夜鴉

都貴

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第七章 戦争

厄災④

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 さて、いつまで笑っていられるかな。
 光季は嬉々とした表情で光弾を浮かべた。

 一見さっきまでと変わらない場所にいるが、ここは異空間だ。
 どれだけ破壊しても問題はない。まずは挨拶程度に二十発の光弾をお見舞いする。

 雪女は素早い動きで光弾を避けた。そこに陽平が襲いかかる。

「なかなかいい連携ね。でも、そんな程度の攻撃では妾は倒せないわ」

 雪女が余裕の表情で空へ逃げた。光季の読み通りだ。
 光季は雪女が避けた先に密かに光弾を放っておいた。死角を通って飛んだ光弾が彼女を背後から襲う。
 寸でのところで雪女は氷で防御を張った。

 肉体的なダメージは与えられなかったが、精神的な攻撃としては成功したようだ。
 雪女の表情が歪んだ。

 警戒心を示すように、彼女の周りに肉眼で見えるほど大きな雪の結晶がちらつき始める。

 霊体の状態ならば氷点下になろうと凍死しないし、運動能力にも影響がない。
 しかし、寒さを感じないわけではない。肉体の時よりは温度感覚が鈍いが暑さも寒さも感じる。
 それでなくても寒いのは嫌いだ。光季はぶるりと震えた。

「さみー! さっさとかたをつけようぜ、陽平。冬眠しちまう」
「早くコタツで丸くなりたいってか?」
「うるせー、ネコ扱いすんな。馬鹿言ってないで働け」
「了解」

 陽平が地面を蹴って屋根に飛び乗り、雪女に切りかかった。
 雪女の攻撃レンジはそれほど長くないようで、低空を飛んでいる。

 陽平のジャンプ力ならば攻撃が届く距離だ。
 雪女が高く浮かびあがって薙刀の切っ先を避けようとした。
 光季は光弾でそれを牽制する。
 刃から逃れた雪女の肩に光弾がヒットした。

「氷のような結束力ね、なかなか小癪な戦い方だわ。でもこれならどうかしら」

 雪女がひらりと袖を振るう。舞のような美しい動きに反して、強烈な吹雪が放たれた。

 目を開けていられないほど強い吹雪で視界が埋め尽くされて、光季と陽平は雪女の姿を見失う。
 二人が怯んだ隙に雪女は背後をとり、氷柱を飛ばして攻撃する。

「うおっと、危ねー。そう簡単にはいかないぜ」

 陽平がいち早く殺気を察知し、踵を返して薙刀で氷柱を払い落した。
 光季は陽平の背中に隠れつつ、光弾で応戦する。
 雪女は氷の盾で光弾を防ごうとしたが、光弾の威力と物量に負けて盾が砕け散ってダメージを負った。

「鬱陶しいぼうや達ね。妾の邪魔をして、ただじゃおかないわよ」

 悠然とした笑みが崩れて般若のような顔になった。白銀の髪が逆立ち、宙に漂う。

 雪女が空に手を翳した。彼女の目が妖しく光り、獣のような唸り声を上げる凶悪な吹雪がおこった。痺れるような冷気に全身を包まれ、光季は寒さに身を竦めた。

 地面や屋根などの無機物が一気に凍てつく。

 おれたちを凍らせる気か。光季は身構えていたが、体温があるものを凍らせる程の威力はないようで氷漬けは免れた。離れた位置で一般人を守る沙奈も無事のようだ。

「残念でした。おれたちを凍らせるほどの力はなかったみたいだな」

 光季の挑発に雪女が冷ややかな笑みを浮かべる。もう冷静さを取り戻しようだ。
 敵の余裕ぶりを怪訝に思いつつ、光季は宙に浮く雪女に近付こうと屋根に飛び乗ろうとした。

 足に力を入れた瞬間、アイスバーンのように凍結した地面に足をとられて転んでしまう。
 陽平は転ばなかったものの、バランスを崩していつも通りに動けないでいた。

「くそ、やるな。狙いはこっちかよ」

 機動力を削ぐための間接攻撃だったか。光季は悔しさに唇を噛む。
 雪女が哄笑を響かせながら、上空から大量の氷柱を降らせる。
 攻撃の手は一般人を守る沙奈にまで及んだ。

「やらせるかよ」

 光季も大量の光弾を撃ち、飛んでくる氷柱を漏らさず撃ち落とした。

 次いで弾幕のように派手に光弾を放つ。
 雪女の目が派手な光季の陽動に向けられているうちに、滑る足場に慣れた陽平が公民館の近くの高いマンションの屋上に移動し、公民館の屋根より二メートル程高い位置に浮かぶ彼女の上をとった。

 光季は光弾で逃げ惑う雪女を追尾し、雪女を陽平の真下に誘導した。
 一見すると出鱈目に飛ばしているように見える光弾に騙され、雪女はまんまと狙い通りのポイントに移動する。

 陽平が屋上から飛び降りた。
 落下音を消すのと雪女の退路を断つために、光季は周囲の建物を爆撃する。

「もらった!」

 陽平の気配と音に気付かなかった雪女の胸を、薙刀が貫いた。
 絹を裂くような悲鳴を上げて、雪女が地面にうつ伏せに縫いつけられる。

 凍った地面にうっすらと積もった真白い雪を真紅の血が染め上げた。
 雪女の体がビクンと痙攣して動かなくなった。絶命したようだ。
 異空間装置が解除されて、もとの空間に戻る。

「お手柄だね!超レアな甲種の雪女を二人で倒しちゃうなんてさすがだね、こーきクン」
「香山さん、この辺はもう敵がいなさそうだけど、次どこに行けばいいですか?」
「やる気マンマンだね。各地の戦況を調べるからちょっと待ってね」

 通信器の向こうで小さく香山が息を飲む。いつもと違う、緊張した声が聞こえた。

「やばいヤツが現れたよ。異空間装置を破って、一条隊と巴隊から逃げた妖怪が市民を襲ってるみたい。
 そいつの周りにたくさんの妖怪が集まって、かなり大変なコトになってる。
 虎徹さんも松風さんも遠くてヘルプに行けないの。美作兄弟が近いから向かってくれてるけど、二人だけじゃたぶんムリかな。こーきクン、行ってくれる?」

「了解です、香山さん。陽平と白藤と向かいます」

「あ、神前隊の二人は別のポイントに向かってあげて。乙種の中級ぐらいの妖怪がうじゃうじゃ発生してる場所で、キミたちの隊長が一人で奮闘してるみたいだから」

「マジかよ。クソ、どうするかな……」

 珍しく困り顔で唸る陽平の肩を、光季はポンと叩いた。

「神前の方にいけよ、陽平。こっちは京弥と武志さんもいるみたいだし、おれがいけばなんとかなんだろ。隊で動いた方がやっぱり有利だからな。人手不足だし、確実に倒せる戦力じゃなくてギリギリで倒せるぐらいの戦力でいかねーと、どんどん厳しくなる」

「そうかもな。わかった、慧士の援護に行くわ。気をつけろよ、光季」
「誰に言ってんだ、おれがやられるわけねーだろ。おまえもきっちり片付けてこいよ」
「了解、またあとでな」

 光季と陽平は笑顔で拳を軽くぶつけあった。
 これが最期かもしれない。渡界する前にいつも浮かぶ考えが脳裏を過ぎった。

 光季は普段の任務とは違う異様さを感じていた。
 それでも陽平を振り返ったりせず、前だけを見て走った。


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