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第五章 音無の村
苦悩
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吐いた息が白く宙に留まっている。今年はよく冷える。
まだ十一月だが、初雪が降るかもしれない。
光季はぼんやりと空を見上げた。
一昨日は特務で基地に泊まり込み、基地から登校して夜当番をこなした。
そしてそのまま登校し、放課後はまた基地に直行して陽平との対戦に明け暮れた。
つまり、三日連続で家に帰っていない。
いくら母が息子に対して甘くて怒らないとはいえ、さすがに好き放題しすぎたかもしれない。
光季は少しだけ反省していた。
それでも、世話焼きで心配性の割には放任主義の母なら平気だと呑気に構えていた。
「じゃあな、陽平。また明日。頑張って母ちゃん怒られてこいよ」
「オマエ人ごとだと思って。まあ気合い入れて怒られるわ。また明日な」
陽平と手を振って別れると、寒さに急きたてられるように光季は早足で帰った。
もう日付が変わる時間に近い。玄関の灯りが消えている。
両親はもう寝ているだろうか。
光季は音を立てないようにそっと家に入った。
廊下は真っ暗だった。奥の居間からは明かりが漏れている。
泥棒のようにこっそり入ってきて、声をかけ辛かった。
足音を忍ばせて洗面所に近付く。
居間のドアの隙間が開いていて、話し声が廊下に漏れてきた。
「光季を除隊させるべきよ!どうして、あの子が妖怪と戦うの?」
滅多に聞かない、母の荒々しい声に光季はギクリとする。
聞かない方がいいもう一人の自分がそう警告していた。
しかし、心とは裏腹に、接着剤で固定されたように、足の裏が床から離れない。
「美奈子、あの子は強い。式神でもやってけるほどだ、心配いらないさ」
両親に仕事の話をしたことはないし、彼らが夜鴉の仕事現場を見ることもない。
にも関わらず、光季が式神であることを両親が知っているのは、光季が地元チャンネルに何度か映ったことがあるからだろう。
夜鴉の活動費の多くは六堂市の税金で賄われているので、市民の理解を得るために地元のテレビや新聞などでたびたび夜鴉の活動が紹介されている。
メディアに露出するのは主にご当地アイドル部隊の一条隊や、夜鴉設立メンバーの会長の孫の要だが、強さを誇る如月隊もテレビや雑誌に取り上げられることがあった。
もっとも、武志の他は良識のある隊員がいないのでインタビュー面では役立たずで、もっぱら戦っている姿が映される。
その所為で、光季自身はテレビや雑誌に出たという実感がない。
「そうね。光季は強いわ」
呟く美奈子の声はプラスな内容に反して暗く、どこか棘を孕んでいた。
「霊力が強いせいであの子は妖怪に狙われるの。霊力なんてない、普通の子だったらよかったのに」
「やめなさい、美奈子。霊力が強いことも光季の才能の一つだ」
「たまらないのよ。いつも楽しそうに任務にでかけてくあの子を見るのが辛いの。私の気持ちも知らないで、楽しそうにして。あの子、ただ楽しくて戦ってるのよ!」
母の言っている事は正しかった。
きっかけは身を守る為だったが、今は楽しいからという理由で夜鴉の隊員を続けている。
そのことで母を苦しめているなんて思いもよらなかった。
罪悪感がじわりとこみ上げた。重い鉛が肺に詰まっているみたいで呼吸が苦しい。
肩で息をしながら、光季は逃げるように二階の自室に篭った。
おれは仕事を続けていていいのだろうか。
自問自答してみるが答えは出なかった。
いっそ、このまま目が覚めなければ悩まないのにと、珍しく深刻に考えた。
まだ十一月だが、初雪が降るかもしれない。
光季はぼんやりと空を見上げた。
一昨日は特務で基地に泊まり込み、基地から登校して夜当番をこなした。
そしてそのまま登校し、放課後はまた基地に直行して陽平との対戦に明け暮れた。
つまり、三日連続で家に帰っていない。
いくら母が息子に対して甘くて怒らないとはいえ、さすがに好き放題しすぎたかもしれない。
光季は少しだけ反省していた。
それでも、世話焼きで心配性の割には放任主義の母なら平気だと呑気に構えていた。
「じゃあな、陽平。また明日。頑張って母ちゃん怒られてこいよ」
「オマエ人ごとだと思って。まあ気合い入れて怒られるわ。また明日な」
陽平と手を振って別れると、寒さに急きたてられるように光季は早足で帰った。
もう日付が変わる時間に近い。玄関の灯りが消えている。
両親はもう寝ているだろうか。
光季は音を立てないようにそっと家に入った。
廊下は真っ暗だった。奥の居間からは明かりが漏れている。
泥棒のようにこっそり入ってきて、声をかけ辛かった。
足音を忍ばせて洗面所に近付く。
居間のドアの隙間が開いていて、話し声が廊下に漏れてきた。
「光季を除隊させるべきよ!どうして、あの子が妖怪と戦うの?」
滅多に聞かない、母の荒々しい声に光季はギクリとする。
聞かない方がいいもう一人の自分がそう警告していた。
しかし、心とは裏腹に、接着剤で固定されたように、足の裏が床から離れない。
「美奈子、あの子は強い。式神でもやってけるほどだ、心配いらないさ」
両親に仕事の話をしたことはないし、彼らが夜鴉の仕事現場を見ることもない。
にも関わらず、光季が式神であることを両親が知っているのは、光季が地元チャンネルに何度か映ったことがあるからだろう。
夜鴉の活動費の多くは六堂市の税金で賄われているので、市民の理解を得るために地元のテレビや新聞などでたびたび夜鴉の活動が紹介されている。
メディアに露出するのは主にご当地アイドル部隊の一条隊や、夜鴉設立メンバーの会長の孫の要だが、強さを誇る如月隊もテレビや雑誌に取り上げられることがあった。
もっとも、武志の他は良識のある隊員がいないのでインタビュー面では役立たずで、もっぱら戦っている姿が映される。
その所為で、光季自身はテレビや雑誌に出たという実感がない。
「そうね。光季は強いわ」
呟く美奈子の声はプラスな内容に反して暗く、どこか棘を孕んでいた。
「霊力が強いせいであの子は妖怪に狙われるの。霊力なんてない、普通の子だったらよかったのに」
「やめなさい、美奈子。霊力が強いことも光季の才能の一つだ」
「たまらないのよ。いつも楽しそうに任務にでかけてくあの子を見るのが辛いの。私の気持ちも知らないで、楽しそうにして。あの子、ただ楽しくて戦ってるのよ!」
母の言っている事は正しかった。
きっかけは身を守る為だったが、今は楽しいからという理由で夜鴉の隊員を続けている。
そのことで母を苦しめているなんて思いもよらなかった。
罪悪感がじわりとこみ上げた。重い鉛が肺に詰まっているみたいで呼吸が苦しい。
肩で息をしながら、光季は逃げるように二階の自室に篭った。
おれは仕事を続けていていいのだろうか。
自問自答してみるが答えは出なかった。
いっそ、このまま目が覚めなければ悩まないのにと、珍しく深刻に考えた。
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