偽聖女と糾弾されて追放されたから、帝国を乗っ取ることにした【完結】

みやび

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第二章 帝国の現在とその闇

7 時には昔の話を

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「で、ロイヘン公。あなたはどう見立ててるわけ?」
「聞けば何でも教えてもらえると思っているのかね、フロラーテ公?」
「思っているよ。愛しのヴィアナが聞いているんだよ? ヴァレリー?」

ロイヘン公ヴァレリーとフロラーテ公ヴィアナの二人が元婚約者で恋人だったという事実は、今ではほとんどだれも覚えていない。
なんせ何十年も前の話だ。
理屈っぽく陰気なヴァレリーと苛烈姫ともいわれたヴィアナの二人の恋仲等、傍から見ても首をかしげるものだっただろう。
しかし、現に恋仲であり、婚約まで済ませて、正式な結婚は秒読みだったのだ。そう、次期フロラーテ公でありヴィアナの兄が子供と一緒に馬車の事故で亡くなるまでは。
急にフロラーテ公の地位を引き継がなければならなくなったヴィアナは、当時すでに七候であるロイヘン公だったヴァレリーとは政治バランス問題から結婚できなくなったのだ。
なんせ二人の子供は七候のうちの二候を兼任することになる。
家同士の結びつきならまだ大丈夫だったが、さすがに一人が二票を持つのは許容されなかったのだ。
そうして二人は別れ、それぞれ別の者と結婚し、子供も作っていた。

だが、あの日々が嘘や幻になったわけでも、ましてや愛がなくなったわけでもない。
直接会うのは本当に二十年ぶりぐらいだろうか。
しかし、手紙のやり取りは頻繁にしていたし、政策の面で連携をすることも少なくなかった。
お互い連れ合いを亡くしている状況だと、どうしても昔を思い出してしまう。
別に、連れ合いとの愛がなかったわけではない。子供にも愛がないわけではない。
しかし、恋はあの時のまま、終わらずに残っていた。

「では聞こう。ヴィアナは、皇太子とあの竜姫殿下、どちらが勝つと思っている?」
「心情的にはアンジェリーナに10で皇太子が0、と言いたいところだがね。実質はそうだね、2対8ぐらい、でも多少贔屓目に見ている気がする。アンジェリーナが勝つ可能性は10に1つぐらいかもしれないな」

確かに正当性がない第二皇子よりは、れっきとした正当性を主張できるアンジェリーナのほうがましなのは疑いようもない。
しかし、あくまでそれは第二皇子との比較の問題であり、もともと教皇庁の人間であるアンジェリーナには致命的に人脈が足りない。
第二皇子や自分が補うとしても限度がある。皇太子を仰ぐ留守組の牙城を切り崩せるとは思えなかった。
もっとも、それをどうにかできる可能性があるのが目の前の男だ。
帝国の宮廷と行政を全てになってきた宰相は、状況をひっくり返せる可能性がある、かもしれない。
あくまでかもしれないだけだが。
なんせ帝国は多くの人間と様々な利権が絡みあう伏魔殿だ。一人でどうにかできる、というのは楽観が過ぎるだろう。

「そうか、私は7対3ぐらいだとおもっているよ」
「私よりも楽観的だね。現状あの子は押されっぱなしじゃないか」
「そうだ、アンジェリーナは現状押されっぱなしだ。それはそうだな、地縁と血縁、つまり人の和においては表面的には皇太子のほうが圧倒的に有利だからだ」
「表面的?」
「ヴィアナは政治的な動きは苦手だし、そもそも1年も帝国から離れていたからあまりわからないかもしれないね」
「もったいぶるなぁ。教えてよ」
「ではヒントだ。そもそも皇太子が動かなければ、竜姫殿下は対抗馬に立つことはなかったのではないかね。政治的に厄介なお方だが、早々に聖都に送ってしまえば、皇帝選定には絡めなかっただろう。第二皇子だって、あの竜姫殿下を餌にすれば、それなりに操縦できたはずだ。皇帝になってしまえば二人とも気にするほどの相手ではないだろう?」
「……たしかに。なぜ皇太子は動いたんだ?」
「ヒントはここまでだ。私はね、全部聞かないとわからないほど出来の悪い子は嫌いなんだ」
「わかってるよ。次はあの子を皇帝につかせるときに会いましょう」
「ああ、お休み。いまだに愛してるよ、ヴィアナ」
「私もそれは変わらない。お休み、ヴァレリー」

そうしてフロラーテ公は立ち去った。

「キミは、竜姫殿下が3だと思っていたのかな」

独り言は静寂に消えていった。
言葉の裏を察するのが苦手なのが変わっていないのが少しほほえましく思いながら、ロイヘン公も自室に戻るのであった。
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