TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました

みやび

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第一章 男爵領の平和な日々と突然訪れる困難

5 知らなかったこと

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 ボクと母が襲われた日の夜に家族会議が開かれました。
 暗殺騒ぎについての説明を義父が明日皆の前でしないといけないので、その準備も兼ねています。

 机を囲んでそれぞれの様子を窺った感じとして、義父と母は事情を察しているようですが、義兄はわかっていないようです。
 ボクだけ事情を知らないとかだとボッチになるので寂しかったですが、義兄も仲間だったので少し安心しています。

 義父と母が並んで机の向こうに座り、ボクは義兄の膝の上に座らされます。
 怪我をしたと聞いて、義兄のシスコンが爆発していて、とても逃げられない状況です。
 結局怪我は表面的な切り傷だけですし、母の治療のおかげですぐに治りそうなのですが…… 義兄は聞いてくれません。
 帰ってからずっとお姫様抱っこでしたし、夕食はあーんで食べさせられました。右手は怪我してないから食事に問題ないのに……
 まあ義兄のシスコンは昔からなので置いておきましょう。両親も多少呆れてますが気にしていませんし。


「で、どこから聞いたらいいでしょうか。まずはなんで暗殺事件なんか起きたか、ですかね」
「そうね、かなり長くなるだろうけど、聞いてちょうだい」


 そう言って母が話しだしました。


「まず、アーシェちゃんの父親は、帝国の皇子だったの」
「帝国?」


 ボクは首をかしげます。
 前世知識の帝国というものは知っていますが、こちらでは全く聞いたことがない単語でした。


「王の中の王である、皇帝が世界を支配する、というのが建前としてあるのよ。そんな皇帝の血族が今も残っていて、皇帝の血を引くものは皇子、皇女と言われるわけ」
「じゃあボクも皇女ということですか」
「そう言うことね。ただ、歴史が始まったときからあるといわれる血筋だけど、大陸全土を支配していたなんてとても昔のことで、今では古都と呼ばれる大陸の中心部の狭い領地しか持っていない、権威だけの一族ね」
「偉いのか偉くないのかわからないレベルですね……」


 古代超帝国の末裔、と言われればすごそうには聞こえるが、よくよく聞けばあくまですごそうに聞こえるだけです。もちろん建前と権威をうまく使えばいろいろできそうですが、下手に動くと大変なことになりそうです。
 裏付けとなる実力がないわけですから、暴発した連中に暗殺されたり討伐されたり…… などということが起こりえるわけです。


「帝国がすごくて没落しているのはわかりましたが、その血を引いているとなんで暗殺されそうになるんです?」


 血筋はわかりましたが、次の疑問はこれです。
 権威のためには由来も大事でしょうが、それ以外にも大事なことはいっぱいあるはずです。
 血筋があっても、それ以外山猿レベルのボクはとても権威として利用できる存在とは思えません。
 わざわざ相手の本拠地に乗り込んでまで殺そうとする理由がボクにはわかりませんでした。
 そんな疑問に義父が答えます。


「おそらくそれは、アーシェが竜人だからだろう」
「竜人だと何かあるんですか?」
「帝国の初代は竜皇帝、竜人だったんだ。そして、帝国の節目節目の時に、竜人の皇帝が現れる。だから、帝国は竜人の皇族を重視してるんだ」
「めんどくさいですね。竜人だからって特にすごいわけではないと思いますよ」


 確かに、竜人は純人と比べれば優れている点は多い。
 身体能力は高いし、体も丈夫です。だが優れているのはせいぜいそういったフィジカル面での有利しかありません。
 それも極端に高いわけでもないです。大人のフル装備の兵士3人と戦って勝てるほどではないわけです。これがもっと大規模な戦いになれば、個人の能力など簡単に埋もれてしまいます。
 そんなニュアンスを込めて唇を尖らせると、義父は苦笑しました。


「人は過去に囚われ、夢を見るんだよ。アーシェではなくて歴代の偉大な皇帝を見ているのさ。それで、ポッと出の人間においしいポジションをかっさらわれては大変だと暗殺者を送ってきたんだろう」
「単なる迷惑ですね……」


 こんなことがなければ、ボクはきっとこの村で一生を終えていたと思う。
 別に贅沢がしたいわけではないし、大変なことは多いがそれなりに幸せだったからだ。
 だが、こんなことが起きれば、もう何もしないわけにはいかない。
 上位者がにらみを利かせているわけではないこんな世の中じゃ、舐められたら終わりなのだ。
 何もしないなんて選択を取れば、このままいいようにやられ続けかねない。だからこそ、こちらからも動く必要があるし、相手もさらに過激な動きをするかもしれない。失敗したことは、暗殺者たちを始末した見張りから伝わっているだろうし……


「あとお母様の聖女って何ですか?」
「帝国国教のフィリア教の地位の一つよ。女性聖職者の結構高い冠位ね。だからアーシェちゃんは皇子と聖女の娘っていうこと。帝国の方で何が起きているかわからないけど、聖女になりたい人でも出たせいで私も邪魔になったんでしょうね」


 なんというか、ごちゃごちゃしてわかりにくいな、と思います。
 結局分かったのは、ボクが由緒正しい血筋だということぐらいで、そのせいで狙われているのだろう、という話です。


「で、誰が指示したかが一番重要ですが……」
「今のところはわからないわね。だけど、すぐに向こうも動き始めるからわかると思うわ」
「じゃあ情報収集が大事ですね」


 現場にもいろいろ残っていたと聞いています。
 そういったものから相手を特定するのは難しくないでしょうし、それが出来なくても相手側がまた仕掛けてくるだろうことは容易に想像できます。ここでへたれてやめるぐらいなら、最初からしていないでしょうし、ここでやめたら外部にはわからなくても内部から弱腰と非難されかねません。なので、相手が動き始めたことを見つけるための情報収集が必要不可欠です。


「そのあたりは私の方で動くから、アーシェは安静にしていなさい」
「はーい」


 義父がそういうなら、少しゆっくりしよう。幸い畑の方もあまり手がかからない時期だし。
 ついでに剣や魔法の勉強ももう少ししようと決意します。3人に勝てるぐらいにはなりたいところですし。


「じゃあお話終わりましたし、お義兄さま、一緒に寝ましょ」
「ちょっとアーシェ、いやそれはちょっと……」
「ということでお母さまはお義父さまと仲良く寝てください。おやすみなさい」
「あらあら、母親離れかしら、寂しいわ」
「それはお義父さまに慰めてもらってくださいな」


 なんとなく話は分かったので、もう寝ることにします。
 普段はボクは母と一緒に寝ています。あのフカフカおっぱいに埋もれて寝るのは最高に気持ちいいのです。
 ですが、こんな命がけなことがあった以上、母も慰めてもらったほうがいいと思うのです。そういうことができるのは、うちでは義父だけでしょう。
 だから二人の邪魔にならないように、でも一人で寝るのは寂しいですから義兄を連れて出てきたところです。

 二人でイチャイチャしてもらって、弟か妹が出来ればいいな、とか思いながら、ボクは義兄の部屋に転がり込みました。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「男と二人きりにもうちょっと危機感を持ちなさい」
「大丈夫ですよ、お義兄さまですし」
「私も男なんだけどなぁ」
「お母さまも命の危機だったんですから、お義父さまに甘える必要がありますし、そうするとボクはお義兄さまに甘えたいのですよ」


 正直、初めての命のやり取りのストレスはとんでもないレベルでした。
 なんとなく頭はボーっとしていますし、体は緊張が解けなくて火照りっぱなしですし、ここで一人になったら自分がどうなってしまうか本当にわかりません。
 でも母も同じ状況だと思うと頼りがたく、遠慮なく義兄に甘える選択をしたボクはそう間違っているとは思いません。

 何にしろ疲れているのは間違いないので、義兄のベッドに飛び乗ります。男性の匂いが染みついていて臭いですね。でもなれた匂いで落ち着きます。


「はー、くっさ」
「人のベッドを勝手に占領してその言い草……」
「ほら、お義兄さまも一緒に寝ましょ。あーしぇ、さびしいの」
「今更取り繕っても気持ち悪いだけですよ」
「でもかわいい妹でしょ?」
「まったく、男相手なんだからもっと警戒しなさい」
「大丈夫ですよ」


 近づいてきた義兄の手を取り引くと、義兄はそのままボクの上にのしかかってきました。


「わかってますから、おっぱいでも揉みます?」
「アーシェ?」
「大丈夫ですよ、お義兄様にならなにされても」


 義兄がボクに対してそれなりの感情を抱いているのは察しています。
 理性的な義兄ですから、手を出してこない可能性の方が高いと思いますが、まあ、出されてもいいかなと思う程度にはボクも義兄が好きなわけでして。
 命のやり取りの後は滾ると聞いていますし、今の状態がどこまで発情状態なのか、未通女なボクにはわかりませんが正直結構持て余している感覚があります。で、そう言うことするなら、相手は義兄一択だなーと頭のどこかで思ってるんですよ。

 だから正直、信頼半分、手を出してほしい気持ち半分ぐらいです。大丈夫というのは、手を出さないでしょう、という意味ではなく、手を出してもいいという意味だと、義兄にもやっと伝わったのではないでしょうか。
 この前まで我慢できる、ぐらいのレベルだったのがかなりちょろいな、と自分でも思います。
 ギュっと抱き着いて、尻尾を義兄の腰に巻き付けます。雄臭い匂いが鼻に直撃して、くらくらしてしまいます。これはやばいですね。
 おでこを義兄の胸にぐりぐりしていると、義兄はボクの頭を撫で始めました。


「そう言うのは、もうちょっと大きくなったらな」
「むー まあいいです。母にもまだ早いって言われてましたし。でもおっぱい揉んでもいいですよ」
「それはやめとくよ」


 確かに少しでも始めると我慢できなくなりそうですし、義兄の方が冷静なようです。
 暫く義兄に抱き着いていると、眠気が強くなっていきます。ボクはそのまま、義兄に抱き着いたまま、夢の世界へと旅立ったのでした。
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