姉と婚約していた王太子が婚約破棄して私を王妃にすると叫んでいますが、私は姉が大好きなシスコンです

みやび

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1 婚約破棄

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「アルテミア、貴様との婚約を破棄する!!」

王立学園の卒業式において、王太子がそう宣言した。
周りは何が起きているのかわからずにあっけにとられている。
あくまで今は卒業式であり、そういう学園と関係ないことをするタイミングではない。
通常なら何らかの処罰も当然の暴挙だが、それをしたのが王太子とその取り巻きである高位貴族の子息たちであったゆえに教師たちも止めるのに二の足を踏んでしまった。

壇上に上がり、興奮する王太子とその取り巻き達。
部外者が見ればはた迷惑な茶番なだけで、嵐が通り過ぎるまで目をそらしていれば済むのだろうが、残念ながら私はそんな風にじっとしていることが許されない数少ない関係者である。
なんせ婚約破棄されたリーリア公令嬢アルテミアは、私の姉なのだから。

姉は王太子たちを見つめている。
少し困ったように眉を顰めて王太子たちを睨んでいるように見える姿もまたとても美しい人だ。
月に例えられる姉の外見からいって、若干冷徹そうに、また、あまり困ってなさそうに客観的には見えるだろう。
だが、生まれてからずっと一緒だった私にはわかる。
姉は無茶苦茶困っている。ついでに怖がっていて、大声を出した王太子から怖くて目が離せずに固まっているだけである。
きっと内心は早く帰りたいと思っている。今必死にペットの白猫のシロ(姉命名。相変わらずネーミングセンスがない)を脳内で撫でて平静を保とうとしているのまで私にはわかった。

私は下級生の席の一番後ろに座っていたのが災いして、姉のところにたどり着くまでかなり距離がある。何人かに避けてもらわないといけないため移動に手間取ってしまう。
というか校長はじめだれか別室に連れて行けよ。学園側はせっかくの卒業式を邪魔されてるんだから部外者じゃないだろ。
そんな苛立ちを覚える中、王太子もまた反応の薄い姉にしびれを切らしたのだろう。
一方的にまくしたてるように王太子は話を続けはじめた。

「貴様は権力を笠に着て、成績の改ざんを行っている。立派な不正行為でありそれだけでも重罪だ!」
「そもそも私たちより成績が上なんてありえないでしょう」

王太子の言に取り巻き達が追従する。
姉の学年は姉が首席であったが、それと王太子とゆかいな仲間たちが首席をとれなかったのは全く関係ないだろう。
王立学園の授業は任意参加とはいえ出席しなければ考査でよい成績は出せない。
王太子たちは授業にはほとんど出ておらず、遊び惚けていたのだから当たり前だが成績は下から数えた方が早い。

まあ姉も姉で問題のある人だから、そう思われてもしょうがないところはないではない。
なんせ姉はまじめには出席していたが授業の時一切何もメモなどを取っていなかった。
ただぼけーっと聞いているだけにしか見えない姿を見て、それでいながら考査では最高得点を取っていくのだから不正を疑う気持ちはわかる。
最期の一年は私の指示でノートをつけるふりをしていたらしいが付け焼刃だっただろう。
ちなみにノートに記載されていたのは授業と全く関係ない女性同士の同性愛の恋愛小説だった。
挿絵まで入っている力作だが、それを読んだのは私とうちの侍女たちぐらいだからばれてはいないはずだ。

そんなことをしていても姉は学園の並み居る秀才たちを押しのけて首席を維持していた。
単純に言って天才なのである。あらゆる学問分野において才能を発揮する姉は、しかし日常ではポンコツ極まりない。
マナーなんかもすべて頭に入っていて、実践もできるのだが放置すると一切何もやらない。
着替えもせずにただただ何かを書いているか、私と猫を愛でるかのどちらかしかしないのだ。
そんなダメな姉を必死に調教したのが私である。
天才である姉は、しかしその知識の使い方がいまいちわかっていない上に、他人の感情を察せられない欠点がある。それを察せられるようにするというのは、姉にとっては負担が大きいと判断し、行動パターン、対応パターンを私が作り姉に教えたのだ。
普通に考えれば膨大なパターンを覚える方が大変だが、姉にとっては他人の感情というものを少なすぎる情報から察するよりよほど楽だったらしく、最低限人間らしい行動がとれるようになったようだ。
もっともそれは外向きだけであり、家にいるときはもとのポンコツのままだが。

そんな姉だから、今の突発的な事件には困り切っているだろう。
卒業式で想定して作られたパターンの中に、王太子から突然婚約破棄される、なんていうものはなかったのだから。
王太子がつらつらと捏造された姉の罪を叫んでいる。
ざわつく下級生の席からなかなか抜け出せない私は、それでもどうにかよろよろと姉の方に向かい歩いていく。
一度振り向いて、私と目を合わせた姉は、また王太子を睨むように見始める。
きっと姉は、妹が助けに来てくれる! と思いながら必死に頑張って立っているのだろう。

「さらに、貴様は私の最愛たるアンジェを苛め抜くなどというありえないことをしているのもわかっている!」
「血のつながった妹をいじめるなんて本当に極悪だよね!」

そんな中、私、アンジェリーナの愛称をなぜか王太子が愛するとつけて呼ぶ。
全く意味が分からないが、ひとまず姉のところまでいかないと。
そうして私はどうにか姉の隣にたどり着き、姉の手を握ったのだった。
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