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『下顎水平埋伏智歯抜歯 2顎目』
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抜歯当日。
きちんとトイレも済ませ、予約時関より5分ほど早く亜衣は歯医者に到着した。
待合室には自分しか居なかった。
薄ーく流れているオルゴール調のBGMに耳を傾け、心を落ち着かせる。
不安とワクワクがちょうど半分ほど。
だが気を抜くと不安が一気に占めてしまう。
深呼吸をしていると受付で名前が呼ばれ、診察室に入るよう促された。
「んじゃ、今日抜歯ね」
先生がカルテを見ながら言う。
「はい」
「緊張してる?」
「はい…」
顔を引きつらせながら言うと、先生はハハハ、と軽い調子で笑った。
それで緊張がほぐれた。
「じゃあ、ちゃちゃっと終わらせるから」
座った診察台が倒されると、付けられたライトの眩しさに亜衣が顔をしかめる。
「ライト眩しい?顔にタオルかける?目隠しみたいの。無い方が痛いのとか表情で伝わりやすいんだけど」
「欲しいです。かけてください」
痛みより眩しい方が辛い。
あるいは、どんな器具が使われるのか見てしまいそうで怖かった。
「じゃあ、口開けてー」
今まで打たれたことのないような麻酔を歯茎に多めに打たれる。
「んじゃ、麻酔効くまでそのまま待ってね」
そう言って先生がキュルキュルとキャスター付きの椅子で離れていった。
麻酔が効くまでは何も出来ない。
麻酔待ちだ。
診察台に横たわり、顔に掛けられたタオル越しにライトを浴びるだけの時間。
その時間の経過もタオルのせいでわからない。
確か壁に時計が掛かっていたはずだが。
助手さんがカチャカチャと準備をする音だけが聞こえた。
先生との軽い雑談も聞こえる。
そして、麻酔が効いたのか自分ではわからないうちに、
「はい、じゃあやっていきまーす」
おじいちゃんらしく、ウウンっと咳払いをしたあとに先生はすぐ取り掛かった。
歯茎を切開されたような感覚は、ない。
あれ?と思ってるうちに、先生はテキパキ助手さんに指示し、渡された器具を口に突っ込む。
手際が良すぎて何をされてるのかよくわからない。
その間おっとりした美人助手さんに、シュゴーシュゴーと普通の歯科治療より多めに口内を吸われた。
「痛みない?大丈夫?痛かったら麻酔足すけど」
「ふぁい。らいじょうぶれす」
「ああ、そう」
手術は結構乱暴だった。
しかし痛みはない。
口を引っ張られたり、グイグイ、ガンガン押されるような感じはある。ゴリゴリ、もあっただろうか。
今舌を動かしたらどうなるんだろうと一瞬考えるが、怖くて出来ない。
顔の上で色んな器具がせわしなく行き交うのがタオル越しにうっすら見えた。
なんだ、かけてもらわなくてもよかったかな、今はどれぐらい、どのあたりなのかとぼんやり考えていると、
「はい、抜けましたよ。縫うからね」
えっ?と思う間もなくシュゴーっと口内をひと吸いされ、なにかキュッキュと、糸のようなものが歯茎と頬の内側を通る。
そして、
「はいっ、グーッてガーゼ噛んでグーッて噛んで!はい、そのまま。はいおしまーい」
何かゴワゴワした塊のようなものをいきなり口に突っ込み、それを噛めと言うと、先生はキュルキュルと椅子を動かして診察台を離れた。
あとはよろしくとばかりに。
「しばらくそのままガーゼを噛んでいてください」
タオルを取ってくれたおっとり助手さんにも言われ、亜衣は口の中の塊をグーッと噛んだままにする。
前もって入れておいた知識で、今は血の蓋を作っている最中なのだとわかった。
それを理解し、ガーゼの塊をグーっと噛んでおく。
タオルが取り払れると壁に掛かっている時計が見えた。
診察室に入ってからまだ15分しか経ってない。
人によっては歯が予想以上に大き過ぎたり捻れていたりで、ガンガン叩いて分割して何十分もかかる、と言われていたのに。
確か多恵がそのタイプだった。
そんなに形が良かったのか、頭が大き過ぎるということがなかったのか、是非見たいと思っていると、
「もういいですよ。ゆっくり起き上がってください」
助手さんの言葉とともに倒されていた診察台が起き上がっていく。
「すいまへん。抜いた歯って見れまふ?」
「ええ。お持ち帰りになられますか?」
「ふぁい。是非」
小さいながらも自分への土産が出来、亜衣はご満悦だった。
受付で支払いを済ませると、処置費は予想よりは安いがまあまあなお値段。
普通の抜歯がいくらかわからないが、あの手際の良さと土産付きなら妥当だった。
「こちら抗生物質です。こっちは痛み止めです。痛み止めは痛くなかったら飲まなくてもいいですが、抗生物質は必ず全て飲みきってください。あとこちら、お顔気になるようでしたらお使いください」
更に受付で薬とマスクを渡された。
まだ腫れてはいないがガーゼを噛んでいるので頬が片方だけぷくっと膨れている。
マスクはそれを隠すためのもののようだ。
「次回は消毒ですが、いつにしますか?10分ほどで済みますが」
亜衣がネットで仕入れた情報を思い出す。
消毒とは術後の経過を見るだけのもので、よほどのことがない限りちょいちょいっと形だけの消毒をして終わりらしい。
「ええっと、じゃあ」
二日後の午前に予約を入れて病院を後にした。
きちんとトイレも済ませ、予約時関より5分ほど早く亜衣は歯医者に到着した。
待合室には自分しか居なかった。
薄ーく流れているオルゴール調のBGMに耳を傾け、心を落ち着かせる。
不安とワクワクがちょうど半分ほど。
だが気を抜くと不安が一気に占めてしまう。
深呼吸をしていると受付で名前が呼ばれ、診察室に入るよう促された。
「んじゃ、今日抜歯ね」
先生がカルテを見ながら言う。
「はい」
「緊張してる?」
「はい…」
顔を引きつらせながら言うと、先生はハハハ、と軽い調子で笑った。
それで緊張がほぐれた。
「じゃあ、ちゃちゃっと終わらせるから」
座った診察台が倒されると、付けられたライトの眩しさに亜衣が顔をしかめる。
「ライト眩しい?顔にタオルかける?目隠しみたいの。無い方が痛いのとか表情で伝わりやすいんだけど」
「欲しいです。かけてください」
痛みより眩しい方が辛い。
あるいは、どんな器具が使われるのか見てしまいそうで怖かった。
「じゃあ、口開けてー」
今まで打たれたことのないような麻酔を歯茎に多めに打たれる。
「んじゃ、麻酔効くまでそのまま待ってね」
そう言って先生がキュルキュルとキャスター付きの椅子で離れていった。
麻酔が効くまでは何も出来ない。
麻酔待ちだ。
診察台に横たわり、顔に掛けられたタオル越しにライトを浴びるだけの時間。
その時間の経過もタオルのせいでわからない。
確か壁に時計が掛かっていたはずだが。
助手さんがカチャカチャと準備をする音だけが聞こえた。
先生との軽い雑談も聞こえる。
そして、麻酔が効いたのか自分ではわからないうちに、
「はい、じゃあやっていきまーす」
おじいちゃんらしく、ウウンっと咳払いをしたあとに先生はすぐ取り掛かった。
歯茎を切開されたような感覚は、ない。
あれ?と思ってるうちに、先生はテキパキ助手さんに指示し、渡された器具を口に突っ込む。
手際が良すぎて何をされてるのかよくわからない。
その間おっとりした美人助手さんに、シュゴーシュゴーと普通の歯科治療より多めに口内を吸われた。
「痛みない?大丈夫?痛かったら麻酔足すけど」
「ふぁい。らいじょうぶれす」
「ああ、そう」
手術は結構乱暴だった。
しかし痛みはない。
口を引っ張られたり、グイグイ、ガンガン押されるような感じはある。ゴリゴリ、もあっただろうか。
今舌を動かしたらどうなるんだろうと一瞬考えるが、怖くて出来ない。
顔の上で色んな器具がせわしなく行き交うのがタオル越しにうっすら見えた。
なんだ、かけてもらわなくてもよかったかな、今はどれぐらい、どのあたりなのかとぼんやり考えていると、
「はい、抜けましたよ。縫うからね」
えっ?と思う間もなくシュゴーっと口内をひと吸いされ、なにかキュッキュと、糸のようなものが歯茎と頬の内側を通る。
そして、
「はいっ、グーッてガーゼ噛んでグーッて噛んで!はい、そのまま。はいおしまーい」
何かゴワゴワした塊のようなものをいきなり口に突っ込み、それを噛めと言うと、先生はキュルキュルと椅子を動かして診察台を離れた。
あとはよろしくとばかりに。
「しばらくそのままガーゼを噛んでいてください」
タオルを取ってくれたおっとり助手さんにも言われ、亜衣は口の中の塊をグーッと噛んだままにする。
前もって入れておいた知識で、今は血の蓋を作っている最中なのだとわかった。
それを理解し、ガーゼの塊をグーっと噛んでおく。
タオルが取り払れると壁に掛かっている時計が見えた。
診察室に入ってからまだ15分しか経ってない。
人によっては歯が予想以上に大き過ぎたり捻れていたりで、ガンガン叩いて分割して何十分もかかる、と言われていたのに。
確か多恵がそのタイプだった。
そんなに形が良かったのか、頭が大き過ぎるということがなかったのか、是非見たいと思っていると、
「もういいですよ。ゆっくり起き上がってください」
助手さんの言葉とともに倒されていた診察台が起き上がっていく。
「すいまへん。抜いた歯って見れまふ?」
「ええ。お持ち帰りになられますか?」
「ふぁい。是非」
小さいながらも自分への土産が出来、亜衣はご満悦だった。
受付で支払いを済ませると、処置費は予想よりは安いがまあまあなお値段。
普通の抜歯がいくらかわからないが、あの手際の良さと土産付きなら妥当だった。
「こちら抗生物質です。こっちは痛み止めです。痛み止めは痛くなかったら飲まなくてもいいですが、抗生物質は必ず全て飲みきってください。あとこちら、お顔気になるようでしたらお使いください」
更に受付で薬とマスクを渡された。
まだ腫れてはいないがガーゼを噛んでいるので頬が片方だけぷくっと膨れている。
マスクはそれを隠すためのもののようだ。
「次回は消毒ですが、いつにしますか?10分ほどで済みますが」
亜衣がネットで仕入れた情報を思い出す。
消毒とは術後の経過を見るだけのもので、よほどのことがない限りちょいちょいっと形だけの消毒をして終わりらしい。
「ええっと、じゃあ」
二日後の午前に予約を入れて病院を後にした。
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