夜鴉

都貴

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第六章 鬼の國

三日目①

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 最終日の三日目の朝を迎え、焦りに似た空気が如月隊を取り巻いていた。
 あと探していないのは、香山が行かない方がいいと言っていた村の中心にある集会所だけだ。

「このままじゃ俺達はお笑い者だな。音無村の連中を連れ帰ることはできなくても、情報ぐらいは持ち帰るぞ。鬼が怖くて捜索しきれませんでしたなんて報告はごめんだしな」

 虎徹の言葉に、武志が困惑した表情を浮かべる。

「なあ、虎徹。本当に連れ去られた音無村の人達はここにいると思うか?他の集落に行った連中も未だになんの収穫も得てないようだし、羅生地方にはいないんじゃないか?」

「いるだろう。そうでなければ、わざわざ渡界にきたりしないさ。オマエ、あとは危険な集会所しか残っていないから、行きたくないんだろう?」

「なっ、そんなことはない、俺はただ―…っ」

 言い淀んだ武志に、図星かと虎徹が嘲笑を漏らす。

 わざわざ火種を起こすな。
 そう思いつつ、光季は虎徹と武志の会話に割り込まず、黙ってことの顛末を見守った。

「不安なら確かめてやるよ。情報の真偽がわかれば納得できるだろう?おい、香山」
「はぁい、なぁに?こてつさん」

「オマエが行かない方がいいって言っていた集会所の他は全部探したが、音無村の連中は一人もいなかったぞ。本当に羅生地方にいるのか?」

「ちゃんといるよ。鈴鹿御前からの確かな情報だもん。まちがった情報なハズがないよ」
「その女鬼に担がれている可能性は?俺らを嵌める罠かもしれないだろう」

 虎徹が本気で鈴鹿御前を疑っているわけではなく、武志を納得させる為に敢えて尋ねたのだと解っていたけれど、あまりに失敬な質問だ。

「ちょっと虎徹さん、船内に鈴鹿御前がいるのに、失礼だって」

 光季は虎徹を窘めるが、彼は素知らぬ顔をしていた。

「心配はいらぬよ、夜鴉の童子。わっちはそんなことくらいで怒ったりせぬゆえ。
 わっちはそち達を罠に嵌める気は毛頭ない。わっちの口でそう言うても信用できんかもしれぬが本当じゃ」

 通信から、聞き慣れないたおやかな声が聞こえてきた。
 どうやら鈴鹿御前が喋ったようだ。

 ちらりと見た姿に見合う美しい声だ。歌ったらさぞかしきれいだろう。


「ごめんねぇ、鈴鹿御前。こてつさん、悪気はないけど口が悪いの」
「気にしておらぬ。慎重になるのはよいことじゃ」

「ありがと、鈴鹿御前。こてつさん、鈴鹿御前はウソなんて言わないよ。だって、彼女との面談にはゆーくんがいたもの。ウソはついてないって、ゆーくんが言ってたよ」

「そうか。わかった」

 香山との通信を切ると、虎徹はにやりと笑いながら部下を見回した。
「集会所を調べるしかないようだな。反対の奴はいるか?いたら手を上げろ」

 反論を赦さないという雰囲気を前面に押し出して、虎徹が問いかける。

 虎徹に多数決を取る気はない。遠回しな命令だ。
 光季ははなから集会所を調べるべきだと感じていたし、おめおめと手ぶらで帰る気はなかった。当然賛成だ。

 京弥も積極的に意見するタイプではなく、よほど理不尽な命令でないかぎりは拒否もしない。
 今回も、虎徹の方針に同意を示していた。

 武志だけが渋い顔をしていた。

 だが、結局は反対意見が通らないと悟ったのか、黙って虎徹の作戦に耳を傾けていた。

「集会所は村の中心地だ。見つからずに行くのはたぶん無理だろう。
 そこでだ、俺と武志がわざと敵に見付かって陽動する。その間に水瀬と美作は東側から集会所へむかえ。敵との交戦は避けつつ、攫われたヤツが中にいないか探せ。
 集会所の中にけっこう強いのがいるらしいから、気をつけろよ。ヤバイと判断したら各々逃げていい」

「京弥と二人で大丈夫か、光季。なあ、虎徹、みんなで集会所に行った方がよくないか?」

「武志、学校の成績は良くてもオマエの頭はお飾りのようだな。みんなで仲良く行って全滅する気か?集会所に全員で行った所を村中の鬼から襲撃されてみろ。逃げ場がなくて囲まれて袋叩きにされるのがオチだ」

「しかし、光季と京弥だけで強い奴がいる場所に行かせるなんて、危ないだろう。光季、集会所には俺と虎徹で行こう」

「いや、大丈夫ですよ、武志さん。陽動だって、村中の鬼が襲ってくるから危険な役目です。むしろ、集会所の方が安全かもしれないぐらいですよ。京弥のことはちゃんとおれが守るんで、派手に鬼をひきつけといて下さい」

 光季の言葉に武志が僅かに安堵の色を浮かべた。
 それが集会所へ行かなくていいことに対する安心を含んでいることに光季は気付いた。

 嫌なことを嫌だと言えないのは損だよな。
 虎徹さんだって武志さんがビビってるのに気付いていながら、配慮しないどころか嫌味まで言うし。
 武志さん、なんで普段は虎徹さんと仲が良いんだろう。

 光季は今更ながら、虎徹と武志が友人であることを心底不思議に思った。

「さて、決行するか。上手くやれよ、水瀬、美作」
「了解です」

 腹を決める間もなく、虎徹が行動を開始する。虎徹は武志を連れ、隠れて移動するふりを装いながら、鬼が多く徘徊している大通り近くの脇道を走っていく。

 風上から風下に虎徹と武志の匂いが流れる。
 背の高い草の間を縫うように進む虎徹は、相手に囮だと気付かせない程度の葉擦れの音を立てていた。

 人間よりもずっと優れた聴覚と嗅覚を持つ鬼は、すぐに虎徹と武志の存在に気付いた。

「やはり居たか、人間どもめ。ここは我々の世界だ、侵略するのならば容赦はせんぞ」
「わざわざ餌になりに来るとは、馬鹿な奴らだ」

 釣られた愚かな鬼達がぞろぞろと虎徹と武志の方に向かっていく。
 鬼は基本的に人間を侮っている。その所為で、全員があっさりと虎徹の策に嵌まった。

「いくぞ、京弥」
「はい」

 敵の目が虎徹と武志に完全に向いていることを確認すると、光季は京弥を連れて直線距離で集会所に向かった。



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