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第四章 ハロウィンの魔物
猟奇的完璧主義者③
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せめて犯罪者の顔を網膜に焼き付けようと目を見開いた時、ドアが勢いよく開いた。
「光季、無事か!?」
飛び込んできたのは陽平と虎徹、そして響だった。
響だけが霊体の状態で、二人は普段着だ。響が拳銃を二丁構えて、鬼蝶に向ける。
「アタシはただ、霊力を奪うために仕方なくやっていたの。本当はこんなことしたくはなかったわ。殺したのはアタシじゃない」
「お前の事情を鑑みることはできねえな。こちらも仕事だ、悪く思うな」
響がトリガーを引いた。
放たれた二発の銃弾は鬼蝶の胸と眉間を貫き、あっけなく鬼蝶は幕を引いた。
残ったのは人間である肉屋の男だけだ。
「ここは俺に任せて、水瀬と白藤を助けてやれ、日向」
陽平に指示を出すと、虎徹は悪辣な笑みを浮かべて男に迫った。
「おい、よくも俺の部下に手を出したな」
「手を出したらなんだというのだね? 夜鴉は妖怪退治の組織のはずだ、僕はご覧の通り普通のか弱い人間さ。手を出せるのかい?」
「ふん、弱いふりをして逃げようったってそうはいかないぜ」
虎徹が目を細めて口の端を吊り上げて凶悪に笑む。一瞬で肉屋の男との距離をつめ、腹に容赦ない蹴りを入れた。地面に倒れた男に跨ると、顔面に何度も拳を叩き込む。
「やめろ、僕は悪くない。コレクションを集めていただけだ、殺される理由なんてない!」
「泣いて命乞いをしてきたガキどもを、お前は助けたか?」
虎徹が喉の奥で嗤いながら拳を振り上げた。響が虎徹の腕を掴んで制止する。
「そこまでにしておけ、やりすぎだ、如月」
「止めるなよ、響。俺の部下に手を出したんだ。殴られても文句言えないだろ」
「相手はとんだ下種野郎だが、一応は人間だ。殺すといろいろ不味いだろう」
「妙な話だな、人間なら何やっても許されるなんて。そっちの妖怪は幇助していただけでお前に殺されたのにな」
「黙れ。この男を裁くのは俺達の仕事じゃねえって言ってるんだ。警察に引き渡せば、裁判にかけられ、然るべき罰を与えられる。テメーは裁判官じゃねえだろうが」
ギロリと響に睨まれた虎徹は嘲笑を浮かべて肩を竦めつつも、男から離れた。
「大丈夫か、光季。悪ぃな、助けんのが遅くなっちまって」
珍しく困り顔の陽平にベルトを解いてもらって、光季は調理台から身を起こした。
薬の影響か頭の中がグラリと揺れて、まっすぐ座っていられずによろけた。
「どうしたんだ、光季。何かされたのか?」
咄嗟に肩を支えてくれた響に顔を覗きこまれる。
滅多に聞かない不安げな響の声に、軽い吐き気がしていたが、光季は安心させようとニッと笑みを浮かべてみせた。
「大丈夫です、響さん。なんか薬打たれて眩暈がするだけですから。それより、なんで響さんがいるの?」
「水瀬の霊力をキャッチして、誰がどうやって救出に行くか話しあっている途中に、任務中の響隊に会っちまったんだよ。そしたら話を聞いたこいつが、お前を助けに行くって聞かなくてな。
しょうがないから、武志と美作を置いて、こいつを連れてきたわけだ。
まあ、人間も相手にするなら、容赦ない性格のこいつの方が、武志よりも適任だろうしな」
勝手に答えた虎徹を響が横目で睨みつけた。
相変わらず仲が悪い二人に光季は苦笑する。
外からサイレンが聞こえた。音が近付いている。
程なくして、警官が現場に駆けこんできた。気絶した男の手首に手錠がかけられる。
若い警官は犯人の惨状に一瞬だけぎょっとした顔をしたが、特にこちらを咎めずに敬礼をした。
「犯人確保。夜鴉のみなさん、捜査へのご協力感謝いたします。お怪我はありませんか?」
「妙な薬物を打たれた隊員がいますが、こちらで対応できます」
「そうですか。必要なことがあれば何でも言って下さい。我々は証拠品の応酬と現場検証を行っておりますので」
答えた響にキビキビと礼をすると、若い警官は忙しなく去っていった。
冷凍庫に保存された憐れな遺体の一部も、警察に押収されていずれは家族のもとに返されるだろう。
光季はほっと息を吐いて、立ちあがろうとした。
しかし、薬の所為で足に力が入らない。
「ムリすんなよ、光季。おんぶしてやっから」
陽平が光季の前に背中を向けてしゃがみこんだ。
同級生に背負われて帰るのはみっともないが、体がいうことを聞かない。
陽平の背中に乗ろうとした時、響に抱きあげられた。
「こいつは俺が連れていく。お前はあっちの女を連れてかえってやれ」
響が顎でしゃくった先で、沙奈が自分を抱えるようにして震えていた。
陽平が沙奈の傍にしゃがんで、優しく頭を撫でる。
「大丈夫か、沙奈」
「陽平。情けないけど、私、すごく怖かったの。ほんとに、怖かった……っ」
泣きながら沙奈が陽平に抱きついた。
陽平が幼子をあやすように華奢な背中をぽんぽんと叩いていた。
沙奈を苦しめているのは殺されそうになった恐怖だけではないだろう。
異常な犯罪者を前にして、得体の知れなさに怯えているのだろう。
頭の中に、冷凍庫にあった男の宝箱の中身が浮かんだ。
光季は頭の中に浮かんだ映像を追い出そうと、軽く頭を振る。
それでもなお、嫌な映像は頭を離れなかった。
「光季、無事か!?」
飛び込んできたのは陽平と虎徹、そして響だった。
響だけが霊体の状態で、二人は普段着だ。響が拳銃を二丁構えて、鬼蝶に向ける。
「アタシはただ、霊力を奪うために仕方なくやっていたの。本当はこんなことしたくはなかったわ。殺したのはアタシじゃない」
「お前の事情を鑑みることはできねえな。こちらも仕事だ、悪く思うな」
響がトリガーを引いた。
放たれた二発の銃弾は鬼蝶の胸と眉間を貫き、あっけなく鬼蝶は幕を引いた。
残ったのは人間である肉屋の男だけだ。
「ここは俺に任せて、水瀬と白藤を助けてやれ、日向」
陽平に指示を出すと、虎徹は悪辣な笑みを浮かべて男に迫った。
「おい、よくも俺の部下に手を出したな」
「手を出したらなんだというのだね? 夜鴉は妖怪退治の組織のはずだ、僕はご覧の通り普通のか弱い人間さ。手を出せるのかい?」
「ふん、弱いふりをして逃げようったってそうはいかないぜ」
虎徹が目を細めて口の端を吊り上げて凶悪に笑む。一瞬で肉屋の男との距離をつめ、腹に容赦ない蹴りを入れた。地面に倒れた男に跨ると、顔面に何度も拳を叩き込む。
「やめろ、僕は悪くない。コレクションを集めていただけだ、殺される理由なんてない!」
「泣いて命乞いをしてきたガキどもを、お前は助けたか?」
虎徹が喉の奥で嗤いながら拳を振り上げた。響が虎徹の腕を掴んで制止する。
「そこまでにしておけ、やりすぎだ、如月」
「止めるなよ、響。俺の部下に手を出したんだ。殴られても文句言えないだろ」
「相手はとんだ下種野郎だが、一応は人間だ。殺すといろいろ不味いだろう」
「妙な話だな、人間なら何やっても許されるなんて。そっちの妖怪は幇助していただけでお前に殺されたのにな」
「黙れ。この男を裁くのは俺達の仕事じゃねえって言ってるんだ。警察に引き渡せば、裁判にかけられ、然るべき罰を与えられる。テメーは裁判官じゃねえだろうが」
ギロリと響に睨まれた虎徹は嘲笑を浮かべて肩を竦めつつも、男から離れた。
「大丈夫か、光季。悪ぃな、助けんのが遅くなっちまって」
珍しく困り顔の陽平にベルトを解いてもらって、光季は調理台から身を起こした。
薬の影響か頭の中がグラリと揺れて、まっすぐ座っていられずによろけた。
「どうしたんだ、光季。何かされたのか?」
咄嗟に肩を支えてくれた響に顔を覗きこまれる。
滅多に聞かない不安げな響の声に、軽い吐き気がしていたが、光季は安心させようとニッと笑みを浮かべてみせた。
「大丈夫です、響さん。なんか薬打たれて眩暈がするだけですから。それより、なんで響さんがいるの?」
「水瀬の霊力をキャッチして、誰がどうやって救出に行くか話しあっている途中に、任務中の響隊に会っちまったんだよ。そしたら話を聞いたこいつが、お前を助けに行くって聞かなくてな。
しょうがないから、武志と美作を置いて、こいつを連れてきたわけだ。
まあ、人間も相手にするなら、容赦ない性格のこいつの方が、武志よりも適任だろうしな」
勝手に答えた虎徹を響が横目で睨みつけた。
相変わらず仲が悪い二人に光季は苦笑する。
外からサイレンが聞こえた。音が近付いている。
程なくして、警官が現場に駆けこんできた。気絶した男の手首に手錠がかけられる。
若い警官は犯人の惨状に一瞬だけぎょっとした顔をしたが、特にこちらを咎めずに敬礼をした。
「犯人確保。夜鴉のみなさん、捜査へのご協力感謝いたします。お怪我はありませんか?」
「妙な薬物を打たれた隊員がいますが、こちらで対応できます」
「そうですか。必要なことがあれば何でも言って下さい。我々は証拠品の応酬と現場検証を行っておりますので」
答えた響にキビキビと礼をすると、若い警官は忙しなく去っていった。
冷凍庫に保存された憐れな遺体の一部も、警察に押収されていずれは家族のもとに返されるだろう。
光季はほっと息を吐いて、立ちあがろうとした。
しかし、薬の所為で足に力が入らない。
「ムリすんなよ、光季。おんぶしてやっから」
陽平が光季の前に背中を向けてしゃがみこんだ。
同級生に背負われて帰るのはみっともないが、体がいうことを聞かない。
陽平の背中に乗ろうとした時、響に抱きあげられた。
「こいつは俺が連れていく。お前はあっちの女を連れてかえってやれ」
響が顎でしゃくった先で、沙奈が自分を抱えるようにして震えていた。
陽平が沙奈の傍にしゃがんで、優しく頭を撫でる。
「大丈夫か、沙奈」
「陽平。情けないけど、私、すごく怖かったの。ほんとに、怖かった……っ」
泣きながら沙奈が陽平に抱きついた。
陽平が幼子をあやすように華奢な背中をぽんぽんと叩いていた。
沙奈を苦しめているのは殺されそうになった恐怖だけではないだろう。
異常な犯罪者を前にして、得体の知れなさに怯えているのだろう。
頭の中に、冷凍庫にあった男の宝箱の中身が浮かんだ。
光季は頭の中に浮かんだ映像を追い出そうと、軽く頭を振る。
それでもなお、嫌な映像は頭を離れなかった。
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