昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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12、がんばれBBA!負けるなBBA!

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 長い長い撮影ショーとダンサブルなオープンショーが終わり、やっと次の踊り子さんのステージとなった。
 流れてきた曲に、遥心がえっ?これ?と思わず天井を見上げる。
 流れてきたのは、夜帯のアニメ情報系ラジオ番組から生まれたユニット 2036の『SUMMER Festa 2036』だった。
 土曜夜10時台のアニメ系ラジオのオープニングを飾るにふさわしい、ラテン調のお祭りサウンドだ。
 ユニット名は女性パーソナリティ、男性パーソナリティそれぞれの年齢からとっていたが、東北生まれゆえか、まだ若いのに浮かれ過ぎない地に足がついた女性パーソナリティの歌声がサンバ笛と陽気なリズムに妙にマッチしていた。
 踊り子さんがサンバカーニバルの衣装に羽根を背負って登場する。
 舞台の広さや、値段的にダチョウの羽根は無理だったようで、ボリューム抑えめの羽根を背負っていた。舞台袖にはけるのも持ち運ぶのも、手入れをするのも大変そうな衣装だ。
 手にはマラカス、足元はヒールの高いロングブーツ。
 肉感的というより、重ねた年齢によって適度に肉を乗せた身体で踊る。
 腰付きは激しいが、やはり本場のそれには敵わない。
 露出が高い衣装で前の方の席の男性陣は楽しそうだが、きらびやか過ぎる衣装が現実味を帯びなくて、遥心はなんだかよくわからなかった。
 非現実感を楽しむためのショーのはずだが、非現実に連れていけるほど踊りは上手くない。現実と非現実の中途半端な狭間にいる感じだった。
 マラカスも単に手持無沙汰で持ってるだけのようだ。

 曲が終わる前に、悩ましい腰付きとともに踊り子さんが一度舞台袖に引っ込む。
 次に流れてきたのは、アニメ アンジューのち、晴れ イメージソング 声優ユニット AME CHANG!の『バカップルも羨むバカップル』だった。
 夏を前にして浮わつくバカップルを茶化した、でもよく聞くと作品の世界観を物語っている歌詞。ノリのいい良質束ものアイドルソングだ。
 豪奢な衣装から、背負った羽根と頭の飾りとビキニに付けていたジャラジャラ素材だけを外し、代わりに大き目でやや薄い生地のパレオを巻いたトロピカル常夏衣装で踊り子さんが再登場する。
 だが衣装が変わってもやはり踊りは軽いステップを踏む程度。

 そのまま曲が変わり、アニメ ロッコンガール  主題歌『ろーまんてぃっくさんせっと』が流れてきた。
 海辺を見つめる女の子の視線のようなゆったりしたメロディから、突如切り変わるベンチャーズ風デンデケサウンド。
 21世紀の深夜アニメの主題歌なのに、そこからはほど遠い60年代サーフナンバーをぶつけてきた曲だ。
 外したパレオを使って踊り子さんがベールダンス風の踊りを舞うと、宙を舞うパレオが舞台周りにいた爺さん客の薄い頭を掠める。
 サビになると上半身を覆うように、パレオを左肩の辺りで縛って纏う。
 そして客席に背を向けると、ステップを踏みながら後ろに回した手でビキニの紐をするすると引っ張っていく。
 薄いパレオの下で行われる脱衣行為に、遥心以外の客が息を飲んだ。
 外したビキニを舞台後方へと放り、そのままくるりと一回転。パレオがふわりと舞い、その薄布の下が見えそうで見えない。
 片腕で両方の胸を隠しながらパレオを解き、中央舞台に落とす。
 ステップを踏みつつ再度客席に背を向け、今度は両手でそれぞれの胸を隠す。
 それなりに存在感のある、汗ばんだ胸が手のひらからはみ出る。
 耳馴染みのいいサウンドと覚えやすい歌詞だからか。踊り子さんがサビの部分だけ口ずさんでいた。
 40代に片足をつっこんでるであろう熟女踊り子が、こんな深夜アニメの主題歌を知ってるとは思えない。
 おそらく夏っぽい曲を探してこの曲に偶然辿りつき、練習しているうちにサビだけ覚えたのだろうと遥心は予想した。

 リズムに合わせてステップを踏み、また客席に背を向ける。
 振り返った時には両腕で身体を抱きしめるようにして胸を隠したりと、いろんな手法でなかなか見せようとしない。下世話で、ある種古典的な手法が遥心にとっては新鮮だった。
 ラストのサビ終わりで、これが見たかったんでしょう、とばかりに踊り子さんが手で隠していた胸を晒す。
 見てしまえばそんなに期待していたものではなかったと気付くのだが、それでも舞台周りの客は待ってましたとばかりに拍手をする。遥心もそれに合わせて拍手をした。

 中央舞台に座り、踊り子さんが落としたパレオを肩に掛ける。
 次に流れてきたのは、アニメ ザ・ライブラリアンのエンディング曲『ラストサマー』だった。
 ゆったりめの、誰もいないビーチを散歩するような気だるいレゲエサウンド。
 秋口の日射しの中でかつての恋人との別れを予感した歌だ。
 穏やかに哀しく終わった恋と、今週も終わってしまったテレビアニメへの余韻とを重ね合わせた名曲だった。熟女ボディにレゲエというのがなかなかマッチしていた。
 照明もそれまでの激しいものから白く柔らかいライトに変わった。
 舞台に広げたパレオの上で踊り子さんが両手両膝をつき、後背位スタイルで腰を悩ましげに前後に動かす。ゆっくりとした動作でショーツを脱ぎ、使いこまれた部分を観客に晒す。
 踊り子さんがポーズを決めると、その身体に柔らかくライトが当たる。
 それは夏の終わり、ようやく涼しくなってきた午後の日差しみたいだった。
 加齢とともに肉を載せた身体を、ライトが優しく照らす。
 外はまだ暑く夏の盛りなのに、自身の恋もまだ続いているというのに、遥心はなぜかそのどちらも終わってしまう予感がして、目に涙が滲ませながら踊り子さんに拍手を送った。


 気だるさを纏いながらステージが終わった。
 目を擦りながら遥心は考えてみる。選曲を振り返るとかなりマニアックだった。
 撮影ショーは数は少ないが年配客が多く、一人ひとり会話を楽しんで進んでいった。
 カメラの使い方がわからないのか、踊り子さんに操作の仕方を教わっていたりもする。
 遥心はロビーに行きがてら、今のステージで使われていた曲をケータイで検索してみる。
 そのどれもが動画サイトの《【作業用】夏ソング【アゲアゲ】》《【作業用】夏うた【しっとり】』という動画の中に入っている曲だった。
 果たして偶然なのか、あるいはあの熟女さんがパソコンを駆使して頑張ってこれを探し当てたか。またしても間口の広さから、抜き出したそれらがアニソンだったという偶然か。
 曲探しも大変だなあ、と遥心は心の中で踊り子さんの苦労をそっと労った。


 背中に昇り竜が描かれた粋な法被で、熟女踊り子さんのオープンショーが終わる。
 次の踊り子さんは、よさこいをテーマにしたステージだった。
 ギターなどを入れて現代風にアレンジした、オシャレなよさこい曲。衣装も粋でいなせだ。もともとやっていたのか、リズムや動きを呼吸するようにこなす。
 歳のいった踊り子さんで、紅い口紅を始め濃いばっちりメイクをしていた。
 舞台で舞うたびに手に持った鳴子をかちょんと鳴らす。額に滲む汗と、少しの皺。
 一度袖に戻ると、今度は沖縄音楽が流れ出し、抱えた太鼓を叩きながらエイサーを踊り出した。
 鋭く打ち鳴らされる太鼓の音と、独特なリズムの指笛が場内に響き渡る。
 だがベッドショーになると、先ほどまでの本気のよさこいとエイサーが脳裏に焼き付いて、どうにもエロスに集中出来ない。
 身体も、先程とは逆で女性は歳を取ってからは少し肉がついてないと貧相にしか見えないというお手本のようだった。
 撮影ショーはやはりというかあまり人気がなく、贔屓にしているらしい爺様客ばかりで終わった。
 踊り子さんの人気に比例してか、舞台周りの席が空いてきた。
 せっかくなのでと遥心は場内BGMに昭和歌謡が掛かる中、次の踊り子さんのステージが始まる前にそちらに座ってみた。


 こってりとしたオープンショーを出来るだけ半目でやり過ごし、次の踊り子さんのステージになる。
 照明を落とした舞台を迷いなく進み、踊り子さんが中央舞台に立つのがわかった。
 良く見えないがそのフォルムからしてかなり大がかりな衣装だ。
 明かりも音楽もなく立つそれは、書き割りの裏を見てしまったような、張りぼての中身を見てしまったような漠然とした悲しい現実感があったが、軽快な音楽とともにライトが付くと、喉が痛くなるぐらいに甘い香りがした。
 人工的な甘さに加え、本能を刺激する、自然から精製された香りが混じっていた。
 遥心はそれが目の前の踊り子さんから漂っていることに気付く。
 香水と、髪の匂いと、肌の匂い。
 ライトで熱せられたそれらと、踊り子さんから放たれるフェロモンが舞台周りに一気に拡散される。
 男ばかりで空気が悪い場内ではその香りが浮き立ち、妙に喉がヒリ付いた。
 ライトと客の熱気が暑い。加えて客から放たれるアルコールも。
 後ろの方の席ではわからなかった。
 遥心は舞台から目を離さないようにしてペットボトルの水を飲んだ。
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