婚約破棄が国を滅ぼす ~そして誰もいなくなった~

みやび

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第八話 殺人という禁忌を最初に犯したのは

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王太子の婚約者リリスが護衛の女騎士に殺害されたのは、王立騎士団が敗北し、騎士団長が戦死したという報がとどいたその日のことであった。
下手人は騎士団長の一族に連なる女騎士であり、縁故と実力をもって、若くして王族関係者の護衛を行う小隊長になれる程度には有能であった。

彼女がリリスを殺した理由は家のプライドの問題であった。
騎士団長はこの反乱前後からいい所が何もない。
マリア殺害の時は、連絡の不徹底から王国騎士団第二騎士団のメンバーまで巻き込むこととなった上、不手際が重なり無実の学生を何人も殺害していた。
マリアの殺害は王家の総意であり、彼の責任ではないが、周りを多く巻き込んだのは実行犯であった彼の責任で会った。特に王国騎士団同士の殺し合いが発生した点は、非常に汚点になっており、王国騎士団内から離反者が出るほどの問題になっていた。

そして今回の敗戦は騎士団長の悪名を決定付ける。
遠征とはいえ、人数はほぼ同数。惜敗ならまだしも完敗であり、編成上1個軍を喪失した彼の責任は、戦死したことを差し引いても非常に大きかった。
無能、弱者しか殺せない卑怯者、王家に尻尾を振るだけの駄犬。
そんな批判が集まるのは当然予想できる事態だった。

そして、それは騎士団長の家にとっては許容できることではなかった。



これを払拭するためにするべきことは敵討ちであった。
武の家である以上、武に訴えるしかない。敵である者を武力によって殺害することでまだ誇る武があることを証明するのだ。
だが騎士団長家が両公国に何かするのは現状戦力不足である。現状のすぐにどうにかできるわけがない。
しかし、すぐに何かしないと悪名はどんどん高まっていってしまう。
そこで狙われたのが王太子とその婚約者リリスであった。

今回の騒動の元凶が王太子とリリスであることはだれも疑わない事実である。
とすれば騎士団長が死んだ原因が彼らにあると言ってもそう過言ではない。現に今回の事件はすべて二人の婚約破棄騒動の尻拭いなのだ。
敵討ちの相手としては都合が良い相手だった。
だからこそ、彼女はすぐに行動に移した。時間がたてば警戒されるし、警備から外される可能性も高い。
敗戦の報を聞いてすぐ、彼女は剣を抜き、護衛対象であるリリスを三度きり付けた。
リリスとしても、護衛している騎士に切りかかられることを想定していなかった。
三度目の斬撃で首を切り落とされ、息絶えるのであった。

その後、その娘は返り血も拭わずに王太子のところへと突撃する。
王太子の護衛に阻まれながらも、一太刀を顔に浴びせることに成功した彼女は、護衛に切り殺された。
王太子の顔には消えない傷が刻まれた。



この事件でガリア王家の勢力と権威の衰退は決定的となった。
たしかにプライドは命に優先するというのが貴族たちの考え方だ。
しかし100年を超える平和と教育により、殺人というのが如何に禁忌であるか、というのを王家は貴族や民に教え込んできた。
そのため、ここ数十年の間、こういった流血沙汰というのはめっきり減っていたのだ。
本来だったらこういうことは起きなかっただろう。
なんせ彼女が犯したのは禁忌である。しかし



第八話 殺人という禁忌を最初に犯したのは



王家であった。だからこそ、王家に対してその禁忌を犯すことを忌避するという概念が亡くなってしまったのだ。
この事件の後、騎士団に対しても粛清の嵐が吹き荒れる。
王家が騎士団そのものを信用できなくなってしまったためだ。信用できない武力勢力など使いようがないどころか、いつ反乱されるか恐れなくてはならなくなる。
だからこそ信用できない騎士を外し、信用できるものだけにしなければ、騎士団そのものが使えないという状況になったのだ。

しかしこの粛清は騎士団を決定的に弱体化させた。
騎士たちは皆戦う訓練を受けた者たちである。処刑するにもそれなりの武力が必要になるが、それを持っているのが騎士団なのであり、堂々巡りになりつつあった。
多くの者が逃げ出し、多くの者が殺し、殺された。
こうなってしまえばすでに戦闘集団としての価値はほとんどなくなってしまうのであった。



こうしてガリア王家は決定的に弱体化した。
それでは両公国が王家に代わるか、というとそんなこともないのであった。
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