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第七章 戦争
厄災④
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香山の指示で着いた場所は、まるで違う世界のようだった。
電信柱や家が倒壊して瓦礫が散らばり、道路にはいくつものクレーターができている。
一等兵や逃げ遅れた市民があちこちに倒れていた。
まるで戦場だ。光季は紛争地帯にきたのかと錯覚した。
「水瀬、来てくれたのか!」
一条隊の隊長、一条司が黒髪の艶やかなポニーテイルを揺らしながら走ってきた。
光季より一つ年上の彼は、ご当地アイドルだけあって和顔の美男子だ。苦悩した顔をしているが、それすらも絵になる。
濃紺のナポレオンジャケットに白いズボン、黒いブーツの隊服がステージ衣装に見えてくる。
「一条さん、戦況はどうですか?」
「芳しくない。美作兄弟が逃げ遅れている市民を守ってくれている。だが、水瀬が来てくれたのなら、お前達如月隊が甲種と戦ってくれると助かる」
「そうですね、誰とでも組めますけど、戦い慣れたチームメイトの方がありがたいです。敵はどんな奴ですか?」
「あいつだ。相当手ごわいぞ。能力がよく分からない。斬撃も爆発もなく、一瞬にして家を崩したんだ」
一条がブロック塀から顔だけを出して指差した。光季は指が示す方向へ目を遣る。
遠くの方から一人の男がゆったりと近付いてきていた。黒いインバネスコートとズボンを纏った、スラリとした短い黒髪の青年だ。見た目は人と変わらず、強敵には見えない。
「助かったわ、光季くん。あなたが居てくれたら心強いわね」
栗色のソバージュヘアを揺らして巴静香が微笑む。
「私のガトリングとショットガンはすべて止められて太刀打ちできなかったわ。正面からじゃダメみたい。トリッキーでテクニシャンな光季くんなら、いけると思うの。
私の隊が市民を援護するから、武志と京弥くんと司くんと連携してあの敵を倒してちょうだい」
「了解です、巴さん。市民をお願いします」
「ええ。甲種はお願いね、光季くん」
敵と反対方向の道へ走っていた巴を見送ると、光季と一条は敵と一定の距離を保って下がりながら武志と京弥を待った。
ぼんやり待つのは時間がもったいない。
光季は敵の能力にあたりをつけようと、周囲の様子に目を配った。
一条の話によると、敵は斬撃でも爆撃でもない方法で攻撃してくるようだ。
確かに、壊れたコンクリートに綺麗な切り口はなく、かといってバラバラに砕けているわけでもない。焦げた臭いもしていない。
穴が穿たれた地面を見ると、歪んだ痕のようだ。
高らかな足音を響かせながら敵が近付いてくる。
京弥達はまだ来ていないが、敵を放置し続けるのも不味いだろう。
光季は逃げるのをやめ、安全策をとりながら攻撃を仕掛けることにした。
塀に身を隠したまま、光弾を上空に高く撃ちあげて四方から光弾を飛ばす。
敵が立つ場所にあたりに飛ばしたはずだが、まったく手ごたえがなかった。
「新手がいるようだな。大した火力だ、焦らされたぞ。でてこい守人達、このままここら辺一帯を破壊することはできるが、それでは面白くない。俺は強い奴と戦いたい」
愉快犯を彷彿とさせるファニーな声だ。
本当に一帯を更地にされかねない。
相手が戦いを望むのなら応じた方が得策だろう。隠れたまま生き埋めにされるよりはマシだ。
「一条さん、おれが正面からでていくんで、背後に回って下さい」
「わかった。気を付けていってくれ」
光季は塀から躍り出た。
敵は光季を見て、紫色の瞳を三日月のように細める。
「若いな。そっちの兵士はやたらと若いのが多い。俺達妖怪よりも老いるのがはやいとはいえ、若い命を使い捨てにするとは人間は残酷な生き物だな」
「襲ってくる妖怪に言われたくないね。お優しい妖怪様ってなら、帰ってくれねーかな」
「無理な相談だ。こちらにも色々と事情があるのさ。俺は別に人間を嫌いでも好きでもないが、強い奴は好きだ。俺は帯天。お前は強そうな匂いがする。俺と遊んでもらうぞ」
帝天が黒い弾を二つ浮かせて投げた。光季はひらりとジャンプで弾を避ける。
外れた弾が塀を抉った。押し潰したような跡から見て、普通の弾丸というわけではなさそうだ。
帝天の弾丸を避けつつ、光季は光弾を放つ。
帝天が手を翳すと光弾が消えた。
結界を張ったのか。いや、そんな感じじゃない。
摩擦音がしなかった。
霊力値が高い巴のガトリングが一発も当たらなかったことから考えて、帝天の結界が通常のものではない可能性が高い。攻撃が当たらないからくりがあるはずだ。
光季の弾幕に紛れて一条が頭上から日本刀で切りかかった。
帝天は危なげなく余裕で一条の攻撃を躱す。
身のこなしも素早いようだ。
単調な攻撃は効果がないな。
光季は動きの読みにくい複雑で速い光弾で帝天を攻めた。
七割の弾は帝天を捕えた。それなのに何故か彼の肉体には一撃も命中していない。
押し潰したような跡、当たったのに感じない手ごたえ。
光季は一つの可能性を見出した。
「水瀬先輩、お待たせしました」
漸く京弥と武志が到着した。四対一、数はこちらが有利だ。光季は笑みを浮かべた。
「京弥! よっしゃ、揃ったな。反撃といこうぜ」
光季は弾数の多い射撃で帝天を襲う。目的は敵の撹乱だ。
住宅街を傷付けずに戦うなんて悠長な状況ではない。建物や道路を破壊することを恐れずに弾を撃つ。
光季と武志で帝天を挟撃したが、やはり弾は当たらない。
それならばと、光季は家や塀を破壊した。
瓦礫が隊天に降り注ぐ。生き埋めにしてやるつもりだった。
その目論みは外れた。瓦礫は不自然に帝天を逸れて落下した。
なるほど、やはりそういうことか。
「わかったぜ。おまえは重力を操る能力を持ってるんだな。射撃は防がれたわけじゃなくて、重力操作で軌道を逸らされたか、消滅させられたわけだ」
「ご名答だ。鋭い洞察力をお持ちのようで。ただ、わかったところで、俺に勝てる方法はないだろう?残念だったな、小僧」
「さあて、それはどうかな」
光季は十六発の光弾を浮かせて、帝天に走り寄った。
帝天が一条の剣を避けていたのを見ると、重力を操作するには数秒の間が必要、もしくは自分のすぐ近くには重力を発生させられないのかもしれない。
ならば肉弾戦やゼロ距離での射撃は通用するはずだ。
それに無制限に重力を操れるわけでもないだろう。
光季と共に、京弥と一条も三方向から一斉に飛び掛かった。武志も銃撃で援護する。
「小賢しいな」
初めて苛立ちを見せた帝天が、瓦礫を浮かせて飛ばす。
光季は結界を張りながら帝天に詰寄った。
帝天が空に手を翳す。嫌な感じがして光季は慌てて立ち止まった。
電信柱や家が倒壊して瓦礫が散らばり、道路にはいくつものクレーターができている。
一等兵や逃げ遅れた市民があちこちに倒れていた。
まるで戦場だ。光季は紛争地帯にきたのかと錯覚した。
「水瀬、来てくれたのか!」
一条隊の隊長、一条司が黒髪の艶やかなポニーテイルを揺らしながら走ってきた。
光季より一つ年上の彼は、ご当地アイドルだけあって和顔の美男子だ。苦悩した顔をしているが、それすらも絵になる。
濃紺のナポレオンジャケットに白いズボン、黒いブーツの隊服がステージ衣装に見えてくる。
「一条さん、戦況はどうですか?」
「芳しくない。美作兄弟が逃げ遅れている市民を守ってくれている。だが、水瀬が来てくれたのなら、お前達如月隊が甲種と戦ってくれると助かる」
「そうですね、誰とでも組めますけど、戦い慣れたチームメイトの方がありがたいです。敵はどんな奴ですか?」
「あいつだ。相当手ごわいぞ。能力がよく分からない。斬撃も爆発もなく、一瞬にして家を崩したんだ」
一条がブロック塀から顔だけを出して指差した。光季は指が示す方向へ目を遣る。
遠くの方から一人の男がゆったりと近付いてきていた。黒いインバネスコートとズボンを纏った、スラリとした短い黒髪の青年だ。見た目は人と変わらず、強敵には見えない。
「助かったわ、光季くん。あなたが居てくれたら心強いわね」
栗色のソバージュヘアを揺らして巴静香が微笑む。
「私のガトリングとショットガンはすべて止められて太刀打ちできなかったわ。正面からじゃダメみたい。トリッキーでテクニシャンな光季くんなら、いけると思うの。
私の隊が市民を援護するから、武志と京弥くんと司くんと連携してあの敵を倒してちょうだい」
「了解です、巴さん。市民をお願いします」
「ええ。甲種はお願いね、光季くん」
敵と反対方向の道へ走っていた巴を見送ると、光季と一条は敵と一定の距離を保って下がりながら武志と京弥を待った。
ぼんやり待つのは時間がもったいない。
光季は敵の能力にあたりをつけようと、周囲の様子に目を配った。
一条の話によると、敵は斬撃でも爆撃でもない方法で攻撃してくるようだ。
確かに、壊れたコンクリートに綺麗な切り口はなく、かといってバラバラに砕けているわけでもない。焦げた臭いもしていない。
穴が穿たれた地面を見ると、歪んだ痕のようだ。
高らかな足音を響かせながら敵が近付いてくる。
京弥達はまだ来ていないが、敵を放置し続けるのも不味いだろう。
光季は逃げるのをやめ、安全策をとりながら攻撃を仕掛けることにした。
塀に身を隠したまま、光弾を上空に高く撃ちあげて四方から光弾を飛ばす。
敵が立つ場所にあたりに飛ばしたはずだが、まったく手ごたえがなかった。
「新手がいるようだな。大した火力だ、焦らされたぞ。でてこい守人達、このままここら辺一帯を破壊することはできるが、それでは面白くない。俺は強い奴と戦いたい」
愉快犯を彷彿とさせるファニーな声だ。
本当に一帯を更地にされかねない。
相手が戦いを望むのなら応じた方が得策だろう。隠れたまま生き埋めにされるよりはマシだ。
「一条さん、おれが正面からでていくんで、背後に回って下さい」
「わかった。気を付けていってくれ」
光季は塀から躍り出た。
敵は光季を見て、紫色の瞳を三日月のように細める。
「若いな。そっちの兵士はやたらと若いのが多い。俺達妖怪よりも老いるのがはやいとはいえ、若い命を使い捨てにするとは人間は残酷な生き物だな」
「襲ってくる妖怪に言われたくないね。お優しい妖怪様ってなら、帰ってくれねーかな」
「無理な相談だ。こちらにも色々と事情があるのさ。俺は別に人間を嫌いでも好きでもないが、強い奴は好きだ。俺は帯天。お前は強そうな匂いがする。俺と遊んでもらうぞ」
帝天が黒い弾を二つ浮かせて投げた。光季はひらりとジャンプで弾を避ける。
外れた弾が塀を抉った。押し潰したような跡から見て、普通の弾丸というわけではなさそうだ。
帝天の弾丸を避けつつ、光季は光弾を放つ。
帝天が手を翳すと光弾が消えた。
結界を張ったのか。いや、そんな感じじゃない。
摩擦音がしなかった。
霊力値が高い巴のガトリングが一発も当たらなかったことから考えて、帝天の結界が通常のものではない可能性が高い。攻撃が当たらないからくりがあるはずだ。
光季の弾幕に紛れて一条が頭上から日本刀で切りかかった。
帝天は危なげなく余裕で一条の攻撃を躱す。
身のこなしも素早いようだ。
単調な攻撃は効果がないな。
光季は動きの読みにくい複雑で速い光弾で帝天を攻めた。
七割の弾は帝天を捕えた。それなのに何故か彼の肉体には一撃も命中していない。
押し潰したような跡、当たったのに感じない手ごたえ。
光季は一つの可能性を見出した。
「水瀬先輩、お待たせしました」
漸く京弥と武志が到着した。四対一、数はこちらが有利だ。光季は笑みを浮かべた。
「京弥! よっしゃ、揃ったな。反撃といこうぜ」
光季は弾数の多い射撃で帝天を襲う。目的は敵の撹乱だ。
住宅街を傷付けずに戦うなんて悠長な状況ではない。建物や道路を破壊することを恐れずに弾を撃つ。
光季と武志で帝天を挟撃したが、やはり弾は当たらない。
それならばと、光季は家や塀を破壊した。
瓦礫が隊天に降り注ぐ。生き埋めにしてやるつもりだった。
その目論みは外れた。瓦礫は不自然に帝天を逸れて落下した。
なるほど、やはりそういうことか。
「わかったぜ。おまえは重力を操る能力を持ってるんだな。射撃は防がれたわけじゃなくて、重力操作で軌道を逸らされたか、消滅させられたわけだ」
「ご名答だ。鋭い洞察力をお持ちのようで。ただ、わかったところで、俺に勝てる方法はないだろう?残念だったな、小僧」
「さあて、それはどうかな」
光季は十六発の光弾を浮かせて、帝天に走り寄った。
帝天が一条の剣を避けていたのを見ると、重力を操作するには数秒の間が必要、もしくは自分のすぐ近くには重力を発生させられないのかもしれない。
ならば肉弾戦やゼロ距離での射撃は通用するはずだ。
それに無制限に重力を操れるわけでもないだろう。
光季と共に、京弥と一条も三方向から一斉に飛び掛かった。武志も銃撃で援護する。
「小賢しいな」
初めて苛立ちを見せた帝天が、瓦礫を浮かせて飛ばす。
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