡らし、獰猛な顔をしている
。黒かった瞳は金色に輝き、じろりと光季と陽平を見た。
口には凶悪な牙が覗き、額には短くて太い角が生えている。
「見られてしまったな」
糸目を見開いて悪辣に笑う白山に脱帽した。とんだ演技派の鬼もいたものだ。
「おまえがツアー客を攫ったんだな、白山。どうせ、仲間がいるんだろ?亜美ちゃんが消えた時、おまえは舞ちゃんといたもんな」
「さて、どうかな。しかし御苦労だな、夜鴉よ。山奥の隣村にまでわざわざ出張とは。ここは我のよい狩り場だったというのに。
霊道を創り出せる我とて、穏健派の奴らの目があるからそう容易くはこちらに来られないんだ。邪魔をしてくれるな」
地の底から響くような低く恐ろしい声。ビリビリと空気が震えるのがわかる。
肌を刺す妖気。白山が強いことが戦わずともわかった。
それでも光季は物怖じすることなく、余裕の笑みを浮かべたまま対峙する。
「この村の失踪事件の主犯はおまえだろ。何者だ?」
「人間なんぞに名乗る名はない、といいたいところだが、冥土の土産に我が名を授けよう。我は温羅。高貴なこの名を覚えて死ぬがいい」
白山の姿が完全に鬼に変化した。赤銅色の肌、さっきよりも二回以上大きな筋骨隆々の体はいかにも屈強そうだ。
破れた白衣の代わりに、温羅は裾がボロボロの黒い着物を片肌脱ぎで纏っていた。
手には二メートル程ある金砕棒を携えている。
「こりゃぜったいに甲種だな」
光季はスラックスのポケットから取り出した異空間装置を発動する。
半径三キロ圏内がスキャンされ、妖怪と霊力がある人間が創られた空間に送られる。
一見すれば普段と変わらないけど、いくら壊してもいい世界。
ここなら思う存分戦える。
光季は唇を舐めた。
「やる気満々といったところだな。我を前にして怖じ気つかぬとは、馬鹿か兵か。どちらにせよ、やることは一つだな」
温羅が金砕棒を悠々と振り回しながら光季と陽平に襲いかかる。
まともに受け太刀すればこちらの武器が粉砕されると判断し、陽平は攻撃を避けた。
光季もひらりと木に飛び上がって攻撃を躱す。
温羅の動きはそれほど機敏ではない。
光季は温羅の後ろ側に回って、木の上から光弾を飛ばす。
「小癪な。やれ、阿曽」
さっきまでなんの気配もなかった背後に俄かに殺気を感じた。
光季は慌てて木から飛びおりる。
だが遅かった。背中に鋭い痛みが走って血が散る。
「光季っ!」
「いつのまに後ろをとったんだよ?くそ、やられた」
陽平の隣に立つと、光季は空を見上げた。
さっきまで自分が立っていた木に、両肩を肌蹴た黒地に薄紅色の牡丹柄の着物姿の色香漂う女が立っている。
角は生えていないが、爪が異常に長く鋭い。
アシンメトリーな裾が夜風に靡いていた。
「いきなり現れたぜ、あの女」
「ああ。あの阿曽って女が二人目の犯人だろうな。姿を消す能力を持っているのかもしれないから気をつけろよ、陽平」
「おう。オレは温羅、オマエは女を担当な」
「一人で勝てんのか? けっこう強そうだぜ」
「とりあえずやってみるわ。一対一で勝ちてえけど、危なそうだったら臨機応変に援護してくれよな」
強敵を前に愉しそうな笑みを浮かべ、陽平が温羅に飛びかかっていった。
戦闘狂め。ピンチを愉しんでいる陽平に呆れつつも、自身も心のどこかで高揚していた。
おれも大概バカだな。
光季は苦笑を浮かべる。
光季は光弾を放った。
その瞬間、阿曽の姿が景色に溶けて消える。
目標を失った光弾が、阿曽がさっきまでいた木を破壊する。
やはり阿曽には透過能力があるようだ。
しかも、姿を消すだけではなく、体温や気配すらも完全に断つことができるようだ。
「けっこう厄介な能力だな。やってくれるじゃねーか」
俄然やる気がでてきた。必ず阿曽を捕えてやる。
光季は唇の端を吊り上げると、自らの周囲に数百発の光弾を浮かばせた。
当然だが、敵は集中して霊力を振り絞るのを待っていてくれない。
戦闘中は一瞬で霊力を放出する必要があり、瞬間的に出力できる霊力の最大値は上限があるので、弾数を増やしたぶん威力は下がる。
しかし、霊力が豊富な光季ならば霊力を数百の弾丸をわけたとしても、ノーガードで触れればそれなりのダメージを与えるだけの威力を保てる。
見たところ阿曽は接近戦を得意としているようだ。
弾幕を張っておけば容易く近付かれることはないだろう。
光季は陽平の周りにも散弾を飛ばした。
「くっ。やるのね、坊や」
姿を現した阿曽は、手の平から小さな鬼火を出して光弾にぶつけた。
どうやら妖力を使って攻撃する時は透明になれないようだ。
光弾を飛ばしておけば、阿曽は迂闊にこちらに近付けないというわけだ。
もし仮に、接近戦をやめて鬼火で攻撃してきたら彼女の姿が見えるようになるので、それはそれで好都合だ。
再び姿を消した阿曽を牽制する為に複雑な軌道の光弾を飛ばした。
同時に陽平の援護も行う。
阿曽は何とかなりそうだが、温羅の方はそう簡単には倒せそうにない。
光季の援護を受けていながら、陽平は温羅相手に苦戦を強いられていた。
決して陽平が実力不足というわけではない。
単に温羅が強敵なのだ。
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