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act.3 常夜心酔
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しおりを挟む「――ルキ!代わりに相手して下さい」
呼ぶや否や、地面の魔法陣から人型大の影が浮かび上がる。”ルキ”とはバイパーの従者の名前だろうか。加勢の登場に創が身構えるが、光から立ち上がったのは彼の部下でなく、先ほど生き別れた師匠であった。
オーマイゴッド。師は何やら抱えていた少年を降ろすと、息吐く間もなく物騒な剣でバイパーへと斬りかかる。
「…えええ!?いやいや、何で埣取さんまで転移して来るんすか!!」
「貴方の従者の声借りたんですよ!高等種がそんな事も気付かなかったんですか馬鹿!」
「いやあ流石ですね…取り敢えず今日は手打ちと言う事で、解散しましょうか。もう陽も落ちますし」
バイパーの提案に眉を吊り上げ、埣取は逃すかとばかりに地を蹴って加速する。そのまま剣を振り被って斬りかかるも、流石に敵も高等種。
急襲の動きにも対応してナイフを抜くと、5回10回、斬撃を受け止めて往なされる。攻勢はこちらだが、このままでは言う通り手打ちになりそうだ。
「ちっ…この…埒が明かない」
埣取は舌打ちし、不意に動きを止めて自らの足元や周囲の壁をパキパキと凍らせ始めた。
彼の魔力で一変する景色を目に、創と同じくぎょっとしたバイパーが思わずナイフを取り落とす。
「埣取さん!?魔力使えないんじゃなかったですっけ!?」
「貴方と刺し違えて死にます」
自称非戦闘員の敵が気圧されるも、埣取は構わず意識を集中させた右手を掲げる。倉庫内の気温が一気に下がり、創は先日のあれをやる気だと察して息を呑んだ。
夜空から襲い来た敵を突き刺した、容赦ない大量の氷柱。確かに凄まじい威力であったが、直後道路に倒れ伏した姿を思い出し、止めなければと必死にその場から走り出す。
「待…駄目だサトリさん―…!!」
懸命に声を張り上げたが、注意を引くことすら叶わない。無力な己に焦るも、その時突如一行の頭上へ巨大な魔法陣が天網のように広がった。
純白の正円。不思議な6対12記号の図柄。埣取ですら見たことのない術式が宙で光り輝き、放たれた魔力を跡形もなく飲み込んでいく。凍えた筈の気温は一気に戻り、辺りは魔力使用の欠片もなく無の状態に帰った。
一体バイパーは今、何をしたのか。埣取が見当も付かず敵を睨めば、彼は何時の間にか床に転がった少年を回収し、二階の手摺にしゃがんで煙草をふかしている。
「あっぶな…マジで死ぬかと思いました」
「…バイパー、貴方何ですか今の術式…魔力を飲み込んだ?そもそも白い魔法陣なんて…」
「そんな大層な物じゃないっすよ。取りあえず今日は御暇します、お冠みたいなんで」
みたいと言うかお冠だ。最後までおちょくっているのか何なのか分からない態度に呆れていると、敵はにこっと邪気の無い笑みを浮かべて賛辞を吐いた。
「流石malumの息子ですね」
malum(マールム)。その意味を考える間にバイパーは手摺を蹴り、何度見ても発動の見えない自己転移で消えていった。
創は中途半端な姿勢のまま、一先ず去った脅威に胸を撫でおろす。しかしはっと状況を思い出すや、師の元へ走り寄ってその両肩を掴んでいた。
「サっ…トリさん!!大丈夫ですか!!何でいつも死に急ぐんですか!!」
「ごめんつい…でも問題ないよ、バイパーがあの術式で私の体内の魔力まで持って行ったみたいだ」
ややふらつきこそするが、前の様な魔力暴走でなく、これは枯渇に近い症状だ。こんな意味不明な術を展開しておいて、逃げる様に去った敵の食えなさに眉が寄る。本気で刃を向けられれば大惨事だった。自分もこの青年も。
「創くんは怪我ない?来るのが遅くなってごめんね」
「ああ…何か俺は…縛られてただけなんで」
「縛られてた?」
創が状況を説明すると、師は床に転がったパイプ椅子に近寄って痕跡を調べ始める。そして申告通り何かを無理やり引き千切った傷を見るや、今度は青年の上体をべたべた触りながら彼方此方調べ始めた。
「ちょっ、サト…サトリさん…犯しますよ」
「なに?何で?どうやってバイパーの魔力拘束外したの?」
どうと聞かれても、怒りで我を忘れたとしか言えない。そしてその怒りの内容は、正直当人には伝えたくない。
気付けば創のポケットは膨れ、取引時に見せられたあの小瓶が仕込まれていた。バイパーめ。敵の手癖の悪さを知り、青年は心中で歯ぎしりをする。
「頑張って…一球入魂で全力で…」
「そんな無茶苦茶な…さっきバイパーが言ったmalumって名前、聞き覚えがあるんだけど…君のお母さんの名前じゃないよね?」
「オカンの名前は”りん”ですけど」
「…りん、それ」
「っていやそんな事より!!!!サトリさん!!!!」
急にボリュームが最大値に跳ね上がり、師は虚を突かれてたじろぐ。その直ぐ何処かに行ってしまう肩を捕まえると、創は正面から先ほど敵が零した件を問うていた。
「俺、あの敵に聞いて…サトリさんが、あと数年で…!」
「…ああ」
理解し、驚くほどすんなり肯定した師は、視線は斜め下に逸らしながら謝罪を付け足す。
「ごめんね、話すタイミングが分からなくて…でも確かに、君が大学を辞めてしまう前に告げるべきだったね」
「否、俺の事はどうでも良いんすよ」
青年の息せき切った否定は相手の視線を引き上げた。自分の事を話す際曇る瞳が、必死な人の子の姿を見て困惑したように揺らいでいる。
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