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昭和90年代のストリップ劇場は2010年代アニソンかかりまくり

2、踊り子たちの要塞に、遊び人と僧侶がやって来た

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 電車を乗り継ぎ、二人はストリップ劇場 清簾劇場にやって来た。
 比較的近くで、スタンプラリーもやってるとなるとここがヒットした。

「やってるやってる」
「ヤッテルヤッテルー」

 劇場前に『スタンプラリー開催中。詳しくは従業員まで』という張り紙を見つけ、詩帆とシャオちゃんが嬉しそうな声を上げる。

「お、いらっしゃーい。女性のお客さん、2500円です」

 出迎えた従業員に言われた分の紙幣を出し、チケットの半券を貰うと、

「あ、これデスネ」

 噂のスタンプラリーがあった。
 直方体の台の上に事務用のインクと大振りのスタンプが用意されている。
 すぐ近くの壁には台紙が束でぶら下がっていたので、それを一枚づつ取る。
 紙はペラく、表紙にはシャラシャラした布を纏い、シャラシャラした布をなびかせ、顔も下半分を同じシャラシャラした布で隠した、おそらくフリー素材らしき踊り子のイラスト。
 踊り子と聞いて大多数の人が最初にイメージするイラストだ。
 字体や印刷のかすれ具合など、なんとなく遠足のしおりのような作りだが中を見てみると、
 
「へえー」
「オモシロイ」

 詩帆とシャオちゃんが思わず声を上げる。
 簡単な日本列島が描かれた上に、劇場名らしきものが書かれた四角いマスがいくつもあった。
 その周りには電車や飛行機、バイクや車などの移動手段がご提案されている。
 これらを駆使してぜひ全国の劇場を廻ってコンプリートしてくれ、ということか。
 だが劇場がエリアごとに区分けされ、それに応じての景品も貰えると書いてあった。
 要は全劇場分を押さなくても出来る範囲で頑張ればいいらしい。

「では」

 とりあえず詩帆が先に押してみると、台紙には「きょす」と言う文字が押された。よが小文字というギャル文字文化を用いたスタンプだ。
 そして文字の周りを小さい踊り子さんが三人、セクシーなポーズをとって囲んでいる。
 緻密なデザインはよく見ると市販のものではない。
 手彫りの消しゴムスタンプだった。

「スゴイねこれ」
「ホオー」

 押されたスタンプのデザインを見て、シャオちゃんもスゴイデスネと感心する。

「誰が作ったんだろ」

 詩帆が言うが、なんとなく答えはわかる気がした。すると、

「そういうの得意な嬢が彫ってくれたんだよ。スタンプラリーやるっつったら」

 ロビーにいたおいちゃん客が二人の会話を聞き、教えてくれた。
 どこの劇場にもいる教えたがりおいちゃんだ。

「そうなんですか」
「一個一個彫って、劇場に送ったらしいよ」

 それが、詩帆には容易に想像出来た。久しぶりに休みをもらって帰った家か、あるいは乱雑な楽屋でちまちまとスタンプを彫っている姿を。
 きっとものすごく楽しそうなワクワクした顔で彫っていそうな。
 少しでもこの業界を盛り上げようと。そのお手伝いをしようと。
 これは押したくなる。
 もしかして劇場を廻ってるうちに逢えたりしないだろうか。
 そんなことを考え、詩帆がワクワクするが、

「HAーHA―HA!ユアエントリーオーケーイ!」

 シャオちゃんはせっかくだから捺印の勢いがスゴイ入国管理風にダムダム!とインクを付け、 バァーン!とスタンプを押す。しかし、

「シャオちゃん違うよ!きよすは清簾のとこに押すんだよ!」
「エッ?Oh…」

 押す場所は前もって指定されているのに、シャオちゃんはそれを見もせず適当に押してしまった。
 シッケイシッケイと頭に手をやり、もう一枚台紙を貰って改めてスタンプを押した。


 場内に入ると客は少なかったが、少ない客は舞台周りに密集していた。
 二人はとりあえず広々とした後方の席に陣取る。
 丁度今はトップバッターの踊り子さんの撮影ショーのようだが、

「ヨン、バンメ?」

 壁に拡大コピーされて貼られた香盤表を見つつ、シャオちゃんが小声で言う。
 それに、詩帆がそうだねと頷く。
 今回の観劇はSNSを入念にチェックし、当たりハズレの踊り子さんを見極めた。
 二人にとって当たりとは、当然アニソンで踊る踊り子さんだ。
 SNSで好きなものや趣味趣向はわかる。あるいは芸名でも。
 清簾は最低でも一人、コイツぁ臭えぞと自分達と同じニオイを放つ踊り子さんがいた。
 問題は腐女子様かそうでないかだ。
 前者ならシャオちゃんは楽しめるが、詩帆はあまり楽しめない。
 といっても知らない作品のアニソンでも聞けるものはたくさんあるし、あとから答え合わせをするのも楽しいのだが。

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