俺の兄貴、俺の弟...

日向 ずい

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「久我 小春 サイドストーリー」

「私の過去」

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 「小春ねぇちゃん???どうしてそんなに悲しい顔をするの???」

 「....りお。璃織は強い子だね。でもそんなに頑張らなくても良いんだよ???」

 そう....私の可愛い可愛い妹....璃織は、私とは血のつながりは無いが、それでも私にとっては、唯一の可愛い妹だった。

 そんな璃織が....ある日、いじめられて帰ってきた。原因は璃織が元々男だって事が大きいのだろう。璃織のことは、妹と言っているが、れっきとした男の子なのだ。でも生まれたときに持っていた心は女の子だった。だから....璃織は、中学生の時に酷いいじめに遭っていた。

 私は璃織が日に日に酷くなっていくいじめに耐えて、毎日笑って帰ってくる姿に、半ば恐怖を覚えていた。日に日に制服の汚れや足などに負っている小さな幾つもの擦り傷....。見れば見るほど痛々しい。

 そんな傷を負っても、楽しそうに笑って帰ってくる璃織に私は今日、耐えきれずに言ってしまった。頑張らなくても良いよ???と...。その為か、璃織の必死で作っていた作り笑いが崩れ、次の瞬間、泣き声をあげて泣き出してしまった。私はその日、それ以上何も言わずに一日璃織に尽くした。

 そしてその日...泣き疲れて眠ってしまった璃織の頭をそっと撫でながら、私は心の中でこう決意するのだった。璃織、あなたのことは何があっても絶対に守るから。私の可愛い唯一の妹である璃織。と。

 だけど....その約束は私の身勝手な恋心により跡形も無く消え去ることとなる。

 私は大手企業のOLとして、毎日毎日仕事に精を出していた。そんな私に運命的な出会いがあった。毎日、皆がいなくなってから、私は会社の掃除をこっそりしていた。だってどうせ仕事をするのなら、やっぱり綺麗な部屋がいいじゃない???だから、私は毎日掃除をしていた。

 でもある日、私がいつものように部屋の掃除をしていると、社内のアイドル的存在の成瀬 都和さんが私の部署を訪ねてきたことがあった。みんな居ない時間だと思っていたから、なんとなく気恥ずかしくなり、私はやりかけだった部屋の掃除を断念して、早急に荷物をまとめるとそのまま帰ろうとドアの前に立っている成瀬さんに一礼して、彼の隣を通り過ぎようとした。

 そしたらいきなり成瀬さんが「いつもこの部署に書類を受け取りの来るとき、部屋が綺麗だなぁ。って思っていたんだ。だけどそれは、君が毎日皆が帰った後に部屋の掃除をしていたからだったんだね???よしよし、みんなが褒めてない分、俺が褒めてあげる!!あっ、嫌だったら言ってね???セクハラで訴えられても困るし...。」と言って、通り過ぎようとしていた私の腕を掴み、立ち止まった私の頭をぽんぽんっとしてくれたのだった。(この時成瀬さんが、社内モードで私に接してくれていたことを、この時の私は知らなかった...。)

 私はその時...成瀬さんに抱いてはいけない恋心を抱いてしまったのだった。そのせいで、璃織を傷つけることになるとも知らずに...。

 成瀬さんのことを考えて毎日会社に通っていた私は、ある日成瀬さんに彼女がいるということを知ってしまった。

 そしてあろうことか私は、がっくりと肩を落とし家に帰ると、私の部屋を訪れていた璃織にその姿を見られ、気を遣わせてしまった。

 璃織が私の様子に気付いて、ねぇちゃんにどうしたの???って声を掛けてきたの。普通なら、何でも無いと言って話を誤魔化すのだが....その日は違った。

 私はどうやら、恋する乙女の顔をしていたらしい。そしてその顔で私の大事な璃織に「ねぇ、璃織???好きな人に彼女がいるときって、どうしたら良いと思う???私は彼のことが.....成瀬 都和さんのことが....どうしても諦めきれないの。」と言って、必死に答えを求めてしまった。今更後悔しても、もう遅い。

 そうして私は徐々に成瀬さんにストーカーまがいのことをしだすようになっていったのだ。

 そして今....私は.....。

 「ちょっと久我さぁ~ん???この書類コピーしといてって言ったよね???な~んで出来てないの???」

 「いや....それはあなたの仕事で....私は、今日の夜までにしないといけない仕事があるので、出来ないとお伝えしたはずですが....。」

 「はぁ???何....私が失敗したって言いたいの???何????言いたいことがあるなら、はっきり言ってみなさいよ!!!成瀬さんとのねつ造写真まで作って、社内にばらまいた非常識なクズ(久我)さんが何言っちゃってるの????(笑)もうさぁ、アンタの居場所...ここにはないんだよね???分かる???分かるよね???ほら、分かったらとっとと辞表出して辞めちゃいなよ。それでさ???今度は偽りでも愛をくれる仕事....身体を売る仕事でもしてみたら良いんじゃ無いの???クズなあんたにぴったりでしょ!『ちょっと、石木(せきぎ)さん???さっきの納入書について確認したいんだけど....。』...あっ、成瀬さん♡...今行きま~す!!!」

 絶賛、社内いじめにあっている。....まぁ、自分でまいた種だから仕方ないんだけどさ...。石木さんが去り際にわざとぶつかってきたから、盛大によろけてこけちゃったし...。はぁ、今日もついてないや...。

 折角入った大手企業だったのになぁ....。もうそろそろやめどきなのかな....。

 こう考えて、床に落としていた書類数枚を拾い上げ立ち上がろうとしたが....そんな私の目の前には、ごつごつした手がひとつ差し出されていた。

 見ただけで男のものと分かるそれに、私は戸惑っていた。

 私はびっくりして手の伸ばされた方を見ると、そこには心配そうな顔で私を見つめる、社内で成瀬さんの次に人気の上城 志希さんが立っていた。

 上城さんは私の目を見て「大丈夫???石木さんって、当たりきついからねぇ~。まぁ、俺もいちゃもん付けられて、嫌み言われたこと何回もあるしな...。あんまり落ち込んだら駄目だぞ???ほら、リラックス!!!!」と言って、にこにこ微笑んでくれた。

 私は上城さんの手を掴み、その場に立ち上がった。

 すると、頬を少し赤らめた上城さんが「今時間ありますか???少しお茶でもどうですか???っていっても、お昼休憩とかじゃ無いから、自販機でお茶になるんですけどね....。」と聞いてきた。

 わたしは沈んだ気持ちを落ち着かせたくて、上城さんに「はい、私で良ければ。」と言って、上城さんの後を追いかけたのだった。
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