偽聖女と糾弾されて追放されたから、帝国を乗っ取ることにした【完結】

みやび

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第三章 帝国内乱

8 いなくなった聖女

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「はぁ!? アンジェねぇがいなくなった!?」

アンジェリーナが河に落ちていなくなった日の夜、ドラゴニア領から一人の少女が飛んできた。
ジョゼフィーヌ、アンジェリーナの従妹である。
白銀の髪と白い肌、そして顔立ちがそっくりなので血縁を感じるが、ジョゼには竜の角も尾もない。眼の色もアンジェは青だが、ジョゼは赤だ。
といっても付け角、付け尾をしてしまえばそっくりになれるし、遠目なら目の色は分からない。そのため何かの時に影武者をやっていたりした。
騎士団の中では青いお姫がバーサーカー、赤いお姫が癒しの聖女と揶揄されていたりもする。

そんなジョゼがアンジェに呼ばれてきたのだが、なんせ呼んだ本人が川に落ちて行方不明と来たものだ。
思わず叫んでしまうのも無理はなかった。

「クロード!!! なにかきいてない!?」
「ほら、姫様の手紙だよ」

ぷんすか怒る恋人を抱きしめながら、クロードはアンジェから預かった手紙をジョゼに渡す。
かわいらしい封筒の手紙の中身をクロードは知らないが、何が書かれているか大体見当がついていた。

『1週間ぐらいで帰るから身代わりお願い 大好きなジョゼへ』

「くろおおおおどおおおお!!! クロエは!?」
「クロエなら昼からいないな」
「あいつまた抜け駆けをおおお!!!!」

吠えるジョゼ。川に堕ちてもしかしたら、なんてことは考えていない。
それならなんとなくわかるはずだ。そしてクロエがいないということは、二人で暗躍するつもりなのだろう。
大事なタイミングで暗躍したいとき、アンジェはクロエを連れて、ジョゼを影武者にして出かけるのだ。
アンジェの銀髪は目立ちすぎるので影武者ができるのは自分しかいないのは理解できるが、毎回大好きなアンジェにくっついていくクロエには不満が大量にあった。

「おい、アンジェがどこへ行ったか分かるのか!!」

そしてもう一人うるさいのが現れる。アンジェの婚約者(候補)のアンゼルムだ。
事務的な白い紙切れに『あとはよろしく』とだけ書かれた紙を残された彼はアンジェを求めて右往左往していた。

「なによあなた?」
「アンジェリーナの婚約者のイストリア公アンゼルムだ! あいつがどこに行ったか知らないか!?」
「ふーん」

アンジェリーナは男性に敬遠されがちだったが、ついに彼女の魅力が分かる男が現れたか、と思うと協力するのはやぶさかではない。
それに、彼の探索に付き合うのを口実に、自分もアンジェに会いに行けるかもしれない。
探す方法にも心当たりがあった。

「竜の共鳴を使えば見つけられると思うよ」

竜の共鳴は竜人たちが使える一種の特殊能力だ。ふわっとした感情を伝えたり、相手がいる場所のなんとなくの方向と距離がわかったりする。あまり便利ではないが、時々使える能力だった。
それを使えばアンジェを見つけることはそう難しくないだろう。
それでは行こうかと立ち上がろうとしたジョゼを、クロードがぎゅっと抱きしめる。

「ジョゼは、俺の腕の中でお留守番だから」
「はなせー! クロードにぃ!! はなせぇ!!!」
「ダメだ。姫様の命令には従わないとな」

単純にクロードは恋人との時間を邪魔されたくないだけであるが、だからこそ逃がすつもりはなかった。
暴れるジョゼをギューッと抱きしめつづける。

「おい、クロード、放してやれ!」
「イストリア公? どうするつもりですか? ジョゼに手を出したら死ぬまで1mmずつ削っていきますよ?」
「ちげえしこええよ!!! どうするって、アンジェを探しに行くに決まってんだろ!!」
「そんな余裕がおありで?」

振り向いたゼルは、後ろにいたヴァイザッハ伯にアイアンクローをされた。
老人とは思えない腕力で、そのままゼルを持ち上げる。

「イストリア公は自分の軍を取りまとめしていただかないといけませんから無理ですよ」
「じぃ、はなせぇえええええ」
「それだけ元気があるなら指揮を執るにも不都合はありませんね」
「ぐわああああああああああ」

その後、アンジェが皇太子の聖女に撃墜された噂は帝国中を駆け巡った。
だが、陣中でその姿が確認されたため、影響は限定的だった。
そんな中、アンジェ達が次に向かうのは……
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