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第二景
12、毎度おなじみ楽屋訪問でーす
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「狭いけどー」
言われるまでもなく楽屋は狭かった。というより恐ろしいほどに物が多い。
化粧前にはお茶や水やブラックコーヒーのペットボトル、手鏡、化粧品一式、客から預かった写真やカラフルなペン、ヘアアイロン、くし、ティッシュの箱などが散乱し、床にも灰皿やぬいぐるみなどが置かれている。
踊り子さんたちの私物がほとんどだが、自宅でも遥心宅でもミニマリズム化している詩帆には、目から飛び込んでくる情報量の多さに頭がクラクラした。
そんな空間で、
「ホゲーッ!」
「アハハハハハ!!」
踊り子さんがペンを両方の鼻に突っ込み全力で変顔をするのを、もう一人の踊り子さんがスマホを構えパシャシャシャシャシャと連射していた。
「連射すなよー!」
「いいじゃん!一番いいの使いなよ!」
見るとふざけていたのはチームショーをやっていた二人だった。
見るからに仲の良さが伺えたが、あれだけのものを作り上げるにはプライベートでも仲が良くては出来ないだろう。
母親になってもあんなおバカやこんなおバカが出来るのを詩帆が羨ましそうに見ていると、
「おやおや、御二人さんどしたの?新人さん?」
「子守させられてんの?」
「いえ、じゃなくて」
ダブルで鼻にペンを突っ込んでる二人に訊かれ、どう説明したらいいのかとシャオちゃんの腕の中にいる赤ちゃんを見る。
歩いて移動したからか、赤ちゃんは少し落ち着いていた。だがまたいつ火がつくかわからない。
「詩帆さん、スマホ」
「あ、はいっ」
シャオちゃんが小声で言い、そうだったと詩帆がリュックから取り出す。
「プレイヤー開いて」
そしてミュージックプレイヤーを開けと言い、更に曲名を挙げ、それを掛けろと言う。
流れてきたのは詩帆もよく知っているアニメのエンディング曲、それのインスト版だった。
ピアノを主旋律にしたメロディに、赤ちゃんが、ふぅ?とスマホに目を向ける。
「あれ?なんか反応してない?」
静かに何か書物をしていた若奥様踊り子さんがいち早く気付き、他の踊り子さん達もほんとだと見守る。
赤ちゃんと一緒に、詩帆も曲に耳を傾けていた。
インスト版でもその曲の素晴らしさが分かる。
元々は自身がミュージシャンとしてやっていきたかったプロデューサーが、商売としてアニソン歌手のプロデューサー業に収まった。
そして自身がやりたい楽曲をプロデュースするアニソン歌手に委ねていった。
プロデュースされる側も、本来ならアニソンなんかではなく普通のアーティストとしてやっていきたかった人間だ。
歌ってみろ、歌ってやるさ、これはどうだ、歌えるさ。
そんなエゴとジレンマとスパルタ教育の延長線にあるようなプロデュース。
結果生まれた曲達。
込められた魂のようなものがインストロメンタルでも伝わってくる。
赤ちゃんはだいぶ落ち着いた。
いい流れだ。だが曲が終わりに近づくとそれを敏感に感じ取り、またぐずりそうになる。
「その次に」
曲が終わる前にシャオちゃんが別の曲名を挙げ、詩帆がそれを探し出す。
そして曲が終わると同時にそれを掛けた。
流れてきたのは賛美歌風の曲だった。
当然詩帆も知っていた。
アニメスキーの間では有名な、深夜アニメのエンディング曲だ。
魂が救われ、浄化されそうなメロディ。
全ての愚者が導かれ、消え去っていくような。
歌詞には物語を読み解くキーワードがいくつも紛れ込んでいるが、よく読めば絶望が見える。
それに反するような、希望と救いを乗せた歌声。
芳醇な響きのある低音。
凛とした気高さのある中音。
包み込むような母性的な高音。
三声が重なり合い、溶け合う。
束ねられたそれらがサビ手前で厳かに解放され、それが合図であったかのように赤ちゃんはスヤリスヤリと寝だした。
「えー!?寝ちゃった!」
踊り子さん達が驚きながら取り囲む。なんでなんでと。
その中で赤ちゃんはくうくう寝息を立てていた。大きな声で騒いでもまったく起きないグッスリ具合。
そんな赤子を抱きながら、シャオちゃんは得意そうな顔をしていた。
「(訳)元々アニメ、特にテレビアニメにはオープニング曲とエンディング曲というものが有り、オープニングは表紙、顔となるため勢いがあって引きのある曲が選ばれます」
「元々アニメ、テレビアニメにはオープニング曲とエンディング曲というものが有り、オープニングは表紙、顔となるため勢いがあって引きのある曲が選ばれます」
「(訳)対してエンディングは子供たちの気持ちをクールダウンさせつつ、来週への余韻を持たせる効果のある曲が発注されます」
「対してエンディングは子供たちの気持ちをクールダウンさせつつ、来週への余韻を持たせる効果のある曲が発注されます」「
赤ちゃんが寝てしまうと、シャオちゃんが先程成功させた作戦について説明しだした。
詩帆が同時通訳でそれを伝える。
別にシャオちゃんが直接日本語で話せばいいのだが、シャオちゃんはこういった遊びが好きだった。それは2人ともだ。
「(訳)最近では踊る系のエンディングも多いのですが、本来は」
「最近では踊る系のエンディングも多いのですが、本来は」
「あーっ、前にミキが踊ってたのもアニソンだった」
「ああ、あれそうなの?」
「(訳)オープニングアニメ、エンディングアニメという文化は日本のアニメにおける様式美のようなもので、海外で放送される場合はそれごとカットされたり別の曲に差し替えられたりします」
「オープニングアニメ、エンディングアニメという文化は日本のアニメにおける様式美のようなもので、海外で放送される場合はそれごとカットされたり別の曲に差し替えられたりします」
「そういや海外行った時日本のアニメやってたけど全然違う曲になってたわ」
途中で話の腰を折られつつ、海外行った話になり、シャオ先生によるアニソン講義はなし崩し的に終わった。
なにはともあれ踊り子さん達は日本の文化を異国の少女から教わった。
だがその効果はバッチリらしく、赤ちゃんはほっぺをツンツンしても起きそうもない。
その寝顔を見ていると、
「そうだ、さっきの曲教えといて。うちのが寝そうにない時使いたい」
「あっ、私も」
「わたしもっ。友達に教えてあげよっ」
意外な子守唄に踊り子さんが我も我もととスマホを取り出す。
先程の二曲と、アトソレカラと追加でこんなのもありマスとシャオちゃんがその他使える曲も教える。
それらは詩帆も知ってる曲もあり、へえそうなんだという曲も多かった。
だが踊り子さんと混じって書き留めたりしない。子守唄を聴かせる対象がいないのだから当然だ。
「ちゃんとCDお買い上げクダサイ、ダウンロードでもいデス」
シャオちゃんはファンとして営業もきっちりかける。
「ショーでこの曲使えないかな。普通にいい曲じゃない?」
「でもお客さん寝ちゃいそう」
「っつったっておじいさんとか赤ちゃんと変わんないし」
そんなことを言い合いながら、カラカラ、アッハッハと綺麗なお母ちゃん達が笑う。
笑い声の中でも赤ちゃんは穏やかに眠っていた。
その姿、光景が詩帆にはなんとも不思議だったが、心は妙に穏やかだった。
しばらく踊り子さん達はそんな感じではしゃいでいたが、
「んマーマ!」
いきなりの声に振り向くと、すらっとした体躯の女の子が小さい男の子を抱えて楽屋に入ってきた。
男の子は睫毛が長くて目が大きく、すでに彫りが深い。
日本人以外の血が入ってることが伺えた。
「萌映(もえは)ちゃん、おかえり。お散歩ありがとね」
「いえ」
抱っこされた腕の中でバタバタしてた男の子を、チームショーをやっていた踊り子さんがおかえりーと言いながら受け取る。
男の子がぎゅうーっと抱きつく。どうやらこの子のお母ちゃんらしいが、それより一緒に入ってきた女の子の方を詩帆達が見る。
踊り子さんにしてはさすがに若過ぎる。
誰かの子供だろうと予想出来た。そしてよその踊り子さんの息子ちゃんの子守をしてあげてたことも。
しかし何歳くらいか見当もつかない。
「何年生?」
「小5です」
「えっ!?」
詩帆が訊いてみるが予想外の答えに驚く。中2とか高1とかを予想していた。
おっきい、というか大人び過ぎている。色香すら漂う。こんな場所に居ては危険なほどに。
服も小学生が着るようなものではない。お母さんのお下がりかもしれない。
が、びっくりした声を上げた詩帆はすぐにしまったと思う。女の子が困ったような顔をしていたからだ。
おそらく今までで何十回とされたリアクションなのだろう。だがそれに、
「ウン!デショウナ!」
知ってたし!といったリアクションをシャオちゃんが腕組みしながら返した。
女の子はぽかんとした後、アハハハと体を折って笑った。笑うとまだ子供で安心した。
「子守さんシテタノ?」
「はい、そうです」
「エライネー」
「いえ」
シャオちゃんとの会話を聞きながら詩帆には気になることがあった。
今は別に夏休みとか春休みとかの長期休みではない。学校は?と訊きたかった。が、やめておいた。
するとそこへ、
「海璃(かいり)ちゃん。ヒデさん今くらいの時間ならオッケーだって」
「ホント!?じゃあちょっと行ってくるわ」
受付のおばあさんが楽屋に顔を出しそう言うと、踊り子さん 海璃さんが彫りの深い息子を片手で抱えたまま出かける準備をしだす。
どこに?という目で詩帆達が見ていると、
「贔屓にしてくれてたお客さんなんだけどね、あたしが休んでる間ホームに入っちゃったから顔見せに」
「ホーム?」
「うん。んーと、特養?老人ホーム」
それを聞いて詩帆が、あっ、という顔をする。そりゃあ客層がああなのだからそういったお客さんもいるだろうが。
「子供生まれたからさ、見せに行ったらちょっとは元気になってもらえるかなって」
「でも今って前みたいに好きに絵描いたりとか出来ないんでしょう?
「うーん。絵っていってもパソコンで描いてたりとからしいけどね」
踊り子さん達の会話を聞いて、シャオちゃんが何かに気付き、
「アノ、もしかして」
スマホに保存した画像を見せる。
「コレ、描いた人とか。描いたっていうか塗ったというか」
「あー!そう!それそれ!なんかお客さんでスタンプラリーの表紙の塗り絵企画みたいの提案した人がいて、それに乗っかったって」
そう海璃さんがテンション高く言うが、その顔がシャオちゃんを見つめる、
「…もしかして」
「ワタシ…、提案者デス」
小さく挙手しながらシャオちゃんが言う。
さすがにあまりの偶然に動揺が隠しきれない。いつかこのジジイに会いたいと言っていたが。
「ええー!?そうなんだあ!じゃあさあっ」
海璃さんが更にテンション高く言い、
「一緒に行かない?」
嬉しそうにそう言った。
地方までストリップを見に来て、ネットで見つけた常連さんが住んでる老人ホームにこれから行かないかという。
なんだその展開と詩帆が思っていると、
「うん。イク」
シャオちゃんはあっさり承諾した。
〈了〉
言われるまでもなく楽屋は狭かった。というより恐ろしいほどに物が多い。
化粧前にはお茶や水やブラックコーヒーのペットボトル、手鏡、化粧品一式、客から預かった写真やカラフルなペン、ヘアアイロン、くし、ティッシュの箱などが散乱し、床にも灰皿やぬいぐるみなどが置かれている。
踊り子さんたちの私物がほとんどだが、自宅でも遥心宅でもミニマリズム化している詩帆には、目から飛び込んでくる情報量の多さに頭がクラクラした。
そんな空間で、
「ホゲーッ!」
「アハハハハハ!!」
踊り子さんがペンを両方の鼻に突っ込み全力で変顔をするのを、もう一人の踊り子さんがスマホを構えパシャシャシャシャシャと連射していた。
「連射すなよー!」
「いいじゃん!一番いいの使いなよ!」
見るとふざけていたのはチームショーをやっていた二人だった。
見るからに仲の良さが伺えたが、あれだけのものを作り上げるにはプライベートでも仲が良くては出来ないだろう。
母親になってもあんなおバカやこんなおバカが出来るのを詩帆が羨ましそうに見ていると、
「おやおや、御二人さんどしたの?新人さん?」
「子守させられてんの?」
「いえ、じゃなくて」
ダブルで鼻にペンを突っ込んでる二人に訊かれ、どう説明したらいいのかとシャオちゃんの腕の中にいる赤ちゃんを見る。
歩いて移動したからか、赤ちゃんは少し落ち着いていた。だがまたいつ火がつくかわからない。
「詩帆さん、スマホ」
「あ、はいっ」
シャオちゃんが小声で言い、そうだったと詩帆がリュックから取り出す。
「プレイヤー開いて」
そしてミュージックプレイヤーを開けと言い、更に曲名を挙げ、それを掛けろと言う。
流れてきたのは詩帆もよく知っているアニメのエンディング曲、それのインスト版だった。
ピアノを主旋律にしたメロディに、赤ちゃんが、ふぅ?とスマホに目を向ける。
「あれ?なんか反応してない?」
静かに何か書物をしていた若奥様踊り子さんがいち早く気付き、他の踊り子さん達もほんとだと見守る。
赤ちゃんと一緒に、詩帆も曲に耳を傾けていた。
インスト版でもその曲の素晴らしさが分かる。
元々は自身がミュージシャンとしてやっていきたかったプロデューサーが、商売としてアニソン歌手のプロデューサー業に収まった。
そして自身がやりたい楽曲をプロデュースするアニソン歌手に委ねていった。
プロデュースされる側も、本来ならアニソンなんかではなく普通のアーティストとしてやっていきたかった人間だ。
歌ってみろ、歌ってやるさ、これはどうだ、歌えるさ。
そんなエゴとジレンマとスパルタ教育の延長線にあるようなプロデュース。
結果生まれた曲達。
込められた魂のようなものがインストロメンタルでも伝わってくる。
赤ちゃんはだいぶ落ち着いた。
いい流れだ。だが曲が終わりに近づくとそれを敏感に感じ取り、またぐずりそうになる。
「その次に」
曲が終わる前にシャオちゃんが別の曲名を挙げ、詩帆がそれを探し出す。
そして曲が終わると同時にそれを掛けた。
流れてきたのは賛美歌風の曲だった。
当然詩帆も知っていた。
アニメスキーの間では有名な、深夜アニメのエンディング曲だ。
魂が救われ、浄化されそうなメロディ。
全ての愚者が導かれ、消え去っていくような。
歌詞には物語を読み解くキーワードがいくつも紛れ込んでいるが、よく読めば絶望が見える。
それに反するような、希望と救いを乗せた歌声。
芳醇な響きのある低音。
凛とした気高さのある中音。
包み込むような母性的な高音。
三声が重なり合い、溶け合う。
束ねられたそれらがサビ手前で厳かに解放され、それが合図であったかのように赤ちゃんはスヤリスヤリと寝だした。
「えー!?寝ちゃった!」
踊り子さん達が驚きながら取り囲む。なんでなんでと。
その中で赤ちゃんはくうくう寝息を立てていた。大きな声で騒いでもまったく起きないグッスリ具合。
そんな赤子を抱きながら、シャオちゃんは得意そうな顔をしていた。
「(訳)元々アニメ、特にテレビアニメにはオープニング曲とエンディング曲というものが有り、オープニングは表紙、顔となるため勢いがあって引きのある曲が選ばれます」
「元々アニメ、テレビアニメにはオープニング曲とエンディング曲というものが有り、オープニングは表紙、顔となるため勢いがあって引きのある曲が選ばれます」
「(訳)対してエンディングは子供たちの気持ちをクールダウンさせつつ、来週への余韻を持たせる効果のある曲が発注されます」
「対してエンディングは子供たちの気持ちをクールダウンさせつつ、来週への余韻を持たせる効果のある曲が発注されます」「
赤ちゃんが寝てしまうと、シャオちゃんが先程成功させた作戦について説明しだした。
詩帆が同時通訳でそれを伝える。
別にシャオちゃんが直接日本語で話せばいいのだが、シャオちゃんはこういった遊びが好きだった。それは2人ともだ。
「(訳)最近では踊る系のエンディングも多いのですが、本来は」
「最近では踊る系のエンディングも多いのですが、本来は」
「あーっ、前にミキが踊ってたのもアニソンだった」
「ああ、あれそうなの?」
「(訳)オープニングアニメ、エンディングアニメという文化は日本のアニメにおける様式美のようなもので、海外で放送される場合はそれごとカットされたり別の曲に差し替えられたりします」
「オープニングアニメ、エンディングアニメという文化は日本のアニメにおける様式美のようなもので、海外で放送される場合はそれごとカットされたり別の曲に差し替えられたりします」
「そういや海外行った時日本のアニメやってたけど全然違う曲になってたわ」
途中で話の腰を折られつつ、海外行った話になり、シャオ先生によるアニソン講義はなし崩し的に終わった。
なにはともあれ踊り子さん達は日本の文化を異国の少女から教わった。
だがその効果はバッチリらしく、赤ちゃんはほっぺをツンツンしても起きそうもない。
その寝顔を見ていると、
「そうだ、さっきの曲教えといて。うちのが寝そうにない時使いたい」
「あっ、私も」
「わたしもっ。友達に教えてあげよっ」
意外な子守唄に踊り子さんが我も我もととスマホを取り出す。
先程の二曲と、アトソレカラと追加でこんなのもありマスとシャオちゃんがその他使える曲も教える。
それらは詩帆も知ってる曲もあり、へえそうなんだという曲も多かった。
だが踊り子さんと混じって書き留めたりしない。子守唄を聴かせる対象がいないのだから当然だ。
「ちゃんとCDお買い上げクダサイ、ダウンロードでもいデス」
シャオちゃんはファンとして営業もきっちりかける。
「ショーでこの曲使えないかな。普通にいい曲じゃない?」
「でもお客さん寝ちゃいそう」
「っつったっておじいさんとか赤ちゃんと変わんないし」
そんなことを言い合いながら、カラカラ、アッハッハと綺麗なお母ちゃん達が笑う。
笑い声の中でも赤ちゃんは穏やかに眠っていた。
その姿、光景が詩帆にはなんとも不思議だったが、心は妙に穏やかだった。
しばらく踊り子さん達はそんな感じではしゃいでいたが、
「んマーマ!」
いきなりの声に振り向くと、すらっとした体躯の女の子が小さい男の子を抱えて楽屋に入ってきた。
男の子は睫毛が長くて目が大きく、すでに彫りが深い。
日本人以外の血が入ってることが伺えた。
「萌映(もえは)ちゃん、おかえり。お散歩ありがとね」
「いえ」
抱っこされた腕の中でバタバタしてた男の子を、チームショーをやっていた踊り子さんがおかえりーと言いながら受け取る。
男の子がぎゅうーっと抱きつく。どうやらこの子のお母ちゃんらしいが、それより一緒に入ってきた女の子の方を詩帆達が見る。
踊り子さんにしてはさすがに若過ぎる。
誰かの子供だろうと予想出来た。そしてよその踊り子さんの息子ちゃんの子守をしてあげてたことも。
しかし何歳くらいか見当もつかない。
「何年生?」
「小5です」
「えっ!?」
詩帆が訊いてみるが予想外の答えに驚く。中2とか高1とかを予想していた。
おっきい、というか大人び過ぎている。色香すら漂う。こんな場所に居ては危険なほどに。
服も小学生が着るようなものではない。お母さんのお下がりかもしれない。
が、びっくりした声を上げた詩帆はすぐにしまったと思う。女の子が困ったような顔をしていたからだ。
おそらく今までで何十回とされたリアクションなのだろう。だがそれに、
「ウン!デショウナ!」
知ってたし!といったリアクションをシャオちゃんが腕組みしながら返した。
女の子はぽかんとした後、アハハハと体を折って笑った。笑うとまだ子供で安心した。
「子守さんシテタノ?」
「はい、そうです」
「エライネー」
「いえ」
シャオちゃんとの会話を聞きながら詩帆には気になることがあった。
今は別に夏休みとか春休みとかの長期休みではない。学校は?と訊きたかった。が、やめておいた。
するとそこへ、
「海璃(かいり)ちゃん。ヒデさん今くらいの時間ならオッケーだって」
「ホント!?じゃあちょっと行ってくるわ」
受付のおばあさんが楽屋に顔を出しそう言うと、踊り子さん 海璃さんが彫りの深い息子を片手で抱えたまま出かける準備をしだす。
どこに?という目で詩帆達が見ていると、
「贔屓にしてくれてたお客さんなんだけどね、あたしが休んでる間ホームに入っちゃったから顔見せに」
「ホーム?」
「うん。んーと、特養?老人ホーム」
それを聞いて詩帆が、あっ、という顔をする。そりゃあ客層がああなのだからそういったお客さんもいるだろうが。
「子供生まれたからさ、見せに行ったらちょっとは元気になってもらえるかなって」
「でも今って前みたいに好きに絵描いたりとか出来ないんでしょう?
「うーん。絵っていってもパソコンで描いてたりとからしいけどね」
踊り子さん達の会話を聞いて、シャオちゃんが何かに気付き、
「アノ、もしかして」
スマホに保存した画像を見せる。
「コレ、描いた人とか。描いたっていうか塗ったというか」
「あー!そう!それそれ!なんかお客さんでスタンプラリーの表紙の塗り絵企画みたいの提案した人がいて、それに乗っかったって」
そう海璃さんがテンション高く言うが、その顔がシャオちゃんを見つめる、
「…もしかして」
「ワタシ…、提案者デス」
小さく挙手しながらシャオちゃんが言う。
さすがにあまりの偶然に動揺が隠しきれない。いつかこのジジイに会いたいと言っていたが。
「ええー!?そうなんだあ!じゃあさあっ」
海璃さんが更にテンション高く言い、
「一緒に行かない?」
嬉しそうにそう言った。
地方までストリップを見に来て、ネットで見つけた常連さんが住んでる老人ホームにこれから行かないかという。
なんだその展開と詩帆が思っていると、
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