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『お人好し』 ~対戦キャラを選択してください
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「わあ、なんだよ」
突然鳴ったケータイに、私はテレビ画面から目を離さず右手を伸ばした。
左手はゲームのコントローラーを持ったまま。テレビでは勇者一行がモンスターをガンガン倒している。
大事なレベル上げの最中に一体誰だ、と電話に出ると、
『イオリか』
「はい?」
『俺や。ヤガミや』
「はあ」
『お前何してんねん』
「あー…、はい」
ケータイを肩と耳に挟んだまま受け答えをする。
誰?
男の子だ。
それも中学生、もしかしたら小学生くらいか。
テレビではモンスターを倒した勇者一行が、また新たな経験値を求めてグルグルとフィールドを歩き出した。
『お前今どこや。まだ家か』
「ああー、そうですねえ」
見知らぬ男の子に怒られている。なぜなのかはわからない。
男の子が変なイントネーションの関西弁で喋っていることもわからない。
テレビでは敵にエンカウントして画面が一瞬暗くなり、
「うわあっ」
『なんやっ』
「いや、ちょっと」
ちょっと面倒な敵が現れた。眠気やシビレなど厄介な魔法を使う敵だ。
戦うよりさっさと逃げるかとコマンドを選ぶと、
『お前何してんねん』
「ぅえっ、うん、ちょっと」
『お前、まさか今日の約束忘れとんちゃうやろな』
「えっ!?まさか、忘れてないよ」
『ほんまか。もうアイツら来とんぞ』
敵からは三回目の逃げるコマンドでようやく逃げきれた。
かなりダメージを食らったので真っ向から戦えばよかったかもしれない。
しかしなぜかこちらの相手からは逃げる気がしない。
電話を切るという選択肢が無かった。
頭ではわかっている。
間違い電話、ではない。
おそらくイタズラ電話の類いだろう。
電話をかけているヤガミくんの周りはザワザワとうるさい。
子供のはしゃぐ声がする。
公園かどこかから掛けてるのだろうか。
さっさと切ればいいのにレベル上げが忙しくて出来ない。
しかしそれもわかっていた。
忙しいなんて言い訳だ。
退屈なレベル上げの、ちょっとした退屈しのぎに電話を繋いだままにしているのだ。
「ええっと。アイツら、とは」
もう少し詳しい事情、というか設定をヤガミくんから訊いてみた。
『……お前マジで言ってんのか』
ヤガミくんが怒ったような呆れたような声で言う。
そこは発音的には言っとんのかだよと、思うのだが。
マジでの発音は当ってるのに。
『お前、ホンマにイオリか』
「えっ!?うんっ。そうだよっ!?」
ヤバイ、設定が壊れてしまうとこだった。
慌てて肯定しておく。
私はイオリ。漢字はわからないが多分伊織か庵のどっちかだろう。
男の子なら後者か。
そう自分に言い聞かせていると、
『おいイオリ』
電話の向こうに新キャラが現れた。
ヤガミくんよりもっと声が高くて幼い。
ほんとに小学生かもしれない。
中学生と小学生の友達同士かもしれないが。
そうなるとヤガミくんはちょっとイタイ子なのか。年下しか遊び相手がいないとか。
『北中のやつらぶっつぶしに行くゆう約束やろ』
「えっ、あっ、そうだったね」
新キャラくんも頑張って関西弁で言うてきてくれとる。
なるほど殴りこみか。
来てるといったから河原で対決とか学校同士の戦争とかそういう感じなのか。
それにしても北中というネーミングセンスよ、と口を猫みたいにうにゅーっとさせて笑いを堪えてると、
『せやのにお前なんでまだ家おんねん』
また声がヤガミくんになった。そしてまた怒られた。
「あー、そうですねえ」
『なんや、怖気づいたんか』
「はあ!?んなわけあるかい!!殺すどボケコラ!!」
『お、おう…。すまんな』
しまった、つい女優魂が出てしまった。
いや、バカにされてガチでキレちまった。
結果向こうがびびってしまった。これは悪いことをした。向こうの素が出てしまっている。
「いや、うん、ちょっと、なに。野暮用」
野暮用だなんて初めて使った言葉だ。なるほどこんな時に使うのかと思っていると、
『そうか…』
ヤガミくんは納得してくれた。なんとも便利なワードだった。
そして頭の片隅で一旦設定を整理してみる。
自分はイオリくんという名で向こうはヤガミ。
ん?イオリとヤガミ?
「ぶふっ」
『なんや』
「ううん。ちょっと、むせちゃった」
『ほんまか。大丈夫か?』
「うん。だいじょぶ」
言いながら、私はイオリとヤガミってなんか格ゲーのキャラでいなかった?と考える。
それも一人の苗字と名前だ。
それを分解して相手と自分の名前にしている。
なんちゅーネーミングセンスだ。
ではさっきの声が高いのはクサナギくんか。
それにしても北中のやつらすげえ待ってくれてんな。
結構長いこと電話してると思うのだが。
『お前、ほんまにイオリか』
「だからそうだって!」
『そうか。すまんな』
定期でヤガミくんから確認が入る。
そのたびに役柄を修正できるからいいが。
『いや、忘れたんちゃうか思ってな』
「うん?」
『は?』
「え?」
『お前、ほんまに忘れたんちゃうやろな』
「えーと…、なんだったっけねぇ」
ここは素直に訊いてみた。何を忘れているのか。
しかしゲームはそろそろ回復しないとやばい頃に差し掛かっていた。
ゴールドが貯ったから一度村に帰って銀行に預けるべきだろう、と考えてると、
『ここらへんの学校全部ぶっ潰して俺ら最強になろうって誓ったやろ!!河原で!!三人で!!なあ!!あのときのお前どこ行ってん!!ギラギラしてたお前どこ行ってん!!なあイオリ!!お前今何してんねん!!どこおんねん!!』
誓ったて。河原て。
すげえな中学生、いや小学生か。あの語彙では。
そしてこの熱演。
ああもう、ほんとにどうしたってんだ俺は。
周りの学校全部シメて最強なるんちゃうんか。ヤガミくんと、えーとクサナギくん?と。あの声高い子と。
いやいやちゃうがな。
せやからワシ家おる言うてるやろ。
そして快適なお部屋でゲームのレベル上げしとんねんワシは。
あとぶっ潰すよりシメるいう表現の方がやっぱええんちゃうかな。
魔法で村に戻りつつ、私は笑いが声となって出ないよう細心の注意を払う。
ワハーみたいな大口を開けた満面の笑みを浮かべて笑い声をなんとか堪える。そこへ、
「なにしてんの?」
「えっ!?」
タオルで明るく染めた髪を拭きながら、聖(ひじり)が訊いてきた。
いつの間に、とその姿を見る。
さっきベッドで散々まぐわった相手がシャワーからもう戻ってきてしまった。
ゆっくり湯船に浸かると言っていたからもうちょっと掛かると思ったのに。
だからゲームなんてしてたのに。
「ねえ」
重ねて聖が訊いてくる。
なに、とはあんなに求めあった行為が終わった後に、早速ゲームに取り掛かっている恋人に対してだろう。
終わって即タバコより失礼だろう。それは重々承知だ。
それともう一つは、満面の笑顔での電話についてだ。
「いや、あの」
『イオリ、イオリッ』
「はい?」
『誰かおんのか』
「誰」
突如二次元会話が始まってしまった。
電話の向こうの知らないボーイ二人と、お風呂上がりで怒ってるガール。
これをゲームしながらこなすのなかなかキツイ。
「誰でもないよ」
とりあえず目の前の相手に言い訳してみると、
「誰でもないってことないでしょっ」
「んんーっ」
向こうはケータイを取ろうとしてきた。私は腕を限界まで伸ばしてそれを阻止する。
おそらくまた浮気を疑われている。
一回や二回したくらいじゃ浮気にならないのに。
そういう人間だとわかって付き合ってるはずなのにどうしてもわかってくれない。
とはいえこの流れはダメだ。
今最も私が優先すべきことは、ひとまず村に帰ってセーブすることなのだ。
「ちと待って。ちょっと待って!」
「なに」
「キスしたい」
「え?」
返事も待たずにケータイを放ると、聖の唇を奪い、すぐに舌を差し入れる。
くぐもった声が漏れる。
でも、この時ばかりは全力で愛す。
どんな子にも私は常にそうだ。
目の前の女の子をただひたすらに愛する。
この時だけは君だけだよと。
それを等しく、すべての目の前の女の子にするだけだ。
そして気付かれないように。
左手で髪をなでながら、右手でコントローラーを操作し、すぐに教会に向かってセーブだけ済まそうとするが、
「ゲーム」
聖がパっと口を放し抱き合う形になると、
「ん?」
「やめて」
抱きつかれたまま言われた。
「するならやめて」
もう一度、体を離して改めて言われた。もう一度抱くならゲームやめてと。
キッツい怒った目で。
おお、これは怖い。そして私の大好きな目。
すると、
『おい、イオリ』
「はい。あっ!」
放ったケータイから話しかけられた。
通話が繋がったままだった。
ということは全部聞こえていたのか。
私の本当の名前は呼ばれなかったよな、とドキドキする。
せっかくの三人で作り上げた芝居が壊れてしまう。
『お前、女とおんのか」
「えっ」
『野暮用ってそれか」
「あ、いやあの」
『そいつ、お前のオンナか』
先程の女とは違う意味だろう。
会話を聞きながら聖が訝しげな目で見てくる。
ケータイから漏れ聞こえてくるのは、浮気相手っぽい女の子ではないが変な関西弁の、子供みたいな男の子の声。
なんか書くものとジェスチャーで伝えると、聖はすぐに紙とペンを持ってきてくれた。
こういうところも大好きだった。
私は殴り書きでイタズラ電話 泳がせている たぶん中学生くらいの男の子 と状況を説明し、
「あー、あのねえ」
『正直に言え』
ヤガミくんの相手もする。
「いやあー、ええっとねえー」
しかしその問いには少し戸惑った。
そもそもこの子達は、ヤガミくん達は自分を男だと思ってるのだろうかと。
私の声の感じから、まだ声変わりをギリギリしてない同年代か少し上くらいの男の子と思われてるかもしれない。
が、女のオンナというのは少々説明が難しいかもしれない。なので、
「ごめん」
『なにが』
「そうだよ」
怒ったように訊いてくるヤガミくんに答えた。
「あ…、ボクの、女だよ」
あたしと言いそうになるのをギリギリ飲み込み、ボクと言った。
さすがに俺とは言えない。
よくがんばったよあたし、さすがは女優よと褒めてあげたかった。
『…そうか』
「うん」
『だから来れへんかったんか』
「あ…、うん」
そうだ、北中のやつらとなんかあるんだった。
やばい、設定をすぐ忘れてしまう。女優失格だわあたしと自分に言い聞かせる。
『そうか…』
「ごめんね」
謝るとなんだか本当に申し訳なくなってしまった。
北中とのケンカなんかないのに。
こんなくだらないイタズラ電話をしている彼らと、女の子とチュッチュしている自分との落差にどうでもいい申し訳なさを感じてると、
『お前』
「うん」
『したんか』
「え?」
『その女と』
突然鳴ったケータイに、私はテレビ画面から目を離さず右手を伸ばした。
左手はゲームのコントローラーを持ったまま。テレビでは勇者一行がモンスターをガンガン倒している。
大事なレベル上げの最中に一体誰だ、と電話に出ると、
『イオリか』
「はい?」
『俺や。ヤガミや』
「はあ」
『お前何してんねん』
「あー…、はい」
ケータイを肩と耳に挟んだまま受け答えをする。
誰?
男の子だ。
それも中学生、もしかしたら小学生くらいか。
テレビではモンスターを倒した勇者一行が、また新たな経験値を求めてグルグルとフィールドを歩き出した。
『お前今どこや。まだ家か』
「ああー、そうですねえ」
見知らぬ男の子に怒られている。なぜなのかはわからない。
男の子が変なイントネーションの関西弁で喋っていることもわからない。
テレビでは敵にエンカウントして画面が一瞬暗くなり、
「うわあっ」
『なんやっ』
「いや、ちょっと」
ちょっと面倒な敵が現れた。眠気やシビレなど厄介な魔法を使う敵だ。
戦うよりさっさと逃げるかとコマンドを選ぶと、
『お前何してんねん』
「ぅえっ、うん、ちょっと」
『お前、まさか今日の約束忘れとんちゃうやろな』
「えっ!?まさか、忘れてないよ」
『ほんまか。もうアイツら来とんぞ』
敵からは三回目の逃げるコマンドでようやく逃げきれた。
かなりダメージを食らったので真っ向から戦えばよかったかもしれない。
しかしなぜかこちらの相手からは逃げる気がしない。
電話を切るという選択肢が無かった。
頭ではわかっている。
間違い電話、ではない。
おそらくイタズラ電話の類いだろう。
電話をかけているヤガミくんの周りはザワザワとうるさい。
子供のはしゃぐ声がする。
公園かどこかから掛けてるのだろうか。
さっさと切ればいいのにレベル上げが忙しくて出来ない。
しかしそれもわかっていた。
忙しいなんて言い訳だ。
退屈なレベル上げの、ちょっとした退屈しのぎに電話を繋いだままにしているのだ。
「ええっと。アイツら、とは」
もう少し詳しい事情、というか設定をヤガミくんから訊いてみた。
『……お前マジで言ってんのか』
ヤガミくんが怒ったような呆れたような声で言う。
そこは発音的には言っとんのかだよと、思うのだが。
マジでの発音は当ってるのに。
『お前、ホンマにイオリか』
「えっ!?うんっ。そうだよっ!?」
ヤバイ、設定が壊れてしまうとこだった。
慌てて肯定しておく。
私はイオリ。漢字はわからないが多分伊織か庵のどっちかだろう。
男の子なら後者か。
そう自分に言い聞かせていると、
『おいイオリ』
電話の向こうに新キャラが現れた。
ヤガミくんよりもっと声が高くて幼い。
ほんとに小学生かもしれない。
中学生と小学生の友達同士かもしれないが。
そうなるとヤガミくんはちょっとイタイ子なのか。年下しか遊び相手がいないとか。
『北中のやつらぶっつぶしに行くゆう約束やろ』
「えっ、あっ、そうだったね」
新キャラくんも頑張って関西弁で言うてきてくれとる。
なるほど殴りこみか。
来てるといったから河原で対決とか学校同士の戦争とかそういう感じなのか。
それにしても北中というネーミングセンスよ、と口を猫みたいにうにゅーっとさせて笑いを堪えてると、
『せやのにお前なんでまだ家おんねん』
また声がヤガミくんになった。そしてまた怒られた。
「あー、そうですねえ」
『なんや、怖気づいたんか』
「はあ!?んなわけあるかい!!殺すどボケコラ!!」
『お、おう…。すまんな』
しまった、つい女優魂が出てしまった。
いや、バカにされてガチでキレちまった。
結果向こうがびびってしまった。これは悪いことをした。向こうの素が出てしまっている。
「いや、うん、ちょっと、なに。野暮用」
野暮用だなんて初めて使った言葉だ。なるほどこんな時に使うのかと思っていると、
『そうか…』
ヤガミくんは納得してくれた。なんとも便利なワードだった。
そして頭の片隅で一旦設定を整理してみる。
自分はイオリくんという名で向こうはヤガミ。
ん?イオリとヤガミ?
「ぶふっ」
『なんや』
「ううん。ちょっと、むせちゃった」
『ほんまか。大丈夫か?』
「うん。だいじょぶ」
言いながら、私はイオリとヤガミってなんか格ゲーのキャラでいなかった?と考える。
それも一人の苗字と名前だ。
それを分解して相手と自分の名前にしている。
なんちゅーネーミングセンスだ。
ではさっきの声が高いのはクサナギくんか。
それにしても北中のやつらすげえ待ってくれてんな。
結構長いこと電話してると思うのだが。
『お前、ほんまにイオリか』
「だからそうだって!」
『そうか。すまんな』
定期でヤガミくんから確認が入る。
そのたびに役柄を修正できるからいいが。
『いや、忘れたんちゃうか思ってな』
「うん?」
『は?』
「え?」
『お前、ほんまに忘れたんちゃうやろな』
「えーと…、なんだったっけねぇ」
ここは素直に訊いてみた。何を忘れているのか。
しかしゲームはそろそろ回復しないとやばい頃に差し掛かっていた。
ゴールドが貯ったから一度村に帰って銀行に預けるべきだろう、と考えてると、
『ここらへんの学校全部ぶっ潰して俺ら最強になろうって誓ったやろ!!河原で!!三人で!!なあ!!あのときのお前どこ行ってん!!ギラギラしてたお前どこ行ってん!!なあイオリ!!お前今何してんねん!!どこおんねん!!』
誓ったて。河原て。
すげえな中学生、いや小学生か。あの語彙では。
そしてこの熱演。
ああもう、ほんとにどうしたってんだ俺は。
周りの学校全部シメて最強なるんちゃうんか。ヤガミくんと、えーとクサナギくん?と。あの声高い子と。
いやいやちゃうがな。
せやからワシ家おる言うてるやろ。
そして快適なお部屋でゲームのレベル上げしとんねんワシは。
あとぶっ潰すよりシメるいう表現の方がやっぱええんちゃうかな。
魔法で村に戻りつつ、私は笑いが声となって出ないよう細心の注意を払う。
ワハーみたいな大口を開けた満面の笑みを浮かべて笑い声をなんとか堪える。そこへ、
「なにしてんの?」
「えっ!?」
タオルで明るく染めた髪を拭きながら、聖(ひじり)が訊いてきた。
いつの間に、とその姿を見る。
さっきベッドで散々まぐわった相手がシャワーからもう戻ってきてしまった。
ゆっくり湯船に浸かると言っていたからもうちょっと掛かると思ったのに。
だからゲームなんてしてたのに。
「ねえ」
重ねて聖が訊いてくる。
なに、とはあんなに求めあった行為が終わった後に、早速ゲームに取り掛かっている恋人に対してだろう。
終わって即タバコより失礼だろう。それは重々承知だ。
それともう一つは、満面の笑顔での電話についてだ。
「いや、あの」
『イオリ、イオリッ』
「はい?」
『誰かおんのか』
「誰」
突如二次元会話が始まってしまった。
電話の向こうの知らないボーイ二人と、お風呂上がりで怒ってるガール。
これをゲームしながらこなすのなかなかキツイ。
「誰でもないよ」
とりあえず目の前の相手に言い訳してみると、
「誰でもないってことないでしょっ」
「んんーっ」
向こうはケータイを取ろうとしてきた。私は腕を限界まで伸ばしてそれを阻止する。
おそらくまた浮気を疑われている。
一回や二回したくらいじゃ浮気にならないのに。
そういう人間だとわかって付き合ってるはずなのにどうしてもわかってくれない。
とはいえこの流れはダメだ。
今最も私が優先すべきことは、ひとまず村に帰ってセーブすることなのだ。
「ちと待って。ちょっと待って!」
「なに」
「キスしたい」
「え?」
返事も待たずにケータイを放ると、聖の唇を奪い、すぐに舌を差し入れる。
くぐもった声が漏れる。
でも、この時ばかりは全力で愛す。
どんな子にも私は常にそうだ。
目の前の女の子をただひたすらに愛する。
この時だけは君だけだよと。
それを等しく、すべての目の前の女の子にするだけだ。
そして気付かれないように。
左手で髪をなでながら、右手でコントローラーを操作し、すぐに教会に向かってセーブだけ済まそうとするが、
「ゲーム」
聖がパっと口を放し抱き合う形になると、
「ん?」
「やめて」
抱きつかれたまま言われた。
「するならやめて」
もう一度、体を離して改めて言われた。もう一度抱くならゲームやめてと。
キッツい怒った目で。
おお、これは怖い。そして私の大好きな目。
すると、
『おい、イオリ』
「はい。あっ!」
放ったケータイから話しかけられた。
通話が繋がったままだった。
ということは全部聞こえていたのか。
私の本当の名前は呼ばれなかったよな、とドキドキする。
せっかくの三人で作り上げた芝居が壊れてしまう。
『お前、女とおんのか」
「えっ」
『野暮用ってそれか」
「あ、いやあの」
『そいつ、お前のオンナか』
先程の女とは違う意味だろう。
会話を聞きながら聖が訝しげな目で見てくる。
ケータイから漏れ聞こえてくるのは、浮気相手っぽい女の子ではないが変な関西弁の、子供みたいな男の子の声。
なんか書くものとジェスチャーで伝えると、聖はすぐに紙とペンを持ってきてくれた。
こういうところも大好きだった。
私は殴り書きでイタズラ電話 泳がせている たぶん中学生くらいの男の子 と状況を説明し、
「あー、あのねえ」
『正直に言え』
ヤガミくんの相手もする。
「いやあー、ええっとねえー」
しかしその問いには少し戸惑った。
そもそもこの子達は、ヤガミくん達は自分を男だと思ってるのだろうかと。
私の声の感じから、まだ声変わりをギリギリしてない同年代か少し上くらいの男の子と思われてるかもしれない。
が、女のオンナというのは少々説明が難しいかもしれない。なので、
「ごめん」
『なにが』
「そうだよ」
怒ったように訊いてくるヤガミくんに答えた。
「あ…、ボクの、女だよ」
あたしと言いそうになるのをギリギリ飲み込み、ボクと言った。
さすがに俺とは言えない。
よくがんばったよあたし、さすがは女優よと褒めてあげたかった。
『…そうか』
「うん」
『だから来れへんかったんか』
「あ…、うん」
そうだ、北中のやつらとなんかあるんだった。
やばい、設定をすぐ忘れてしまう。女優失格だわあたしと自分に言い聞かせる。
『そうか…』
「ごめんね」
謝るとなんだか本当に申し訳なくなってしまった。
北中とのケンカなんかないのに。
こんなくだらないイタズラ電話をしている彼らと、女の子とチュッチュしている自分との落差にどうでもいい申し訳なさを感じてると、
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「うん」
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