昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第四回公演

15、まるでジャスパの如く

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 アニソン系踊り子さんと、見応えがあるけど中だるみする踊り子さんのショーを見終えると、

「続きましては、CHAOS嬢と紅たんぽぽ嬢によるチームショーです」

 友人の芸名であろう名前がアナウンスで流れてくるのを、遥心は不思議な思いで聞く。
 さて何を出してくるやらと二人はショーが始まるのを待ち、流れてきた曲にこれは、と顔を見合わせる。
 流れてきたのはアニメ カルメンペテンシの主題歌だった。
 悩みを抱えた女子校系女学生の心の隙間に入り込んでくる、仮面ペテン師 カルメンが主人公の、どこから見ても見やすい一話完結アニメだ。ちなみに正しい発音はキャルメンだ。
 女学生の悩みを解決するでもなくお悩みの沼に引きずり込み、直接的な描写はないが、おそらく性的に頂いてしまうという淫靡でオトナな深夜アニメ。
 懐の深いアニソンらしい、本格的なカルメン風楽曲に併せて、お嬢様学校風のセーラー服に身を包んだ踊り子さんがバレエステップで舞台袖から出てくる。
 長い髪を細いきっちりとした三つ編みにし、清楚感を出していた。
 どうやら彼女が今回キャルメンさんの餌食となる女学生らしい。
 客が拍手を送り、Bメロに差し掛かる直前、詩帆がひゅっと息を吸う。
 もう一人の踊り子さんが舞台袖から出てきた。
 肩の少し上で斜めに切り揃えた黒髪、おそらくはウィッグだろう。
 目元はアニメに忠実な鋭利かつ硬質な銀色のマスクで覆われている。
 仮面舞踏会のそれとも違う、ロボットアニメに出てくる謎の敵キャラのような。
 あれこそがキャルメンさんなのだが。
 おそらくコスプレショップに売っている市販のものではない。
 気合の入った鋭利さと硬質さからすると自作したものだろう。
 そんなものを付けて、紅たんぽぽが出てきた。

 あれが本当に蘭ちゃんなのかと、二人は紅たんぽぽの動きを目で追う。
 サビになると二人の踊り子は舞台中央で互いの頬を手で優しく、情熱的に触れ合う。
 キャルメンさんが背に手を回すと、女学生がそれに合わせて大きく背を反らす。
 そのままセーラーのタイを引き抜くと、それが短刀となり、キャルメンさんが女学生が着たセーラー服を切り裂いた。
 おおお、と観客が聞こえない声を上げる。
 遥心と同志たる女性客たちはオープニングアニメそのままの演出をステージ上でやってみせた、ということに驚いてだ。
 そのまま二人は1分30秒のテレビサイズ主題歌のラストまで、ペアダンスをこなす。
 製作委員会テロップが出そうな綺麗な終わり方に、客からまた拍手が送られる。

 そこから曲が変わり、本編で流れるおどろおどろしいBGMになると、清純なセーラー服を切り裂かれ、ぼろ布を纏っただけのような姿になった女学生が本舞台上に座したまま恥ずかしそうに体を隠す。
 あんたさっきまで乳放り出して踊りまくってたやん、なんて野暮なツッコミは観客はしない。
 恥ずかしそうに身を捩る女学生を、キャルメンさんが冷たく見下ろす。
 マスクを通して尚冷ややかさが伝わる。
 そして観客に見えやすいように中央舞台まで乱暴に腕を引っ張って連れてくると、座ったままの格好で後ろに回り、顎をぐっと持って観客に顔を晒させる。
 手で覆った胸元も、手を外させ晒す。
 照明が顕になった胸を照らす。
 いや、ダメだ、いやっ、ダメだ。
 そんな攻防が言葉もなく交わされる。
 恥ずかしい私を晒させる。
 動きは荒っぽいのにマスクのせいでキャルメンさんの感情が見えず、怖さが増す。
 すると恥ずかしそうに顔を背ける女学生の顔に、キャルメンさんが自分のマスクを付けてやった。

 唐突に、紅たんぽぽの顔が晒された。
 あ、っと声を出そうになるのを遥心がこらえる。
 それは紛れもなく蘭ちゃんだった。
 メイクを施しているため、目は本来のタレ目を隠し、シャープだが。
 ウィッグで広いおでこも見えない。痩せたのか柔らかそうな頬もすっきりしている。
 それでも、蘭ちゃんだとわかった。
 キャルメンさんが女学生の胸を鷲掴みにし、揉みしだく。
 女学生が、ああっ、ああ、と声を上げる。
 甘美な声を上げるが、その表情はマスクで覆われ見えない。
 逆にキャルメンさんは舞台メイクを施した目で、射るような視線を観客に向けていた。
 まるで女学生の身体を使って観客の身体を蹂躙しているような。


 曲が変わり、キャルメンさんが女学生を舞台に横たえると、むしゃぶりつくようにその身体に顔を近づけた。
 女学生はそれを、キャルメンさんのウィッグがずれないよう配慮しながら髪をかき混ぜ、甘受する。
 二人はアニメではぼんやりとしか描かれないシーンを、独自の解釈で舞台上で描いていた。
 短刀で斬られた衣服はスナップボタンで上手いことそう見えるようになっていたのだと、今更ながらに遥心はわかった。

 しかし、ショーを見ていて違和感に気づいた。
 紅たんぽぽが脱がないのだ。
 女学生役のCHAOS嬢の後ろに周り、客席に向かってM字開脚をさせる。
 女学生がいやいやと恥ずかしそうに顔を覆う。
 しかしキャルメンさん役の紅たんぽぽは一切脱がない。
 キャルメンさんが女学生の身体を後ろから無理やり抱きかかえ、ママさんが自分のお子様にお小水などをさせるポーズをさせる。
 性器を剥き出しにされ、女学生が恥ずかしさにぐすんぐすんと泣き出す仕草をする。
 しかし紅たんぽぽは一切脱がない。



「脱げよっ!」

 ショーが後半に差し掛かると、椅子にだらしなく座ったサラリーマンから野次が飛ぶ。多少酒も入っているのかもしれない。
 舞台上の二人はそれを無視してショーを進めるが、

「脱ぅーげっ!」

 サラリーマンは節を付けて野次を飛ばす。

「脱がねえよ!」

 それに女性客が振り向いて怒鳴る。

「脱げっ!」
「脱がねえんだよっ!」
「黙れよっ!」

 女性客達を無視してサラリーマンが野次り、それに更に加勢した女性客達が噛みつく。
離れた席でわあわあと言い合いになるが、

「お、なんだよ」

 男性客二人が無言でサラリーマンの両腕を取る。

「たんぽぽ姐さんは脱がないっ!」
「ああ?」

 頑張って出したような新たな女性客の声に、サラリーマンがなんだそりゃあという顔をすると、

「そういう決まりなんです」
「そういう踊り子さんなんですっ」
「詐欺じゃねえかっ。脱げよオイッ!」

 黙っていた男性客の一人が静かに言い、新たな女性客が加勢し、サラリーマンがキレる。
 いよいよ収拾がつかなくなってきた。
 すると紅たんぽぽが、おそらくショーの流れとは違う動きをしだした。
 舞台袖付近に座っていた、英字ロンTを着たひょろっとした男性に近づき、そちらを見もせずに手を差し出すと何かを渡された。
 受け取ったものを天井に向け、

ぱあんっ!

 乾いた銃声音が、場内に響き渡る。
 騒いでいた男性がぎょっとする。
 その顔に、紅たんぽぽが持っていた拳銃の狙いを定める。
 流れとは明らかに違う。アクシデントなのに、それすら演出だと思わせる。
 パフォーマーとしての力量がそうさせるのか、と遥心は息を詰めてそれを見ていた。
 そのまま紅たんぽぽと男性は対峙するが、

「出てけよっ!!」
「出ーてーけっ」
「出ーてーけっ!」
「出ーてーけっ!!」

 ドスを利かせた女性客の声に、別の女性の出てけコールが続く。更にそれに別の女性客達も加勢し大合唱となった。
 集団だと強い女どもに、詩帆がちょっと嫌だなあと思っていると、

「んだよっ!」

 男性客達の腕を振り払い、サラリーマンは本当に出て行った。
 ゴミ箱か何かだろう、ロビーで何かを蹴る音がした。


 そんな一悶着もあったが、ショーは続いた。
 曲はトラブルの間も進み、女学生とキャルメンさんは視線を交わすと、おそらく流れを端折ってアクロバティックな絡みを披露する。
 四十八手、というよりはカーマスートラのような。
 二人一組でアクロバティックなポーズを決めると、客席からは拍手が、そして舞台端からはリボンが飛ぶが、

「女の人だ」

 遥心が思わず声を上げる。
 リボンマンは女性だった。
 眼鏡をした、地味な感じの女性が一生懸命リボンを投げ、投げ終わったリボンを捌く。
 初めて見たリボンウーマンに遥心は驚くが、それだけ紅たんぽぽには推したい、応援したいという気持ちが向かうのかもしれない。

 普段のショーよりも多めの拍手を受け、ショーは終わった。


 その後はすぐに撮影ショーとなった。
 撮影希望の列は長い。
 客との受け答えは全てCHAOS嬢がやり、紅たんぽぽはほとんど頷いたりでコミュニケーションを交わす程度。
 写真を撮ったあとの握手などはしてくれる。しかし笑顔は見せない。
 それでも撮影客は多い。
 おそらくショーを見せてくれるだけでいいのだ。紅たんぽぽという踊り子は。
 余計なリップサービス等、貴方はしなくていいと。
 あるいは、そんなことはしないでいいキャラとしての位置を築いているのか。

「…もう少し泳がせよう」

 それを見ながら言う詩帆の声に、遥心が頷く。
 刑事が犯人に温情をかけるように、シャバとの別れをさせるように。
 今撮影の列に並び、迎えに来たと告げてもいい。
 もしかしたら向こうはすでに気づいているかもしれない。
 だとすれば、この後になんやかんやと理由をつけて行方をくらましてしまうかもしれない。
 昨日舞台に立っていた踊り子が今日飛んでしまった、なんて話はいくらでもある。
 それでも、二人は彼女の作り出すショーがもうちょっとだけ見たかった。

 何より先程撮影客とのやり取りで、次のショーは違う出し物なのでお楽しみにとCHAOS嬢が言い、紅たんぽぽがこくこくと頷いていた。
 これは見ないわけにはいかなかった。

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