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第四章 「動き出した偽り。」

「待ってろアラン。俺が必ず...。」

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 「....えっとさぁ....その....王子様はさぁ???なんでここに???」

 「はぁ??お前な....とぼけるのもいい加減にしろよ。お前がリオンのことを陥れて、俺をここにおびき出すための人質として、拘束していることは既に分かっているのだぞ!!!!」

 「いやぁ、あのさぁ....アンタそれ、一体誰から聞いたわけ??????というよりも、そもそも何故ここにいるわけ???」

 「......お前....いい加減にしろよ!!!これで何回目....何回、同じ質問に律儀に答えてやったら気が済むのだ!!!!」

 「いや、そう独りでプンプン怒られてもさぁ....俺自身もこの状況を理解出来ていないわけだし....。とりあえず、後で一戦は交えるとして....少し話をしないか???」

 「....断る。答えはNOだ。お前が、俺の愛おしいリオンを背後に構えていることは分かっている。卑劣な奴め。国民の考えている事なんて、この国のいち王子には、すべてお見通しなんだよ。」

 「あっそ、まぁいいけどさぁ。(さっきまで、王族に対してあんなに怒りが沸々としていたにも関わらず...今、目の前にいる王子の言っていることが意味不明すぎて、あれほど溜まっていた怒りが一気に冷めてしまった...。どうでも良いけど、王子ってなんか面倒くさい....。)」

 内心、こんなことを考えながら、ロファンが目の前に立っているリルに対して、半ば呆れた表情を浮かべていたのも無理はない。

 何故、このようなややこしい状況になったのかというと、時は遡ること今から約三十分程前....リルは、出会いの湖を目指し、一心不乱に山登りに励んでいた。

 「はぁ、やはり王室は恵まれすぎているのだな。...近頃ナノにも言われていたが、俺...完全に太ったな...。まるで日頃の運動不足が、歩みを進めるごとに体に刻み込まれていくようだ。流石に疲れてきたな....いや。ここで弱音を吐くわけにはいかない。アランの命が危ないかも知れないこんな時だ。あとで、アランにキスぐらいの代償は頂戴するとして、早急に出会いの湖に向かわなければ。」

 というようなリルの独り事は、もううんざりと言うほど聞いたが....。

 リルは、こう独り呟くと、必死に山を登り山頂近くに存在している出会いの湖を目指した。

 また、時を同じくしてロファンも、自分が民放体操を行っている間に、自身の家から逃げだしてしまったリオンを追いかけるため、必死に山道を下っていた...というよりも、正確には山道を下っている最中に、ある少年に出会い、その少年に言われたとおり、山道の脇にある茂みでじっと人がくるのを待っていた。

 何故、ロファンは待ち伏せをしているのか、道中で出会った謎の少年に何を言われたのか....それが分かるのは、もう少し後の話である。

 強いて言うのなら、全てはある独りの人物によって仕組まれたいちシナリオってことぐらいだ....。

 そうして、黙々と山道を登ってきているリルと、山道の脇にある茂みに身を隠しているロファン....この先に待ち受けることと言えば....遭遇という出来事、ただひとつだ。
 
 最初に相手の存在に気がついたのは、目を血走らせていたリルである。

 リルは山を黙々と登り、もう少しで山頂にたどり着けるそんな時、目の前に誰かが立っているのが目に映った。

 一方のロファンは、誰かが山道を登ってきている気配に気が付き、謎の少年に言われたとおり、山道を登ってくる人物に会うために、勢いよく山道の茂みから山道に飛び出したのだった。

 そんなロファンの行動もそうだが、それ以上に自分が今一番恨んでやまない相手が目の前に立っている...この状況にリルが、ロファンの存在に気が付かないわけがなかった。

 リルはロファンを目に捉えた瞬間、大声を出して

 「あっ!!!!お前!!!!....自分から俺を迎えに来るなんて、随分と余裕なんだな????まぁ、いいが。その分、俺が山を無駄に登らなくても良くなったわけだしな?????」

 と、少し不機嫌そうにしているリルに、山を登ってきていた人物をよく認識していなかったロファンも、リルの言葉により、ようやくリルを眼中に留め

 「あ????誰.....あ~、そう言えばアンタあの時の....いやぁ、リオンちゃんもなかなか腕白少女だねぇ。あんなに激しい子、そんじょそこらには居ないね。というよりも、何故ここに???」

 と言って、平坦になった地面で足を止めた。

 ロファンは自身の発言に対して、特に何も考えてはいなかったのだが....リルはロファンの意味深な物言いに、それまで怒りMAXだったはずの表情が一変し、不安なものになった。

 「.....激しい子って....お前まさか、リオンの....『ん???あぁ、そうだな。いやぁ~、まさか逃げられるなんて思わなくてさ。必死で捕まえようとしたけど、結局捕まえられなかったし.....はぁ、しかも変な少年に意味深なこと...』おまえ....お前だけは、千代先まで恨み続けてやるからな!!!!!よくもリオンの大切な.....。」

 リルは、ロファンの意味深な言葉により、盛大に勘違いをしていた。

 それもそのはず、リルはロファンがリオンの初夜を取ってしまった。なんて、もの凄い勘違いをしてしまっていたのだから。

 当然、リオンの事を誰よりも愛しているリルからすれば、リオンを穢(けが)したロファンのことは、いますぐにでも殺したいほど憎い相手というようになり....。

 そんなこんなで結局、この後リルが、ロファンをめちゃくちゃに煽ったこともあり、遂には喧嘩にまで発展してしまったのだった。

 目の前で、新たな怒りを爆発させていたリルに、薄々リルが何か良からぬ勘違いをしたことを理解したロファンであったが、時既に遅し....。

 この時のリルはもう何を言っても、全く聞く耳を持つ状態ではなかった。

 そして、そんなリルの様子を理解したロファンは、和解するという策を早々に捨て、リルとこれから一戦交えることにしたのだった。

 「さぁ、どうしたよ????ん????ロファンくんは、人の女に手を出したにも関わらず、何の謝罪も出来ない男なのか???」

 「.....。(いやぁ、手を出したってさぁ....ちょっと違うし....。何か勘違いをしていることは、薄々気が付いてはいたけどさ....いきなり何???何で俺、こんなにおちょくられているわけ!???しかも、よくよく考えてみれば、なんか俺がリオンを寝取ったみたいな解釈されているじゃん。正確には、寝取る前に逃げられたんだよ。あ~ぁ、な~ンか面倒くさいことになってきたな。今まで俺はこんな奴に、復讐心をメラメラと燃やしていたのか....???なんか、そう考えると.....俺って、ずっと無駄なコトをしていたんじゃ....。はぁ、というよりもこの状況....一体、どうしたらいいんだよ。....あの少年が言っていた山を登ってくる男には結局逢えなかったし....ん????....まさか、山を登ってくる男って、そもそもコイツのことだったのか...???だとしたら、あの少年に妙な頼まれ事をしたのは...一体...。いや、そんな事どうだっていい。それよりも、こんな形で王族に復讐とは...流石に男が廃るよな....どうせなら、俺のタイミングでさせて欲しいところだな。それにほら!復讐は、正々堂々とするべきものっていうだろ???)」

 「....おい、さっきまでの威勢はどうしたよ????何故、黙っている????」

 ロファンは、リルの言葉にこの状況の全てを理解し、先ほどからリルとの会話が何一つかみ合わなかった本当の理由を知り、心底困り果てていた。

 それもそのはず、確かにロファンはリルのこと....そして一族を皆殺しにした王族のことを恨んでいる。

 それは確かなのだが、こんな形で一族の仇(かたき)を取ることは、何かが違うと感じているようだ。

 その為、ロファンは好戦的な態度を示すリルに、どうしたものかと頭を悩ませていたというわけだ。

 一方、ナノから聞いた情報すべてを鵜呑みにしたリルは、ロファンが自分をおびきだすために、わざとリオンに接触したと要らぬ思考まで働かせていたため、戦う気満々なのである。

 リルの様子に、渋々戦うことを承諾したロファンは、そもそも無駄な戦いを実戦したい人ではないため、あまり乗り気ではなかったが、もしもの時のために下げていた護身用の剣を鞘から引き抜いた。

 「さぁ、じゃあ憎き俺を倒すため....そして、一人の女を賭けた本気の殺し合いを始めようか???」

 「.....あ.....あぁ。(はぁ....誰か助けてくれ。仮にあの少年の言っていた男がコイツのことだとすれば、俺はとてつもなく、面倒くさいことにこれから巻き込まれることになる。....うー、頼むから誰かこの状況をウソだと言ってくれ!!!)」
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