TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました

みやび

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第一章 男爵領の平和な日々と突然訪れる困難

8 前哨戦

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 辺境伯軍が出発したのは、予定通り会議から半月後でした。
 当初500程度ではないかと思われていましたが、どうにか色々集めたのか、総勢1000程度という、かなり大所帯になっていたと聞いています。

 軍の移動というのは普通の一人旅と比べれば圧倒的に遅いものです。
 各自が自分のペースで移動したら、足の速い遅いでバラバラになってしまいます。なので、一番遅い人に合わせて同じペースで移動するため移動速度自体がまず遅かったりします。
 それに加えて、出発時の確認や宿泊場所での設営なども加えれば、移動する時間も一人旅や少数の旅に比べると圧倒的に短いわけで、そう言うもろもろを考えると行軍というものは非常にペースが遅いといえるでしょう。



 辺境軍出発の少し前に、ボクは近隣の弓が上手い人達、基本的には猟師さんですが、そういった人達と一緒に一番辺境伯の町に近い村に到着しました。
 既に村にはボク達以外誰も居ません。既に近隣の村やウチの村に避難しています。
 めぼしい家財も根こそぎ持っていかれているため、どの建物もがらんとしており、ボク達は男女に分かれてそれぞれのグループが気に入った家を借りて泊って辺境伯軍を待っていました。


 目的はもちろん、敵軍へのハラスメント、嫌がらせのためです。
 ボクが狙われている以上、こうやって村の外に出るのは危ないという反対もありましたが、押し切って外に出てきています。ずっと村にいると巻き込まれた別の村の人たちを中心に反感が起きそうなのもありましたし、移動している限り場所を把握されにくいわけです。
 周りにも仲間がいますし、ボク自身も大小2本の剣を持ち歩く完全装備ですから、前回の暗殺未遂事件の時と違ってそうそう遅れも取らないでしょう。
 そんな事情もあり、襲撃部隊の一応リーダーということで出ているボクは、監視役の人と会って状況を聞くことになります。


「辺境軍は出発しました。このペースならば明日の夜にはこの村にたどり着くでしょう」
「ありがとうございます。監視を引き続きお願いします」


 そう言うと、監視役の人はまた監視に戻っていきます。
 3人1グループで、交代に報告に来てくれる予定です。安全第一で、情報より命を優先するようお願いしているので、上手く情報が入らない可能性を心配していましたが、どうやら今のところは上手くいっているようです。
 なんにしろ報告を受けたボクたちは、予定の場所へと移動を開始するのでした。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 辺境伯の領地のさらに外、本当にド田舎な、名もなきこの辺りの地域は、非常に森と川の多い地域です。起伏もあり、決して移動がしやすい場所ではないですが、移動のための街道は比較的整備されています。
 つまり想定される進路、道以外の道を通るのは一部の例外を除けば難しい地域です。

 ボク達はその例外であるけもの道を通り、街道の近くにある崖の上に到着しました。
 回り道しないと出られない崖の上、崖の下の街道を悠々と歩く軍隊。まああとは簡単です。


「撃て~!!!」
「敵襲だー!?」


 猟師の皆さんが矢を射かけたのです。


「上だ! 上から撃ってくるぞ!!」
「ぐわー!!」


 当然崖の下は阿鼻叫喚となりました。前に進んで逃げようとする者、後ろに進んで逃げようとする者、崖を上ろうとする者、皆が統率なく動くものですから混乱は拡大していきます。
 射かけられる矢は石の矢尻で作った即席のモノで、威力はそこまでありません。
 対熊用の矢尻を使えば鉄鎧でも一撃でぶち抜けますが、高級品で気軽にポンポン射かけられるわけではありません。軍隊に射かけてしまえば回収も難しいですしね。
 ですから、気軽にガンガン射かけられるように、石製の矢尻の矢を作りました。子供たちが一生懸命河原で磨いてくれた代物です。
 とはいえ、ほとんどの人が使っている弓は対熊用の大弓なので、切れ味の悪い矢尻でもかなりの威力が出ていました。

 一方的に攻撃されるという状況の影響も大きいのでしょう。
 どんどん混乱が広がり、こちらに対処しようと一部の兵士たちが移動し始めるのが見えます。
 ですが、崖の上に回り込むにはかなり時間がかかります。土地勘がなさそうな彼らではこちらに来るのにはかなり時間がかかるでしょう。


「じゃあ撤退しますよ~」
「「「「了解」」」」」


 そしてほとんど矢を打ち切ったボク達は悠々と撤退します。
 ちなみに皆が矢を射ている間、ボクの仕事は周囲の状況確認です。
 ボクは弓矢つかえないんですよね。胸が大きすぎて弦がつっかえるのです。一度試しに弓を引いた時は、弦が横乳にヒットして捥げるかと思うぐらい痛かったです。
 現に弓を射ている女性の皆さんは、みな品性のあるお胸をしています。素晴らしいですね。希少価値です。

 補充の矢は人がいなくなった3つの村の中に作った拠点に残っていますので、そこでまた補給をして再度嫌がらせをする予定です。
 特に追撃もなく、ボクたちはまた身を隠し、補給のために移動をするのでした。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 辺境伯軍にハラスメント攻撃をしているのはボク達だけではありません。
 何をするかは各村にお任せしていますので、詳細はわかりませんが、少なくとも会議の時にボクにいやらしいことを言っていたおじいさんの村の人たちは非常に積極的に動いているようです。

 この前は兵糧を集めていた場所に夜襲を仕掛け、ごっそりと食料品を奪ってきたとのことです。おすそ分けとして、ボク達の拠点にも見たことがないお酒が届いていました。
 辺境伯のためのお酒でしょうか。ガラスでとてもきれいでした。

 他にも補給のための輜重隊に襲い掛かろうとするところもあるようで、辺境伯軍は四苦八苦しており、進軍速度が目に見えて落ちています。
 最初の村まではおそらく予定で2日程度だったと思いますが3日かかっており、次の村までもさらに2日程度の予定だったでしょうか、6日かかっています。
 最初のような失敗を繰り返さないように偵察をかなり出していますが、そのせいで遅くなったりしており、また、少数の偵察隊も装備を狙われ少なくない数を襲われています。
 一方こちらの被害は、ボク達のところは怪我をする人はいますがそれ以上の被害は出ていません。こちらに有利な地形から矢を射るだけですから、早々相手の反撃を受けるようなことはありません。
 あとは偵察部隊を襲うときに怪我をする程度でしょうか。
 基本猟師の皆さんは弓を使う人たちなので、偵察部隊、特に騎馬兵を倒すのはボクのお仕事です。熊殺しで馬を射抜いてもらえば猟師皆さんだけで少数の部隊程度なら倒せるのですが、馬がもったいないのでボクが上の人をぶん殴って倒しているわけです。

 今回はボクもちゃんとぶっとい鉄の塊みたいな剣、斬馬刀を持ってきているので騎兵でもそうそう苦戦はしません。相手が持っている片手剣や片手槍に比べればリーチがこちらの方が長いですからね。
 ツッコんでくるところを飛びあがりながらうまく躱して、横降りで乗っている人をぶん殴ればミッションコンプリートです。
 このおかげで馬が3頭も手に入りましたが、最近はこちらを見かけると偵察部隊の方は逃げて行ってしまいます。どうやら対応されてしまったようです。

 他の村で各々動いている方はどこまで被害が出ているかわかりません。略奪紛いのことをしている以上、そうそう無傷とはいかないでしょう。

 全体としてこれらの攻撃で辺境伯軍に与えられている数的損害はそう多くはないと思われます。
 ですが休むこともできず、食料にも不安があり、といった状況での行軍は確実に士気と戦闘能力を下げているでしょう。



 ただ、ハラスメント部隊の方も、消耗以外の意味で色々大変なことになっています。

 やはり戦闘行為をするといろいろ滾ってくるわけです。
 最初の方は皆我慢してましたが、戦闘を専門にしている人たちではないので、すぐに我慢しきれなくなってまあひどい状況です。
 カップルや夫婦はこそっと抜けて村の拠点以外の空き家でギシアンです。
 男女のカップルだけでなく、男性同士、女性同士も発生して何組も新しいカップルができているようです。ボク達はいろんな村から手伝いに来てもらっている混成部隊なので、出会いの場としても機能してしまったようですね。

 一方で乱交状態になっている人たちもいます。男女数人ずつでやりたい放題はさすがにやり過ぎ感がありますが、まあそういうのが好きな人もいるようです。
 本人が良しとしているならまあ止めないでおきます。


 そしてボクはというとまあお姉さま方にかわいがられています。

 最初、ボクは一人隅っこで悶々としていました。義兄が居ればいろいろ襲い掛かっていたでしょうが、残念ながら義兄はうちの村の方で決戦のための準備をしています。だからボクにお相手がいないわけです。
 かといって義兄でぎりぎりですから、その辺の男に抱かれるなんてマジで無理です。
 なのでどうしようもなく、ご飯を食べて寝ているだけだったのですが、同性に興味のあるお姉さま方に夜這いされて、いろいろされてしまいました。
 どうやら猟師の皆さんは品の良いお胸をされていますので、ボクの我儘で豊満な胸部に興味があったようです。結論だけ言えば、とても楽しい体験でしたが、義兄にはちょっと言いがたいものになりました。



 そんなボクの体験は置いておきまして、結局辺境伯軍がボク達の村の近くにたどり着いたのは2週間以上後になりました。予定は1週間程度だったでしょうから、結構消耗は激しそうです。
 とはいえ、辺境伯軍は嫌がらせを受けていただけで、戦いで負けているわけでもありません。この時点で撤退の選択肢もないでしょう。
 決戦の時が近づいていました。
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