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第三章 帝国内乱
1 近づく戦争の気配
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ロイヘン公領での授与式の後すぐ、帝国宰相ロイヘン公ヴァレリー閣下から、皇帝選定の機を2月後にすること及びドラゴニア公アンジェリーナが皇帝に立候補することの通達状が正式に出された。
うちの竜騎士を使って配達をしたから、明日にでも帝国全土に回るだろう。
同時に、皇太子の召喚状や告発文に対する反論状を、勝手に通達状と一緒に届けている。
うちの竜騎士を無料で使っていいという条件で配っているのだ。通達状だけでは効率が悪いので、他の手紙も一緒に送っており、その中に反論状も混じっているだけである。
そんな小手先のことをしながら、ボクたちはアンゼルム宮中伯領へと戻っていた。
皇太子軍が討伐としてこちらに来そうだからである。
反論状で召喚を明確に拒否したことから、それを大義名分にして攻めてくるだろう。
食料や武器の準備をしていることは既に懇意のバッソ商人からも情報が入っている。
ただ、動員があまりスムーズに進んでいないことまで掴んでいる。
今回の魔王討伐に協力していたバッソ商人含めた都市国家商人たちは支払いを拒否した帝国への協力を一斉に止め、一部は帝都の支店を引き払い始めている。
帝国自体大きく、また侵攻するのはアンゼルム宮中伯領という帝都から近い場所なので、食料はそう必要ない。帝都に流通している食料だけで、アンセルム宮中伯領まである程度の数は移動できるだろう。
しかし武具は厳しいだろう。帝都近辺でも武具の生産はそれなりに行われているが、最近まで魔王討伐のため、そちらに送っていただろうから在庫なんてすっからかんだろう。
そして、魔王討伐に使っていた中古品は討伐に参加していた諸侯の手元の他は、バッソ商人を中心とした都市連合の商人が握っている。彼らを敵に回した皇太子軍は、武具の調達に苦労しているだろう。
さらに近衛騎士団長を幽閉したせいで、討伐参加者たちは動けなくなってしまった。トップを失った軍など烏合の衆だ。動員に苦労するのは容易に想像できた。
もっともこちらに有利なのはここまでだ。
皇太子たちの征伐軍は数字では1万を超えるはずである。
皇太子の親衛隊3000を筆頭に、皇太子派の諸侯がへたをすると1万以上集まるかもしれない。
対してこちらはうちの騎士団800弱と、ゼルのところの軍4000弱、あとはヴァイザッハ辺境伯のところの500ぐらいの計5000いくかいかないぐらいしかいない。
質の問題から同数ならば質で勝てる可能性は高いが倍の数で勝てるとは思えなかった。
特にこちらはヴァイザッハのお爺ちゃんのところの500以外は、魔王討伐帰りで疲れが抜けていない。士気は高いが長期戦は体力がついていかないだろう。
ノイマール公が周りを押さえて戦線が帝都方向一方面になっているのは助かるが、他の諸侯は様子見ばかりだ。
それに文句を言うこともできない。ボクの仲のいい諸侯は魔王討伐帰りの連中ばかりであり、麾下の兵はくたびれているのだ。食料調達する資金も厳しいだろうし、援軍を出したくても出せないだろうことは予想できた。
フロラーテ公あたりが帝都に牽制をかけてくれるだろうが、帝都の防衛には烏合の衆の討伐参加者である近衛騎士団1万を帝都周辺に詰め込んでおけばいいのだから、あまり効果は期待できない。
帝国最精鋭部隊を使わないのはもったいない気もするが、状況的に案外有効な使い方のようにも思えた。
「搦手はいくつか回してるけど、最低でも引き分けないと効果がないのが多いんだよねぇ」
「搦手?」
「帝都の食糧を商人が買い占めてたんだよ。出征に不足するほどじゃないだろうけど、対陣が長期化すればちょっとまずいだろうね」
商人は機に敏感だ。戦の機運を察して食料と武器を集めていたのだ。
もっとも恩賞関係で対立してしまい、皇太子軍に流すことはできなかったようだが。
「食料は、ガリア王国が買ってくれるだろうし、武器類はまあ中古品だから買い叩いてうちで引き取る予定だけど」
ガリア王国は今年食料の出来がよくないという話を騎士団経由で聞いている。食料を大量に送り込めば喜ばれるだろう。商人たちも儲けは出ないかもしれないが、損失もほとんどないだろうし、損切りだと思ってもらおう。
「あとは教皇庁に色々準備してもらってる。場合によっては聖戦の布告とか、破門とかもしてもらえないかなぁと一応打診してるんだ」
「でるのか?」
「無理だと思ってダメもとでお願いしてたんだけど、聖下は意外と乗り気なんだよね」
帝国と教皇庁は独立という建前があるので、おいそれと手を出せるものではない。
当代の教皇聖下は特に規則重視の厳しいお方なので、そこのところは順守するだろう。
もっとも実態は、規則の目を潜り抜けてやらかすのを生きがいとしているサディストお爺ちゃんなので、なにかたくらんでいるのかもしれない。
「ほかにもいろいろあるけど、まあ遅くとも半月後には攻めてくるでしょうね。で、勝って皇帝選定に挑むつもりじゃないですか?」
「で、こちらはそれに打ち勝たないといけないと」
「最低でも引き分けですね。負けて敗走すれば、皇帝選定の場にいけなくなりそうですし」
なんにしろ皇太子軍との決戦は戦場でどうにかしないといけないわけである。
嫌がらせだけでは戦いに勝つことはできない。そちらの準備も不可欠だった。
うちの竜騎士を使って配達をしたから、明日にでも帝国全土に回るだろう。
同時に、皇太子の召喚状や告発文に対する反論状を、勝手に通達状と一緒に届けている。
うちの竜騎士を無料で使っていいという条件で配っているのだ。通達状だけでは効率が悪いので、他の手紙も一緒に送っており、その中に反論状も混じっているだけである。
そんな小手先のことをしながら、ボクたちはアンゼルム宮中伯領へと戻っていた。
皇太子軍が討伐としてこちらに来そうだからである。
反論状で召喚を明確に拒否したことから、それを大義名分にして攻めてくるだろう。
食料や武器の準備をしていることは既に懇意のバッソ商人からも情報が入っている。
ただ、動員があまりスムーズに進んでいないことまで掴んでいる。
今回の魔王討伐に協力していたバッソ商人含めた都市国家商人たちは支払いを拒否した帝国への協力を一斉に止め、一部は帝都の支店を引き払い始めている。
帝国自体大きく、また侵攻するのはアンゼルム宮中伯領という帝都から近い場所なので、食料はそう必要ない。帝都に流通している食料だけで、アンセルム宮中伯領まである程度の数は移動できるだろう。
しかし武具は厳しいだろう。帝都近辺でも武具の生産はそれなりに行われているが、最近まで魔王討伐のため、そちらに送っていただろうから在庫なんてすっからかんだろう。
そして、魔王討伐に使っていた中古品は討伐に参加していた諸侯の手元の他は、バッソ商人を中心とした都市連合の商人が握っている。彼らを敵に回した皇太子軍は、武具の調達に苦労しているだろう。
さらに近衛騎士団長を幽閉したせいで、討伐参加者たちは動けなくなってしまった。トップを失った軍など烏合の衆だ。動員に苦労するのは容易に想像できた。
もっともこちらに有利なのはここまでだ。
皇太子たちの征伐軍は数字では1万を超えるはずである。
皇太子の親衛隊3000を筆頭に、皇太子派の諸侯がへたをすると1万以上集まるかもしれない。
対してこちらはうちの騎士団800弱と、ゼルのところの軍4000弱、あとはヴァイザッハ辺境伯のところの500ぐらいの計5000いくかいかないぐらいしかいない。
質の問題から同数ならば質で勝てる可能性は高いが倍の数で勝てるとは思えなかった。
特にこちらはヴァイザッハのお爺ちゃんのところの500以外は、魔王討伐帰りで疲れが抜けていない。士気は高いが長期戦は体力がついていかないだろう。
ノイマール公が周りを押さえて戦線が帝都方向一方面になっているのは助かるが、他の諸侯は様子見ばかりだ。
それに文句を言うこともできない。ボクの仲のいい諸侯は魔王討伐帰りの連中ばかりであり、麾下の兵はくたびれているのだ。食料調達する資金も厳しいだろうし、援軍を出したくても出せないだろうことは予想できた。
フロラーテ公あたりが帝都に牽制をかけてくれるだろうが、帝都の防衛には烏合の衆の討伐参加者である近衛騎士団1万を帝都周辺に詰め込んでおけばいいのだから、あまり効果は期待できない。
帝国最精鋭部隊を使わないのはもったいない気もするが、状況的に案外有効な使い方のようにも思えた。
「搦手はいくつか回してるけど、最低でも引き分けないと効果がないのが多いんだよねぇ」
「搦手?」
「帝都の食糧を商人が買い占めてたんだよ。出征に不足するほどじゃないだろうけど、対陣が長期化すればちょっとまずいだろうね」
商人は機に敏感だ。戦の機運を察して食料と武器を集めていたのだ。
もっとも恩賞関係で対立してしまい、皇太子軍に流すことはできなかったようだが。
「食料は、ガリア王国が買ってくれるだろうし、武器類はまあ中古品だから買い叩いてうちで引き取る予定だけど」
ガリア王国は今年食料の出来がよくないという話を騎士団経由で聞いている。食料を大量に送り込めば喜ばれるだろう。商人たちも儲けは出ないかもしれないが、損失もほとんどないだろうし、損切りだと思ってもらおう。
「あとは教皇庁に色々準備してもらってる。場合によっては聖戦の布告とか、破門とかもしてもらえないかなぁと一応打診してるんだ」
「でるのか?」
「無理だと思ってダメもとでお願いしてたんだけど、聖下は意外と乗り気なんだよね」
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当代の教皇聖下は特に規則重視の厳しいお方なので、そこのところは順守するだろう。
もっとも実態は、規則の目を潜り抜けてやらかすのを生きがいとしているサディストお爺ちゃんなので、なにかたくらんでいるのかもしれない。
「ほかにもいろいろあるけど、まあ遅くとも半月後には攻めてくるでしょうね。で、勝って皇帝選定に挑むつもりじゃないですか?」
「で、こちらはそれに打ち勝たないといけないと」
「最低でも引き分けですね。負けて敗走すれば、皇帝選定の場にいけなくなりそうですし」
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