狙われたその瞳

神名代洸

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展示会の準備は大忙しだった。
人の出入りも普段の倍近い。
そんな所にシュナイダーはやって来た。今日はラフな格好をしている。いつものビシッとした格好をしていない。

「リジー、こんにちわ。なんか忙しそうだね。」
「ええ、今ちょうど展示会の準備に追われてるのよ。もう猫の手でも借りたいくらいに忙しいわ。」
「じゃあ、俺も手伝おう。何をどこに運べばいい?」
「え?、でも…貴方仕事は?今日はいつもとは服が違うから私服刑事ってところかしら?」
「まぁ、そんな所かな?でも今日は仕事は休み。久し振りに休暇をとったんだ。もう何ヶ月も働き続けてきたからね。」
「まぁ、ならこんな所で体を動かしてないで自宅で休んだら?ここは力仕事が多いから。」
「それなら大丈夫だ。体は鍛えてるからね。」
「でも…。」「そう言ってくれるならない頼まれてはくれませんか?私はここの支配人のトムです。」
トムはリジーとシュナイダーとの会話に入り込んできた。仕事の話なのでシュナイダーは特に何も言わなかった。
「トム、彼は…私の友人のシュナイダー。」
「彼はトム。支配人で出資者のうちの1人よ。」
「はじめまして。シュナイダーです。」
「はじめまして。トムです。にしても意外だなぁ~。リジーがこんな感じのいい方と知り合いとは。」
「いえ、そんなことはないですよ。たまたま偶然知り合っただけですから。」そう言いながら茶目っ気を出して、片目でウインクをして見せた。
リジーは恥ずかしい反面嬉しくもあった。こんな素敵な男性と知り合えただけでなく、口説かれてるなんて。


いろんな作品がある中には写真もあった。
イラストだけではなかったんだとその時知った。写真は拡大されて展示されている。その中の一枚に気になるものが写っていたなんてリジーには話さなかったが…。

展示開催中の間、大勢見えて、大盛況のようだ。いろんな年代の人も見える。
その中に1人で歩いている男がいた。
ゆっくりと写真を見ている。
そしてその中の一枚の写真の前で止まった。ジッと見ていたが、やがて携帯を取り出しどこかに電話をかけているようだ。
そして、携帯を切ると売り物かどうかを確認した。
「すいません。これ買えますか?」
男性は係員にそう問いかける。係員は「ちょっとお待ちください。」と言ってその場を離れた。周りわキョロキョロ見て額に手をかけた。外そうとしているのかもしれない。
その様子を遠くからたまたまジッと見ていたシュナイダーはゆっくりと近寄っていく。
男は額が外れそうになるのを確認するとそこに係員がやってきた。
「はい、売り物だそうですよ。値段はこのくらいになります。」
男は値段を聞くと即決で買うといい出した。なおかつネガもあれば全部まとめて買うという。
慌てた係員はその場で携帯を出してどこかに電話話かけた。
しばらくはジッとしていた男だが、係員の電話の応対でネガは売れないというと掴みかかってきた。そこにシュナイダーがやってきて、男を取り押さえた。
「どこか怪我はないですか?」
「あっ、はい。ありがとうございます。どこも怪我してないので大丈夫です。」係員はそう言うと男から離れた。他の観客も大勢でこの様子を見ていたので、男は額をひっぺがすとその場から逃げ出した。
シュナイダーは男を追う。
まるで豹のようなしなやかな動きだ。
無駄がない。
一方男は額を片手に走っていた。その間を割るように車が一台滑り込んできた。
男はさっと乗り込むと車を急発進させた。
シュナイダーは追うのを諦め、車両ナンバーを記憶した。

会場に戻ったシュナイダーはリジーに話をしなければと考えていた。
あの写真はなんだったのかを聞かなくてはならない。男が必要とするほどのものならよほどのものに違いない。

リジーは無くなった写真をかけていたスペースに立っていた。放心状態のようだ。

「リジー、大丈夫かい?」
「え、ええ。大丈夫よ。でもこんな事一度も起きたことはなかったって聞いていたのに何で?」
「盗まれた写真のネガはあるかい?」
「ええ、あるわ。でもここには置いてないの。何かあったときの為に銀行の金庫室に預けてるわ。でも伸ばす前の写真ならここに。」
そう言って写真を一枚シュナイダーに渡した。
それは一枚の風景写真だった。
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