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第四章 ハロウィンの魔物
猟奇的完璧主義者①
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全身を包む冷たさに襲われ、光季は目を覚ました。傍らに柔らいぬくもりを感じる。
隣に目を遣ると、沙奈が凭れかかるようにして眠っていた。
彼女を起こそうとして初めて、自分が拘束されていることに気が付いた。
後ろ手で手首を麻縄で縛られている。
麻縄は肌にきつく食い込んでいて、解けそうにないどころか、痛みすら感じる。
「目を覚ませ、白藤」
「ん、こう、き?」
「おい、大丈夫か?」
「だい、じょうぶ。ねえ、私たちどうなっちゃったの?」
「捕まったらしいな」
「すごく寒い。ここ、どこなの?」
光季はぐるりと視線を巡らせた。ひんやりした白い冷気と大量の氷、そして吊るされた色々な部位の肉塊。
どうやら、巨大な冷凍庫の中にいるようだ。
「とりあえず霊体に換装した方がいいな。って、換装できねー。やべーな、オーブがない。とられたみてーだな」
「ほんとだ。私のオーブもない」
絶体絶命だ。こりゃもうなるようにしかならないな。
光季は小さく溜息を吐いた。
せめて沙奈だけでも逃がしてやれたらいいのに。
霊体になれたら居場所を基地でキャッチしてもらえるが、オーブを奪われている状態ではどうしようもない。
どうしたものかと頭を捻っていると、重たげな音をさせながらゆっくり扉が開いた。
そこに立っていたのはさっき見た蝶の羽が生えた女と、白いエプロンを纏ったすらりとしたジェントルマン風の中年男だった。
「お目覚めかい?ご機嫌はいかがかな?」
男が甘ったるい声で尋ねた。光季はいつものにやりとした強気な笑みを浮かべる。
「こんな寒いとこに閉じ込められて機嫌いいわけねーだろ。あんた、さっきのピエロか?」
「そのとおり」
「連続猟奇殺人の犯人はあんただよな?おれと白藤をどうしようってんだ」
「さすが、普段から妖怪と戦っているだけあって落ち着いているね。他の子たちは泣き叫んで命乞いをしたよ。
ああ、やはり夜鴉の子供たちをコレクションに加えようという考えは成功だ。特別な存在の肉体もまた、特別だろうね」
「おれたちが夜鴉だってわかってて襲いかかってきたみてーだな。悪趣味な変装もオブジェみたいな死体も、夜鴉を動かすための撒き餌ってわけね」
光季の鋭い指摘に、男は満面の笑みを浮かべる。
「君は聡明な子だ。さすがは一位部隊の精鋭だね。お察しの通りさ」
「それで、コレクションってなんだよ」
「ああ、そうだ。君たちをこんな寒い場所に閉じ込めたのは、僕のコレクションを見せるためだった。ほら、こっちへ来てごらん」
男は光季の腕を掴んで無理やり立たせた。
引っ張られてよろけるように歩いていると、不意に男の嬉々とした横顔が見えて、光季は薄気味悪さを覚えた。
男から視線を逸らし、一歩後ろを歩く蝶羽の女に目を遣る。
男とは真逆で、女は浮かない顔をしていた。
「さあ、見たまえ。僕のコレクションだ」
男が一番奥にあった銀色のボックスの扉を開いた。
観音開きの扉の内側の異様さに、光季は思わず顔を顰める。
収納されていたのは氷漬けにされた人間の手や足や頭部だった。
それも大きさからみて少年少女のものばかりだ。
「どうだい、この素晴らしいパーツの数々。完璧な美しさが秘められている。僕は完璧なものを愛している。まだ汚れをしらない無垢な少年少女の美しい体。すべて僕の眼鏡にかなう逸品ばかりだ。もうすぐ、君達の一部もここに収納される」
さっきの落ち着いた態度とはうってかわって、男が子供のようにはしゃぐ。
聞いてもいないのに、男がこれまでの犯行やパーツを集める過程をつらつらと語りだした。
まるで自分の犯行を自慢しているような態度に、光季は背筋がゾクリと粟立つのを感じた。
狂っている。エネルギーとするために人間を殺す妖怪の方がまだまともだ。
「もうやめて、聞きたくない!」
沙奈が泣き出しそうな声で叫び、床に蹲る。
光季は震える沙奈に寄り添いつつ、口元に嘲笑を浮かべて、鋭い眼光で男を射抜いた。
「こんなことして、何が楽しいんだよ。頭おかしいんじゃねーの?」
「おや、心外だね。僕は至って正常さ。この冷凍庫を見ればわかると思うが、肉屋の仕事も完璧にこなしているよ」
「仕事がちゃんとできたって、こんな気持ちわりーもん集めてる時点で異常だっての」
「気味悪くなどない、美しいじゃないか。それに世の中人で溢れているのだから、多少数が減ったって問題ないだろう?殺した子たちの魂は、妖怪たちが生活していく糧となっているんだ。無駄にはしてない。ねえ、鬼蝶」
男に微笑みかけられて、鬼蝶と呼ばれた蝶羽の女は俯いた。
「さて、君達からも体の一部を頂こう。準備が整うまで待っていてくれ」
上機嫌に笑みながら、男がいそいそと冷凍庫から出ていった。
鬼蝶は男の後をすぐには追わず、光季と沙奈を哀しそうな目で見ていた。
「あんた、鬼蝶っていうんだよな?あんたも人間のパーツ集めが趣味なわけ?」
態と蔑むような目を向ける光季を、鬼蝶が鋭い目で睨んだ。
「アナタにはアタシの苦しみはわからないわ。異界の資源の枯渇は甚大よ。貧しい村や弱い人から餓えていくの。
幼い弟妹を路頭に迷わせないためには、長女であるアタシが村長の命令に従って人の霊力を集めるしかない。
嬉々として戦っている夜鴉のトップ部隊であるアナタには、アタシの気持ちなんてわからないわ」
「そっか。そういう事情ならしょうがないな」
あっさりと光季が納得すると、鬼蝶は驚いた顔をした。
それからまた瞳を伏せて「少し話をしすぎたわ」と呟いて冷凍庫を出ていった。
取り残された光季と沙奈は、寒さに震えながら、魔の手が伸びるのをひたすら待つはめになった。
隣に目を遣ると、沙奈が凭れかかるようにして眠っていた。
彼女を起こそうとして初めて、自分が拘束されていることに気が付いた。
後ろ手で手首を麻縄で縛られている。
麻縄は肌にきつく食い込んでいて、解けそうにないどころか、痛みすら感じる。
「目を覚ませ、白藤」
「ん、こう、き?」
「おい、大丈夫か?」
「だい、じょうぶ。ねえ、私たちどうなっちゃったの?」
「捕まったらしいな」
「すごく寒い。ここ、どこなの?」
光季はぐるりと視線を巡らせた。ひんやりした白い冷気と大量の氷、そして吊るされた色々な部位の肉塊。
どうやら、巨大な冷凍庫の中にいるようだ。
「とりあえず霊体に換装した方がいいな。って、換装できねー。やべーな、オーブがない。とられたみてーだな」
「ほんとだ。私のオーブもない」
絶体絶命だ。こりゃもうなるようにしかならないな。
光季は小さく溜息を吐いた。
せめて沙奈だけでも逃がしてやれたらいいのに。
霊体になれたら居場所を基地でキャッチしてもらえるが、オーブを奪われている状態ではどうしようもない。
どうしたものかと頭を捻っていると、重たげな音をさせながらゆっくり扉が開いた。
そこに立っていたのはさっき見た蝶の羽が生えた女と、白いエプロンを纏ったすらりとしたジェントルマン風の中年男だった。
「お目覚めかい?ご機嫌はいかがかな?」
男が甘ったるい声で尋ねた。光季はいつものにやりとした強気な笑みを浮かべる。
「こんな寒いとこに閉じ込められて機嫌いいわけねーだろ。あんた、さっきのピエロか?」
「そのとおり」
「連続猟奇殺人の犯人はあんただよな?おれと白藤をどうしようってんだ」
「さすが、普段から妖怪と戦っているだけあって落ち着いているね。他の子たちは泣き叫んで命乞いをしたよ。
ああ、やはり夜鴉の子供たちをコレクションに加えようという考えは成功だ。特別な存在の肉体もまた、特別だろうね」
「おれたちが夜鴉だってわかってて襲いかかってきたみてーだな。悪趣味な変装もオブジェみたいな死体も、夜鴉を動かすための撒き餌ってわけね」
光季の鋭い指摘に、男は満面の笑みを浮かべる。
「君は聡明な子だ。さすがは一位部隊の精鋭だね。お察しの通りさ」
「それで、コレクションってなんだよ」
「ああ、そうだ。君たちをこんな寒い場所に閉じ込めたのは、僕のコレクションを見せるためだった。ほら、こっちへ来てごらん」
男は光季の腕を掴んで無理やり立たせた。
引っ張られてよろけるように歩いていると、不意に男の嬉々とした横顔が見えて、光季は薄気味悪さを覚えた。
男から視線を逸らし、一歩後ろを歩く蝶羽の女に目を遣る。
男とは真逆で、女は浮かない顔をしていた。
「さあ、見たまえ。僕のコレクションだ」
男が一番奥にあった銀色のボックスの扉を開いた。
観音開きの扉の内側の異様さに、光季は思わず顔を顰める。
収納されていたのは氷漬けにされた人間の手や足や頭部だった。
それも大きさからみて少年少女のものばかりだ。
「どうだい、この素晴らしいパーツの数々。完璧な美しさが秘められている。僕は完璧なものを愛している。まだ汚れをしらない無垢な少年少女の美しい体。すべて僕の眼鏡にかなう逸品ばかりだ。もうすぐ、君達の一部もここに収納される」
さっきの落ち着いた態度とはうってかわって、男が子供のようにはしゃぐ。
聞いてもいないのに、男がこれまでの犯行やパーツを集める過程をつらつらと語りだした。
まるで自分の犯行を自慢しているような態度に、光季は背筋がゾクリと粟立つのを感じた。
狂っている。エネルギーとするために人間を殺す妖怪の方がまだまともだ。
「もうやめて、聞きたくない!」
沙奈が泣き出しそうな声で叫び、床に蹲る。
光季は震える沙奈に寄り添いつつ、口元に嘲笑を浮かべて、鋭い眼光で男を射抜いた。
「こんなことして、何が楽しいんだよ。頭おかしいんじゃねーの?」
「おや、心外だね。僕は至って正常さ。この冷凍庫を見ればわかると思うが、肉屋の仕事も完璧にこなしているよ」
「仕事がちゃんとできたって、こんな気持ちわりーもん集めてる時点で異常だっての」
「気味悪くなどない、美しいじゃないか。それに世の中人で溢れているのだから、多少数が減ったって問題ないだろう?殺した子たちの魂は、妖怪たちが生活していく糧となっているんだ。無駄にはしてない。ねえ、鬼蝶」
男に微笑みかけられて、鬼蝶と呼ばれた蝶羽の女は俯いた。
「さて、君達からも体の一部を頂こう。準備が整うまで待っていてくれ」
上機嫌に笑みながら、男がいそいそと冷凍庫から出ていった。
鬼蝶は男の後をすぐには追わず、光季と沙奈を哀しそうな目で見ていた。
「あんた、鬼蝶っていうんだよな?あんたも人間のパーツ集めが趣味なわけ?」
態と蔑むような目を向ける光季を、鬼蝶が鋭い目で睨んだ。
「アナタにはアタシの苦しみはわからないわ。異界の資源の枯渇は甚大よ。貧しい村や弱い人から餓えていくの。
幼い弟妹を路頭に迷わせないためには、長女であるアタシが村長の命令に従って人の霊力を集めるしかない。
嬉々として戦っている夜鴉のトップ部隊であるアナタには、アタシの気持ちなんてわからないわ」
「そっか。そういう事情ならしょうがないな」
あっさりと光季が納得すると、鬼蝶は驚いた顔をした。
それからまた瞳を伏せて「少し話をしすぎたわ」と呟いて冷凍庫を出ていった。
取り残された光季と沙奈は、寒さに震えながら、魔の手が伸びるのをひたすら待つはめになった。
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