アニラジロデオ ~夜中に声優ラジオなんて聴いてないでさっさと寝な!

坪庭 芝特訓

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アニラジを聴いて笑ってる僕らは、誰かが起こした人身事故のニュースに泣いたりもする。(下り線)

15、彼はロードバイク、私はバスで現地集合

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 柿内君とメールを終えた零児がぼんやりケータイを見つめる。
  そして送ったメールを見返す。
  脳は意識と切り離されたようにボケを交えたやりとりをしていたが、果たして大丈夫だったかと。更に面白そうな誘いにまで脊髄反射で乗ってしまった。
  午前中の一件で背中を押されたり気落ちしたりしたが、そこへ降って湧いたようなお誘い。
  問題を先送りに出来る口実が出来た。
  ただ、彼は響季の親友だ。
  響季のお見舞いに来ないことをそれとなく訊いてくるかもしれない。
  いや、このお誘い自体それが目的かもしれない。
  だとしたら適当にのらりくらりと誤魔化してしまえばいい。

  あるいは、今度こそお見舞いに行くきっかけにするか。
  だがそれ以上に、彼と遊ぶのが純粋に楽しみだった。
  ここ数日はずっとふらふら一人で彷徨っていたこともある。
  何か、いや絶対に面白いことになるだろうと、知らず知らずのうちに零児の口元に笑みが浮かび、

 「なに?ほなみん。誰からメール?」

  近くにいたクラスの女の子がその笑みを見て訊いてきた。一瞬考えた後、零児は、

 「ボーイフレンド」

  すっとぼけたような口ぶりでそう言ってみた。

 「えっ!?ほなみん彼氏いたの!?」

  どこか掴み所がない零児を捕まえられる男の子がいたのかと女の子が色めき立つが、

 「ボーイフレンドだって」
 「えっ、だって…、あ、男友達?」
 「まあ、そうかな」

  英語をそのままの意味で和訳し、言った方も言われた方もお互い納得する。
  友達の友達。まだろくに喋ったことがないのによく知っている。
  共通の人間を介して知っていた。そして戦ったこともある。
  だから楽しみだった。
  ほとんど面識などないのに通じ合える予感に。


 楽しみな放課後はすぐにやって来た。
  向こうから着いたら連絡すると言われていたので、零児が自分の教室でその一報を待っていると、

 『あたし柿内くん。いまあなたの学校の校門前にいるの』

  デート相手は誰かと同じような件名の後に、『教室どこだろうか』というメールを送ってきた。それに対し、

 『1―Dなので、正門から入って左に行くと校舎があって、昇降口あるからそこから入れるので』
 『わかった。土足厳禁、靴下参上だな』
 『さむそう』
 『爪先そろそろ歩きで行きます』
 『了解』
 『御意』
 『南無三』
 『諸行無常』
 『百鬼夜行』

  なんだか小難しい単語応酬が楽しくてメールが終わらないが、校舎が見えてきたので柿内君は『これより突入します』とメールを終えた。
  ひんやりする昇降口へ靴下であがり、途中、廊下にあった大きな鏡で髪型をチェックする。
  自分で見る限りは相変わらずの十人並みの顔だった。響季は悪くないと言ってくれるが。
  身長は高校生としては普通。部活もしていないので線はやや細いが、それでもかっちりとした体格だ。

  猫背気味の背をまっすぐ伸ばし、しゅぅっと細く息を吐くと、この身に受けるであろう品定めの視線に備え、彼は廊下を進む。
  進みながら、他の生徒の視線も気になった。
  誰も自分のことなど気には留めていないかもしれないが、見知らぬ顔に向けられる視線を意識し、勝手に緊張が高まる。
  しかし嫌ではない。
  結局は、自分も退屈が嫌いなのだと柿内君はわかった。
  そんなことを考えている内に1年D組に着いた。


 「もう来るみたい」

  メールでのやり取りを終え、ケータイをしまいながら零児が言うと、

 「マジで!?」「うそ!」「なになに?」「ほなみんのカレシが来るんだって!」「うっそ!?」
 「だからカレシじゃないって」

  周りにいた女の子達がガヤガヤ騒ぎ出す。ボーイフレンドとやらが来るのはすでに言っていた。
  だが現代っ子にはそれがなかなか通じない。彼氏ではないと再度否定すると、

 「どんなコ?かっこいい?」
 「普通かな」

  噂の彼について訊いてくる女の子に、零児が無難な答えを言う。
  彼に対する評価のハードルを上げ過ぎないようにだ。以前病院で逢ったきりだが、おそらく柿内君はかっこいいの部類だろう。
  眉との距離が近い目と口角の上がった大きい口は、なかなかチャーミングで男前だった。
  逆にVogue対決でのメイク姿は美し過ぎるくらいだった。
  それらを考え、零児の胸が高鳴る。
  デートに誘うため、男の子が他校までお迎えに来る。
  そんな乙女の夢が実現する。
  零児自身はそんな憧れを抱いたこともないが、即興コントとしてやるならこんな面白い題材はない。
  わいわいきゃあきゃあと零児以外の女の子が騒いでいると、

 「えっ」
 「もしかしてあの子?」

  ドア付近に見慣れない少年が現れ、女の子達が更に騒ぐ。
  少年はキョロキョロとクラス内を見回し、一瞬零児の方を見るがスルーし、戻ってきた目線で零児を発見した。
  女の子達に囲まれるようにして座っていた零児を見つけると、少年は、柿内君は爽やかな笑顔で軽く手を上げてみせる。
  快活そうに嬉しそうに、口を大きく開けてのその笑顔はとてもチャーミングだった。
  いつもとは違い背筋も伸びている。笑顔にはこの年特有の照れくささもない。
  会釈で済ます卑屈さもなく、よう、と軽く上げた手も好感が持てた。青年としての余裕すら伺えた。

 「結構かっこいいじゃん」
 「かわいい」

  ファーストスマイルと印象の良さに、女の子達から小声で軒並み高得点が出る。
  柿内君は机の間を泳ぐように移動してきて、

 「待った?」

と、声をかけてきた。

 「少し」

  零児がほんの少しだけ唇を尖らせて言ってみせると、

 「ごめんごめん」

  柿内君は首の後ろ辺りに手をやり、困ったような笑顔で謝る。
  いわゆる首痛め系男子の仕草に、女の子達の胸から出たきゅんという音が見事に重なった。

 「じゃあ、行こうか」
 「うん」

  爽やかに柿内君が手を差し出すと、零児はそれを取り、立ち上がる。
  二人が唐突に醸し出してきた甘やかな雰囲気とエスコートぶりに、女の子たちがほぅ、となっていると、

 「あ。じゃあ」

  視線に気付いた柿内君がにこやかな笑みと共に軽く頭を下げ、零児を連れてその場を後にする。
  女の子達に向けられた柔らかい視線は、すぐに隣にいる零児に注がれ、

 「お腹空いてる?何か食べにいく?」
 「まだそんな空いてないかな」
 「じゃあ何か甘いものでも」
 「またあ?」
 「じゃあベトナムカレー」
 「またベトカレ?」
 「ボカぁ、イモイモココナッツが好きなんだよ」

  そんな会話をしながら教室を出ていった。
  それを見送った女の子達は、いいなあと呟き、同意のため息をこぼしあう。
  ベトナムカレー云々の会話は耳に入ってなかった。

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