昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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16、アドバイスとティラミス

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 踊り子さんと約束を交わした後。
 遥心はすぐに、何食わぬ顔で劇場へ戻った。
 のんびりとした風土のせいか、従業員は客の出入りには無頓着だった。
 ラスト公演が終わると、終電を逃さぬようにか客は随分早くはけた。逆に遥心は時間をかけてゆっくりと、一番最後に劇場を出た。
 最後の客に従業員が、ありがとうございました、と声をかける。
 私はこれから踊り子さんと個人的にご飯を食べるのですが、それはよろしいのでしょうか。
 心の中で従業員にそう問いかけ、遥心は踊り子さんに言われた駐車場へ向かう。
 しかし今度は従業員に不審者扱いされるのではと、道を挟んだ向こう側で待つ。
 ケータイをチェックしているふりをして待っていると、関係者用通用口と書かれたドアから踊り子さんが出てきた。キョロキョロと、さっき約束を取り付けた女の子を探していた。その女の子が踊り子さんに手を振る。 
 気付いた踊り子さんが、アハっという笑顔で手を振り返してきた。その笑顔に遥心が道を渡って犬のように駆け寄る。

「ごめんねー、すっぴんで」

 公演が終わり、踊り子さんは綺麗さっぱりメイクを落としていた。舞台メイクを落とすと随分幼く見えたが、シャワーを浴びたのかまだ濡れている毛先が色っぽい。

「ああ、いえ可愛いです」

 お世辞ではなく普通に出た言葉だった。踊り子さんは突然の同性からの誉め言葉に照れた感じで、

「アハハ。いこっか。っつってもここらへんなんもないけど」

と、待ち合わせした友達の距離感で、遥心と連れだって歩き出した。




「悪いねー。こんなとこしかなくて」
「いえ」

 深夜なのもあり、開いているのは駅前のファミレスぐらいしかなかった。踊り子さんはパスタを、遥心はティラミスを頼むと、

「ティラミスって苦くない?」

 遥心のチョイスに踊り子さんが、あたしダメだわー、という顔をする。

「甘過ぎるやつだとかえって食べれないんで。ケーキとかも」
「へえー、おっとなー」
「じゃなくてもう歳だから甘いのダメなんです。でも甘いの食べたいから。ほろ甘いの」
「どっちだよ!っていうかキミ明らかにあたしより若いでしょうがよ。いくつ?」
「永遠の小学五年生です。放課後、校庭の昇り棒のてっぺんで夕陽見ながらずっと友達と恋バナしてる小学五年女子です」
「なにそれー」

 パーソナルな部分を本能的に隠し、かつそんな軽いジョークを交わしつつ、ひとしきり笑いあった後。

「で、どうだった。ストリップ、楽しかった?」

 早速といった風に踊り子さんが身を乗り出して聞いてきた。

「あっ、はいっ。 楽しかったです」

 突然の話題に、遥心が勢い込んで答えると、

「あたしのステージは?どうだった?」

 身を乗り出したまま踊り子さんが聞いてくる。どうやらこれが目的らしい。
 同性からの率直な意見が聞きたかったのだろう。
 遥心も多少の予想はしていた。だから、きちんと答えなくてはいけない。
 一口水を口に含むと姿勢を正し、両手を膝の上に置く。

「ええと、元気があって良かったです。でも…、なんて言うのかな。若さで押し切ってる感はちょっとだけありました。ほんのちょっとだけですが。でもそんな悪いっていう意味ではなくて。あと衣装が可愛かったです。選曲はなつかしいなーって思いました。好きな曲で踊ってる感じがして。あとベッドショーの演出なんですけど、」
「ちょっと待って」

 踊り子さんは手帳を取り出し、後ろのメモページを開く。

「はいっ、なに?」

 遥心はそれを見て、

「一曲目のやつなんですけど」

 もう一度最初から、順を追ってゆっくりと話し出した。踊り子さんのメモスピードと合うように。衣装のこと、客席に送る目線のこと、ベッドショーのこと、撮影ショーのBGMのこと、オープンショーのこと。
 取っているメモをちらと見ると、漢字が少なくひらがなが多い。

「っていう感じです」

 思ったこと、感じたこと、良かったところ、良くなかったところ。全て言うと、

「ありがとう。すごい参考になる」

 はあ、と息をつきながら踊り子さんは小さく言った。遥心の顔が赤くなる。

「すいません。なんか偉そうに」
「ううん。すごい、貴重だよ」

 踊り子さんが取ったばかりのメモを撫ぜる。それを見て遥心の中でじわりとした責任感が生まれた。踊り子さんが言う、貴重なご意見に対する責任が。

「でも男性の視点というか、男性のお客さんが見たいものと私とかが見たいものだと違うんじゃ」
「そうなんだよねえー」

 セクシャル的に男性目線でも見れるということを、遥心は黙っておく。

「あたしもさあ、単に踊ってアソコ見せてりゃいいんでしょ的なノリで始めたんだけど。 他のお姐さんの見てると、こりゃあ適当にはできませんなあと思ってさあ。でもお客さんからしたらアソコ見れりゃいい感じだし」
「ああ。 見てる側と見せる側との求めてるものが違う」
「そう」
「過剰包装みたいな。早く脱げよ、見せろよみたいな」
「そうっ。過剰包装!そうなんだよ!」

 遥心がステージを見ていた男性客から感じ取ったことに対し、踊り子さんがテーブルをバンバン叩いて同意する。

「脱ぐ前のステージとかさあ、いくら凝っても、ああそんなのいいから早くしろよ、って思われてんのかなあ、みたいな」
「でも私は脱ぐ前がむしろ見たいです。衣装とか、一曲目なんだろうとか、小道具とか、衣装のはけ方すごい凝ってるなあとか」
「そう…、そうかあー。いやあー、お姉さん嬉しいなあ」

 言いながら踊り子さんが手帳を眺める。ひょっとしたら涙ぐんでいたかもしれない。
 なんだか見てはいけない気がして、遥心はまた水を飲んだ。手帳に視線を落としたまま踊り子さんがゆっくり話し出す。

「他のお姐さんたちのは、」
「え?あ…」 
「どう、だった?」
「……いいんですか?」

 遥心は他の踊り子さんをご本人のいない所で批評するのは失礼な気がした。そしてそれを、ご本人さんがいない所で目の前の踊り子さんが聞き出すのもマナー違反な気がした。

「是非聞きたい」

 しかし目の前の綺麗なお姉さんは禁忌を侵してでもそれを聞きたいという。

「えっとですね」

 遥心が喋り出すと、すかさず踊り子さんがペンを構える。



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