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第六章 鬼の國
渡界②
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二時間後、部屋に集合を告げる狭霧の声が響いた。
眠っていた隊員たちが次々と目を覚ます。
やっと出動か。
光季は凝り固まった体をほぐすよう伸びをすると、霊体に換装してベッドを飛び降りた。
作戦室に隊員が集まった。
戦闘用の軍服姿に換装した狭霧がホワイトボードの前に立ち、隊員の顔を見回す。
今回渡界に参加しているのは渡界にしょっちゅう参加している隊ばかりで、如月隊、朝比奈隊、響隊の三部隊だ。
「おはよう、諸君。あと一時間もすれば鬼が多く住むといわれる羅生地方に着く。
今回の我々の任務は、温羅に攫われた人達を探して助けることだ。
彼らが囚われていると考えられる三カ所の集落に部隊別で調査に当たってもらう。
如月隊はもっとも大きな南西の集落、朝比奈隊は南東の集落、響隊は北の集落を探せ。
極力戦闘にならないことが望ましいが、回避不可の場合は君達の判断で戦闘することを許可する。皆、自分の命を最優先とし、無事に戻ってくるように」
打ち合わせは渡界前からすでに何回も綿密に行っている。
直前の作戦会議はおおよそ判明している地図や任務の簡単な確認くらいの簡単なものだった。
残った時間で各々瞑想やストレッチをしているうちに、船が着陸した。
「行くぞ、水瀬。戦闘開始だ」
嬉々として虎徹が船を出た。やっぱり強い人だな。光季は広い背中を見詰めた。
虎徹は仲間の危機を救ってくれるタイプではなく、むしろ状況によっては容赦なく切り捨てられる人間で頼りにならない。
だが、雄然とした立ち姿は頼もしく、精神的な支柱としての役割を果たしている。
彼と共にあれば、光季はどんな戦場でも恐怖なく飛びこめる。
「京弥、危なくなったらおれに任せて撤退しろよ」
光季は京弥に声をかけた。
京弥は常に精神的に安定しており、戦闘力も高い。
彼を信頼してはいるが、可愛い後輩なのでつい先輩風を吹かせてしまう。
京弥がそのことを鬱陶しいと感じているなら態度を改める必要があるけれど、今のところそれはなさそうだ。
「ありがとうございます、水瀬先輩。頼りにしています」
「おー、任せとけ。さあ、行こうぜ」
光季は自分より逞しい京弥の背を軽く叩くと、先に見知らぬ地にひらりと降り立った。
じゃりじゃりした感触が足の裏に伝わる。
舗装されていない砂利道の脇には芒が茫々と生え、木草が生い茂っている。
辺りはしんとして、何の気配も感じない。
肩からライフルを下げて右手にハンドガンを持った武志が辺りを警戒しながら進む。
かなり慎重な足取りだ。
「鬼の気配や妖気を感じたら、すぐに茂みに隠れて戦闘を回避するぞ」
武志が念を押すように言った。武志の言葉や態度を、虎徹が鼻で笑う。
「武志、オマエ慎重すぎるぜ。敵に見つかったら切り殺せばいいだろう?」
「戦闘にならないのならばその方がいいだろう。弟や光季を危険な目に遭わせたくない」
「ハハハ、戦闘になって一番危ないのはオマエだぞ、武志。最低限、自分の身は守れよ」
辛辣な言葉にむっとした顔をしたが、武志が言い返すことはなかった。
たぶん、反論の余地がなかったのだ。
武志が如月隊で最弱なのは間違いない。はっきりと金額を聞いたわけではないが、京弥が自分より兄の給料の方が安いと言っていたことも、それを証明している。
だからといって、歯に衣着せぬ言い方をする虎徹はどうかと思う。
戦闘中の注意を促すためとはいえ、少しオブラートに包んだ物言いはできないのだろうか。
友人だからといって、容赦がなさすぎる。
普段から険悪な響と虎徹と違って武志と虎徹は仲がいいけれど、戦闘の方針が違うため任務中よく仲違いをする。
二人とも大人だから仕事に支障をきたすようなことはしないが、雰囲気が悪くて困る。
やれやれ、ここはおれの出番かな。光季は小さく溜息を漏らした。
呆れ顔を笑顔に切り替えて、光季は憤然としている武志の隣に並んだ。
「何かあった時、虎徹さんは頼りにならないからフォローお願いしますね、武志さん」
「……おう、任せておいてくれ!」
いかにもお兄さんといった顔で、武志が笑う。
よしよし、モチベーションが元に戻ったようだ。
光季がホッとしたのも束の間、虎徹がちゃちゃを入れてくる。
「光季、オマエ気を使わなくていいぞ。オマエになんかあるような事態なら、武志はとっくに撤退してるぜ。もしくは死んでるかだな」
この人はまた余計なことを。
その通りだが、そういうことは口に出すべきではない。
武志にだって年上のプライドがあるのだ。もう少し言葉を選べないのだろうか。
虎徹はかなり幼い頃から叔父の狭霧に剣を習っていたそうだが、礼儀や思いやりは習わなかったようだ。いや、そういえば狭霧も容赦ない物言いをすることがけっこうある。
任務中に響が町を派手に壊してしまった時や、貴船が非人道的な作戦を立案した時にかなり厳しい批判の言葉を口にしていた。
それに、市民が隊員をつかまえて身勝手な不満をダラダラとぶつけていた時に出てきて、市民を一喝していたこともあった。
虎徹の厳しい物言いは狭霧に似たのかもしれない。なんだか、頭痛がしてきそうだ。
さりげなく二人の中をとりなしながら、光季は見知らぬ土地を進んだ。
やっと雰囲気がよくなってきた頃、延々と続いていた登り坂の頂点に立った。
眠っていた隊員たちが次々と目を覚ます。
やっと出動か。
光季は凝り固まった体をほぐすよう伸びをすると、霊体に換装してベッドを飛び降りた。
作戦室に隊員が集まった。
戦闘用の軍服姿に換装した狭霧がホワイトボードの前に立ち、隊員の顔を見回す。
今回渡界に参加しているのは渡界にしょっちゅう参加している隊ばかりで、如月隊、朝比奈隊、響隊の三部隊だ。
「おはよう、諸君。あと一時間もすれば鬼が多く住むといわれる羅生地方に着く。
今回の我々の任務は、温羅に攫われた人達を探して助けることだ。
彼らが囚われていると考えられる三カ所の集落に部隊別で調査に当たってもらう。
如月隊はもっとも大きな南西の集落、朝比奈隊は南東の集落、響隊は北の集落を探せ。
極力戦闘にならないことが望ましいが、回避不可の場合は君達の判断で戦闘することを許可する。皆、自分の命を最優先とし、無事に戻ってくるように」
打ち合わせは渡界前からすでに何回も綿密に行っている。
直前の作戦会議はおおよそ判明している地図や任務の簡単な確認くらいの簡単なものだった。
残った時間で各々瞑想やストレッチをしているうちに、船が着陸した。
「行くぞ、水瀬。戦闘開始だ」
嬉々として虎徹が船を出た。やっぱり強い人だな。光季は広い背中を見詰めた。
虎徹は仲間の危機を救ってくれるタイプではなく、むしろ状況によっては容赦なく切り捨てられる人間で頼りにならない。
だが、雄然とした立ち姿は頼もしく、精神的な支柱としての役割を果たしている。
彼と共にあれば、光季はどんな戦場でも恐怖なく飛びこめる。
「京弥、危なくなったらおれに任せて撤退しろよ」
光季は京弥に声をかけた。
京弥は常に精神的に安定しており、戦闘力も高い。
彼を信頼してはいるが、可愛い後輩なのでつい先輩風を吹かせてしまう。
京弥がそのことを鬱陶しいと感じているなら態度を改める必要があるけれど、今のところそれはなさそうだ。
「ありがとうございます、水瀬先輩。頼りにしています」
「おー、任せとけ。さあ、行こうぜ」
光季は自分より逞しい京弥の背を軽く叩くと、先に見知らぬ地にひらりと降り立った。
じゃりじゃりした感触が足の裏に伝わる。
舗装されていない砂利道の脇には芒が茫々と生え、木草が生い茂っている。
辺りはしんとして、何の気配も感じない。
肩からライフルを下げて右手にハンドガンを持った武志が辺りを警戒しながら進む。
かなり慎重な足取りだ。
「鬼の気配や妖気を感じたら、すぐに茂みに隠れて戦闘を回避するぞ」
武志が念を押すように言った。武志の言葉や態度を、虎徹が鼻で笑う。
「武志、オマエ慎重すぎるぜ。敵に見つかったら切り殺せばいいだろう?」
「戦闘にならないのならばその方がいいだろう。弟や光季を危険な目に遭わせたくない」
「ハハハ、戦闘になって一番危ないのはオマエだぞ、武志。最低限、自分の身は守れよ」
辛辣な言葉にむっとした顔をしたが、武志が言い返すことはなかった。
たぶん、反論の余地がなかったのだ。
武志が如月隊で最弱なのは間違いない。はっきりと金額を聞いたわけではないが、京弥が自分より兄の給料の方が安いと言っていたことも、それを証明している。
だからといって、歯に衣着せぬ言い方をする虎徹はどうかと思う。
戦闘中の注意を促すためとはいえ、少しオブラートに包んだ物言いはできないのだろうか。
友人だからといって、容赦がなさすぎる。
普段から険悪な響と虎徹と違って武志と虎徹は仲がいいけれど、戦闘の方針が違うため任務中よく仲違いをする。
二人とも大人だから仕事に支障をきたすようなことはしないが、雰囲気が悪くて困る。
やれやれ、ここはおれの出番かな。光季は小さく溜息を漏らした。
呆れ顔を笑顔に切り替えて、光季は憤然としている武志の隣に並んだ。
「何かあった時、虎徹さんは頼りにならないからフォローお願いしますね、武志さん」
「……おう、任せておいてくれ!」
いかにもお兄さんといった顔で、武志が笑う。
よしよし、モチベーションが元に戻ったようだ。
光季がホッとしたのも束の間、虎徹がちゃちゃを入れてくる。
「光季、オマエ気を使わなくていいぞ。オマエになんかあるような事態なら、武志はとっくに撤退してるぜ。もしくは死んでるかだな」
この人はまた余計なことを。
その通りだが、そういうことは口に出すべきではない。
武志にだって年上のプライドがあるのだ。もう少し言葉を選べないのだろうか。
虎徹はかなり幼い頃から叔父の狭霧に剣を習っていたそうだが、礼儀や思いやりは習わなかったようだ。いや、そういえば狭霧も容赦ない物言いをすることがけっこうある。
任務中に響が町を派手に壊してしまった時や、貴船が非人道的な作戦を立案した時にかなり厳しい批判の言葉を口にしていた。
それに、市民が隊員をつかまえて身勝手な不満をダラダラとぶつけていた時に出てきて、市民を一喝していたこともあった。
虎徹の厳しい物言いは狭霧に似たのかもしれない。なんだか、頭痛がしてきそうだ。
さりげなく二人の中をとりなしながら、光季は見知らぬ土地を進んだ。
やっと雰囲気がよくなってきた頃、延々と続いていた登り坂の頂点に立った。
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