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第六章 鬼の國
渡界①
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十二月十二日午後十二時半。
スマホに表示された時刻を光季は退屈そうに眺めた。
普段の時間の概念が届かない場所では、日付も時刻もただの数字でしかない。正確な時刻かどうか解らないが、渡界のために基地を出たのが二日前の朝だから、だいたい正しいはずだ。
日本にいないのに自分のスマホが日本の時間を示しているのが不思議で、どういう原理か尋ねたことがある。
船での渡界が少しでも快適になるように発明や改善に努めてくれている開発部の人が専門用語を羅列して説明してくれたが、言葉足らずで機械の素人にはとても理解できる内容じゃなかった。
技術畑の人は、どうにも説明下手な人が多い。
堅いベッドに身を横たえて、天井を仰いだ。無機質さにうんざりとする。
「今頃あっちは昼休みか。陽平、何してんだろうな」
呟いた言葉が低い天井に跳ね返されて、声が響いた。
ベッドから身を乗り出して光季は他の隊員の様子を確認した。誰かが起きあがる気配はない。安眠妨害にならなくてよかった。ほっと胸を撫で下ろす。
「陽平、光季が渡界でいない時はすごく退屈そうなの。それにいつも心配そうだよ」
基地を出発する前の日、沙奈がこっそり耳打ちしてきた言葉をふと思い出した。
陽平が所属する神前隊は渡界に行く資格を持つ、七部隊しかいない式神部隊の一つではあるが、式神の中でも評価が低いため、渡界に参加したことがない。
陽平は渡界に参加すると告げるといつも、どんなことをするのかとか、異界には強い妖怪がいるのかと好奇心旺盛に尋ねてくる。
帰ってきた時も似たような質問をされるだけで、おまえがいなくて退屈だったと文句を吐いたり、心配そうな素振りを見せたりしたことは一度だってない。
だから、光季は沙奈が言ったことを意外だと思った。
「私も光季がいないと寂しい。早く帰ってきてね、怪我しちゃダメだよ」
不安げに揺れる沙奈の薄氷色の瞳に、渡界の危険さを思い知った。
今回も無事に帰れるだろうか。
渡界する前に義務づけられている同意書への署名と、遺書の作成。
異界は危険な場所だ。
始めての渡界の時は少しナイーブにもなった。
しかし、今となってはなんとも思わない。
生きて帰ることを確信しているわけではない。
ちゃんと帰れたらいいなとは思うけど、死んだらその時はその時だと割り切れてしまっているからだ。
もともと諦めの良い性格だ。
死への恐怖はたぶん、普通の人よりも随分と薄い。
まったくないといっても過言ではない。
ただ一つ心配なことがある。
死んでしまったら、遺書の内容がみんなに晒されてしまうことだ。
初めて遺書の作成を求められた時、光季は書くことを何一つ思い付かず、提出期限に迫られてしょうがなく名前だけ書いて提出し、狭霧に呼び出しをくらった。
部屋には虎徹もいて、二人仲良く狭霧に説教された。
長い説教に懲りたので、それ以降は一言ぐらい書いて提出するようになったが、虎徹は毎度飽きもせずに白紙で遺書を提出しているらしい。
遺書の提出に行った時、虎徹の遺書を手に嘆いている狭霧を何度も見かけた。
「遺書なんてどうでもいいよな。死んだ後のことなんざ、考える必要ないだろ。
だって、自分はもういないんだぜ。誰かに残す言葉もないしな。死んじまった人間が何か言ったところで、生きている奴らがどうなるっていうんだ?」
冷めた台詞を吐いた虎徹に最初はひいたが、今は光季もそう思う。
残された人のためにちゃんと書く必要があるのだと狭霧は言ったが、それもどうなのかと思う。
死んだら両親も陽平も響も悲しんではくれるだろう。でもそれだけだ。
自分一人が死んだところで、水瀬光季が地球上からいなくなったという事実以外はなにも変わりはしない。残された人間には滔々と日常が続く。
結局いつも遺書の内容は浮かんでこない。
形式的に「ありがとう、さようなら」なんて卒業式の曲にありそうな歌詞の言葉だけ綴って提出している。
長官の狭霧に苦虫を噛み潰したような顔をさせる、あまりにも短く貧相な遺書を読まれるのは流石に恥かしい。
いや、それこそ死んでいるのだから恥かしいなんて関係ないか。
光季はスマホをズボンのポケットに入れた。
通路と呼べないほど狭い隙間を挟んで、三段ベッドが一つずつ並んでいるだけの部屋は閉塞感があって息苦しい。
ベッドの一番上に寝ている光季はすぐ近くにある狭い天井を睨んだ。
布団と足元に置かれた自分の荷物以外なにもない狭い空間にいると、人間用のロッカーに入れられているみたいで気が滅入ってくる。光季は音を立てないようにそっと梯子を降りた。
相変わらず嫌になるくらい静かな部屋には、耳を澄ませると色々なサイクルの寝息が音楽のように響いていた。光季は一番下のベッドにいる京弥の整った寝顔を覗き込んだ。
中学三年生とは思えない大人びた顔で静かに眠っている。
退屈なので話し相手になって欲しかったけれど、起こすのをやめ、足音を忍ばせて部屋を抜け出した。
異界へ渡界するための船は飛行艇に近い外観で、大きな鯨のように見える。
船内は普通の客船と似ている。
ずいぶん昔、姉の美咲が生きている頃に家族で神戸港クルージングをした時に乗った豪華な客船と比べると、この船はかなり簡素だ。
六人用の寝台の客室が四室、司令官室、シャワールーム、操舵室と管制室、ロビーを兼ねた作戦室、訓練室があるだけの小さな船だ。
短くても丸一日、長くて一週間ほどある異界への片道、光季はしょっちゅう退屈な思いをする。
戦闘シミュレーターはあるが、基地の闘技場のような仮想世界で実際に戦闘できるシステムは船には搭載されていない。
戦闘狂の虎徹と対戦して時間を潰すこともできないのだ。退屈するのも無理はない。
廊下の窓から外を眺める。
分厚い硝子の外は色濃い暗闇がひたすら広がっていた。
まるで宇宙に放りだされたみたいだな。
毎回変わらない感想を口の中で呟く。
異界への入り口は、社長である貴船の実家である貴船神社にある。
貴船神社といっても京都にあるのとはまったく関係がなく、漢字は一緒だが読み方が違う。
京都の方はきふねと読むが、こちらはきぶねと読む。
六堂市の貴船神社には、公になっていないが地下宮がある。
石段を降りた地下宮に夜鴉の飛行艇が置いてあり、地下宮の最奥にある重厚な木の扉を開けると、地下水路がある。
その水路はただの水路ではない。人間界とは違う世界、異界に繋がっているのだ。
蛍のような光が飛び交う、霧に包まれた紺色の広い海を進むと、やがて霧が晴れて窓の外が暗闇に包まれる。
長い暗闇を抜けると、異界のそれぞれの地方に次元が繋がっていて漸く、景色らしい景色が現れるというわけだ。
大抵、その頃には最終ミーティングを開始するので、飛行艇から景色を眺める時間は殆どない。
「なんだ、眠れなかったのか?俺と一緒だな」
「虎徹さん」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた虎徹が光季の隣に並ぶ。
窓の向こうを眺める虎徹の灰色の瞳は、殺風景な景色を映しているというのに、ぎらぎらと輝いて愉しそうだ。
きっと強敵との戦いに思いを馳せているのだろう。
「どんな強い奴がいるか、楽しみだな。前回は雑魚ばかりで退屈だったからな。今回はおもいきり戦いたいぜ。オマエもそう思うだろ?水瀬」
「やめてくださいよ。おれ、あんたみたいに戦闘狂じゃないんで」
「嘘つけ。戦っている時のオマエ、いつも愉しそうだぞ。俺と同じ顔をしてる」
「虎徹さんといっしょ? マジですか、ハハハ、そりゃやべー」
乾いた笑い声がやけに大きく響いてしまい、光季は慌てて口元を押さえる。
日本では昼間でも、この船では現在は就寝時間だ。
虎徹の言う通り、自分は戦いを愉しんでいる。
弾丸を自由自在に飛ばして敵をふっとばすのは爽快だし、殺す相手が人間界に攻めてきているという罪状がある妖怪だから罪悪感はない。
ゴキブリを潰すのに罪悪感を持つ人がいないのと同じだ。
ゴキブリと違って妖怪には感情があるかもしれないが、そんなことは関係ない。
直接的で大きな害をなす以上、ゴキブリよりもっと殺すのに躊躇いがない人が多いだろう。
双子の弟を殺された響隊の文也のように、憎しみを持ち、積極的に殺したがる人だっているぐらいだ。光季は妖怪に対して復讐心も憎悪もないが、殺すことに疑問を抱いたことは一度もない。
ただ、兵器となり嬉々として破壊活動に勤しむ自分の姿を想像するのは愉快ではない。
悪鬼のような自身にぞっとすることもある。
ほんのたまにではあるが、妖怪を殺すことにではなく、殺している自分自身にうんざりしてしまうのだ。
戦いの中でしか生きられない虎徹と同じ顔になっているというならば、相当やばい域まで達している。
カツカツと高らかな足音が聞こえてきた。
光季と虎徹は窓から視線を外し、音がするほうに顔を向ける。
呆れた顔の響がこちらに向かってきていた。
「如月。興奮して眠れないからといって、光季を夜更かしにつき合わせるな」
「おいおい響、俺を責めるなよ。起こしたんじゃない、水瀬が一人で窓の外を見ていたから、話し掛けただけだぜ」
響は不敵に笑って反論した虎徹を冷たく一瞥すると、真面目な顔を光季に向けた。
「光季。異界に降りたら常時霊体で肉体の疲労や睡眠不足は関係ないとはいえ、休める時には休め。肉体も万全の状態で臨むべきだ。何故、こんな場所でふらふらしている?」
「うーん、なんか目が覚めちゃって」
「眠れないのか? 不安なことがあるなら話してみろ」
響は眉間に薄く皺を寄せて、青い目でじっと観察するように光季を見た。
「不安なんてないですよ、響さん。たまたま起きちゃっただけ」
光季は人懐っこい笑顔を浮かべた。響が小さく安堵の息を吐く。
「ならいいが。あと二時間もすれば召集時間だ。眠れる時に眠っておけ」
「はぁい」
響は口答えを嫌う。
眠くなかったが、光季は素直に響に部屋まで送ってもらった。
背後で虎徹が嘲笑を零し、肩を竦めるのを感じた。
部屋に戻って布団に潜り込んだが寝付けずに、退屈な時間が過ぎるのをぼんやり待った。
スマホに表示された時刻を光季は退屈そうに眺めた。
普段の時間の概念が届かない場所では、日付も時刻もただの数字でしかない。正確な時刻かどうか解らないが、渡界のために基地を出たのが二日前の朝だから、だいたい正しいはずだ。
日本にいないのに自分のスマホが日本の時間を示しているのが不思議で、どういう原理か尋ねたことがある。
船での渡界が少しでも快適になるように発明や改善に努めてくれている開発部の人が専門用語を羅列して説明してくれたが、言葉足らずで機械の素人にはとても理解できる内容じゃなかった。
技術畑の人は、どうにも説明下手な人が多い。
堅いベッドに身を横たえて、天井を仰いだ。無機質さにうんざりとする。
「今頃あっちは昼休みか。陽平、何してんだろうな」
呟いた言葉が低い天井に跳ね返されて、声が響いた。
ベッドから身を乗り出して光季は他の隊員の様子を確認した。誰かが起きあがる気配はない。安眠妨害にならなくてよかった。ほっと胸を撫で下ろす。
「陽平、光季が渡界でいない時はすごく退屈そうなの。それにいつも心配そうだよ」
基地を出発する前の日、沙奈がこっそり耳打ちしてきた言葉をふと思い出した。
陽平が所属する神前隊は渡界に行く資格を持つ、七部隊しかいない式神部隊の一つではあるが、式神の中でも評価が低いため、渡界に参加したことがない。
陽平は渡界に参加すると告げるといつも、どんなことをするのかとか、異界には強い妖怪がいるのかと好奇心旺盛に尋ねてくる。
帰ってきた時も似たような質問をされるだけで、おまえがいなくて退屈だったと文句を吐いたり、心配そうな素振りを見せたりしたことは一度だってない。
だから、光季は沙奈が言ったことを意外だと思った。
「私も光季がいないと寂しい。早く帰ってきてね、怪我しちゃダメだよ」
不安げに揺れる沙奈の薄氷色の瞳に、渡界の危険さを思い知った。
今回も無事に帰れるだろうか。
渡界する前に義務づけられている同意書への署名と、遺書の作成。
異界は危険な場所だ。
始めての渡界の時は少しナイーブにもなった。
しかし、今となってはなんとも思わない。
生きて帰ることを確信しているわけではない。
ちゃんと帰れたらいいなとは思うけど、死んだらその時はその時だと割り切れてしまっているからだ。
もともと諦めの良い性格だ。
死への恐怖はたぶん、普通の人よりも随分と薄い。
まったくないといっても過言ではない。
ただ一つ心配なことがある。
死んでしまったら、遺書の内容がみんなに晒されてしまうことだ。
初めて遺書の作成を求められた時、光季は書くことを何一つ思い付かず、提出期限に迫られてしょうがなく名前だけ書いて提出し、狭霧に呼び出しをくらった。
部屋には虎徹もいて、二人仲良く狭霧に説教された。
長い説教に懲りたので、それ以降は一言ぐらい書いて提出するようになったが、虎徹は毎度飽きもせずに白紙で遺書を提出しているらしい。
遺書の提出に行った時、虎徹の遺書を手に嘆いている狭霧を何度も見かけた。
「遺書なんてどうでもいいよな。死んだ後のことなんざ、考える必要ないだろ。
だって、自分はもういないんだぜ。誰かに残す言葉もないしな。死んじまった人間が何か言ったところで、生きている奴らがどうなるっていうんだ?」
冷めた台詞を吐いた虎徹に最初はひいたが、今は光季もそう思う。
残された人のためにちゃんと書く必要があるのだと狭霧は言ったが、それもどうなのかと思う。
死んだら両親も陽平も響も悲しんではくれるだろう。でもそれだけだ。
自分一人が死んだところで、水瀬光季が地球上からいなくなったという事実以外はなにも変わりはしない。残された人間には滔々と日常が続く。
結局いつも遺書の内容は浮かんでこない。
形式的に「ありがとう、さようなら」なんて卒業式の曲にありそうな歌詞の言葉だけ綴って提出している。
長官の狭霧に苦虫を噛み潰したような顔をさせる、あまりにも短く貧相な遺書を読まれるのは流石に恥かしい。
いや、それこそ死んでいるのだから恥かしいなんて関係ないか。
光季はスマホをズボンのポケットに入れた。
通路と呼べないほど狭い隙間を挟んで、三段ベッドが一つずつ並んでいるだけの部屋は閉塞感があって息苦しい。
ベッドの一番上に寝ている光季はすぐ近くにある狭い天井を睨んだ。
布団と足元に置かれた自分の荷物以外なにもない狭い空間にいると、人間用のロッカーに入れられているみたいで気が滅入ってくる。光季は音を立てないようにそっと梯子を降りた。
相変わらず嫌になるくらい静かな部屋には、耳を澄ませると色々なサイクルの寝息が音楽のように響いていた。光季は一番下のベッドにいる京弥の整った寝顔を覗き込んだ。
中学三年生とは思えない大人びた顔で静かに眠っている。
退屈なので話し相手になって欲しかったけれど、起こすのをやめ、足音を忍ばせて部屋を抜け出した。
異界へ渡界するための船は飛行艇に近い外観で、大きな鯨のように見える。
船内は普通の客船と似ている。
ずいぶん昔、姉の美咲が生きている頃に家族で神戸港クルージングをした時に乗った豪華な客船と比べると、この船はかなり簡素だ。
六人用の寝台の客室が四室、司令官室、シャワールーム、操舵室と管制室、ロビーを兼ねた作戦室、訓練室があるだけの小さな船だ。
短くても丸一日、長くて一週間ほどある異界への片道、光季はしょっちゅう退屈な思いをする。
戦闘シミュレーターはあるが、基地の闘技場のような仮想世界で実際に戦闘できるシステムは船には搭載されていない。
戦闘狂の虎徹と対戦して時間を潰すこともできないのだ。退屈するのも無理はない。
廊下の窓から外を眺める。
分厚い硝子の外は色濃い暗闇がひたすら広がっていた。
まるで宇宙に放りだされたみたいだな。
毎回変わらない感想を口の中で呟く。
異界への入り口は、社長である貴船の実家である貴船神社にある。
貴船神社といっても京都にあるのとはまったく関係がなく、漢字は一緒だが読み方が違う。
京都の方はきふねと読むが、こちらはきぶねと読む。
六堂市の貴船神社には、公になっていないが地下宮がある。
石段を降りた地下宮に夜鴉の飛行艇が置いてあり、地下宮の最奥にある重厚な木の扉を開けると、地下水路がある。
その水路はただの水路ではない。人間界とは違う世界、異界に繋がっているのだ。
蛍のような光が飛び交う、霧に包まれた紺色の広い海を進むと、やがて霧が晴れて窓の外が暗闇に包まれる。
長い暗闇を抜けると、異界のそれぞれの地方に次元が繋がっていて漸く、景色らしい景色が現れるというわけだ。
大抵、その頃には最終ミーティングを開始するので、飛行艇から景色を眺める時間は殆どない。
「なんだ、眠れなかったのか?俺と一緒だな」
「虎徹さん」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた虎徹が光季の隣に並ぶ。
窓の向こうを眺める虎徹の灰色の瞳は、殺風景な景色を映しているというのに、ぎらぎらと輝いて愉しそうだ。
きっと強敵との戦いに思いを馳せているのだろう。
「どんな強い奴がいるか、楽しみだな。前回は雑魚ばかりで退屈だったからな。今回はおもいきり戦いたいぜ。オマエもそう思うだろ?水瀬」
「やめてくださいよ。おれ、あんたみたいに戦闘狂じゃないんで」
「嘘つけ。戦っている時のオマエ、いつも愉しそうだぞ。俺と同じ顔をしてる」
「虎徹さんといっしょ? マジですか、ハハハ、そりゃやべー」
乾いた笑い声がやけに大きく響いてしまい、光季は慌てて口元を押さえる。
日本では昼間でも、この船では現在は就寝時間だ。
虎徹の言う通り、自分は戦いを愉しんでいる。
弾丸を自由自在に飛ばして敵をふっとばすのは爽快だし、殺す相手が人間界に攻めてきているという罪状がある妖怪だから罪悪感はない。
ゴキブリを潰すのに罪悪感を持つ人がいないのと同じだ。
ゴキブリと違って妖怪には感情があるかもしれないが、そんなことは関係ない。
直接的で大きな害をなす以上、ゴキブリよりもっと殺すのに躊躇いがない人が多いだろう。
双子の弟を殺された響隊の文也のように、憎しみを持ち、積極的に殺したがる人だっているぐらいだ。光季は妖怪に対して復讐心も憎悪もないが、殺すことに疑問を抱いたことは一度もない。
ただ、兵器となり嬉々として破壊活動に勤しむ自分の姿を想像するのは愉快ではない。
悪鬼のような自身にぞっとすることもある。
ほんのたまにではあるが、妖怪を殺すことにではなく、殺している自分自身にうんざりしてしまうのだ。
戦いの中でしか生きられない虎徹と同じ顔になっているというならば、相当やばい域まで達している。
カツカツと高らかな足音が聞こえてきた。
光季と虎徹は窓から視線を外し、音がするほうに顔を向ける。
呆れた顔の響がこちらに向かってきていた。
「如月。興奮して眠れないからといって、光季を夜更かしにつき合わせるな」
「おいおい響、俺を責めるなよ。起こしたんじゃない、水瀬が一人で窓の外を見ていたから、話し掛けただけだぜ」
響は不敵に笑って反論した虎徹を冷たく一瞥すると、真面目な顔を光季に向けた。
「光季。異界に降りたら常時霊体で肉体の疲労や睡眠不足は関係ないとはいえ、休める時には休め。肉体も万全の状態で臨むべきだ。何故、こんな場所でふらふらしている?」
「うーん、なんか目が覚めちゃって」
「眠れないのか? 不安なことがあるなら話してみろ」
響は眉間に薄く皺を寄せて、青い目でじっと観察するように光季を見た。
「不安なんてないですよ、響さん。たまたま起きちゃっただけ」
光季は人懐っこい笑顔を浮かべた。響が小さく安堵の息を吐く。
「ならいいが。あと二時間もすれば召集時間だ。眠れる時に眠っておけ」
「はぁい」
響は口答えを嫌う。
眠くなかったが、光季は素直に響に部屋まで送ってもらった。
背後で虎徹が嘲笑を零し、肩を竦めるのを感じた。
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