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アニラジを聴いて笑ってる僕らは、誰かが起こした人身事故のニュースに泣いたりもする。(下り線)

25、無料シャトルバスを病院に回してグランドフィナーレが始まる

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『これからお見舞い行っていい?』

  カラオケルームを出た零児は、すぐ響季にメールを送った。
  まったく連絡を取らなかったというのにあまりにフランクな文面だったが、

 『いいけど。面会8時までだよ?』

  返してくる方もフランクだった。
  それを嬉しいようなホッとしたような思いで見たあと、ケータイで時間を確認する。もう7時過ぎだ。着くのには色々な準備込みで30分はかかるが、

 『行く』

  零児はそれだけ返した。
  今すぐ逢いたかった。逢って話がしたかった。
  これからのこと、今までのこと。
  何より、謝りたかった。


 「あのっ、片瀬響季のお見舞いのっ、あのっ、面会のものですっ」

  病院に着くなり零児は一目散にナースステーションに向かい、面会の許可を申し出た。

 「もうすぐ面会時間終了ですが」
 「それでもいいですっ」

  息せき切って答える女の子の雰囲気に、新米の女性看護師は少し驚いていた。
  許可を得ると零児は早足で響季のいる病室へと向かい、歩きながら考える。


 入口でまず、「来ちゃった。てへ」か。
でも他に入院してる人いたら気まずいかな。
そうか他に誰かいるかもしれないんだ。どうしよう。
あと謝らないと。
ああ、もう着く。


  先程のワクワクするようなシミュレーションとは違い、登場の仕方が上手くまとまらない。
  そしてまとまる前に着いてしまった。
  個人情報の関係なのか、病室の入口には患者の名前が書いたプレートがない。
  本当にここであってるのかと恐る恐る病室を覗くと、六人部屋である部屋の一番奥の左側、その空間にだけカーテンが引かれていた。
  あそこにいるのかと零児が声をかけようとするが、

 「ひび、き」

  出した声はあまりに小さかった。
  呼びかけた名が口に馴染まない。
  そのことに涙が零れそうになるが、

 「れいちゃん?」

  呼ばれた方はそんな小さな声も聞き逃さないでくれた。
  問いかけるような声で名前を呼ぶ。いつもと変わらない、あの声だった。
  零児の大好きなあの声だった。

 「は、ぃ」

  どうにかして出した弱々しい声で返事をすると、

 「なんだ。こっちだよ。早く来なよ」

  声と一緒にカーテンの生地がかしゃかしゃと揺れる。
  生地越しに手招きしているのか、こっちだと合図してくれていた。
  すん、と鼻を啜り、零児が病室に足を踏み入れる。
  まだ心の準備は出来ていない。顔を見た途端泣き出してしまうかもしれない。
  それでも早く逢いたかった。
  カーテンが引かれた空間を回りこむようにしてベッドの脇に立つと、

 「おおー、れいちゃん。早かったね」

  まだ準備が出来ていないのに、シャーッとベッド周りのカーテンを開けられてしまった。
  そこに響季がいた。
  ベッドの上で半身を起こし、髪は多少バサついているが顔色もよく、入院着代わりに私服らしきロックなロングTシャツを着ていた。
  枕元には携帯音楽プレーヤーや携帯ゲーム機、開いたままの本などがある。
  見ただけではだいぶ元気そうだった。

 「あ…、うん」

  早かったねという言葉に零児はなんとか返事だけするが、その後が続かない。
  いつもの調子を取り戻さなくてはと焦り、会話の糸口を探すが、

 「もう夜なのにごめんね。まあ、明日退院なんだけどさ」

  へははっ、という空気の抜けたような笑い声と共に響季がそう言う。
  その笑い方もいつも通りだった。入院する前と同じ、何も変わっていない。

 「うん、聞いた。だから」

  その変わらなさを足がかりにし、零児は通学バックを漁ると、

 「お見舞いに、古賀亮一の旧『ゲノム』全4巻とニニンがシノブ伝全4巻持ってきた」
 「いや、だから明日退院なんだって!しかも大判コミックスって!」

  読むのに大変時間のかかる昆虫ショート百合ギャグ漫画と、くのいちショート百合ギャグ漫画をどっさり8冊取り出す。
  通常サイズではない、大きめサイズのコミックスだ。
  それに響季が反射的にツっこむ。
  零児はいきなり手の込んだネタを仕掛けてきた。明日退院なのに大判コミックスをどっさり持ってくるというわかりやすいボケのために、わざわざ用意してきたのだ。

 「何をこんなにたくさん持ってきてるんだよぉ」

  口では咎めつつも、響季は楽しそうにページをめくる。
  それを見て、零児はここからどう会話を繋げていくかを考えていると

「椅子あるから座んなよ。ああ、でも時間ない?」
 「ううん。ある」

  響季がパイプ椅子を指さし、腰を下ろす。
  最初から面会時間いっぱいまでいるつもりだった。
  これで腰を据えて喋ることが出来る。が、その反面逃げることが出来なくなった。
  しばらく響季は差し入れの漫画をめくっていたが、

 「うわゴキブリ気持ち悪…、おっと、これは後で読むとして。ありがとね、来てくれて」
 「ううん」

  零児に向き直り、改めてお礼を言う。
  しかし言われた方は目線を下げ、適当に受け流してしまう。
  本来ならもっと早く来るべきだったのに、それも謝らなくてはならないのに、なぜか言葉が出てこなかった。だがすぐに、

 「そうだ、お菓子あるけど食べる?」
 「おか、し?」
 「お母さんがお見舞い来てくれた人に差しあげなさいって。お食べなさいな」

  そう言いながら響季がそばのテーブルに置かれた、大きめの平たい缶を開ける。
  デパートで買ってきたような紅茶味のクッキーやゴーフル、シガークッキーなどの詰め合わせだった。

 「…うん」

  その中から、零児がシガークッキーを取ると、

 「あー、やっぱり」
 「えっ?」
 「それ大人気なんすよねー。みんな食べる」

  言われて零児がお菓子の減り具合を見る。確かに他に比べて残っている数が少ない。

 「じゃあ、」

  違うのを、と選ぼうとするが、

 「いいよいいよ。食べんさい食べんさい」

  孫が遊びに来たおじいちゃんみたいな口調で、響季が遠慮するなと選んだものを与える。

 「うん…」

  そう言うならと零児は薄いクッキーを葉巻状に巻いたものを頂いた。
  そして響季も結局は同じものをサクサク食べ、零児はさりげなく周囲は観察する。
  入院しているというのに生活用品は必要最低限しか無く、ベッド周りも片付けられていた。本当に明日退院なのだと実感していると、

 「ちょっと前までは雑誌とか本とかぬいぐるみもあったんだ。お花とかもね」

  視線に気づいたのか、周りを見ながら響季が言う。

 「クラスの子とかお見舞い来てくれてさ。先生とか、あと同じ中学の子とか」
 「へえ」
 「ああ、あと小学校の時一緒だった子の親が入院してて、お見舞い来たその子と偶然逢って、どうしたの?いやあ入院しちゃってさー、みたいな。で、暇つぶしにその親御さんのお見舞い一緒に行ったり」
 「そうなんだ」

  話を聞きながらも零児はホッとしていた。
  自分が来なくても色んな人がお見舞いに来てくれたのだと。退屈もせず、良かったと。
  だが、自分が来なくてもという部分に胸がちくりと勝手に痛んだ。

 「最近ってネットワーク早いからさあ。実際逢ってなくても人づてから聴いたりして繋がりやすいみたいで、どっかから聞きつけて色んな人来てくれて。あと高校の先輩とかも」
 「うん…」

  オチもない報告話、いつもの零児なら退屈してしまう話を響季は続けた。
  自分は相づちばかりで、向こうが一方的に話していた。
  しかし零児は相づち役に徹した。沈黙が怖かったのだ。
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