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これより洗礼の儀を執り行う
8、宿題代わりにやってください。時間はいっぱい取らせます
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「なんだよ。れいちゃんかよ」
メールはもう一人の大事な友人からだった。
『緊急 頭貸せ』という件名。本文は、
「マジかい!」
ポッドキャストになったあっとほーむハウスがノベルティを作るので、リスナーから案を募っている、という内容だった。
新たにネタコーナーが出来、事務所の若手女性声優をアシスタントとして入れ、相当なテコ入れをしたと聞いたが。
ネット配信で聴きやすくなったはずなのに、逆に方向転換し過ぎてメールが来なくなったのか。
ノベルティが出来るとなれば聴くリストに追加しなくてはならない。
が、それよりも自分の案が番組の企画で通るかもしれないのだ。
響季が興奮を抑えつつ、ぐるぐると脳内会議を開催する。
柿内君のとは違い、こちらは自分が欲しいものだが、
「えー?どうしよう…」
現実的に考えれば考える程、難しい。
ラジオのノベルティグッズなんてたかが知れてる。
それはリスナーであり、ネタ職人だった響季自身がよく知っていた。
この不景気に加え、地上波ラジオからポッドキャストというのは降格に等しい。
予算も削られたかもしれない。そもそもスポンサーはどうなったのか。
色々事情はあるだろうが、自分が欲しいものよりも企画として通りやすく、かつ面白いものを、と響季は考えた。
「ハガキで送ってきたリスナーには優遇して、とか。全員じゃなくて一名様だけ、とか。 ハウスだからキーホルダー…、いや鍵か」
ベッドの上をごろごろしながら考えを纏めようとするが、
「あ、そっか」
先程送ろうとした柿内君のメールにあっとほーむハウスの件を書き足す。
我がかわいこちゃん女友達が知恵を借りたいと頼ってきたと添えて。
どうせなら祭りの参加者は多い方がいい。
「あたし中継局かよ」
言いながらヘはっと響季は笑ってしまう。
友達を頼ったり頼られたりがなんだか嬉しく、楽しかったからだ。
そしてふと思い立つ。
零児はなぜあっとほーむハウスがノベルティ案を募ってると教えてくれたのか。
情報を独り占めしようなんて小狡い子にも思えないが、ただの親切心とも思えない。
それは、どこか挑戦状に思えた。
何か驚くものを提案し、ラジオで採用されてみろと。
「宿題多いなあ」
雑誌の件は一応先程やっつけたが、献結の謝礼案とノベルティ案。
ワクワクする宿題だから苦ではないが、さてどうしようかとベッドでぐうーっと伸びをしていると、
「んんー?……えっ?」
零児からまたメールが送られてきた。その内容を見て、響季が伸びをしたまま固まる。
『またラジオにメール送りたくなったからラジオネーム考えて』
零児は最後にドデカい宿題を残していった。
依頼兼挑戦メールが送られてきた後。
響季は一度台所で水を飲み、ベランダに出て夜風に当たり、そして布団に入った。
だが何も思いつかない。何も降りてこない。
謝礼案やグッズ案、ノベルティ案はぽんぽん出てきたのに。
そのうち見なかったことには出来ないか、メールは届かなかったことに出来ないかと、メールの存在すら消そうとしだした。
考えろ、考えろ、考えろ。
しかしいくら自分に言い聞かせても、零児に似合うラジオネームなんて浮かんでこなかった。
「だめだっ!思い付かん!」
ラジオネームはネタ職人からすれば屋号であり看板だ。
零児は元天才ネタ職人だ。少なくとも数日前までは。
それに変わる、自ら棄てたラジオネームに変わるもの。
そんなものを他人である自分が決めるだなんて荷が重すぎる。
「いっそラジオのふつおたに送って丸投げするか」
響季がケータイから適当なアニラジのメールアドレスを呼び出す。
『友達が番組にメールを送りたいそうなんですが、ラジオネームが思い付かないそうです。付けてあげてください』だとかなんとか。
しかし送ったところでそのメールが採用されるまで少なくとも一週間はかかる。
何より必ず採用されるという保証はないのだ。少なくとも響季の実力では。
零児はすぐにもう一つの名前が欲しいのだろう。
その洗礼の儀を、命名の儀をすぐに執り行いたいのだろう。
しかし彼女の満足がいく名前が付けられない。
そこまで考え、響季はいや違うと気付く。
-怖いのだ。
センスのないやつ、おもんないやつと好きな友達に思われるのが。
大好きで、憧れで、ライバルとは思わなかったが、知り合う前の零児は手の届かないところにいる存在だった。
そんなやつに一撃食らわすチャンスなのに。渾身の一発をお見舞い出来るチャンスなのに。でもまったく意に介さなかったら。
眉をぴくりとも、口の端をニヤリとも動かさなかったら。
そう考えると、
「…怖い」
思わず出た一言に響季が口元を覆う。
早くメールを送らなくては。でもまだじっくり考えたい。
結局、
「…はっ!あれ!?」
翌朝。響季は握っていたケータイのアラーム音で目を覚ました。
どうやら寝落ちしてしまったらしい。
アラームを切り、メールの送信履歴を見る。
柿内君へのメールなどは送っていたが、ラジオネームを命名したメールを送った形跡はない。
おもしろ寝言のように無意識下に生まれた珍ワードを数時間前の自分が送ってくれたのではと期待したが、そんな都合のいいことはなかった。
零児に好き好きメールを送られてきた時のように、また返信が出来なかった。
今回ばかりは柿内君には相談が出来ない。
これは、自分に課せられた問題なのだ。
「…一旦起きよう」
問題を一度保留にし、響季は朝の世界に身を投じる。
少し身体を動かせば思い付くかもしれないという、淡い期待を込めて。
あるいは通学途中に、授業中に。
チクチクしたプレッシャーを纏い、与えられた問題はその日一日中ずっと響季の中にあった。
メールはもう一人の大事な友人からだった。
『緊急 頭貸せ』という件名。本文は、
「マジかい!」
ポッドキャストになったあっとほーむハウスがノベルティを作るので、リスナーから案を募っている、という内容だった。
新たにネタコーナーが出来、事務所の若手女性声優をアシスタントとして入れ、相当なテコ入れをしたと聞いたが。
ネット配信で聴きやすくなったはずなのに、逆に方向転換し過ぎてメールが来なくなったのか。
ノベルティが出来るとなれば聴くリストに追加しなくてはならない。
が、それよりも自分の案が番組の企画で通るかもしれないのだ。
響季が興奮を抑えつつ、ぐるぐると脳内会議を開催する。
柿内君のとは違い、こちらは自分が欲しいものだが、
「えー?どうしよう…」
現実的に考えれば考える程、難しい。
ラジオのノベルティグッズなんてたかが知れてる。
それはリスナーであり、ネタ職人だった響季自身がよく知っていた。
この不景気に加え、地上波ラジオからポッドキャストというのは降格に等しい。
予算も削られたかもしれない。そもそもスポンサーはどうなったのか。
色々事情はあるだろうが、自分が欲しいものよりも企画として通りやすく、かつ面白いものを、と響季は考えた。
「ハガキで送ってきたリスナーには優遇して、とか。全員じゃなくて一名様だけ、とか。 ハウスだからキーホルダー…、いや鍵か」
ベッドの上をごろごろしながら考えを纏めようとするが、
「あ、そっか」
先程送ろうとした柿内君のメールにあっとほーむハウスの件を書き足す。
我がかわいこちゃん女友達が知恵を借りたいと頼ってきたと添えて。
どうせなら祭りの参加者は多い方がいい。
「あたし中継局かよ」
言いながらヘはっと響季は笑ってしまう。
友達を頼ったり頼られたりがなんだか嬉しく、楽しかったからだ。
そしてふと思い立つ。
零児はなぜあっとほーむハウスがノベルティ案を募ってると教えてくれたのか。
情報を独り占めしようなんて小狡い子にも思えないが、ただの親切心とも思えない。
それは、どこか挑戦状に思えた。
何か驚くものを提案し、ラジオで採用されてみろと。
「宿題多いなあ」
雑誌の件は一応先程やっつけたが、献結の謝礼案とノベルティ案。
ワクワクする宿題だから苦ではないが、さてどうしようかとベッドでぐうーっと伸びをしていると、
「んんー?……えっ?」
零児からまたメールが送られてきた。その内容を見て、響季が伸びをしたまま固まる。
『またラジオにメール送りたくなったからラジオネーム考えて』
零児は最後にドデカい宿題を残していった。
依頼兼挑戦メールが送られてきた後。
響季は一度台所で水を飲み、ベランダに出て夜風に当たり、そして布団に入った。
だが何も思いつかない。何も降りてこない。
謝礼案やグッズ案、ノベルティ案はぽんぽん出てきたのに。
そのうち見なかったことには出来ないか、メールは届かなかったことに出来ないかと、メールの存在すら消そうとしだした。
考えろ、考えろ、考えろ。
しかしいくら自分に言い聞かせても、零児に似合うラジオネームなんて浮かんでこなかった。
「だめだっ!思い付かん!」
ラジオネームはネタ職人からすれば屋号であり看板だ。
零児は元天才ネタ職人だ。少なくとも数日前までは。
それに変わる、自ら棄てたラジオネームに変わるもの。
そんなものを他人である自分が決めるだなんて荷が重すぎる。
「いっそラジオのふつおたに送って丸投げするか」
響季がケータイから適当なアニラジのメールアドレスを呼び出す。
『友達が番組にメールを送りたいそうなんですが、ラジオネームが思い付かないそうです。付けてあげてください』だとかなんとか。
しかし送ったところでそのメールが採用されるまで少なくとも一週間はかかる。
何より必ず採用されるという保証はないのだ。少なくとも響季の実力では。
零児はすぐにもう一つの名前が欲しいのだろう。
その洗礼の儀を、命名の儀をすぐに執り行いたいのだろう。
しかし彼女の満足がいく名前が付けられない。
そこまで考え、響季はいや違うと気付く。
-怖いのだ。
センスのないやつ、おもんないやつと好きな友達に思われるのが。
大好きで、憧れで、ライバルとは思わなかったが、知り合う前の零児は手の届かないところにいる存在だった。
そんなやつに一撃食らわすチャンスなのに。渾身の一発をお見舞い出来るチャンスなのに。でもまったく意に介さなかったら。
眉をぴくりとも、口の端をニヤリとも動かさなかったら。
そう考えると、
「…怖い」
思わず出た一言に響季が口元を覆う。
早くメールを送らなくては。でもまだじっくり考えたい。
結局、
「…はっ!あれ!?」
翌朝。響季は握っていたケータイのアラーム音で目を覚ました。
どうやら寝落ちしてしまったらしい。
アラームを切り、メールの送信履歴を見る。
柿内君へのメールなどは送っていたが、ラジオネームを命名したメールを送った形跡はない。
おもしろ寝言のように無意識下に生まれた珍ワードを数時間前の自分が送ってくれたのではと期待したが、そんな都合のいいことはなかった。
零児に好き好きメールを送られてきた時のように、また返信が出来なかった。
今回ばかりは柿内君には相談が出来ない。
これは、自分に課せられた問題なのだ。
「…一旦起きよう」
問題を一度保留にし、響季は朝の世界に身を投じる。
少し身体を動かせば思い付くかもしれないという、淡い期待を込めて。
あるいは通学途中に、授業中に。
チクチクしたプレッシャーを纏い、与えられた問題はその日一日中ずっと響季の中にあった。
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