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秋ー彼女が食って騒ぐ話

温泉と監査と婚約破棄お姫 4

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「ということでお姫、どうしようか」
「いやぁ、やっぱり重いよね、あの二人」
「あ、わかってたんだ。お姫、恋愛関係疎いし、わかってないかと思った」

現在、私の部屋でお姫と二人のパジャマパーティである。
基本的に二人きりで話したいときに私の部屋に呼ぶのだが、お姫は無駄にはぁはぁするし、無駄に張り付いてくるし、無駄に私の枕の匂いを嗅いで「受付ちゃんの匂いがする」とか言ってくるので、実施回数は非常に少なく、今回は魔王とさくらさんの問題があるのでしぶしぶ呼んだところである。お姫の格好がフリフリのネグリジェで、かわいらしすぎて若干痛いが気にしないことにする。

「正直言えば好きなんじゃないかなーぐらいだったけど、受付ちゃんの話聞いて、やっぱりなーって感じかな」
「お姫って恋愛イベント好きなくせに、なんでそういうところ疎いかなぁ」

バレンタインだって、6月の結婚式だって、最近始めた新婚旅行に勧誘するイベントだって、みんな恋人とか夫婦といった恋愛イベントばかりだ。ほかの人たちがイチャイチャしていても別に嫉妬するそぶりも見せず楽しそうに盛り上げているあたり、他人の恋愛ごとが好きなんだろうと思う。ただ、なんというか、この人とこの人付き合っているよねとかいうそういう機微を察する力がとても低い。
なんでかなーと私はお姫をあきれた目で見ていると、お姫は視線に気づいたようだがそれを無視して私を持ち上げてベッドに座らせる。そのまま私の膝に自分の頭を置いてきた。お姫は私の膝枕が本当に好きである。めんどくさいのだが、あまりにやってほしがるので最近はもう何も言わないし抵抗もしないでいる。
ほっぺをぷにぷにするといつもの柔らかほっぺである。

「それで、何かいい手ないの? そういうの得意分野でしょ」
「得意分野になったつもりもないんだけどなぁ…… 正直ボクと結婚するぐらいしかないけど、ボクはもちろん魔王もそれは望んでないからありえないし」
「え、魔王ってお姫に結構執着してたじゃない」

あまりに空気読めていなかったが、お姫に執着して、騒ぎを起こしていたのは確かだ。ただ、お姫の指摘を前提に考えると、思うことは出てくる。
そもそもお姫は自由が大好きな子であり、ああいう風に俺についてこいみたいなのは嫌いなタイプだ。あと、自分がやっていることに口をだされるのも嫌う。あの魔王はそういうお姫の嫌がることを狙ってるんじゃないかと思うぐらいやってきていたし……

「あれ、狙って嫌われてるの?」
「さくらさんもうすうす感づいてたみたいだけど、たぶんそうじゃないかなと。ボクの前と、他の人の前で態度違い過ぎるしねぇ」
「でもさ、お姫との婚約って、あの魔王の命綱なんでしょ?」
「そうだと思うよ。立場微妙だろうし、帝国の後ろ盾は生き残るには役に立つでしょ。あれのお母様はあれをかばって亡くなったらしいからね。表向きは病死だけど」
「話が重すぎる…… でもそれなら嫌われちゃまずいんじゃないの?」
「だからきっと、あいつは死にたいんでしょ」
「予想以上に重かった……」
「正確にはもう生きていたくないんじゃないかなー。まえは側近も、お付きも何人もいたはずだけど、もう残ってるのさくらさんだけだし。わざと嫌われて、距離置いてるんじゃないかなっていうのがボクの予想」
「でもさくらさんには優しいじゃない」
「いや、全然優しくないよ。さくらさんって公爵の娘なんだけど庶子なんだよね。それで、公爵ってすごく好色で、さくらさんは、そんな父親のことすごく嫌っていて、女にだらしない人のことも嫌いないんだよ。魔王はそれが分かってるから、ああいうふうに女の子に片っ端から声をかけて見捨てられようとしてるんでしょ」
「上流階級コワイな!! というかお姫もなんでそこまで知っているのさ」
「皇族のたしなみみたいなものだよ」
「で、そんな二人に手を差し伸べるつもりないの? いつもなら嫌がられてて、首突っ込むのに」

あまりに重すぎる話の連発に、うんざりしながらお姫の髪をわしゃわしゃする。ふわふわで柔らかい手触りの髪である。
状況はわかったが、私にとって不思議なのは一点、お姫が何もしようとしていない点だ。こいつははた迷惑だし空気をまるで読まないが、根はやさしくて優しさの押し売りが趣味みたいな善人だ。こんな困ってる二人だったらすぐ首を突っ込んでどうにかしそうなものだが、何もしないのが非常に意外だった。とくに、さくらさんとは結構仲がよさそうに見えたから余計にそうだ。

「んー、まあ、政治的にかなり難しい位置にいるからやれることが少ないのが一つ。もう一つはあの二人、あきらめてるからかなぁ」
「あきらめてる?」
「あの二人の覚悟はたぶん、死ぬまで一緒にいて、一緒に死ぬ、ぐらいじゃない? 意地でも生き残ってやろうとか、国をひっくり返そうとか、どこまででも逃げてやろうとか、そういう生きる覚悟じゃないよね」
「ふむふむ」
「手を伸ばさない人を助けるのは私の趣味じゃないかなぁ」
「マシュマロのくせに、案外難しいこと考えるのね」
「にゃああああああ」

頬っぺたをつまんでフニフニすると、相変わらず不細工な鳴き声を上げる。
言っている意味は分かるが、なんというかもやもやする。そういう小利口なことを言われると理由はわからないがとても嫌だった。
ひとまずお姫には馬車馬のごとく頑張ってもらいたいし、そのためにお願いをすることにしよう。

「ねえお姫。二人のこと、どうにかしてよ。私のために」
「受付ちゃんのために?」
「そう、私のために。友達には幸せになってほしいじゃない。あの二人が心中なんかしたら、それこそ目覚めが悪いわ。私も協力するから、お願い」

こういうと、なんでかわからないがお姫は受付ちゃんからおねがいされたー!!と張り切ってくれる。ケーキも買ってきてくれるし、シチューの具用に尻尾もちょん切ってくれる。お姫テイルの煮込みは、すごくおいしいのだが、おっさんたちには不評である。なんにしろおねだりするときの気分は傾国の美女である。そのままベッドで寝ているお姫に覆いかぶさって、耳元でささやく。お姫は真っ赤になった。楽しい。

「わかったよ、手はないわけではないんだけどさ。んー、いい相方がいないんだよね」
「どういう手なの?」
「まず、ボクが魔王に婚約破棄をたたきつけます」
「最初からクライマックスだ」
「で、ボクが悪者になって、帝国経由で詫びを入れます」
「なるほど」
「で、その経緯で帝国のほうで後ろ盾になってもらえばいいかなって。幸い詫び入れるならボクの個人資産から何か出せばいいし。適当な土地と爵位渡せばいいでしょ」
「爵位とかがすごく軽く聞こえる」
「実際名義貸しに近いからね。領地の運営は現地にいる人任せだし。上納分はイチゴだけだよ」
「なんでイチゴ……」
「イチゴがおいしいところなんだよ。で、一応名目領主だから上納品として持ってるわけ」
「で、それの何が問題なの?」
「基本的に正規の婚約じゃないから、それなりの理由を準備しないと詫びる詫びない案件にならないんだよね。つまり、婚約破棄できない理由が欲しいわけですよ」
「婚約破棄するのに婚約破棄しない理由を欲するのはすごい状況だねぇ」
「と、いうことで、エリスちゃん、私と婚約して」
「え? なんでいきなりそうなるの?」

ちょっと楽しく対岸の火事を見ていたら、いつの間にか爆心地にいた。意味が分からない。なんで婚約しないといけないんだろうか。

「性格の不一致だけじゃ、対した理由にならないし、まずは私がほかの人に目が向いたっていう理由が欲しいわけですよ。形式上浮気っていうことにするわけ」
「でも、それでも私と婚約する必要はないよね?」
「で、さらに追加で、その浮気相手が、魔王とかをいじめてたらほら、結構な醜聞じゃない?」
「いじめてなんか…… ああ、吹っ飛ばしたもんねぇ」
「聖剣で8回も吹き飛ばしたから、言い方を工夫したらいじめてたっていうことになるわけですよ」

確かに今まで、聖剣を使って魔王のことを何度も吹き飛ばしているのは事実である。これは言い方次第ではいじめていたとか、悪いようにも表現ができるってことなわけだ。

「ふふふ、だからね、エリスちゃん、ボクと婚約して?」
「ふむ……」

まあ言っていることはわかる。私が適役な理由もわかった。魔王のことを悪く言ってた人なんて、このあたりだとギルドのメンツぐらいだし、その中で悪役を引き受けられるのは私ぐらいなのだろう。
というかお姫が私のことを急に名前で呼び始めた。いつも名前で呼んでくれって言っていた調教がやっと実を結んだ、わけではなく、お姫なりに口説いているつもり、なの、かな?たぶん? なんというかすごくへたくそだし、顔が真っ赤で照れているのもバレバレである。ちょっとウケる。

「まあ、いいよ。私が言い出したことだし、その案に乗りましょうか」
「なーんてね、こんなふうに受付ちゃんが悪者引き受ける必要はない……え?」
「で、そのあとは帝都行きになるのかな? 帝都って一度行ってみたかったしねぇ」
「ストップ受付ちゃん。ほら、婚約って一大事だし、もうちょっと慎重に考えたほうがいいんじゃないの?」
「自分で言いだしておきながら、そんなこと言うなんて、アンジェは臆病ね」

実はこっそり鏡の前で練習していた、できているか自信のない大人っぽい微笑を浮かべながら、顔を近づけて、お姫の頬をなでる。どんどん真っ赤になっていくお姫。本当に笑えてくるが、ここで笑ったら演技も終わりなので必死に耐える。
ちなみに同性愛での結婚を認めているのは竜神教だけである。創造神も大地母神も同性愛は忌避、まではいかないにしても、結婚を認めてはいない。竜神教は結婚に関して非常に雑なので、そういった制限がまるでない。過去には剣と結婚した女性もいるぐらいである。愛さえあればいいらしい。
お姫のぷにぷにほっぺを堪能していると、どんどん赤くなっていき、最後は煙を出しながらぐったりしてしまった。からかい過ぎたらしい。

まあ、明後日辺りにはちゃんと婚約破棄をできるように準備をしないといけないだろう。ぐったりしたお姫を抱き枕にして、今日のところはもう寝よう。








翌日、神官二人だからよく考えたら婚約の儀ってどこでもできるよねっていうことで、適当に部屋で婚約の儀をした。3日後、無事悪役として魔王と婚約破棄をしたお姫は、そのまま私を連れて帝都に向かい、釈明をすることになるのだった。帝都、楽しみである。
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