昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第二景

7、レトロゲームセンター開店です

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 その後もショーは続く。
 ある踊り子さんのショーの時は、ロビーで貰った香盤表のプロフィールを詩帆がステージからの照明を頼りに見てみる。
 デビューから間もない。どこか無難な感じがした。物足りなさすら。
 衣装、ダンス、曲構成、身体つき。そのどれにも。
 だが惹きつけられるものがある。なぜだろうと考えていると、

「(訳)華がありますね」
「(訳)そうだね」

 こそっと伝えてきたシャオちゃんの意見にそうかと同意する。
 彼女には天性の華があった。
 顔、あるいは全身からの説得力。
 自信。無難ながらも堂々としたステージング。
 ばらける前髪が汗とともに顔に張り付く。
 その顔のまま客席に視線を送られるとドキリとする。
 すべてが絵になる。
 そう考えるとあまり面白みのない構成も、ある意味正攻法とも言えた。
 今はまだまだだが、そのうちトリを任させれるようになるだろうと香盤表を畳みながら詩帆は思った。


 歌姫系J-POPを繋ぎ合わせた踊り子さんのショーが終わると、撮影ショーのBGMに知ってるアニソンが流れた。
 しかしちょっと違う。
 原曲のアニソンシンガーが歌ったものよりキャラクター色が強い。というか強過ぎた。
 おそらく最終回の後に出た、何かしらの特典に入ってた主演声優達によるカバーバージョンかなと思った。
 癖が強く、眉間に皺が寄る。悪くはないのだが。
 同時に、そのアニメを見ていたのが高校生の頃で、もうそんなに時が経ったのかと詩帆はひとり震えた。


 トリの踊り子さんのショーが終わると、楽しみにしていたフィナーレが無かった。すぐに場内が明るくなり、

「この後は10分間の休憩となります。休憩のあとは恒例RG大会となります」
「よっしゃ」

 場内アナウンスにお爺さん客がパンっと膝を叩いて立ち上がる。そしてフッフッと相撲取りのように腕を振って脇の下でかぽんかぽんさせ、

「おっ、今日も気合入ってんね」
「アッハッハ」

 そんなことを他の客に言われ、カンラカラカラ笑ってみせる。

「やっぱなんかあるのかな」
「みたいデスネ」

 それを見て二人がこそこそ言い合う。
 ナントカ大会と言っていたが聞き取れなかった。どうも『何か』をやるらしい。
 本舞台でも従業員によって着々と準備がされている。
 出てきたのは大きなモニターと、もはや化石並みの古さのゲームハードだった。


 そして10分間の休憩の後。

「あ」

 詩帆とシャオちゃんが天井を見上げる。場内に流れてきたのは有名な電波ソングだった。
 世代じゃないのに8ビットのピコピコ音に、詩帆達が妙にワクワクしていると、

「さあさあさあっ!今宵もいい頃いいお時間っ!いい年したゲームガイズアンドレディ、その他どもよっ!お集まりいただけたかな?」
「イエーイ。ウワアーオ」

 付けチョビ髭に野球帽、ピンクのオーバーオールという格好の女性が突然ステージに登場する。
 このイベントの名物キャラ ウルトラマオリだ。
 その正体は劇場所属の踊り子 舞織姐さんだ。
 更にそれに続くように、劇場所属の若手踊り子が妹分、いや弟分として同じく付けカイザー髭、工事用ヘルメット、オーバーオールで食い意地の張ったクイージとして、安そうなドーナツをモグモグ食べながら出て来た。
 初見さんでもわかるようにちゃんと大きめの名札を胸元につけていた。突然の出来事に詩帆達はぽかんとするが、

「ほーら、いつまでも食べてんじゃないよっ!」
「ムニャムニャ。もう食びらりないよほぉ」
「もー、食べながら寝てるよこの子はっ!」

 そんな茶番に客がワハハと笑い、

「さて、今回対戦するゲームはっ」

 ウルトラマオリが今回のゲームを紹介する。ステージに用意された大きめのモニターにゲーム画面が大写しになり、シャオちゃんと詩帆はそれだけで興奮する。
映し出されたのは昔からある有名落ちものパズルだ。

「さて、誰が挑戦すr」
「ふぁい」

 呼び込みが終わる前にお爺さんがスッと手を挙げる。おいおい爺さん無理すんなよと詩帆は思ったが、見ると先程腕をかぽんかぽんさせていたお爺さんだ。

「(訳)ボケ防止プレイヤー?」
「え?あ…」

 それを見てシャオちゃんが言った言葉に、そうかと気付く。
 落ち物パズルゲーは随分前からボケ防止アイテムとして重宝されていた。
 お孫さん達とのコミュニケーションツールとしても役立っていたと、ニュースで見たことがある。
 家に祖父母がいなかったので詩帆にはわからなかったが。
 本舞台に上がり、上手にお爺さんがすでに用意された座布団に座る。下手にクイージも座布団に座ると、

「ンフっ」
「ふひ」

 シャオちゃんと詩帆が同時に吹き出す。理由は恐らく同じだ。
 お爺さんもクイージも、座布団の上できちんと正座をしているのだ。
 汚れのない真っ白い靴下がお尻の下からちょこんと出ている。
 その可愛らしさとお行儀の良さ、舞台上の二人の姿勢の良さが妙に面白かったのだ。
 ゲームが始まると、ピコピコ、プシュプシュ等という音とともにお爺さんとクイージがブロックを回転させ積み上げていく。

「おー、クイージは伝統の隙間空け。対して挑戦者は」

 それをマオリがマイク片手に実況する。

「おおーっ」
「がんばれー」

 更にそこに他の客の声援も加わる。老舗ストリップ劇場が、突然学校終わりの友達んちになり、詩帆はワクワクした。
 つい、台所にいるお母さんに麦茶とかお菓子をねだりたくなる。
 実際にはそういった経験はなく、昭和のゲームもプレイしたことはない。
 おそらく何かの映像作品だかで見たか、ゲームが好きな大人がテレビかなんかで話していたのを聞いたのだ。それでもワクワクした。
 すると、

「はーい。お菓子いる人ー」
「麦茶もありますよー」

 他の踊り子さん達が大振りの木の器に個包装されたお菓子を入れて現れた。
 しょっぱい歌舞伎揚げや甘いチョコチップクッキー。チョコ入りマシュマロ、柿の種、クリームウエハースなどなど。
 紙コップやプラスチックボトルに入れた麦茶も。
 麦茶は当然ペットボトルではなく、実家の冷蔵庫にあるようなプラスチックの大きな容器に入った手作り麦茶だった。

「ゴミちゃんと捨ててくださいねー」
「お金そこねー」

 そこ、と踊り子さんが指差す本舞台の端にお菓子、お茶代と書かれた募金箱のようなものが置かれていた。そこにお気持ち代を入れるらしい。
 見ると菓子をつまみながら慣れた感じで客がチャリンチャリン、ぱさぱさと小銭やお札を入れていく。

「ムギチャ!ムギチャ!」
「はいはい。そっちのおねえさんもいる?」
「はい」

 シャオちゃんが清楚系ギャル踊り子さんに麦茶をねだり、詩帆と二人分貰う。

「お菓子は?」
「歌舞伎揚げとマシュマロ食べタイ!」
「はいよー」

 リクエストに踊り子さんが答え、シャオちゃんが受け取ったマシュマロを歌舞伎揚げで挟んでモクーっと食べていた。

「おっ、なにその食べ方。お嬢ちゃん通だね」

 近くにいた男性客がそんな食べ方に興味を惹かれていた。

「初めてヤッタ」
「ええっ?チャレンジャーだね」
「マシュマロ、炙ったほうが美味しいカモダケド」
「ああ、火気厳禁だからね。へー、オレもあとでやってみよ」

 性風俗の場だと言うのに、なんだか学年の違う子供達が公民館で急に仲良くなるような。
 そんな微笑ましい光景を詩帆が不思議な思いで見る。

 そうこうしてるうちに、

「ああーっ。クイージ敗退っ!」

 きちんと勝負を見ていなかったが、マオリの実況によるとどうやらクイージが負けてしまったらしい。

「オオーゥ」

 ブロックが画面いっぱいに積み上げられ、クイージが頭を抱えていた。
 舞台上でお互い正座をしたまま頭を下げ、勝負は終わった。そしてお互いきっちり座布団をひっくり返すと、

「さあ、次なる挑戦者は」
「はいっ」

 新たな挑戦者の呼びかけに手を挙げたのは、薄い水色の作業着姿の女性だった。
 とあるゲーム好き課長のコスプレだっ、と詩帆が色めき立つ。
 確か詩帆達が劇場に来た時からいたが、その時は普通の格好だった。
 わざわざこのイベントのために着替えてきたのか。

「じゃあもう一人」
「あーい」

 おどけた感じで手を挙げたのはスクエアメガネのヤンエグ風男性。

「おっ、これは見応えのあるカードです」

 マオリが煽る。どうやら強い二人らしい。
 バチバチと互いに見えない闘志を燃やしている。

「ボクも見応えあったよほぉ」
「さあ張り切ってまいりましょう!」

 クイージの抗議は華麗にスルーされた。


「うお、すーげえ」
「なにあれ今のっ。あんなやり方あんの?」

 かなりいい勝負の女課長VSヤンエグ対決をみんなで見ていると、

「それにしても舞織もあの衣装日の目見れてよかったよなあ」
「ですよねー」

 顔馴染みらしい男性客と女性客がそんなことを話していた。

「ヒノメ?」

 ナニソレという顔でシャオちゃんが会話に参加する。

「ああ昔ね、うーん、アニメとかのパロディのチームショー専門でやる踊り子がいたんだよ。伝説クラスの。もうやめちゃったけど。で、今司会やってる舞織って踊り子があの衣装作ってチーム組んでくれって頼んだんだけど嫌だって断られてね」

 二人揃ってへえーっという顔で訊く。そんな人がいたんだあという顔を全力でして。

「どうしようって言ってたらこういうゲーム大会みたいのやれないかって案が挙がってな。まあ、他に比べたらそこそこ若い客多いし、爺さんたちも家で自主トレしたりさ、なんか活性化しちゃって。で、衣装も無駄にならなくてみんな万々歳ってね」
「これ目当てで来るお客さんも結構居ますしねえ」

 女課長とリーマンもその手の客だという。
 最初からストリップ目当てで来てゲームというものにハマる客も多いとか。
 なんだかわからないが、詩帆は楽しかった。すると、

「オオ?」

 シャオちゃんが場内入り口の方を向く。何やら受付のあたりが騒がしい。
 ガサ入れとかマナーの悪い海外客とか物騒なことではなく、もっと賑々しい騒がしさだ。

「おっ。噂をすれば、かな」

 同じように入り口の方を見ながら、男性客が楽しそうにそんなことを言う。チョコチップクッキーをつまみながら。そして、

「Aーha!今日も大入りだねえ!」
「そうでもないよ?」

 一人の客が嬉しそうに両手を広げながら入ってきた。
 それにクイージが甘じょっぱいざらめ煎餅を食べながら舞台上から言い、客と踊り子さん達がどっと笑う。
 入ってきたのはリュックにヨレヨレのシャツと適当な感じのジーンズ。鳥の巣頭にメガネという、明らかにゲームオタ青年だった。
 外国人の。そして明らかにそれ目当てのお客さんだった。
 レトロゲームが好きな。
 彼はニコニコ顔で場内を進み、慣れた感じで踊り子さんから麦茶とお菓子を貰う。
 アンタ、ゲームだけして帰んないでちゃんとショーも見て帰りなさいよ?と踊り子さんに怒られていた。
 それを青年はニコニコ顔で享受する。
 なんとも羨ましいいじられ方だ。それを詩帆はなんてことでしょうという目で見つめていると、

「ああーっと!なんてことでしょう。」

 ウルトラマオリがマイクを握り、感情たっぷりに実況する。
 彼女も仕事をきっちりこなしていた。
 そして、そうか、無駄にならなかったんだ、よかったと心の中で思った。
 私の友達に振られてしまったけれど、作った衣装は成仏出来たのだと。
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