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秋ー彼女が食って騒ぐ話
温泉と監査と婚約破棄お姫 3
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監査も終わり、ゆっくりとさくらさんと露天風呂に入る。
紅葉の季節になり、ひらひらと舞う紅葉と空に浮かぶ月が美しく、それを見ながらお湯に浮かべたお盆の上にお酒を置いて、ゆっくり楽しみながら飲むなんてちょっとおしゃれなことをしている。
まあ、私はお酒禁止令が下されているので、飲んでいるのはオレンジジュースだが。
この露天風呂は少人数用のもので、基本的に時間ごとで貸す新事業である。全部で10ほどあり、公衆浴場と違ってゆっくり漬かれるのが売りであり、現在王都の方でも宣伝してもらっている。王都で宣伝したからこそ今回の監査にまでつながったのだが…… まあお客さんには結構来てもらっているし、満足度も高いみたいだからいいのだけれども。
それにしてもさくらさんって大人っぽい。お酒を飲む姿も色っぽいし、なんというか、いろいろ負けている気がする。
「そういえばさくらさんって、いくつなの?」
「この前15歳になったんですよ。やっとお酒解禁です」
ちょっと紅潮した頬で、そう答えるさくらさん。私は年下だったことにショックを受けた。
立ち振る舞いも、背の高さも、スタイルの良さも何一つ勝てている気がしない。それに加えて年齢まで若いとなったら、乙女力で勝てる要素がないじゃないか。
ふてくされていると遠くから声が聞こえた。耳を澄ますとお姫と魔王のようだ。
「絶対魔王なんかに負けたりしない!!」
「はっはっは、竜姫よ、威勢だけはよいな」
一体あの二人は風呂の近くで何をやっているのだろうか。
さくらさんも興味深そうに耳を澄ましている。
「天然、聖剣温泉の看板だけは、命に代えても私が守る!!」
「ふん、天然でも温泉でもないものにそのような名前を付けるのはおこがましいとは思わないのか」
なんかかっこよく言っているが、内容はしょうもなさ過ぎた。お姫よ、何がお前をそんなに温泉に駆り立てるのだ。別に聖剣浴場でいいではないか。命かけるなそんなくだらないものに。
さくらさんは興味深そうに聞いているが、私はこの時点でもう関心が失せていた。
「ならば、この手で温泉を掘り当てる!!!」
「はははは、いいだろう、吠えたな竜姫よ。ならば証明して見せよ!!」
「いわれなくても!!!」
お姫の叫びとともに、どごぉ、という鈍い音がし、一瞬後にぶしゅーという音が響いた。
「あつっ!? なにこれっ!? え? 本気で温泉!?」
「アンジェ、何やらかしてるんだ、あっちぃ!!! すぐ撤退するぞ!!」
そういって遠ざかる二人の声。いつの間にか仲良くなっていたようだ。温泉を掘り当てたのか、別の何かを掘り当てたのかわからないが、明日の朝には一度確認しないといけないだろう。
まあお姫がとんでもないことをやるのは今に始まったことでもないし、正直結構どうでもいい。私の興味は……
「それでさくらさん、魔王がお姫と一緒にいたのがそんなに心配ですか?」
「ふえ?」
二人が去っていった方に興味が向いているさくらさんにあった。
「そんなに心配しなくても、お姫は魔王に靡かないですよ」
「わ、わたしは魔王様が、アンジェさんと結ばれるのを応援し」
「応援しないといけないけどしたくないんでしょ? 魔王愛されてるねぇ」
「……」
涙目で睨んでくるさくらさん。やばい、かわいい。変なものに目覚めてしまいそうである。
「そんなに睨まなくてもいいじゃないですか。というかバレバレでしょう。お姫とかは気づいてないでしょうけど。あの子、結構そういうの鈍いし」
「そんなにわかりやすかったですかね」
「恋する乙女の眼で見てるのバレバレですよ本当に」
目線の先にいつも魔王が居たり、魔王にいつもついていたり、女の子と親しげに話しているとほんのわずかだが不機嫌になったり、まあ女の私から見ればよくばれてないと思っていたともう。まあ、周りも多分気づいていて、バレバレなのを前提に一緒にされているのだろうとは思う。
「なんで魔王とイチャイチャしないの? 魔王だってさくらさんみたいなきれいな子に好かれたら幸せでしょうに。性格だって、いつも一緒なんだし相性いいでしょう?」
「魔王様は複雑な立場ですから。アンジェさんとの婚約が命綱なんですよ」
「え、魔国ってそんな危ない状態なの」
どんな国だって暗殺の危険性が常にあるのは否定できない。至高の座、王位というのはそれだけの甘さと毒を持っているのは確かだ。とはいっても、王国だってここ何十年はそんな血なまぐさい話は聞かないし、帝国含めた近隣諸国でもほとんど聞かない話である。魔王は魔国王の子の中ではかなり年下だし、王位を継げる可能性はそんなに高くなさそうである。それをわざわざ殺しにかかる必要性はあまりなさそうなのだが。
「ぬばたまの王という存在は、魔国にとってはそれは重い意味があります。その出自が平民だったとしても、王位を周りが望むくらいには。なのであとくされなく殺そうという勢力はかなりおり、現に魔王様のお母様は、魔王様をかばい毒殺されました」
「うわー、大変ですね…… で、現状は隣国の帝国の後ろ盾をもらって一応安全になっている、と」
「ですね。ただ、魔王様はアンジェさんに対しては対応がひどいので、昨今この婚約も終了になるのではといわれています。しかし、そうなれば魔王様の立場はひどく微妙なものになるでしょう」
「後釜にさくらさんでは厳しいと」
「でしょうね。所詮私は魔国内の貴族の娘ですから」
なんというか、衝撃の事実というか、状況が重すぎて若干胃が痛い。お姫だったらこういう逆境こそ無造作に手を突っ込んでごちゃごちゃにかき回した後、なんだかんだでいいところで話を落とす気がするが、動いていないのだろうか。きっと動いてないんだろうなぁ。お姫、魔王のこと嫌いだったし、なにより恋愛関係疎いから何も気づいていない気がする。
「で、どうするつもりなの?」
「どうにかなるでしょう。どうにかしますよ」
なんか無理心中でも最後にしそうな、悲壮な決意を固めてそうなさくらさんをボケーっと見ながら、私はオレンジジュースを飲み干した。
紅葉の季節になり、ひらひらと舞う紅葉と空に浮かぶ月が美しく、それを見ながらお湯に浮かべたお盆の上にお酒を置いて、ゆっくり楽しみながら飲むなんてちょっとおしゃれなことをしている。
まあ、私はお酒禁止令が下されているので、飲んでいるのはオレンジジュースだが。
この露天風呂は少人数用のもので、基本的に時間ごとで貸す新事業である。全部で10ほどあり、公衆浴場と違ってゆっくり漬かれるのが売りであり、現在王都の方でも宣伝してもらっている。王都で宣伝したからこそ今回の監査にまでつながったのだが…… まあお客さんには結構来てもらっているし、満足度も高いみたいだからいいのだけれども。
それにしてもさくらさんって大人っぽい。お酒を飲む姿も色っぽいし、なんというか、いろいろ負けている気がする。
「そういえばさくらさんって、いくつなの?」
「この前15歳になったんですよ。やっとお酒解禁です」
ちょっと紅潮した頬で、そう答えるさくらさん。私は年下だったことにショックを受けた。
立ち振る舞いも、背の高さも、スタイルの良さも何一つ勝てている気がしない。それに加えて年齢まで若いとなったら、乙女力で勝てる要素がないじゃないか。
ふてくされていると遠くから声が聞こえた。耳を澄ますとお姫と魔王のようだ。
「絶対魔王なんかに負けたりしない!!」
「はっはっは、竜姫よ、威勢だけはよいな」
一体あの二人は風呂の近くで何をやっているのだろうか。
さくらさんも興味深そうに耳を澄ましている。
「天然、聖剣温泉の看板だけは、命に代えても私が守る!!」
「ふん、天然でも温泉でもないものにそのような名前を付けるのはおこがましいとは思わないのか」
なんかかっこよく言っているが、内容はしょうもなさ過ぎた。お姫よ、何がお前をそんなに温泉に駆り立てるのだ。別に聖剣浴場でいいではないか。命かけるなそんなくだらないものに。
さくらさんは興味深そうに聞いているが、私はこの時点でもう関心が失せていた。
「ならば、この手で温泉を掘り当てる!!!」
「はははは、いいだろう、吠えたな竜姫よ。ならば証明して見せよ!!」
「いわれなくても!!!」
お姫の叫びとともに、どごぉ、という鈍い音がし、一瞬後にぶしゅーという音が響いた。
「あつっ!? なにこれっ!? え? 本気で温泉!?」
「アンジェ、何やらかしてるんだ、あっちぃ!!! すぐ撤退するぞ!!」
そういって遠ざかる二人の声。いつの間にか仲良くなっていたようだ。温泉を掘り当てたのか、別の何かを掘り当てたのかわからないが、明日の朝には一度確認しないといけないだろう。
まあお姫がとんでもないことをやるのは今に始まったことでもないし、正直結構どうでもいい。私の興味は……
「それでさくらさん、魔王がお姫と一緒にいたのがそんなに心配ですか?」
「ふえ?」
二人が去っていった方に興味が向いているさくらさんにあった。
「そんなに心配しなくても、お姫は魔王に靡かないですよ」
「わ、わたしは魔王様が、アンジェさんと結ばれるのを応援し」
「応援しないといけないけどしたくないんでしょ? 魔王愛されてるねぇ」
「……」
涙目で睨んでくるさくらさん。やばい、かわいい。変なものに目覚めてしまいそうである。
「そんなに睨まなくてもいいじゃないですか。というかバレバレでしょう。お姫とかは気づいてないでしょうけど。あの子、結構そういうの鈍いし」
「そんなにわかりやすかったですかね」
「恋する乙女の眼で見てるのバレバレですよ本当に」
目線の先にいつも魔王が居たり、魔王にいつもついていたり、女の子と親しげに話しているとほんのわずかだが不機嫌になったり、まあ女の私から見ればよくばれてないと思っていたともう。まあ、周りも多分気づいていて、バレバレなのを前提に一緒にされているのだろうとは思う。
「なんで魔王とイチャイチャしないの? 魔王だってさくらさんみたいなきれいな子に好かれたら幸せでしょうに。性格だって、いつも一緒なんだし相性いいでしょう?」
「魔王様は複雑な立場ですから。アンジェさんとの婚約が命綱なんですよ」
「え、魔国ってそんな危ない状態なの」
どんな国だって暗殺の危険性が常にあるのは否定できない。至高の座、王位というのはそれだけの甘さと毒を持っているのは確かだ。とはいっても、王国だってここ何十年はそんな血なまぐさい話は聞かないし、帝国含めた近隣諸国でもほとんど聞かない話である。魔王は魔国王の子の中ではかなり年下だし、王位を継げる可能性はそんなに高くなさそうである。それをわざわざ殺しにかかる必要性はあまりなさそうなのだが。
「ぬばたまの王という存在は、魔国にとってはそれは重い意味があります。その出自が平民だったとしても、王位を周りが望むくらいには。なのであとくされなく殺そうという勢力はかなりおり、現に魔王様のお母様は、魔王様をかばい毒殺されました」
「うわー、大変ですね…… で、現状は隣国の帝国の後ろ盾をもらって一応安全になっている、と」
「ですね。ただ、魔王様はアンジェさんに対しては対応がひどいので、昨今この婚約も終了になるのではといわれています。しかし、そうなれば魔王様の立場はひどく微妙なものになるでしょう」
「後釜にさくらさんでは厳しいと」
「でしょうね。所詮私は魔国内の貴族の娘ですから」
なんというか、衝撃の事実というか、状況が重すぎて若干胃が痛い。お姫だったらこういう逆境こそ無造作に手を突っ込んでごちゃごちゃにかき回した後、なんだかんだでいいところで話を落とす気がするが、動いていないのだろうか。きっと動いてないんだろうなぁ。お姫、魔王のこと嫌いだったし、なにより恋愛関係疎いから何も気づいていない気がする。
「で、どうするつもりなの?」
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