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アニラジを聴いて笑ってる僕らは、誰かが起こした人身事故のニュースに泣いたりもする。(下り線)
14、指令 彼女をデートに誘いなさい
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献結ルームで携帯音楽プレーヤー無事回収した後。
行けるんならちゃんと学校行きなさいとお姐さんに耳打ちされた零児はサボりもせず、きちんと重役出勤で学校へ向かった。
同じ頃。響季から柿内君の元へトンデモメールが届いた。
ケータイがMatthew・G(弦也)・南のおきぬけジョークを奏で、
『れいちゃん暇そうだったらデートにでも誘ってやって』
「エッ!?」
「うわっ。なに?かきうち君」
メールを見た柿内君が昼休みの教室ですっとんきょうな声を上げると、近くいた女の子達がびっくりする。
「いや…、その…。」
適当にごまかし、送られてきたメールを再度見る。
投げつけられたお願いに気持ちの整理がつかない。
響季が言わんとしていることはわかる。零児はあの日以来、一度も響季のお見舞いに来ないらしい。
そこには漠然とした拒絶感と距離感があった。
数日前に響季から送られてきたメールには、もうそろそろ退院らしいと書かれていた。
そんな中でのこの指令。
はっきりとは書いてないが、デートというのはそのことに対して探りを入れてくれということなのだろう。
このまま退院したのでは、零児との間にしこりのようなものが残ることを響季も気にしているのだ。
だが話を聞く限り、零児はなにより退屈を嫌う子だ。
響季という退屈を埋めるおもちゃが無くなったら、彼女は退屈をこじらせ精神的に死んでしまうかもしれない。
あんな面白い女の子を死なすなんて柿内君にとっても損失が大き過ぎる。仮に二人の縁が切れでもしたら、響季を通じてのれーじ君のオモシロ話も聞けなくなってしまう。
そして、自分はその退屈を埋める相手として勤まるのか。
「くっ!神よ、俺に366日の初デート大辞典を授けてくれッ!」
柿内君が大きな手のひらで顔半分を隠し、そんな台詞を吐いてみる。
初デートで会話に詰まった時の話題が日付とあいうえお順に書いてあるアレだ。
が、そんな中2台詞を教室の片隅で吐いてみたところで、辞典は存在しないし空から降ってもこない。
「どしたの?かきうち君。メール?」
そんな一人芝居をしたり、ケータイを見つめたまま固まっていると、先程の女子グループの一人が話しかけてきた。
「なんか…、デートしなきゃいけないみたいで」
柿内君がそう言うと、女の子達は一瞬間を置いた後。
「なにそれっ!!」
「誰と誰と!?」
「どういう流れで!?」
予想通りの質問攻撃をしてきた。
「あの、知り合いの娘さんなんだが、小学生の」
柿内君の答えに、なんだあと色めき立っていたかしましガールズ達が途端に意気消沈するが、その意気は半分ほど残っていた。
「でもデートってどこに連れていけば」
「1日デート?」
「たぶん、学校終わりとかに」
そこを逃さず、柿内君がさりげなく質問を持ちかけると、女の子達は相談に乗ってくれた。さすがに1日がっつりではないだろう、放課後にちょっと遊ぶ程度だと彼は考えていたが、
「ご飯食べさせればいいんじゃない?あとカラオケとか」
「でも子供だから誘拐と間違えられるかも」
小学生と言ってしまったのでアドバイスがあまり参考にならない。
「えーと…、気を付けることとかは?こういうことしちゃいけないとか言っちゃいけないとか」
レディに対するマナーについて訊くと、女の子達は顔を見合せ、
「まあ、手出しちゃダメだろうね」
小学生という設定が地味に効いてしまい、更にややこしくなってしまった。
「それ以外だと?」
「あとはー、子供扱い?」
やはり設定がアドバイスの邪魔をした。
零児ならば子供コントなどはキャッキャキャッキャと喜んでしそうだが。
その後は歩かせ過ぎない、なるべく休ませる、早く歩かないなど、まあまあ的確なアドバイスがもらえ、
「手繋ぐか腕組むかした方がいいかな。女の子なら嬉しいかも」
「なるほど」
頷きつつも必要最低限のマナーを少年は脳にメモっていった。
そうして、クラスの女の子達からデートについての手ほどきを受けた後。
「ふう」
柿内君は自分の席に座ったままケータイを手に息を深く吸い込み、細く吐き出す。
彼はいまだかつてないほど緊張していた。
女の子をデートに誘うためにメールをするからだ。しかも親友の、大事な人をデートに誘うのだ。
不安で胸が押しつぶされそうになる。断られたらどうしようと。
「……はぁ」
少年が、先程とは違う息を吐き出す。その口元は笑っていた。
不安はあるが、それを凌駕するほどのワクワク感があったからだ。
やはり零児という女の子に興味があった。
「……そうだ」
そして、あることを思い付く。
上手く行けばそれが出来るかもしれない。
女の子にとっては、おそらくとても素敵なイベントを。
『母さんオレオレ、かっきー』
という軽めの件名から、
『ゲーム欲しいから10万ガバスほど振り込んでくれ母さん』
そんな本文に繋げたメールを柿内君は零児に送ってみた。
アドレスは自作フィギアをあげた時にお礼メールを貰ったので知っていた。
その時は「ニホンノミナサン。ドモアリガト」という言葉とともに、土下座と45度お辞儀をしたミクロマンフィギア2体を従え、ミニショベルカーに乗ったSmooth Criminal衣装のMichael Jacksonフィギアの画像が添付されていた。
死して尚来日してくださったキング・オブ・ポップにお礼を言われたら、それはそれは光栄だと彼はその画像を保存した。
さて今回はどんな返信が来るか。それともこんな訳のわからんメールと無視するか。
ワクワクと不安を胸に、柿内君が待っていると、
『あら、お久しブリーフィングルーム』
という軽めジャブの件名でメールが来た。
『ガバスはないけど地下帝国にいた頃のペリカなら50万くらいあるけど』
返ってきたメールに、柿内君がニヤリと口の端を上げる。
ちゃんとこちらのボケにも、ほぼセオリー通りで返してくれた。
しかし警戒しているようにも見えたので、
『急にクレープが食べたくなったんだけど、男子一名で行くのも侘しいのでご一緒にクレープ祭りしませんか?お嬢さん』
と、なるべくスマートに誘ってみた。当然下心など微塵も見せず、紳士的に。
「しませんか?」を「しま専科?」に変換しようと思ったが、あまりボケを重ねすぎても鬱陶しいかとやめた。
だが今度は返信までには少し時間がかかった。
先程のワクワクはすみに追いやられ、またしても不安で胸が破裂しそうになる。
世の男はこんなにも心臓に負担がかかることをこなしているのか?やはりしま専科がよかったかと思っていると、
『いつ?今日?』
ほぼ承諾に近いメールが来た。
『そちらの都合がよければ、今日の放課後でも』
『いいよー』
伸ばした語尾に、くすぐったいようなかわいらしさを覚える。そして、
『どうせならそちらまでお迎えに伺うが。学校まで』
待ち合わせ場所の指定ではなく、お迎えに参上つかまつると柿内君は申し出た。誘いに乗れと願いながら。
それに対し、返ってきたメールは、
『いいね。面白そう』
だった。
零児は面白そうな、ワクワクするイベントに乗ってくれた。
嬉しさのあまり、柿内君は思い切り机の天板をどばん!と手のひらで叩き、近くにいた女子をびくっとさせた。
行けるんならちゃんと学校行きなさいとお姐さんに耳打ちされた零児はサボりもせず、きちんと重役出勤で学校へ向かった。
同じ頃。響季から柿内君の元へトンデモメールが届いた。
ケータイがMatthew・G(弦也)・南のおきぬけジョークを奏で、
『れいちゃん暇そうだったらデートにでも誘ってやって』
「エッ!?」
「うわっ。なに?かきうち君」
メールを見た柿内君が昼休みの教室ですっとんきょうな声を上げると、近くいた女の子達がびっくりする。
「いや…、その…。」
適当にごまかし、送られてきたメールを再度見る。
投げつけられたお願いに気持ちの整理がつかない。
響季が言わんとしていることはわかる。零児はあの日以来、一度も響季のお見舞いに来ないらしい。
そこには漠然とした拒絶感と距離感があった。
数日前に響季から送られてきたメールには、もうそろそろ退院らしいと書かれていた。
そんな中でのこの指令。
はっきりとは書いてないが、デートというのはそのことに対して探りを入れてくれということなのだろう。
このまま退院したのでは、零児との間にしこりのようなものが残ることを響季も気にしているのだ。
だが話を聞く限り、零児はなにより退屈を嫌う子だ。
響季という退屈を埋めるおもちゃが無くなったら、彼女は退屈をこじらせ精神的に死んでしまうかもしれない。
あんな面白い女の子を死なすなんて柿内君にとっても損失が大き過ぎる。仮に二人の縁が切れでもしたら、響季を通じてのれーじ君のオモシロ話も聞けなくなってしまう。
そして、自分はその退屈を埋める相手として勤まるのか。
「くっ!神よ、俺に366日の初デート大辞典を授けてくれッ!」
柿内君が大きな手のひらで顔半分を隠し、そんな台詞を吐いてみる。
初デートで会話に詰まった時の話題が日付とあいうえお順に書いてあるアレだ。
が、そんな中2台詞を教室の片隅で吐いてみたところで、辞典は存在しないし空から降ってもこない。
「どしたの?かきうち君。メール?」
そんな一人芝居をしたり、ケータイを見つめたまま固まっていると、先程の女子グループの一人が話しかけてきた。
「なんか…、デートしなきゃいけないみたいで」
柿内君がそう言うと、女の子達は一瞬間を置いた後。
「なにそれっ!!」
「誰と誰と!?」
「どういう流れで!?」
予想通りの質問攻撃をしてきた。
「あの、知り合いの娘さんなんだが、小学生の」
柿内君の答えに、なんだあと色めき立っていたかしましガールズ達が途端に意気消沈するが、その意気は半分ほど残っていた。
「でもデートってどこに連れていけば」
「1日デート?」
「たぶん、学校終わりとかに」
そこを逃さず、柿内君がさりげなく質問を持ちかけると、女の子達は相談に乗ってくれた。さすがに1日がっつりではないだろう、放課後にちょっと遊ぶ程度だと彼は考えていたが、
「ご飯食べさせればいいんじゃない?あとカラオケとか」
「でも子供だから誘拐と間違えられるかも」
小学生と言ってしまったのでアドバイスがあまり参考にならない。
「えーと…、気を付けることとかは?こういうことしちゃいけないとか言っちゃいけないとか」
レディに対するマナーについて訊くと、女の子達は顔を見合せ、
「まあ、手出しちゃダメだろうね」
小学生という設定が地味に効いてしまい、更にややこしくなってしまった。
「それ以外だと?」
「あとはー、子供扱い?」
やはり設定がアドバイスの邪魔をした。
零児ならば子供コントなどはキャッキャキャッキャと喜んでしそうだが。
その後は歩かせ過ぎない、なるべく休ませる、早く歩かないなど、まあまあ的確なアドバイスがもらえ、
「手繋ぐか腕組むかした方がいいかな。女の子なら嬉しいかも」
「なるほど」
頷きつつも必要最低限のマナーを少年は脳にメモっていった。
そうして、クラスの女の子達からデートについての手ほどきを受けた後。
「ふう」
柿内君は自分の席に座ったままケータイを手に息を深く吸い込み、細く吐き出す。
彼はいまだかつてないほど緊張していた。
女の子をデートに誘うためにメールをするからだ。しかも親友の、大事な人をデートに誘うのだ。
不安で胸が押しつぶされそうになる。断られたらどうしようと。
「……はぁ」
少年が、先程とは違う息を吐き出す。その口元は笑っていた。
不安はあるが、それを凌駕するほどのワクワク感があったからだ。
やはり零児という女の子に興味があった。
「……そうだ」
そして、あることを思い付く。
上手く行けばそれが出来るかもしれない。
女の子にとっては、おそらくとても素敵なイベントを。
『母さんオレオレ、かっきー』
という軽めの件名から、
『ゲーム欲しいから10万ガバスほど振り込んでくれ母さん』
そんな本文に繋げたメールを柿内君は零児に送ってみた。
アドレスは自作フィギアをあげた時にお礼メールを貰ったので知っていた。
その時は「ニホンノミナサン。ドモアリガト」という言葉とともに、土下座と45度お辞儀をしたミクロマンフィギア2体を従え、ミニショベルカーに乗ったSmooth Criminal衣装のMichael Jacksonフィギアの画像が添付されていた。
死して尚来日してくださったキング・オブ・ポップにお礼を言われたら、それはそれは光栄だと彼はその画像を保存した。
さて今回はどんな返信が来るか。それともこんな訳のわからんメールと無視するか。
ワクワクと不安を胸に、柿内君が待っていると、
『あら、お久しブリーフィングルーム』
という軽めジャブの件名でメールが来た。
『ガバスはないけど地下帝国にいた頃のペリカなら50万くらいあるけど』
返ってきたメールに、柿内君がニヤリと口の端を上げる。
ちゃんとこちらのボケにも、ほぼセオリー通りで返してくれた。
しかし警戒しているようにも見えたので、
『急にクレープが食べたくなったんだけど、男子一名で行くのも侘しいのでご一緒にクレープ祭りしませんか?お嬢さん』
と、なるべくスマートに誘ってみた。当然下心など微塵も見せず、紳士的に。
「しませんか?」を「しま専科?」に変換しようと思ったが、あまりボケを重ねすぎても鬱陶しいかとやめた。
だが今度は返信までには少し時間がかかった。
先程のワクワクはすみに追いやられ、またしても不安で胸が破裂しそうになる。
世の男はこんなにも心臓に負担がかかることをこなしているのか?やはりしま専科がよかったかと思っていると、
『いつ?今日?』
ほぼ承諾に近いメールが来た。
『そちらの都合がよければ、今日の放課後でも』
『いいよー』
伸ばした語尾に、くすぐったいようなかわいらしさを覚える。そして、
『どうせならそちらまでお迎えに伺うが。学校まで』
待ち合わせ場所の指定ではなく、お迎えに参上つかまつると柿内君は申し出た。誘いに乗れと願いながら。
それに対し、返ってきたメールは、
『いいね。面白そう』
だった。
零児は面白そうな、ワクワクするイベントに乗ってくれた。
嬉しさのあまり、柿内君は思い切り机の天板をどばん!と手のひらで叩き、近くにいた女子をびくっとさせた。
応援ありがとうございます!
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