押し入れに魔王

fact

文字の大きさ
8 / 13
act.3 常夜心酔

3-4

しおりを挟む

「――ルキ!代わりに相手して下さい」

呼ぶや否や、地面の魔法陣から人型大の影が浮かび上がる。”ルキ”とはバイパーの従者の名前だろうか。加勢の登場に創が身構えるが、光から立ち上がったのは彼の部下でなく、先ほど生き別れた師匠であった。
オーマイゴッド。師は何やら抱えていた少年を降ろすと、息吐く間もなく物騒な剣でバイパーへと斬りかかる。

「…えええ!?いやいや、何で埣取さんまで転移して来るんすか!!」

「貴方の従者の声借りたんですよ!高等種がそんな事も気付かなかったんですか馬鹿!」

「いやあ流石ですね…取り敢えず今日は手打ちと言う事で、解散しましょうか。もう陽も落ちますし」

バイパーの提案に眉を吊り上げ、埣取は逃すかとばかりに地を蹴って加速する。そのまま剣を振り被って斬りかかるも、流石に敵も高等種。
急襲の動きにも対応してナイフを抜くと、5回10回、斬撃を受け止めて往なされる。攻勢はこちらだが、このままでは言う通り手打ちになりそうだ。

「ちっ…この…埒が明かない」

埣取は舌打ちし、不意に動きを止めて自らの足元や周囲の壁をパキパキと凍らせ始めた。
彼の魔力で一変する景色を目に、創と同じくぎょっとしたバイパーが思わずナイフを取り落とす。

「埣取さん!?魔力使えないんじゃなかったですっけ!?」

「貴方と刺し違えて死にます」

自称非戦闘員の敵が気圧されるも、埣取は構わず意識を集中させた右手を掲げる。倉庫内の気温が一気に下がり、創は先日のあれをやる気だと察して息を呑んだ。
夜空から襲い来た敵を突き刺した、容赦ない大量の氷柱。確かに凄まじい威力であったが、直後道路に倒れ伏した姿を思い出し、止めなければと必死にその場から走り出す。

「待…駄目だサトリさん―…!!」

懸命に声を張り上げたが、注意を引くことすら叶わない。無力な己に焦るも、その時突如一行の頭上へ巨大な魔法陣が天網のように広がった。

純白の正円。不思議な6対12記号の図柄。埣取ですら見たことのない術式が宙で光り輝き、放たれた魔力を跡形もなく飲み込んでいく。凍えた筈の気温は一気に戻り、辺りは魔力使用の欠片もなく無の状態に帰った。

一体バイパーは今、何をしたのか。埣取が見当も付かず敵を睨めば、彼は何時の間にか床に転がった少年を回収し、二階の手摺にしゃがんで煙草をふかしている。

「あっぶな…マジで死ぬかと思いました」

「…バイパー、貴方何ですか今の術式…魔力を飲み込んだ?そもそも白い魔法陣なんて…」

「そんな大層な物じゃないっすよ。取りあえず今日は御暇します、お冠みたいなんで」

みたいと言うかお冠だ。最後までおちょくっているのか何なのか分からない態度に呆れていると、敵はにこっと邪気の無い笑みを浮かべて賛辞を吐いた。

「流石malumの息子ですね」

malum(マールム)。その意味を考える間にバイパーは手摺を蹴り、何度見ても発動の見えない自己転移で消えていった。
創は中途半端な姿勢のまま、一先ず去った脅威に胸を撫でおろす。しかしはっと状況を思い出すや、師の元へ走り寄ってその両肩を掴んでいた。

「サっ…トリさん!!大丈夫ですか!!何でいつも死に急ぐんですか!!」

「ごめんつい…でも問題ないよ、バイパーがあの術式で私の体内の魔力まで持って行ったみたいだ」

ややふらつきこそするが、前の様な魔力暴走でなく、これは枯渇に近い症状だ。こんな意味不明な術を展開しておいて、逃げる様に去った敵の食えなさに眉が寄る。本気で刃を向けられれば大惨事だった。自分もこの青年も。

「創くんは怪我ない?来るのが遅くなってごめんね」

「ああ…何か俺は…縛られてただけなんで」

「縛られてた?」

創が状況を説明すると、師は床に転がったパイプ椅子に近寄って痕跡を調べ始める。そして申告通り何かを無理やり引き千切った傷を見るや、今度は青年の上体をべたべた触りながら彼方此方調べ始めた。

「ちょっ、サト…サトリさん…犯しますよ」

「なに?何で?どうやってバイパーの魔力拘束外したの?」

どうと聞かれても、怒りで我を忘れたとしか言えない。そしてその怒りの内容は、正直当人には伝えたくない。
気付けば創のポケットは膨れ、取引時に見せられたあの小瓶が仕込まれていた。バイパーめ。敵の手癖の悪さを知り、青年は心中で歯ぎしりをする。

「頑張って…一球入魂で全力で…」

「そんな無茶苦茶な…さっきバイパーが言ったmalumって名前、聞き覚えがあるんだけど…君のお母さんの名前じゃないよね?」

「オカンの名前は”りん”ですけど」

「…りん、それ」

「っていやそんな事より!!!!サトリさん!!!!」

急にボリュームが最大値に跳ね上がり、師は虚を突かれてたじろぐ。その直ぐ何処かに行ってしまう肩を捕まえると、創は正面から先ほど敵が零した件を問うていた。

「俺、あの敵に聞いて…サトリさんが、あと数年で…!」

「…ああ」

理解し、驚くほどすんなり肯定した師は、視線は斜め下に逸らしながら謝罪を付け足す。

「ごめんね、話すタイミングが分からなくて…でも確かに、君が大学を辞めてしまう前に告げるべきだったね」

「否、俺の事はどうでも良いんすよ」

青年の息せき切った否定は相手の視線を引き上げた。自分の事を話す際曇る瞳が、必死な人の子の姿を見て困惑したように揺らいでいる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...