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第九話  誰が味方で誰が敵か

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戦いでの勝利後、両公国もまたその中で内戦を始めた。
そもそも二つの公国同士、仲が良かったわけではないどころか、古い時代にはお互い戦争していたぐらい仲が悪かった。
しかし王権が増大していく中、大貴族二つが連携し生き残りを目指すために政略結婚が結ばれた。それがロクロア公とハーベリア公との婚姻であった。
そしてそれでも王権には対抗しきれなかったため、王国内の生き残りをかけた政略結婚が王太子とマリアの婚姻であった。
上位である王を抱けば、両公国同士は並ぶとはいえあくまで下の存在であり、多少の不平不満も王が裁定できる。
だからこそこの政略結婚は歓迎されたのだ。

そういった緻密な政略がすべて失われた後、残ったのはお互いへの憎しみであった。
ハーベリア公国側にとって、ロクロア公国側も敵に近い存在だった。
なんせ次期ハーベリア公であったマリアを養育していたのはロクロア公であり、それを守る責任があったにもかかわらずむざむざと殺されてしまった。
さらにロクロア公国側はそれなりの家臣がハーベリア公国を見捨てて王家に付こうとしていた時期があった。
ハーベリア公国側にとって下手すると王家よりも恨む対象であった。
しかしロクロア公国側も、王家との折衝やマリアの教育など手間を統べて押し付けて、王家の下で並ぼうとしていたハーベリア公国側にもともと恨みが多かった。

王家に討伐されかねないという状況から共に兵を起こしたが所詮呉越同舟。
対立の火種はいくらでもあったのだ。
劣勢ならばまとまったまましばらくやれただろうが、ここで予想以上の大勝利を収めた両国は、気を良くした成果小競り合いを始めてしまい、内戦に発展した。

そうして両公国内戦が、ガリア王国内乱中に波及した。
その波及したきっかけは何だったのか、そしてどのように推移したのか、後世の資料からでは全く把握できないほどの混乱が生じた内乱であった。
これの厄介なところは誰がどちらについていると簡単に色分けができない状態になっていたことだ。
元々二つの公国であったとはいえ、家臣同士の交流、婚姻も盛んにおこなわれ、一体化しようとしていたため、元ハーベリア公国家臣だがロクロア公国よりの家臣や、その逆の家臣といったものがいくらでもいる状況だった。
そして各貴族家の利害関係も絡み、複雑な様相を呈した内戦が広がっていくのであった。

混乱が混乱を呼び、



第九話  誰が味方で誰が敵か



それすらわからない内戦が始まり、両公国も急速に弱体化していくのだった。




王国側は内戦を起こした両公国の弱体化をついて討伐する、なんてことができる余力は当然なかった。
そんな余力があれば両公国も内戦なんてしていない。
外部から見ても内部から見てもそんな力が残っていないのは明らかだった。

武力的に見れば、精鋭と謳われた王国騎士団は既にボロボロである。
第一騎士団は粛清を繰り返し上層部はほとんどいなくなった上に数も半分に
第二騎士団はそもそも団長をはじめとして大量離脱が起きていたうえ粛清に巻き込まれ上層部は壊滅状態で数も半分に
唯一ほとんど無事だったのが第三騎士団だが、不穏な情勢で慣れない警備に全軍駆り出されていた。

官僚組織もボロボロである。
宰相は嫡子をマリアの粛清時に殺されており、喪に服すと言って勝手に出仕を止めていた。
そのせいで行政にも多大な影響が出ており完全に機能不全になっている。
そのタイミングで時期宰相を巡って暗躍まで始まり、足の引っ張り合いでさらにひどいことになっていた。
相次ぐ粛清劇に王都民たちも戦乱を察して逃げ出し始めており、経済的にもガリア王国側は追い詰められていた。

しかしそんななかでガリア王国は両公国討伐遠征をおこなうと発表した。
王太子は警備は第一第二騎士団に任せればよい、人数は半分になったが二軍合わせれば数は十分であり、警備は可能だという主張をし、強引に第三騎士団を送り出したのだ。

第三騎士団が全力出撃をすれば確かに両公国軍を打ち破るのは可能であろう。
そして残存する第一、第二騎士団を全員併せれば人数的には王都警護には十分だろう。
しかしそれはあくまで数でしかない。警護というのは高度な連携が必要なのだ。

例えば王太子の警備を考えてみよう。
王宮内で移動するだけでも、どこをどう通って、どこが危険で、何かが起きたときに誰が残り誰が移動するか。
そういったことを全て計算しないと警護などできないのだ。
剣を振り回す暴漢に警備の人間全員で対応して、後から護衛対象が刺されたら意味が無いのだ。

そして、こういった高度な連携をするために士官や将がいるのだ。
それを失った軍等、ただの烏合の衆でしかなかった。



第三騎士団が王都から出撃して3日後。
王太子が暗殺された。

真実の愛に縛られ、リリス以外との婚姻を認めないと教会に言われていた彼は、リリスの死亡により血筋を繋げないことが確定してしまった。
実際は10年20年と経ち、ほとぼりが冷めたころに教会と交渉すればどうにかなったかもしれない。
しかし教会側は再婚を認めないと発表していたし、それを真に受けた多くの者が王位を狙って動き出したのだ。
なんせすでに王朝の断絶の危機であり、ここでうまく立ち回れば新しい王朝を立ち上げられる。周りの者たちはそう考えたのだ。
 
厳重な警備をかいくぐり、などと後世謳われることがある。
だが、実情を見れば人数が多いだけの烏合の衆に囲まれていただけに過ぎない。
誰が誰か、どこに誰がいるか、誰も把握しないまま、何も知らずに警備に立っていた兵ばかりであり、暗殺者が警備の兵として混じっていたことすらわからないほど混乱した状況であり、物音がすれば周囲の兵が皆集まってしまうほど連携の取れていない警備であった。
そのため暗殺は容易であったのだろう。
白昼堂々、何度も切り付けられた王太子の死体が発見されると言った始末であった。
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