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リスタート・リスタート
第22話 君がため
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帰ってきた自国の中心部にある大きな屋敷の大きな部屋で、高級なソファにどっかりと腰を下ろし、目の前で胡散臭く笑う腹黒貴族と2人、向かい合っていた。
「機嫌が悪いね、ロイ」
「当たり前だろ腹黒貴族。お前、あのタイミングで入ってくるか? 普通空気読むだろうが」
一緒にジェラルドの屋敷にやってきた元パーティメンバー達は、今は別室にいる。ここにいるのは、本当に俺とジェラルドだけだ。
「うむ。君が悲壮感漂う顔でプロポーズの真似事をしようとしていたから、私も仕方なく止めただけだよ。ロイのプロポーズがあんなに辛気臭くていいわけが無い」
「なんなんだよお前!」
プロポーズとか言うな。恥ずかしくなるだろう。
しかし実際、俺はミアにそう言うつもりだった。歳を取らないだとか子供だとか、そんなものは関係なくただ一生を隣で過ごそうと言うつもりだった。嘘偽りなく、君が好きだから共にいようと言うはずだった。こいつのせいで台無しになったが。まじで腹立つな。
「別に、ロイのミアに対する気持ちを疑うわけじゃないさ。ロイは押しに弱いからね。だが、そんな相思相愛のはずの君たちが、2人してこの世の終わりのような顔をするものだからつい、ね」
「うっせ.......」
共に歳を重ねることが出来ない。それが、一体どんなことか、ミアはもう知っている顔だった。俺と家族になれないと、子供を産めないからと泣いたあの声が、酷く耳に残って離れない。
自分に家庭願望があったのは認めるが、それがミアを傷つけるならそんなものドブに捨てる。みじん切りにでもしてやるつもりだ。
それなのに、そんな事でミアを傷つけ、まっすぐな好意を歪めた自分が、許せない。
「ロイ、勘違いしているようだね。ミアは別に、君の願望に応えられないだけで泣いて君の家族になれないと言っているわけではないよ」
「.......」
「彼女にもあるようだよ、家庭願望。子供が好きだと、さっき聞いてきた」
「おう、わかった俺と心中しようぜ」
じゃき、と愛刀を抜いてソファの前の机に足をかけた。
「正直、ロイに殺されるなら本望だ。5パターンは理想の斬られ方があるんだ、あぁ、どれにしようか迷うなぁ!」
「やべーやつかよ!!」
またドカッとソファに座り直した。
片手で口元を覆い、斜め下の高級そうな絨毯を睨みつける。
「ミアは、多少幼いが間違いなく心は27歳の女性だ。愛する者との子を成せない苦しみは、私達の世界ではよく聞く話さ。まあ、ミアと貴族達では事情が違うがね」
「.......どうしようもねえじゃねえか、それは」
「おや? 愛する者のためならなんでもするのが、英雄のはずだろう?」
「はっ、絵本の読みすぎだな、お貴族様。お前が思ってる英雄は、現実じゃただの百姓になれない乱暴者だ」
歳を取らない、体が成長しない。魔法でも医学でもどうにも出来ないそれを、ただの冒険者の俺にどうしろと言うのだ。ただ、隣に居るだけでは、ミアは泣き止まないのか。俺が彼女の気持ちに応えても、彼女の願いは叶わない。
「絵本も悪くないよ、ロイ。真実は、意外ときちんと伝わるものさ」
「あ?」
「ロイ、ダンジョンのドロップには、一定の法則がある。ダンジョンのできた時期、地形、地質、モンスターの質。それらから、ある程度ドロップアイテムの目星がつく。同じようなダンジョンからは、同じようなアイテムがドロップするんだ」
「俺じゃなくて学者に言えよ、ダンジョンオタク」
「英雄譚には、万能の薬は、健康な身体には不死の毒だとある。真っ赤な石だともね。.......では、不死の毒に犯された身体を治すのは何か?」
「.......」
赤い、石。
「英雄譚が書かれた頃から存在し、コクオウヘイカから聞いた赤い石がドロップしたダンジョンの特徴と合う未踏破ダンジョン。それは、もう1つしか残ってない」
「.......王都のダンジョンか?」
「いや、全然違うが? 見ればわかるだろ? 王都のダンジョンは別格だ、何が落ちるかなんて分かるものか」
「何キレてんだ」
だが、こいつの言いたいことはわかった。
「君が潜るべきなのは、隣国唯一の高レベルダンジョンだ。ああ、大きな方の隣国だよ。前まで戦争してた方さ」
「ちっ。入国めんどい方かよ」
冒険者パーティで入国するには、時間がかかるだろう。それに、何より。
ダンジョン踏破に、時間がかかる。
頭をかきながら、ソファを立った。腰の愛刀に手をやり、そっと唇を舐める。やれるな、俺。
この時、俺の精神状態は異常だった。
仲の悪い隣国で、何階層あるかも知れない高レベルダンジョンに1人で挑むなんて頭のおかしい行為を、本気でやろうとしたのだから。
「期待してるよ、私の英雄」
「お前のじゃねえっての。.......でも、ありがとな」
「正直前々から目をつけていたダンジョンなんだ。隣国だから後回しにしていたが、またロイが金に困ったら依頼しようと思っていたんだよ。まさかこんなに早く踏破してくれるとは! ああ、またこの世から未踏破ダンジョンが消える.......! 英雄譚に載るファーストドロップが見られるなんて、楽しみだよ!」
いい笑顔のジェラルドの手を取った。そのまま、ダンジョンの冒険者が仲間同士でやるように、ぱしん、と打ち合わせる。
ジェラルドは笑顔のまま固まっていた。
「帰ってきたら、この刀やるよ。10年連れ添った相棒なんだから、大事にしてくれよ、相棒」
「.......絵師を雇って裸体を描いていいかい.......」
「ダメに決まってんだろセクハラ野郎」
手を押さえて動かなくなった腹黒貴族を後ろに、出国手続きをしに行った。
「機嫌が悪いね、ロイ」
「当たり前だろ腹黒貴族。お前、あのタイミングで入ってくるか? 普通空気読むだろうが」
一緒にジェラルドの屋敷にやってきた元パーティメンバー達は、今は別室にいる。ここにいるのは、本当に俺とジェラルドだけだ。
「うむ。君が悲壮感漂う顔でプロポーズの真似事をしようとしていたから、私も仕方なく止めただけだよ。ロイのプロポーズがあんなに辛気臭くていいわけが無い」
「なんなんだよお前!」
プロポーズとか言うな。恥ずかしくなるだろう。
しかし実際、俺はミアにそう言うつもりだった。歳を取らないだとか子供だとか、そんなものは関係なくただ一生を隣で過ごそうと言うつもりだった。嘘偽りなく、君が好きだから共にいようと言うはずだった。こいつのせいで台無しになったが。まじで腹立つな。
「別に、ロイのミアに対する気持ちを疑うわけじゃないさ。ロイは押しに弱いからね。だが、そんな相思相愛のはずの君たちが、2人してこの世の終わりのような顔をするものだからつい、ね」
「うっせ.......」
共に歳を重ねることが出来ない。それが、一体どんなことか、ミアはもう知っている顔だった。俺と家族になれないと、子供を産めないからと泣いたあの声が、酷く耳に残って離れない。
自分に家庭願望があったのは認めるが、それがミアを傷つけるならそんなものドブに捨てる。みじん切りにでもしてやるつもりだ。
それなのに、そんな事でミアを傷つけ、まっすぐな好意を歪めた自分が、許せない。
「ロイ、勘違いしているようだね。ミアは別に、君の願望に応えられないだけで泣いて君の家族になれないと言っているわけではないよ」
「.......」
「彼女にもあるようだよ、家庭願望。子供が好きだと、さっき聞いてきた」
「おう、わかった俺と心中しようぜ」
じゃき、と愛刀を抜いてソファの前の机に足をかけた。
「正直、ロイに殺されるなら本望だ。5パターンは理想の斬られ方があるんだ、あぁ、どれにしようか迷うなぁ!」
「やべーやつかよ!!」
またドカッとソファに座り直した。
片手で口元を覆い、斜め下の高級そうな絨毯を睨みつける。
「ミアは、多少幼いが間違いなく心は27歳の女性だ。愛する者との子を成せない苦しみは、私達の世界ではよく聞く話さ。まあ、ミアと貴族達では事情が違うがね」
「.......どうしようもねえじゃねえか、それは」
「おや? 愛する者のためならなんでもするのが、英雄のはずだろう?」
「はっ、絵本の読みすぎだな、お貴族様。お前が思ってる英雄は、現実じゃただの百姓になれない乱暴者だ」
歳を取らない、体が成長しない。魔法でも医学でもどうにも出来ないそれを、ただの冒険者の俺にどうしろと言うのだ。ただ、隣に居るだけでは、ミアは泣き止まないのか。俺が彼女の気持ちに応えても、彼女の願いは叶わない。
「絵本も悪くないよ、ロイ。真実は、意外ときちんと伝わるものさ」
「あ?」
「ロイ、ダンジョンのドロップには、一定の法則がある。ダンジョンのできた時期、地形、地質、モンスターの質。それらから、ある程度ドロップアイテムの目星がつく。同じようなダンジョンからは、同じようなアイテムがドロップするんだ」
「俺じゃなくて学者に言えよ、ダンジョンオタク」
「英雄譚には、万能の薬は、健康な身体には不死の毒だとある。真っ赤な石だともね。.......では、不死の毒に犯された身体を治すのは何か?」
「.......」
赤い、石。
「英雄譚が書かれた頃から存在し、コクオウヘイカから聞いた赤い石がドロップしたダンジョンの特徴と合う未踏破ダンジョン。それは、もう1つしか残ってない」
「.......王都のダンジョンか?」
「いや、全然違うが? 見ればわかるだろ? 王都のダンジョンは別格だ、何が落ちるかなんて分かるものか」
「何キレてんだ」
だが、こいつの言いたいことはわかった。
「君が潜るべきなのは、隣国唯一の高レベルダンジョンだ。ああ、大きな方の隣国だよ。前まで戦争してた方さ」
「ちっ。入国めんどい方かよ」
冒険者パーティで入国するには、時間がかかるだろう。それに、何より。
ダンジョン踏破に、時間がかかる。
頭をかきながら、ソファを立った。腰の愛刀に手をやり、そっと唇を舐める。やれるな、俺。
この時、俺の精神状態は異常だった。
仲の悪い隣国で、何階層あるかも知れない高レベルダンジョンに1人で挑むなんて頭のおかしい行為を、本気でやろうとしたのだから。
「期待してるよ、私の英雄」
「お前のじゃねえっての。.......でも、ありがとな」
「正直前々から目をつけていたダンジョンなんだ。隣国だから後回しにしていたが、またロイが金に困ったら依頼しようと思っていたんだよ。まさかこんなに早く踏破してくれるとは! ああ、またこの世から未踏破ダンジョンが消える.......! 英雄譚に載るファーストドロップが見られるなんて、楽しみだよ!」
いい笑顔のジェラルドの手を取った。そのまま、ダンジョンの冒険者が仲間同士でやるように、ぱしん、と打ち合わせる。
ジェラルドは笑顔のまま固まっていた。
「帰ってきたら、この刀やるよ。10年連れ添った相棒なんだから、大事にしてくれよ、相棒」
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