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それぞれの未来のために
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その日の夜のことはそのあとも鮮明に覚えているし、忘れることはない。あの日あの瞬間色んな人の話を聞き、そして先輩の顔を見て実感した。自分はこの人が好きになってしまっているのだと。その気持ちに自分は素直になるべきなんだとも思ったがまだその時ではないのかもしれないと。だけど次の日教室の外ですれ違ってもどこか気恥ずかしかった。
「あれ……喧嘩しちゃった?」
「あ、船継先輩……いや、実は」
昨日の夜中に起こったことを先輩に伝えてみると先輩は腹を抱えて笑い出した。ああ、自分がおかしいのかなとか思ってもみたけれど、自分としてはおかしいことをしたつもりはない。そして話を聞くとどうやらおかしいとか面白いってわけではなく。ただ単にお互いそこまでしたのに気まずいとか面白いね! ということらしい。お互いを意識するあまり、なのかそれは俺にはわからないけれどひとまずはこれにて一件落着……かな?だけどよくよく考えてみたら自分で思い返しても……恥ずかしいな。
船継先輩はかっこいいじゃん。イケメンだよ~? と言ってくれたけど言われると尚更恥ずかしさで消えてしまいたくなる。第一、後先考えずに行動したからであって……ってそんなことは最初からわかっているか。ひとまずは先輩に会って何かしら話をして、気まずい感じを払しょくしていきたいのだけど。船継先輩が言うに今日はバイトの日らしく。
「バイトって何か知ってますか?」
「え? うーん……そういえば聞いたことないかも」
どういうバイトなのか。どこでやってるのか。詳しいことについては聞いていないらしく、ただバイトをやっている、とだけ聞いていたらしい。でもそれはどうやら担任も同じらしく、バイト先について何かあれば教えてほしい、とのこと。ということで真っ先に情報を頼りにしようと伺ったのは誠也のところだった。学校中の話題をかき集めている誠也なら……と思っていたんだけど。
「んー、さすがにプライベートまではちょっとな」
「でもお前普通に晒したりするじゃん」
「あれは一応本人提供が大半だからなあ。俺も有名人になりたいからよろしく! って自ら提供してくるもの好きも多いんだよ」
「そう、なのか……」
意外だった。こいつは常にタレコミとか口コミを好んでたしこういう時も何か知っているとは思っていたんだけどな……でも意外にもわからないの一点張りだった。まあここまで念を押されると俺でも折れる。というかなんかそこまでしてプライベートについて詮索をしているのがだんだんと馬鹿らしくも思えてくる。誠也も最初ちょっと引いてる様子だったし。一回落ち着いてみて状況を整理していく。
先輩はバイトしている、そしてそれを知る者はいない。何故知りたいのか、単に気になるから……と。自分で状況を整理して一つの結論にたどり着く。そうそれは――
「これじゃあストーカーじゃねえか……」
「え、今気づいたかお前」
「なっ……!? わかってたなら言ってくれよ!」
「いやあ真面目な顔だったし……真面目にストーカーしてるなら助けてやろうかなと」
「それこそ大問題だろっ!!」
危うく変質者になるところだったがぎりぎりのところで正気に戻る。だけど正気に戻ってみてもやはりここまで知っている人間がいない、というのに不信感は憶えるものだ。
最初は興味本位、というかぶっちゃけバイト場所まで言って毎日眺めよう……的なちょっと危ないことを考えたが誰にも言えない、行っていないバイト。という部分で不信感が勝ってしまった。ここまで興味を持つと人間だれしもきっと抑えられないだろう。
「誠也、目が覚めたよ。でも、バイトについてはいろいろお前も調べてくれないか?」
「え? まあそうだな。俺も先輩のことだし変なバイトしてないかってのは心配でもある」
「だろ? ってことで頼むわ」
「おう。任せとけ」
こういう時の情報屋はとても心強い。別に探偵ごっこがしたいとかそういうわけではないけど。もし迷惑だって止められたらそこでやめよう、それくらいの心持のはずだった。だけど……その興味本位が次第に使命感とかそういうものに変わっていってしまった時に俺は後悔する。ああ、なんでこうしてしまったのか。ああ、こんな結末は望んでないのに。
先輩のバイトを調査し始めて二日ほどたった時だった。そのタレコミは突然誠也の元に流れ込んできた。もちろん誠也自身確証を得てから記事にしているくらいの行動力だけど、今回はそうではない。だからこそ真っ先にその情報を教えに来てくれた。そして聞くからにそれは……少し心配していたものかもしれない、と。
「先輩が出てくるの見たやつが居んだよ……」
「どこから?」
「えっとな、学校から100mくらい先にビジネス街あるだろ?」
「ああ、あるな……って」
「そうらしい。たまたまバイトで遅くなったc組の奴がホテルからおっさんと出てくるのみたらしいんだ」
「でも、父親とかじゃないの?」
「そうかなあ、って思って調べたんだけどさ……」
「?」
少し暗い感じの雰囲気がその場に漂う。そして眉間にしわを寄せ誠也が俺に伝えるべきか必死に脳内会議をしている、そう感じ取ることが出来るほど、その顔は険しかった。聞いていいのか。聞いてはいけないのか。きっとそれは聞いてはいけない、というもののはずだ。だけど俺は今はもう安心できるような情報がただほしい。だから誠也にも教えてほしい。そう頼んだ。
教えてほしい、と真面目な顔で言われた誠也は一瞬携帯の画面を眺め、二分ほどの硬直時間を得て口を開いた。その情報を俺に伝えるために。
「先輩の親父さん、先月倒産してるらしい」
「会社が?」
「ああ。そしてこれは近所の人の証言だけど、部屋の中から常にうめき声が聞こえるって」
「それって……親父さん?」
「かもしれないな……とりあえずお前家近かったろ? 確か」
「それは、うん」
話を聞き、放課後先輩がバイトに向かっている間に先輩の家に行ってみるということになった。もちろん事情を話したら船継先輩が私がいればある程度融通利かせられるでしょ。と協力してくれることになり、俺と誠也と船継先輩の三人で向かうことになった――
放課後。先輩がバイトに向かうのを確認したのちに俺たちは急いで先輩の家に向かう。こんな真似、きっと学校に知られたら何かしらの処分を受ける、というのは覚悟のうえで二人も協力してくれているのだ。その思いにこたえるためにも、向かわねばならない。
――先輩の家の玄関。夕方だというのに確かに男の声でうめき声が聞こえる。先輩はたまたま合いかぎを渡されている……というのは関係性が気になるが、今はこっそりと自宅に忍び込む。正直、先輩が居なかったらほんとの犯罪になるところだった。
「うめき声、リビングですね……って、先輩?」
先に家に上がりうめき声の主を探していた先輩が、リビングを見て腰を抜かしているのが見え、急いで駆けつける。そしてそこにいたのはひたすら酒におぼれ俳人となっている男の姿だった。
だけど先輩は確かに覚えがありすぐにその男が先輩の親御さんだということが判明した。とはいえ、母親がこの時間帯にいない、というので大方の予想はついてしまった。
「職を失って奥さんにも逃げられる……か。そりゃあ男としてはこうなってもおかしくないかもな……」
そんな会話をしている時だった。確かに玄関の戸が開き、先輩が返ってきた。そして何か悪いものを見るような顔を、視線を、こちらに向けてくる。当たり前だ。後輩が知らない間に家に上がり込む。すぐに後ろにいた先輩に気づき、何かを悟って叫んだりとかは辞めてくれたけど、怒りを隠せないのが目に見えていた。
「どういうつもり?」
「えっと、先輩のバイトについて調べてるうちに……家に行ってみようってなって……」
「だから無断で上がり込んだの? 雅までグルになって?」
「ち、違うの。これは私も気になってたから……」
「でもせめて一声かけるよね?」
至極まっとうな正論。先輩から見たら俺たちは不法侵入をした犯罪者、も同然の扱いのはずだ。
「話は……じっくり聞く。とりあえず荷物下ろしなよ」
怒られる……と思っていたからその返しの言葉には驚いた。許すどころか話を聞くといってくれたのだ。まあ、船継先輩がいるから、というのが大きいだろうけど……
俺たちを席に座らせると先輩は自分の分も含め、四人分のお茶を出す。行き過ぎた行動についていろいろと説教を交えながら。
「私がなにか突き出せば……終わるだろうけどまあ自分が自分のことをあまり喋らなかったせいでもあるから許すけど……」
「それは……ありがとうございます」
「でも次はないわよ。雅も」
「はい……」
先輩もすっかりと気分が落ち込んでしまい、さっきからただひたすらにあやまっている様子だった。まあ仕方もない。あまり見ては言い、とはいいがたいものを見てしまったわけだし。
「で、私のバイトが気になるって?」
「はい……」
「援助交際、って疑ってたわけ?」
「はい……」
「はあ……あの人は元のお父さんの職場のお偉いさん。っていうか取引先の人」
「でもそれなら先輩がわざわざ会う必要は……」
「あるのよ。父さんがこの状態なのにさらに会社の抱えていた借金の話なんてできると思う?」
それは……とてもできたようなはなではない。それにそこまで家庭が追い込まれてはいては仕方もない、のかもしれない……だけど、やっぱりなんだろう、納得いかない気がする。本当に援助交際はしていないんだろうか?
「まあ……そういうことだから。志鶴君は残りなさい?」
話が終わったところで解散。俺は先輩から残るように言われたためにまだ帰らないが……
「まあ、頑張れ。じゃあな」
「ごめんね……美穂……」
そういうと二人は潔く出ていった。俺を一人残し……
「さて……さっきの話、あなたはどこまで信じた?」
「会社の倒産まで……」
「はあ……まあ、隠す気はないもんね」
「はい」
「してる、じゃなくてしてた、だよ」
「過去に……ですか?」
「そう。で、彼氏にやめろって殺されかけた」
単に遊びだったとか、そういうのじゃない。彼氏から逃げるため、というのが大きな理由だという。だけど、そのあとも結局依存しっきりになってしまったと。だけどつい最近、別れたい、という気持ちのが強くなったという。それは自分のおかげ、と話してくれたけど……そこか浮かない表情だったのは間違いない。
「もし別れたら……付き合う?」
「え、いいんですか……?」
「まあ考えといてあげるね」
今思えばそこで何か言えばよかったかもしれない。そこで何かを言っておけばよかったのかもしれない。それからしばらくして卒業式。先輩は姿を現さなかった……のはおろか、それ以降先輩とは会っていないのだ。連絡も帰っては来るものの、何をしているのかはわからないし教えてくれなかった。だけど薄々は父親の新しい職に合わせて引っ越しをした、という可能性だったりはいろいろ考えた……だけど先輩は、教えてはくれない。
数か月後――少しすっきりとした表情の先輩を見るまでは――
「あれ……喧嘩しちゃった?」
「あ、船継先輩……いや、実は」
昨日の夜中に起こったことを先輩に伝えてみると先輩は腹を抱えて笑い出した。ああ、自分がおかしいのかなとか思ってもみたけれど、自分としてはおかしいことをしたつもりはない。そして話を聞くとどうやらおかしいとか面白いってわけではなく。ただ単にお互いそこまでしたのに気まずいとか面白いね! ということらしい。お互いを意識するあまり、なのかそれは俺にはわからないけれどひとまずはこれにて一件落着……かな?だけどよくよく考えてみたら自分で思い返しても……恥ずかしいな。
船継先輩はかっこいいじゃん。イケメンだよ~? と言ってくれたけど言われると尚更恥ずかしさで消えてしまいたくなる。第一、後先考えずに行動したからであって……ってそんなことは最初からわかっているか。ひとまずは先輩に会って何かしら話をして、気まずい感じを払しょくしていきたいのだけど。船継先輩が言うに今日はバイトの日らしく。
「バイトって何か知ってますか?」
「え? うーん……そういえば聞いたことないかも」
どういうバイトなのか。どこでやってるのか。詳しいことについては聞いていないらしく、ただバイトをやっている、とだけ聞いていたらしい。でもそれはどうやら担任も同じらしく、バイト先について何かあれば教えてほしい、とのこと。ということで真っ先に情報を頼りにしようと伺ったのは誠也のところだった。学校中の話題をかき集めている誠也なら……と思っていたんだけど。
「んー、さすがにプライベートまではちょっとな」
「でもお前普通に晒したりするじゃん」
「あれは一応本人提供が大半だからなあ。俺も有名人になりたいからよろしく! って自ら提供してくるもの好きも多いんだよ」
「そう、なのか……」
意外だった。こいつは常にタレコミとか口コミを好んでたしこういう時も何か知っているとは思っていたんだけどな……でも意外にもわからないの一点張りだった。まあここまで念を押されると俺でも折れる。というかなんかそこまでしてプライベートについて詮索をしているのがだんだんと馬鹿らしくも思えてくる。誠也も最初ちょっと引いてる様子だったし。一回落ち着いてみて状況を整理していく。
先輩はバイトしている、そしてそれを知る者はいない。何故知りたいのか、単に気になるから……と。自分で状況を整理して一つの結論にたどり着く。そうそれは――
「これじゃあストーカーじゃねえか……」
「え、今気づいたかお前」
「なっ……!? わかってたなら言ってくれよ!」
「いやあ真面目な顔だったし……真面目にストーカーしてるなら助けてやろうかなと」
「それこそ大問題だろっ!!」
危うく変質者になるところだったがぎりぎりのところで正気に戻る。だけど正気に戻ってみてもやはりここまで知っている人間がいない、というのに不信感は憶えるものだ。
最初は興味本位、というかぶっちゃけバイト場所まで言って毎日眺めよう……的なちょっと危ないことを考えたが誰にも言えない、行っていないバイト。という部分で不信感が勝ってしまった。ここまで興味を持つと人間だれしもきっと抑えられないだろう。
「誠也、目が覚めたよ。でも、バイトについてはいろいろお前も調べてくれないか?」
「え? まあそうだな。俺も先輩のことだし変なバイトしてないかってのは心配でもある」
「だろ? ってことで頼むわ」
「おう。任せとけ」
こういう時の情報屋はとても心強い。別に探偵ごっこがしたいとかそういうわけではないけど。もし迷惑だって止められたらそこでやめよう、それくらいの心持のはずだった。だけど……その興味本位が次第に使命感とかそういうものに変わっていってしまった時に俺は後悔する。ああ、なんでこうしてしまったのか。ああ、こんな結末は望んでないのに。
先輩のバイトを調査し始めて二日ほどたった時だった。そのタレコミは突然誠也の元に流れ込んできた。もちろん誠也自身確証を得てから記事にしているくらいの行動力だけど、今回はそうではない。だからこそ真っ先にその情報を教えに来てくれた。そして聞くからにそれは……少し心配していたものかもしれない、と。
「先輩が出てくるの見たやつが居んだよ……」
「どこから?」
「えっとな、学校から100mくらい先にビジネス街あるだろ?」
「ああ、あるな……って」
「そうらしい。たまたまバイトで遅くなったc組の奴がホテルからおっさんと出てくるのみたらしいんだ」
「でも、父親とかじゃないの?」
「そうかなあ、って思って調べたんだけどさ……」
「?」
少し暗い感じの雰囲気がその場に漂う。そして眉間にしわを寄せ誠也が俺に伝えるべきか必死に脳内会議をしている、そう感じ取ることが出来るほど、その顔は険しかった。聞いていいのか。聞いてはいけないのか。きっとそれは聞いてはいけない、というもののはずだ。だけど俺は今はもう安心できるような情報がただほしい。だから誠也にも教えてほしい。そう頼んだ。
教えてほしい、と真面目な顔で言われた誠也は一瞬携帯の画面を眺め、二分ほどの硬直時間を得て口を開いた。その情報を俺に伝えるために。
「先輩の親父さん、先月倒産してるらしい」
「会社が?」
「ああ。そしてこれは近所の人の証言だけど、部屋の中から常にうめき声が聞こえるって」
「それって……親父さん?」
「かもしれないな……とりあえずお前家近かったろ? 確か」
「それは、うん」
話を聞き、放課後先輩がバイトに向かっている間に先輩の家に行ってみるということになった。もちろん事情を話したら船継先輩が私がいればある程度融通利かせられるでしょ。と協力してくれることになり、俺と誠也と船継先輩の三人で向かうことになった――
放課後。先輩がバイトに向かうのを確認したのちに俺たちは急いで先輩の家に向かう。こんな真似、きっと学校に知られたら何かしらの処分を受ける、というのは覚悟のうえで二人も協力してくれているのだ。その思いにこたえるためにも、向かわねばならない。
――先輩の家の玄関。夕方だというのに確かに男の声でうめき声が聞こえる。先輩はたまたま合いかぎを渡されている……というのは関係性が気になるが、今はこっそりと自宅に忍び込む。正直、先輩が居なかったらほんとの犯罪になるところだった。
「うめき声、リビングですね……って、先輩?」
先に家に上がりうめき声の主を探していた先輩が、リビングを見て腰を抜かしているのが見え、急いで駆けつける。そしてそこにいたのはひたすら酒におぼれ俳人となっている男の姿だった。
だけど先輩は確かに覚えがありすぐにその男が先輩の親御さんだということが判明した。とはいえ、母親がこの時間帯にいない、というので大方の予想はついてしまった。
「職を失って奥さんにも逃げられる……か。そりゃあ男としてはこうなってもおかしくないかもな……」
そんな会話をしている時だった。確かに玄関の戸が開き、先輩が返ってきた。そして何か悪いものを見るような顔を、視線を、こちらに向けてくる。当たり前だ。後輩が知らない間に家に上がり込む。すぐに後ろにいた先輩に気づき、何かを悟って叫んだりとかは辞めてくれたけど、怒りを隠せないのが目に見えていた。
「どういうつもり?」
「えっと、先輩のバイトについて調べてるうちに……家に行ってみようってなって……」
「だから無断で上がり込んだの? 雅までグルになって?」
「ち、違うの。これは私も気になってたから……」
「でもせめて一声かけるよね?」
至極まっとうな正論。先輩から見たら俺たちは不法侵入をした犯罪者、も同然の扱いのはずだ。
「話は……じっくり聞く。とりあえず荷物下ろしなよ」
怒られる……と思っていたからその返しの言葉には驚いた。許すどころか話を聞くといってくれたのだ。まあ、船継先輩がいるから、というのが大きいだろうけど……
俺たちを席に座らせると先輩は自分の分も含め、四人分のお茶を出す。行き過ぎた行動についていろいろと説教を交えながら。
「私がなにか突き出せば……終わるだろうけどまあ自分が自分のことをあまり喋らなかったせいでもあるから許すけど……」
「それは……ありがとうございます」
「でも次はないわよ。雅も」
「はい……」
先輩もすっかりと気分が落ち込んでしまい、さっきからただひたすらにあやまっている様子だった。まあ仕方もない。あまり見ては言い、とはいいがたいものを見てしまったわけだし。
「で、私のバイトが気になるって?」
「はい……」
「援助交際、って疑ってたわけ?」
「はい……」
「はあ……あの人は元のお父さんの職場のお偉いさん。っていうか取引先の人」
「でもそれなら先輩がわざわざ会う必要は……」
「あるのよ。父さんがこの状態なのにさらに会社の抱えていた借金の話なんてできると思う?」
それは……とてもできたようなはなではない。それにそこまで家庭が追い込まれてはいては仕方もない、のかもしれない……だけど、やっぱりなんだろう、納得いかない気がする。本当に援助交際はしていないんだろうか?
「まあ……そういうことだから。志鶴君は残りなさい?」
話が終わったところで解散。俺は先輩から残るように言われたためにまだ帰らないが……
「まあ、頑張れ。じゃあな」
「ごめんね……美穂……」
そういうと二人は潔く出ていった。俺を一人残し……
「さて……さっきの話、あなたはどこまで信じた?」
「会社の倒産まで……」
「はあ……まあ、隠す気はないもんね」
「はい」
「してる、じゃなくてしてた、だよ」
「過去に……ですか?」
「そう。で、彼氏にやめろって殺されかけた」
単に遊びだったとか、そういうのじゃない。彼氏から逃げるため、というのが大きな理由だという。だけど、そのあとも結局依存しっきりになってしまったと。だけどつい最近、別れたい、という気持ちのが強くなったという。それは自分のおかげ、と話してくれたけど……そこか浮かない表情だったのは間違いない。
「もし別れたら……付き合う?」
「え、いいんですか……?」
「まあ考えといてあげるね」
今思えばそこで何か言えばよかったかもしれない。そこで何かを言っておけばよかったのかもしれない。それからしばらくして卒業式。先輩は姿を現さなかった……のはおろか、それ以降先輩とは会っていないのだ。連絡も帰っては来るものの、何をしているのかはわからないし教えてくれなかった。だけど薄々は父親の新しい職に合わせて引っ越しをした、という可能性だったりはいろいろ考えた……だけど先輩は、教えてはくれない。
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